8.8-17 鬼の町?17
句読点の位置を調整したのじゃ。
今なお絶えず、空から降り注ぐ爆音と熱波に向かって、皆で迷惑そうな表情を向けていると――
『お、お姉ちゃんたち、大丈夫?!』
驚いた様子のエネルギアの声が、電波に乗って飛んできた。
そんな彼女は、遠方に停泊していた本体から、キビの町の様子を眺めていたようだ。
その際、町へと黒い塊が降り注ぎ、猛烈な勢いで爆ぜているのを見て、ワルツたちのことが心配になってしまったのだろう。
とはいっても、爆弾が爆ぜていたのは町の上空。
それもかなり離れた場所だったので……。
町に危険が及んでいるように見える、というよりは、音だけの昼花火が閃光を放って爆ぜているように見えていたようだ。
尤も、この世界では花火と呼べるものが存在していないので、異常なことに変わりはないのだが。
『ぜんぜん大丈夫よ?通り雨みたいなものかしらね?晴れのち爆発物、的な?』
『まぁ、お姉ちゃんたちならそうなるよね……』
と、連絡している相手がどんな人物だったのかを思い出したのか、納得と呆れが混ざったような反応をするエネルギア。
すると今度は、ワルツの方が、エネルギアに対して、こんな質問を投げかけた。
『逆に、貴女の方は大丈夫かしら?見た感じ、そっちの方角は空爆されてないみたいだけど……襲撃とかされてない?』
『うん大丈夫。僕たちの近くには、熱反応も無ければ、魔力的な反応もないよ?それに、ゆーしゃやビクトールさんが守ってくれてるし……』
『えっ……魔力的な反応なんて分かるの?そんなセンサー、付いてたっけ?』
『うん!コルちゃんに付けてもらったの!』
『あ、そうなんだ……(それ、まず先に、私によこしなさいよ……)』
と、エネルギアの説明を聞いて、彼女の船内にいるだろうコルテックスに対し、憤りのようなものを抱くワルツ。
……なお。
その場で会話の内容を聞いていたテンポが、誇らしげな無表情を向けていたところを見ると、どうやら彼女にも、そのセンサーが搭載されているようである。
ただ、彼女はいつもどおりに無表情だったので、ワルツはそのことに気づけなかったようだ。
あるいはもしかすると、それがテンポなりの嘲笑だった可能性も否定はできないだろう。
『今の天気が良くなったら、そのうち帰るわ?場合によっては遅くなっちゃうかもしれないけど、帰らずに待っててね?』
『んー、それ天気なのかな……』
『まぁ、似たようなものよ』
そう言って、天気の概念について頭を悩ませている様子のエネルギアとの通信を切断するワルツ。
その後で、彼女は、おもむろに周囲の景色を見渡した。
というのも……。
大きな音に驚いたのか、立ち並ぶ家屋の中から、人々がわらわらと外に出てきて、空を眺め始めていたのである。
一般人や、冒険者、それに兵士と思しき者たちまで……。
皆、何事が起ったのか分からない様子で、何も出来ずに、ただ唖然として眺めていたようだ。
そんな彼らに向かって、ワルツは細めた視線を向けていた。
彼女はそこに不審者がいないか、念のために警戒していたのである。
爆弾を転移魔法(?)で投下できるなら、エクレリアの兵士がこの地にやってくるなど、造作もないことのはずなのだから。
しかし。
町が都市結界に包まれていたためか、エクレリアの者たちが、直接乗り込んでくるようなことは無く……。
今のところ、大きな混乱は見られなかった(?)ようだ。
結果、ただ爆弾を落とすだけに何の意味があるのか分からなかったワルツは、不意にこんなことを呟いた。
「ホント、何がしたいのかしらね……?」
「ん?いま何か言った?お姉ちゃん」
「ううん。独り言。何で空から爆弾を落とす必要があるのかな、って思ってさ?」
その言葉を聞いて――
「んー……」
と、考え込む様子のルシア。
ワルツが分からないことを、彼女が分かるはずは無かったのだが……。
しかし、その後でルシアが口にした言葉は、論理的に考えようとしていたワルツにとって、意外なものだったようである。
「ん゛ー、多分……ただ構って欲しいだけなんじゃないかなぁ?」
「いや、まさかそんなわけ……」
「だって、ほら……気になる人がいたりすると、ちょっかい掛けたくなっちゃうでしょ?それと同じなんじゃないかなぁ?」つんつん
「……お主の、”気になる”は、なんか意味が違う気しかしないのじゃ……」げっそり
ルシアとテレサのそんなやり取りを見て――
「…………」
ワルツは、なぜか黙り込んだ。
それはもちろん、ルシアとテレサの仲が悪いことに気づいたから、というわけではなく。
それ以外に、何か思いついたことがあったからのようだ。
結果、ワルツは、こんなことを言い始める。
「ミッドエデンに帰ってからでも良いって思ってたけど……今すぐ、ちょっと試してみましょうか?」
「「……えっ?」」
「というわけで、町の外に行くわよ?」
そう言うと、狩人への土産を買おうとしていた町の方角とは正反対の方向へと踵を返し……。
さらには、そこにあった馬車を通り越して、混乱する町の検問の方へと、歩いて進んでいくワルツ。
その後を、首を傾げながら皆が追いかけ……。
こうして、一行は、キビの町から、都市結界のない外へと出たのである。
そう。
転移魔法を使って自由に移動できる町の外へと……。
◇
そして、町を出たところで――
グォォォォォォン!!
