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8.8-02 鬼の町02

「シラヌイの話、妾に聞いたぜ?俺もあいつのことを呼び戻すのだけ、参加させてもらうからな?それが終わったら……姉貴と違って忙しいから、速攻で帰わ」


「う、うん……私は……暇よ?…………うん……暇……」ぼそっ


と、消え入りそうな声で、呟くワルツ。

どうやら彼女は、弟の言葉に対して、言い返す言葉が見つからなかったようである。


そんな彼女たちは、今、空の上にいた。

より具体的に言うなら、エネルギアの艦橋の中。

つまりワルツたちは、馬車での移動をやめて、ミッドエデンから呼び寄せたエネルギアに乗り、空を移動していたのだ。

ちなみにここまで乗ってきた馬車は、御者や馬たちと共に、エネルギアのカーゴルームに格納してあったりする。


その他、当然のことだが、ここにポテンティアの姿は無い。

彼は――


ゴゴゴゴゴ……


元の姿――すなわち、エネルギアと同型の空中戦艦の姿に戻って、エネルギアの横を飛んでいた。


そんな彼の中には、飛竜とポラリスとともに、地竜たちが大量に詰め込まれていて……。

彼らは、今頃、生まれて初めての飛行を楽しんでいる(?)ことだろう。


なお、地竜たちのことをどうして連れてきたのかについては、そのままウェスペルの町周辺に48体もの地竜たちのことを放置しておいたらどうなるか、と言えば、その理由は察してもらえるのではないだろうか。


さて。

そんな彼女たちは、前述の通り、空を飛んでいた。

馬車で移動すれば、3日ほどの距離があるという鬼人たちの町まで、エネルギアとポテンティアを使えば、最短で数分程度。

現状において、シラヌイのためだけに多くの時間を割くのは得策と言えなかったので、ワルツたちはエネルギアたちを使い、高速で移動することにしたのだ。


これがもしも、ワルツたちに付いてきていた大量のボレアス国民たちが、今もなお共に移動していたなら、彼女たちは未だに馬車で移動をしていたことだろう。

だが、そんな人々のことはアーデルハイトたちがいるウェスペルの町に置いてきたので、ワルツたちは身軽だったのだ。

まぁ、この場合、人々がいないから高速に移動できるようになったわけではなく、高速に移動するために人々を置いてきた、と表現すべきかもしれないが。


ただ、急いでいるとはいえ、亜音速の巡航速度で飛んでいるわけではなく……。

何やら事情があって、ゆっくりと飛んでいたようでいたようである。


「それにしても、どこにあるのかしらね?その……鬼人たちの町って。誰か知ってる?」


その問いかけに――


「「「…………」」」


当然知らないので、答えられない仲間たち。

ようするに、そこにいた誰もが、町の位置を知らなかったのである。


なお、魔族の領域の道案内役を務めるカペラは、ロリコンとともに未だ馬車の中。

そして、この地に精通しているヌルたちは、そもそもエネルギアに搭乗していないので、ここにはいない。


「あー、ヌルか誰かを連れてくればよかったわ……」


ワルツは、後悔したように、そんな言葉を呟くのだが……。

そんな彼女の言葉にツッコむ人物の姿が、そこにあったようだ。


「……お姉さま。それは素のボケですか?それとも、記憶システムのエラーですか?医務室にいるユキ様のことを完全に忘れているようですね。というわけで、直ちに、きd……いえ。なんでもありません」


