8.7-19 シャッハ家19
そして、その日の深夜。
町でどうにか宿屋を取ることに成功したワルツたちが、寝床に就こうとしていると。
燃えた馬車があった場所に残っていたルシアから、無線の連絡が入った。
『お姉ちゃんたち、帰ってこないの?』
『ちょっと色々あってね……。それにルシアたちなら、明日にはこっちに着くでしょ?なら、無理して戻んなくてもいいかなーって思って』
『そっかぁ……。じゃぁ、午前中に着けるように、急いで鉄を沢山作らなきゃダメそうだね!』
『えっとー?一体、何してるのかしら?馬車を作るのに、そんなに大量の鉄は必要ないと思うんだけど?』
と、ルシアの発言から、何やら不穏な空気を感じ取った様子のワルツ。
一方、妹の方は、自身の発言が姉を不安にさせたことに気づかない様子で、事情を説明した。
『えっ?テレサちゃんとか、コルちゃんとか、あとブレーズおじさんとかの手伝いをしてるだけだよ?』
『えっ……おっさんも来てんの?』
『うん。コルちゃんが『ものづくりと言えばおじさんですよね〜』って良く分かんないこと言って、わざわざ迎えに行ったみたいだよ?あと、その時に、カタリナお姉ちゃんも連れてきたみたい。細かい部品を語りなお姉ちゃんに作って欲しいんだって?』
『ふーん。なんか、主力メンバー勢ぞろいって感じね……。でも、そっちがどんなことになってるか想像するの、ちょっと怖いわね……』
『じゃぁ、こっちに帰って来る?』
『ううん。皆のこと信じてるから、敢えて待ってる』
『そっかぁ……。じゃぁ、朝までにそっちに着けるように頑張ろっと!ねー?テレサちゃん!』『んあ?』
『段々と時間、早まってるの気のせいかしら……』
会話をしている内に、ルシアたちの到着予定時間が徐々に早まっていくのを感じて、苦笑を浮かべるワルツ。
その際、ワルツが詳しい作業内容を聞こうとしなかったのは、単に聞くのが怖かったためか、あるいは別に理由があったからなのか……。
何れにしても、姉妹の会話は、穏やかな内に終わったようだ。
◇
無線通信システムを使った会話を終えた後で、ワルツが宿の部屋の中へと意識を戻すと。
そこでは、ユリアとヌルが、2人揃って、ワルツの作り出した見えない力場に対し、猛アタック(?)を仕掛けていたようである。
「くっ!こ、これが音に聞く、絶対領域……!」ミシミシ
「ヌル様?それ、多分、絶対防壁のことだと思います」ガリガリ
「2人とも、なんでいつも夜になったら、そこまでして私のベッドに近づきたがるわけ?いや、理由は言わなくていいし、聞きたくもないけど……」
と、口にした瞬間、そこにいたサキュバスと雪女が、今にも泣きそうな表情を浮かべながら残念がっている様子を見て、わざとらしく深い溜め息を吐くワルツ。
男性ならまだしも、なぜ女性である自分が彼女たちに襲われなければならないのか分からず、ワルツとしては余計に頭が重かったようである。
それからワルツは、重力制御システムを使って、いつも通りにユリアとヌルを、それぞれのベッドに叩きつけると……。
その後で彼女は、自分に宛てがわれたベッドへと潜り込むことにしたようだ。
尤も、それは単なるホログラムに過ぎず、本体は宿の外にいるのだが。
そしてしばらく経って、ユキとヌルが寝息を立て始めたのを確認してから……。
ワルツはそっとその場を離れて、町の中へと繰り出した。
「(さてと?せっかくだし、ちょっと散歩でもしてみようかしら?)」
頭の中でそんなことを考えながら、ウェスペルの町の空を、透明な姿で飛行して……。
そして彼女が向かった先は、町の中の散歩、などではなく、アーデルハイトが戻ったはずの、シャッハ家の屋敷だった。
武器の出処や、シャッハ家の自分たちに対する動向など、色々と気になることがあったので、単独で偵察することにしたらしい。
「(こうしてゆっくりと眺めてみると、立派なお城そのものよね……。まぁ、城って、砦みたいなものだから……昔はこの国の隣りにあるっていうベガんところの国と、やりあうための前線基地だったのかもしれないわね。いや、今でも前線基地か……)」
彼女の眼から見えたその屋敷は、頑丈そうな塀と堀に囲まれた石造りの建物で、どこからどうみても城だった。
