8.7-13 シャッハ家13
「で、何?やっぱり、私たちのこと、エクレリアと間違えて攻撃してきた、ってわけ?」
「兵士たちの方は、もしかして違うんじゃないか、って疑っていたみたいですけど、上層部の方は完全に信じ込んでいるみたいですね。まさか援軍がやってくるとは、思ってなかったようです」
捕まえたサキュバスやインキュバスたちに対して、あらかた尋問を終えたところで、その結果をワルツへと報告をするユリア。
この地まで道なき道(?)を切り開いてやってきたためか……。
彼女たちは、兵士たちの上層部――シャッハ家に、エクレリアが侵攻してきたものと判断されてしまったようだ。
「率直に聞くわね?……どうすればいいと思う?」
「……私も聞きたいです」
「……そうよね」
2人揃って、そう言い合って、暗い表情を浮かべるワルツとユリア。
そんな時。
ワルツたちに救われたサキュバスの少女アリサが、何処か決心した様子で、2人の会話に口を挟んできた。
「……あたし、やっぱり、軍に出頭しようと思います!」
それを聞いて――
「……何?もしかして、誰か殺っちゃったわけ?」
と、わざと言っているのか、それとも単にボケているだけなのか、どちらとも判断がつかない様子で、そんな反応を口にするワルツ。
それを見たユリアは、どこかか確信した様子で……。
ワルツの代わりに、こう問いかけ直した。
「……今、軍に出頭するということは、それなりに厳しい尋問やペナルティーを受けるということを意味しますが、それでもアリサさんは行くと言うのですか?」
それに対し、アリサは、重々しく首を縦に振りながら返答する。
「……さっき、兵士さんたちの話を聞きました。あたしがちゃんと出頭しなかったから、兵士さんたちはあたしのことを迎えに来て、そのときに皆さんのことを見つけた、と……。つまり、皆さんに迷惑を掛けてしまった原因は私です。今すぐに出頭して、事情を説明してきます……」
と言ってから、悲しそうな表情を見せて、俯くアリサ。
それに対して、ワルツが何かを言おうとしていたようだが……。
その前にユリアが再び口を開いた。
「恐らく、あなたが事情を説明しても、上層部が納得することは無いでしょう。彼らが簡単に納得するというのなら、既にあちらから、何らかのアプローチがあってもおかしくないはずですからね。もしも、上層部を納得させるというのなら……もっと説得力のあるワルツ様かヌル様が行って、直談判するしか無いと思います」
すると、急に飛び火してきたためか――
「えっ……いや……そ、それで、上層部が納得するって言うなら……行っていいけど?(どうかんがえても、私に説得力は無いけどね?)」
と、直前で何を言わんとしていたのか、どうでも良くなった様子で、戸惑い気味にそう口にするワルツ。
その反応はどこからどう見ても、行きたくない、と言っているようなものだったが、ユリアはワルツの言葉を好意的に捉えたらしく……。
彼女はその場にいたヌルを一瞥してから、こんな提案を口にした。
「では、こうするのはいかがでしょう?私とワルツ様とヌル様の3人で、お祖母様……軍の上層部に掛け合ってくるというのは?」
その言葉に――
「えぇ、私は一向に構いませんよ?それも、ワルツ様が一緒に来られるというのでしたら、喜んでどこまでも行きます」
「う、うん……私もいいわよ?ちょっと心配だけど……」
と、ほぼ真逆の反応を返すヌルとワルツ。
やはり、ワルツとしては、あまり気乗りがしない様子だったが、現状、いつ襲われるか分からない状況をいつまでも続けるわけにはいかなかったらしく……。
不承不承といった様子で、彼女はユリアの提案を受け入れることにしたようである。
それからワルツは、そこにあった真っ黒な炭の塊――もとい馬車の成れの果てに目を向けて。
ため息混じりに、こう言った。
「なら、出発する前に、いくつか準備しなきゃね」
つまり。
