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8.8-12 鬼の町12

一方で。

その場には、一言も喋っていないが、テンポの姿もあった。


「…………」


彼女は彼女で、ジッとその場にいたものたちのことを、観察するように眺めていたようである。

いや、実際、観察していたようで……。

変な気を起こすような者がいないか、自発的に監視していたようだ。


ちなみに、彼女がしていたのは、監視だけではない。

例えば、近くにあった花瓶を、まるで品定めするかのように、何気なく手に取ると――


「……くっそ!」

「お頭!まだ、回復魔法を掛けてる最中なんですからじっとしていて下さい!」

「お前、あれだけのことをされて、黙っていr」


ドシャッ!


「 」ちーん

「「お、お頭ーーっ?!」」


と、手が滑ったと言わんばかりに、不穏な発言をする鬼人に対して投げつけたり。

あるいは、その花瓶の中に入っていた花を使い――


「な、何しやがる!」

「ぜってぇ、許さねえ!」

「貴さm」


ドスドスドスッ!!


と、鬼人たちの頭の上に生花(?)を飾ったり……。

何も言わず、その場に佇んでいたテンポだったが、まぁ、とりあえず、暇だった、というわけではなかったようだ。


なお、彼女の一撃を受けた鬼人たちが、それからというもの、何故か顔を紅潮させて、テンポのことをボーッと眺め始めたのだが……。

その原因が、テンポにいつの間にか付いていた二つ名と関係があるかどうかは不明である。

……すなわち『傾国の美女』、と。


そんなテンポの行動に、眼を輝かせていた者の姿があった。

諜報部隊長になることが夢のサキュバスの少女、ローズマリーである。


「かっこいいです!」きらきら


その言葉を聞いたテンポが、その場に来て初めて口を開く。


「……マリーちゃんもやってみますか?」


「やってもいいですか?」


「えぇ。もちろんです。ですが、これには少々コツが必要で、ただ投げればいいというわけではありません。女子たるもの、常に淑やかで、そして華麗でなくてはなりませんからね」