「あ……そう言えばそうだったわね……」


「……本当に忘れていたのですね……」


と、普段から記憶システムに曖昧な部分が多いワルツに対し、呆れたような視線を向けるテンポ。


そんな彼女は一瞬だけ、何かを言おうとしていたようだが、結局、口をつぐんで、艦橋を出ると……。

そのまま、医務室へと向かって、ユキのことを呼びに行ったようである。


一方。

ワルツたちがそんなやり取りをしていた艦橋の中には、当然、他にも仲間たちの姿があった。


そのほとんどの者たちは、エネルギアの艦橋のモニター越しに見える景色に、ある程度慣れていたようだが……。

一部に、例外がいたようだ。


「空です……!雲の上です……!速いです……!」


壁のモニターに張り付いて、そこから見える景色を食い入るように眺めていたローズマリーである。


すると、そんな彼女の隣に、ユリアがやって来て、そこにしゃがみ込むと……。

彼女も、ローズマリーと一緒になって、外を眺め始めた。


「きれいな景色ですね」


ただそれだけを口にして、ローズマリーと共に遠くの景色を眺めるユリア。


そんな彼女に対し、ローズマリーは戸惑い気味に、こんな言葉を口にした。


「えっとー……ユリア……お、お母ちゃん?」


それを聞いて――


「ちょっ……え、えっと…………マリーちゃんが呼びたいように呼んでいいですよ?えぇ、お母ちゃんでも……」


と、思わず苦笑を浮かべてしまった様子のユリア。

どうやら彼女としては、『ママ』や『お母さん』ならともかく、『お母ちゃん』と呼ばれることには少しだけ拒否感があったようだ。


するとローズマリーは、悩ましげに、んー、と唸った後で。

戸籍上(?)は母になったユリアに対して、こう言った。


「じゃぁ、やっぱりマリーは、ユリアお姉ちゃんのこと『ユリアお姉ちゃん』って呼びたいです!」


「……うん。私もそのほうがしっくり来るかな」


そう言って笑みを見せるユリア。

もしもこの会話をアーデルハイトに聞かれたなら、もしかると彼女はきつく叱られることになるかもしれないが……。

しかしそれでも、ユリアは、ローズマリーのその発言を受け入れることにしたようだ。

あるいはそれが、今では『母』となった彼女の、その覚悟の現れだったのかもしれない。


そしてその場にはもう一人、エネルギアに搭乗するのが初めての人物がいたのだが……。

彼女は最初こそキラキラと輝く視線を外に向けていたものの、今では何か思い詰めたような表情を浮かべながら、静かに椅子に座っていた。

オリージャ王国の姫、ベアトリクスである。


そんな彼女の反応に、テレサは嫌な予感を感じ取っていたようで、事情を問いかけようとしたようだが……。

残念ながら、状況がそれを許さなかったようである。


「……どうしようテレサちゃん……」


「……いや、意味が分からぬのじゃ。なんでお主、妾の背中に張り付く必要があるのじゃ……」


どういうわけか、彼女の背中にベッタリとルシアがくっついていたのである。

それもまるで、接着剤を使って、くっつけたかのように……。


「ん?どうしたんだ?ルシアとテレサ?」


2人の事情が飲み込めなかったのか、その様子を見て、首を傾げるアトラス。

ちなみに構図を説明すると、ルシアが肩身を小さくしてテレサの背中に隠れつつ、その影から、チラッチラッ、とアトラスのことを覗き見る、といった様子である。


その結果、挟まれる立ち位置にあったテレサは、ゲッソリとした表情を浮かべていたのだが、彼女の後ろにいたルシアがその表情に気付いている様子はなく……。

ルシアはテレサの背中に張り付いたままで、アトラスに対し、こう言った。


「あ、あ……アトラスくん!こんにちは?」


「は?」


「え、えっと……えっとねぇ……いい天気だね?」


「まぁ……そりゃ、雲の上だからな……。っていうか、どうしたんだ?ルシア。何か、言動がおかしくなってるぞ?」


「う、う、ううん?何でもないよ?ねぇ?テレサちゃん?」


「いや、妾に聞かれても困るのじゃ……」


そう言って、深くため息を吐くテレサ。

どうやら彼女は、これからルシアとアトラスとの間で交わされるだろう会話の内容を想像して、今すぐその場から逃げだしたかったようである。


……尤も。

ルシアにがっしりと捕まっている以上、どうやっても逃げられないのだが……。



なんか、そういう妖怪がいたような……。

調べてみると――やはり狐の一種らしいのじゃ。

新潟県にいるようじゃのう?

まぁ、あんまり変なことを言っておると、転移魔法で風呂に送られるゆえ、この辺で切り上げておこうかのう……。


というわけで、ルシアmeetsアトラスなのじゃ?

正直、この手の話を書くのは、あまり得意ではないのじゃが……まぁ、書かねば進まぬゆえ、覚悟を決めて書くのじゃ。

とはいっても、この物語の性質的に、甘酸っぱい恋の話とは無縁なのじゃがの?

……おっと。

殺気を感じるゆえ、やはりこれ以上書くのは止めておくのじゃ……。


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