焼失したり、ダメージを受けてしまったりした馬車を、明日の出発までに再建しなくてはならない、という課題である。
どうやらワルツとしては、自分で馬車を作り直したかったらしい。
結果、ワルツが、どうしたものか、と考えあぐねていると……。
2人の狐娘が、嬉しそうに声を上げた。
「もしかして〜……新しい馬車がご入用ですか〜?」にっこり
「む?V6、3000ccかの?」きゅぴーん
コルテックスとテレサの2人である。
ワルツは、そんな2人の反応に、言い知れぬ不安を感じたらしく、2人に対してジト目を向けながら、こんな質問を口にした。
それも、どんな答えが返ってくるのか、大体予想を付けながら……。
「……ねぇ。コルテックスとテレサ?一応、確認しておくけど……2人とも、自重って言葉、知ってる?」
「じちょ〜?知らないですね〜。妾は知っていますか〜?」
「あれじゃろ?馬車の動力に縮退炉を使うというのは、この世界の技術に合わぬから、レシプロエンジン程度に収めておく……というヤツじゃろ?もちろん、弁えておるのじゃ。となると……反重力システムを搭載するわけには行かぬから、ゴム製のラジアルタイヤを装着すれば良いかの?ホイールは……マグネシウム・リチウム合金かの」
「もう、ダメね……2人とも……」
このまま2人を放置しておくと、木製のオーソドックスな馬車ではなく、確実に現代世界の自動車が出来上がることを察して、思わず頭を抱えてしまうワルツ。
……しかしである。
ここまでの道のりで、木製の馬車を走らせることに拘ってきたはずの彼女は、どういうわけか――
「まぁ、良いわ」
2人の暴走を容認したのである。
すると、その言葉に――
「「えっ……」」
どういうわけか、耳を疑ってしまったような反応を見せるテレサとコルテックス。
2人とも、先程の発言が、本心ではなかった、といった様子である。
「最初に言い出したの、貴女たちの方じゃない……」
「いや……世の中には冗談という言葉があっての?」
「その通りですよ〜?本当に、この世界で、自動車を走らせるつもりですか〜?」
と、テレサとコルテックスの2人があたふたしていると……。
ワルツは、ケロッとした表情で、自動車づくりを容認した理由を口にし始めた。
「えぇ、そうよ?原子炉とか核融合炉とか、自動車としてふざけたモノがついてなきゃ、とりあえずなんでもいいわ。っていうかさ……ドラゴンが付いてくるとか、無茶苦茶長い車列とか、そういうの考えてたら、もう、木製の馬車とか、そんなのどうでもいいような気がしてさ?2人ともそう思わない?」
「「いや……うん……」」
「でしょ?」
と言って、なぜ今まで思いつかなかったのか、と言わんばかりの表情を浮かべるワルツ。
一方で、テレサもコルテックスも、冗談を口にしたことを、後悔していたようである。
すなわち、ワルツは手綱を握るストッパー的な存在などではなく、むしろ暴走を加速させる側の人物だったことを失念していた、と。
その後で、彼女たちは、2グループに別れることになった。
ワルツ、ユリア、ヌル、そしてアリサの4人が、シャッハ家の本家――すなわちこの地の軍本部がある町へ赴くことになり……。
そして、それ以外の者たちが、その場に残って、失われてしまった馬車を作り直すことになったのだ。
こうして。
ミッドエデンの者たちは、その本性(?)を徐々に現し始めたのである……。
行程的なバランスを考えるなら、そろそろ、本気を出しても良いじゃろ?
最初から本気を出しておったら、一瞬で世界征服が終わって、まともな話にならぬからのう。
まぁ、この話は、ミッドエデンが世界征服をする話ではないがの。
さて。
ちょっと、次の話からの展開を悩んでおるゆえ、あとがきはここで切り上げさせてもらうのじゃ?
感情の表現が難しくてのう……。
何パターンか試しに書いてみようと思うのじゃ。
……それに、明後日は、ひどく忙しいからのう……。