「ほぉ……」きらきら


と、テンポの言葉を聞いて、より一層、目を輝かせるローズマリー。


そんな彼女に対してテンポは目を細めると――


「では早速、始めてみましょう。……これがお手本です」


テンポは、そこにあった花瓶の中から、ひまわりのような花を一本取り出すと……。

それを、何気ない様子で、投擲した。

例えるなら、ゴミ箱を見ずに紙くずを投げ入れるかのようにして……。


その花は、茎の方を前にして、まるで矢のように、放物線を描いて天井スレスレを飛翔し――


「今すぐこいつらを追い出s」


ドスッ……


と、ワルツたちがここに来たことに対し、反抗的な態度を見せていた男性の頭の上に落下して、その頭に突き刺さった。

とはいえ、頭蓋骨を貫通したわけではなく、髪の毛に刺さっただけのようだが。


そんな彼に対し――


チラッ


と流し目を向けるテンポ。

するとその男性は――


「…………」ぽっ


前例の通り、それ以上、何も言わなくなったようである。

なお言うまでもないことだが、頭に上に刺さった花は、そのままだったりする。


「どうですか?マリーちゃん。やり方は分かりましたか?」


「えっと……はいです!」


元気よくそう口にすると、テンポと同じように花を手に取るローズマリー。

その際、彼女が”マーガレット”のような花を選んだのは、単なる偶然か。


「んと……」


そう言ってローズマリーは部屋の中を見渡すと――


「……いくです!」


早速、標的をロックオンしたようである。


そして彼女は、その手に持った花を、一切の迷いなく投擲した。


その結果、彼女が放った花は、螺旋状に回転しながら、ほぼ一直線に進み――


「もう辛抱なりません!この者たちを即刻つまm」


サクッ……


鬼人の女性の頭部に突き刺さった。


それを見て、何も言わずに、バッグの中から()()()のような武器を取り出すテンポ。

相手が女性だったので、魅了(?)が効かないと思ったらしく、物理的(?)に制圧するつもりのようだ。


しかし、どうやら、ローズマリーの()()が伴ったその投擲は、たとえ相手が女性だったとしても、十分な効果を発揮したようである。


「あら、やだ、かわいい……」ぽっ


「……やったです!」


「……そうみたいですね」


それを見たテンポとしては、納得がいかなそうな無表情を浮かべていたようだが……。

ローズマリーがサキュバスであることを考えて、これはこういうものだ、と思うことにしたようである。


それからというもの、頭に花を載せる者たちの数が、倍速で増えたとか、増えなかったとか……。



「……ねぇ、ユリア様?イブの気のせいかもだけど……なんか変な人たち、増えてるかもじゃない?」


「え?あぁ……頭に花を飾ってる人たちですか?多分、この地方の風習みたいなものだと思いますよ?」


「さっきはいなかったと思うかもなんだけど……」


周囲の()()たちの姿に異変を感じたらしく、首を傾げるイブ。

ちなみに、背の低いイブからは見えなかったが、いつの間にかユリアの頭の上にも、マーガレット(?)が刺さっていたりする。


「そうかな……んー、まぁいっか。ところでユリア様?ユリア様はシラヌイ様のこと知ってたかもなの?ウェスペルの町からここまでは、少し距離が離れてるかもだけど……一応、ご近所さんかもじゃない?ユキちゃんの話を聞く限り、そんなに仲が悪いって感じでも無いかもだし……」


「いえ、知りませんでしたよ?まぁ、ここ一帯が、鬼人たちの土地だってことは知ってましたが、これと言って付き合いがあったわけでもないですし……。もしかするとアーデルハイトお祖母様なら、何か知ってるかもしれませんけれどね?」


「ふーん」


「そんなに不思議ですか?」


イブが納得できなさそうな表情を浮かべていたためか、苦笑を浮かべながら質問するユリア。


するとイブは――


「ご近所さんだけど、国が違うから仕方ないかもかな」


納得するための理由を自分で見つけて、それを飲み込むことにしたようだ。


「そうですね……その認識で間違ってないと思います」


「ということは、ユリア様もここに来るのは初めてかもなの?」


「えぇ、初めてです。ですので、こうした変わった建物を見るのも初めてなんですよ。ワルツ様いわく、ここにある建物は”にほん”という国にある建物と似たような作りをしているようですよ?風情があっていいですね……」


と、和風の建物の中を見渡しながら、そんな感想を口にするユリア。

そんな彼女の発言には、何か特別な意図が含まれていたわけではなかったのだが――


「…………!」きゅぴーん


イブの中にあった何かが目を覚ましたようだ。


「ということは、これがニホンカオク……”にんじゃーはうす”かもだね?!」


「……え?」


「なるほど……なるほどかもだね……!」


そう言って、何気なく壁の方に近づいていくイブ。

それから彼女は、そこにあった漆喰塗りの壁に手を当てながら、こんなことを口にする。


「とーちゃんに聞いたことがあるかもなんだけど、”にんじゃーはうす”には、隠し扉がたくさんあるかもだって。つまりここにも……」


「いや、そんなわけ……」


あるはずない……。

ユリアがそう口にした瞬間だった。


グラリ……


イブが手で押していた壁が不意に動いたかと思うと――


ギギギギギ……


と、まさかの隠し扉が開き始めた。

縦に回転する水車のような構造、といえば、どんな形状なのかは分かってもらえるだろうか。


「ほらね?」どや


「へぇ……。あ、でもイブちゃん……」


と、何かに気づいた様子でイブに声をかけようとするユリア。

しかし彼女のその言葉は、少々、間に合わなかったようである。


いったい何が起ったのかというと……。

扉が水車のような構造をしていた、ということは、つまり、扉を押せば、半回転して上から扉が落ちてくるわけで――


「……んあ?」


バタン!


「ふがっ!?」


縦に回転した扉が、ユリアの方を振り返っていたイブの顔面に直撃したようである。

まぁ、幸いなことに、扉の向こう側へとイブが閉じ込められるような面倒な展開にはならなかったようだが。



イブ嬢は、しっかり者なのじゃ?

皆、頭が上がらぬほどに、のう。

じゃが、たまーに抜けておることがあるのじゃ。

特にテンションが上ったりすると、年相応(?)の反応になるというか……。

まぁ、それをひっくるめて、イブ嬢、なのじゃがの?


というわけで今日は駄文回だったのじゃ。

いや、いつも例外なく駄文なのじゃがの?

本筋とは関係のない話、と言う意味で駄文なのじゃ。

なんというか……せっかくその場にいるというのに、まったく話に関与しておらぬ者がおる、というのもどうかと思ってのう。

本来はちゃんと話の中に織り交ぜるべきかも知れぬのじゃが、あまり登場人物が増えても、誰が誰なのか分からなくなるからのう……。

まぁ、生存報告程度に捉えてもらえると助かるのじゃ?

たまに取り上げねば、急に出した時に『こやつ誰じゃったかのう……』ということにもなりかねぬからのう。


…………水竜……。


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