現在は諸事情により、屋根が真っ平らになっていたようだが、たとえそうだとしても、立派な建物であることに変わりは無かったようである。
その大きさを例えるなら、敷地面積だけで、ミッドエデンのサウスフォートレスの町1つ分に匹敵するほどの大きさだった。
もしもワルツの読み通りだとするなら、サウスフォートレスも、長い時間をかければ、ウェスペルの町と同じように、大きな都市へと変化していくのかもしれない。
「(えーと?ど・こ・か・ら・は・い・る・か・な……?よしっ!あれに決めた!)」
城壁に囲まれた城の内、どの建物に侵入するかを、花占いの要領で適当に決めた様子のワルツ。
それから彼女は、透明な姿のままで、その建物へとまっすぐに近づいていった。
◇
ワルツが最初に侵入した場所は、高さ15mほどの長方形型の倉庫のような建物だった。
それほど豪華だったり、頑丈だったりせず、まるで突貫工事で作られたかのような飾り気のない建物である。
だからこそ、ワルツは、そこに侵入することに決めたらしい。
もしも武器が作られているとすれば、地下でコソコソ作っているか、あるいは工場のような場所で堂々と作っているかのどちらかだと予想していたのだ。
「(……誰もいない?まぁ、夜だし、寝てるのかしらね?あ、もしかすると、屋根の修理に駆り出されてたりするのかもしれないわね)」
と、建物の中に、人がいたり、トラップあったりしないかを探すワルツ。
しかし、彼女のカメラやセンサーから見る限り、そこには誰も居なかった上、防犯装置(?)のようなものも無かったようである。
結果、ワルツは、大胆に扉を開閉して……。
建物の中を、隈なく散策していった。
すると、幾つかの大きな部屋を通過したところで――
「(……みっけ)」
彼女は目当てのものを見つけたようだ。
「(ドンピシャじゃない。……ふーん。魔道具って、こんな風に作られてるのね。コルテックスが魔道具を作る時は、科学も半分入ってるから、魔道具を作ってるって感じがしないけど……ここのは完全に魔道具そのものって感じね)」
その部屋の中には、机の上に広げられた大量の本と魔法陣。
宝石や金属を手作業で削って作られた部品。
それに、完成品の魔道具が、所狭しと並べられていた。
まさにファンタジーな工房、と言ったところだろうか。
それからゆっくりと部屋の中を見て回るワルツ。
魔道具のメカニズムは分からなかったようだが、それ以外の部分で、彼女の気を引くモノがあったようだ。
例えば――
「(……バラの刻印?どっかで見た気が……あっ、ベガの国の国章か……。たしか、アルボローザって言ったっけ?この感じ……裏で繋がってた、ってわけね?ヌルが知ったら怒るでしょうねー……きっとー)」
一部の魔道具のブループリントに、バラの形をした赤い蝋封の跡が残っていたり――
「(……あ、これ、拳銃じゃん……。もしかして、エクレリアともつながって……無いと思いたいわね。っていうか、もしも繋がってたら、ここにエクレリアの連中が来てるか……)」
机の上に弾が装填されたままの回転式拳銃が転がっていたり。
それだけでもワルツの驚きは、小さくなかったのだが……。
何よりも彼女のことを驚かせてしまうものが、机の上にあったようである。
「えっ……」
それを見て、思わず声を出してしまうワルツ。
そこには、馬車の車列を襲ったサキュバスやインキュバスの兵士たちが持っていた魔道具の設計図が置いてあって……。
その隅の方に――
「……シラヌイ。無事だったのね……」
良く知っている者の名前が、これまた良く知っている筆跡で、小さく書かれていたのである。
なんか、こう、やりすぎた感じがしなくもないのじゃ……。
長い文を途中で区切ったり、言い切りにして箇条書きにしたり、という部分が、少し多かったような気がしてのう。
最近は、よくそんな書き方をしておるわけじゃが、それをどう使えば良いのか、使い所のバランスが難しい、と思う今日このごろなのじゃ。
……今度試しに、切らずに続けて書いてみる、というのも悪くないかも知れぬのう?
切らずに書いたほうが読みやすかったら……その時は……その時なのじゃ!
もしも書くなら……あとがきで書いてみるかの?




