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8.7-22 シャッハ家22

そして、明くる日の朝。


『お、お姉ぢゃん……』


まだ薄暗い空の下、ワルツの元へと飛んできたモーニングコールは、なぜかシットリ、いやジットリとしていた。


『えっ……何?何かあったの?ルシア』


ベッドで横になっているように見せかけながら、自身の修復活動をしていたワルツは、その異様な雰囲気に包まれた妹の声を聞いて、眉を顰めながら無線通信越しに問いかけた。


その結果、ルシアから飛んできた返事は、なんということはない内容だった。


『町の位置が分からないよ……』


『えっ……。サキュバスたちに聞いても?』


『うん……。暗いから、みんなもよく分からないんだって。だから……魔法使って探していい?』


『いや、うん……いいけど……』


『じゃぁ、いくね?』


その瞬間――


ドゴォォォォォ!!


と、まるで真夏の真っ昼間のような、凄まじい日差しに襲われるウェスペルの町。

どうやらルシアが、周囲を照らすための光魔法――人工太陽を打ち上げたようである。


『ちょっと、ルシア?やりすぎじゃない?』


『んー、やっぱりそっかなぁ?……あ!見つけた!じゃぁ、今から行くね?』


『う、うん……気をつけて?』


と、ルシアの道程について気を付けるのではなく、彼女が間違って世界を滅ぼさないか、そちらの方に気をつけて欲しかった様子のワルツ。

だがもちろん、妹に向かって、直接そんなことを言えるはずもなく……。

ワルツはただそれだけ言って、通信を切断するほか無かったようだ。


その直後だった。


「あ、あれ?あんまり寝てない気がするのに……昼間?えっ?!寝過ごした?!」がばっ


ユリアが顔を真っ青にしつつ、長い髪を振り回しながら、ベッドから飛び起きたのである。

外の明るい景色の気配が、彼女の中にあった何らかの警鈴を、猛烈な勢いで鳴らしたらしい。


一方で――


「…………zzz」


重役出勤が身に染み付いている様子のヌルは、外が明るくなったと言うのに、まったく反応していなかったようである。


それを見て、ワルツは感想を口にした。


「これが器の大きさの違い、ってやつかしらね……」ぼそっ


「えっ?何の話ですか?っていうか、皆、もう待ってたりします?!」


「落ち着きなさいユリア。外が明るいのは、ルシアがこの町を探すために魔法を使っただけで、別に貴女が寝過ごしたわけじゃないから」


「えっ?……あ、本当だ……」


窓の向こう側で輝いていた、黄色い1つだけの太陽を見て、事情を察した様子のユリア。

それから彼女は、大きなあくびをして、再びベッドへと戻り、そして2度寝に入ろうとするのだが……。


しかし、寝るのをやめたのか、一旦は被った布団を跳ね除けると。

ベッドから立ち上がって、ワルツに対しこう言った。


「やっぱり、もう起きます。ちょっと、お祖母様のところに行って、今朝のスケジュール確認をしてきますね?」


「……この状況をすぐに受け入れられるっていうのは、流石よね……」ぼそっ


「えっ?」


「ううん、何でもない。ヌルが起きたら言っておくから、行ってきても良いわよ?」


「あ、はい。では、着替えたら行ってきます」


そう言って、身だしなみを整え始めるユリア。

それから準備が終わって実際に出発するまでに、およそ2時間近い時間を費やしたのは、仕方のないことか。



そしてその瞬間は唐突にやって来た。


ダンダンダンダン……!


ユリアが出発して、すっかり本物の朝日が空へと上って……。

逆にユリアが、ワルツたちのことを、シャッハ家主催の朝食会に呼びに来るかどうかといった頃。

何者かが宿の中にあった階段を、乱暴な足音を立てながら、一気に駆け上ってきたのである。


その人物の姿を確認して――


「へー……」


と、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべるワルツ。

しかし、彼女がその人物に対して直接話しかけることはなく……。

布団に潜り込んだまま、そのまま狸寝入りをすることにしたようだ。

ようするに彼女は、やって来た人物がどう行動するのか、その様子をそっと観察することにしたのである。


……結果。


ドゴォォォォォン!!