と、咆哮を上げる巨大な地竜と――
「……お前らにゃぁ、ここで消えてもらうぜ?」
黒ずくめの服を着た、話し方が妙な男と遭遇するワルツたち。
どうやら彼らはエクレリアが派遣した地上部隊のようだが――
「あ、ゴメン。今取り込んでるところだから、後にして?」
ズドォォォォォン!!
ワルツの逆鱗(?)に触れたのか、次の瞬間には、地竜も男も、放物線を描きながら、どこかへと吹き飛んでいったようである。
「なんか、かわいそう……」
「いいのよ。これからちょっと忙しくなるし、敵対するってなら、話を聞く必要なんて無いしね」
「……まぁ、そうだね」
そして。
町から出て100mほど歩いたところで、ワルツは立ち止まると……。
後ろから付いて来た者たちに向かってこう言った。
「これから危険なことが起こるかもしれないけど、私がどうにかするから安心して?まぁ、どこかのアトラクション(?)みたいなものだと考えてもらえれば助かるわ。あ、でも、アトラスとテンポはセルフサービスね?」
「何する気だ?姉貴……」
「……かなり危険なことですか?」
「人間がやったら危険かもしれないことね。まぁ、見てれば分かるわ?じゃぁ、行くわよ?」
そういってワルツは、空に向かってこう言った。
「何か用事かしら?…………アルタイル」
それは、この世界において、直接呼んではいけない魔王の名前。
口にしたが最後、猛毒が塗布された鉄杭が、猛烈な速度で、転移してくるのである。
ゆえに、その名を口にした者には、高確率で死が訪れるはずだった。
……ただし、生物に限った場合の話だが。
それでも、彼の者の名を呼んだワルツは、気を抜くこと無く身構えた。
鉄杭が飛んでこようものなら、受け止めようと考えていたのだ。
もしも受け止めずに、そのまま放置したなら、近くにいる者たちに当たってしまう可能性が捨てきれないので、当然の行動だと言えるだろう。
それが分かっていたのなら、ここに仲間たちを連れてくるべきではなかったのかもしれない。
ただ、それでも彼女は、仲間の前で試してみたかったようである。
それはアルタイルの名を呼ぶことの危険性を教えたかったという理由のほかにも、自身の仮説、あるいは直感を証明したいという意味合いもあったからのようだ。
空から転移魔法で降り注ぐ爆弾。
どこからともなく不意に現れるエクレリアの兵士と魔物。
まるで情報が漏れているかのように、冒険者ギルドでの手続きと連動(?)してやってくる襲撃。
そして何より、無計画としか思えない攻撃……。
それが一体何を意味するのか……。
ワルツの中では、おおよその結論が出ていたらしい。
ただ、まぁ、そんな彼女と違って――
「「「ちょっ?!」」」
アルタイルのことを知っている一部の仲間たちが、慌てに慌てていたのは仕方のないことか。
下手をすれば、今日のこの日が、自分の命日にならないとも言い切れないのだから……。
……しかしである。
今回に限っては、鉄杭が飛んで来ることは無かった。
とはいえ、何も飛んでこなかった、というわけでもない。
ブゥン……
そんな転移魔法特有の低い音をその場に響かせながら現れたのは――
「…………手紙ね」
中に手紙が入っていそうな、真っ白な封筒だった。
どうやらワルツの読みは、当たっていたようだ。
すなわち――――『転移魔法』を使って攻撃してくるエクレリアの、その主たるアルタイルが、自分たちに対して、何か伝えたいことがあるのではないか、と……。
もう、脱線せぬよう、書きたいことが書けるよう、最大限の努力を以て、駄文を書いておる今日このごろなのじゃ。
駄文を書くにも、努力が必要なのじゃ?
何を言っておるのか、分からぬかも知れぬが……実際に書いてみれば分かると思うのじゃ。
……まぁ、妾自身、何を言っておるのか、良く分かっておらぬがの。
まぁ、そんな下らぬことは、街道の片隅にでも置いておいて……。
一つだけ言っておくのじゃ?
一瞬だけ現れた地竜と謎の男。
こやつらは、ここでどろっぷあうと、というわけではないのじゃ?
この後の話に続いていく予定なのじゃ。
じゃから、無意味、というわけではないのじゃぞ?
……多分の。