と、勢い良く蹴破(けやぶ)られる宿のドア。


そしてそこから現れたのは――


「ヌル姉さま!!」


ヌルの妹たちの一人の――


「(んー……誰だっけ?)」


――誰かだった。


「いつまでも寝てないで起きて下さい!色々と聞きたいこともあるし、説教もしなきゃなりません!あと、3秒だけ待ちます」


ドゴォォォォン!!


「ふぎゃっ?!」


と、カウントを初めてから0.7秒後に、(ヌル)が寝ていたベッドを、魔法で容赦なく吹き飛ばすユキX。

そのあまりに乱暴な目覚ましコールに、さすがのヌルも眼が覚めたようだ。


「な、何ごとですか?!って……ドライ(3)?!」


素人目には、どこからどう見ても、見分けの付かないユキB〜Eたち。

しかし、オリジナルであるヌルには、彼女が誰なのか、すぐに判断できたようだ。


「えぇ、ドライですとも。ですが、そんなことは今、どうでもいいのです!この落とし前、どう付けるつもりですか?!あぁ゛?」


「えっ……」


寝ているというのに、いきなり吹き飛ばされた挙句、容赦なく浴びせかけられた怒声を前に、事情がつかめない様子で、眼をぱちくりとさせるヌル。


そんな彼女の事が、だんだんと可哀想になってきたのか……。

ワルツは助け舟を出すことにしたようだ。


「えっと、3番目だから……ユキC?貴女のお姉さん、混乱しすぎて、何が何だか分からない、って状況になってみたいだけど……?」


その瞬間――


「私は、今、姉と大切な話をしているのです!部外者は口をはさm……って、ワルツ様?!」


ずさっ!!


と、そこにいたワルツを見た途端、不自然な体捌きで、床へと張り付くように伏せるユークリッド=ドライ=シリウス――もといユキC。

どうやら彼女は、怒りのあまり我を忘れていたために、ワルツがそこにいることに今まで気づかなかったようである。


それから彼女は、ベッドから起き上がったワルツに向かって、床に頭を付けて土下座スタイルを維持したまま、こう言った。


「ご、ご、ご機嫌麗しゅうございます?!」


「いやいやいや……そんな(かしこ)まる必要なんてどこにもないんだけど?」


「い、いえ!まさか、ヌル姉さまと、ワルツ様が、二人同じ部屋の中で、寝食を共にしているとは思っても見なかったもので……失礼を働いてしまいました!誠に申し訳ございません……!」


「……なんか、すっごく嫌な言い方ね?ヌルとは単に同じ部屋にいる、っていうだけの話なんだけど……」


「「……えっ?」」


「……何、その反応?」


自分とヌルの関係を、姉妹揃って勘違いしているような気がして、思わず頭を抱えてしまうワルツ。


まぁ、何はともあれ。

どうやらユキの姉妹の一部は、戦乱を逃れて、安全な場所(?)へと避難することに成功していたようだ。

そういえばのう。

一つ重要なことを書いておらんかったのじゃ。

……何故ワルツたちは、シャッハ家本家ではなく、宿屋に泊まったのか。

妾が書くのを間違えたわけではないのじゃ?

……理由を書くのは忘れておったがの?


まぁ、わざわざ書く必要は無いかも知れぬのじゃが、ワルツとユリアが本家に泊まることを嫌がったのじゃ。

ワルツの場合は固苦しいのが嫌だったから。

そしてユリアの場合は、本家の人々のことが苦手だったから。

その上、本家の屋根を吹き飛ばしておるし、1個大隊を壊滅させておるからのう……。


アーデルハイト殿としては、2人のことを拒むつもりは微塵も無かったのじゃが、その2人の方が拒否したゆえ、宿屋に泊まることになった、というわけなのじゃ。

……って、この話でねじ込もうかと思ったのじゃが、難しかったゆえ、ここに書いておくのじゃ。

本来は、宿屋を取った、と一番最初に書いた時点で、補足すべきだったのじゃが……まぁ、忘れてしまったものは仕方ないじゃろう。

……あとで、そっと、修正しておくのじゃ……。


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