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8.7-07 シャッハ家7

「……あんた、容赦ないわね……」


少女の姿を見たロリコンが、馬車を加速させて、彼女のことを()()()()()()その様子を見ながら、呆れたような表情を見せるワルツ。

なお、少女は、馬車に衝突する直前でワルツが回収しているので、今は気は失っているものの、怪我は負っていないようだ。


そんなワルツに対し、ロリコンが言い訳を口にする。


「相手が敵だと分かっているのに、馬車を止めるわけには行かねぇだろ……。大切な馬たちや、馬車の中にいるリアル幼女たちが、もしも怪我をすr」


「あー、もう、分かったから、前見て運転しなさいよ?」


そう言って、重力制御システムを使い、後ろを見ていたロリコンのことを、無理やりに前へと振り向かせるワルツ。

その際、ロリコンの首から、何やら不穏な音が鳴っていたようだが、御者台には補佐のカペラもいるので、大きな問題にはならないだろう。


それから――


「で、この人、誰かしらね?」


ワルツはそう言いながら、回収した少女を、馬車の中の空いていた空間に置いた。


その少女の姿は、幻影魔法や変身魔法がまったく効かないワルツの眼から見ても、間違いなく少女だったようである。

そして、背中からはコウモリのような羽が生えており、耳は尖っていて……。

紛れもなく、サキュバスでもあったようだ。


そんな少女のことを、しげしげと観察しながら――


「どこの娘でしょう?」

「この辺って、サキュバス多いんですかね?」

「敵です……?」しゃきんっ

「いや、マリーちゃん?多分、拷問しないかもだから、包丁は仕舞った方がいいかもだよ?」

「この娘、なんで馬車の前に立ちはだかろうとしていたのかしら?」


――と、首を傾げる仲間たち。


それからワルツが、面倒事に巻き込まれる前に、その少女のことを、馬車の外へと投げ捨てようかと考えていると――


「うぅ…………はっ!」


ワルツの殺意(?)を察したのか、少女が不意に眼を覚ました。


それから彼女は、そこに寝そべったまま、ぎこちなさげに周囲を見回して。

一通り馬車の中を確認した後で、恐る恐る、口を開く。


「も、もしかして……あたし、死んだ?」


「いや、生きてるけど?」


「そ、そうですか…………え?」


と、生きていることは理解したものの、現状についてはやはり飲み込めなかった様子のサキュバスの少女。


何故、自分は生き残ることが出来たのか。

何故、怪我をしていないのか。

何故、馬車の中にいるのか。

何故、この馬車の中は女性ばかりで溢れているのか……。


そして何より――


「さ、サキュバス?!」


――何故ここにサキュバスがいるのか。


「いや、貴女もサキュバスじゃない……」


まるで、鏡に映る自分の姿を見て驚く熊のような反応を見せて、慌てて立ち上がろうとしていたサキュバスの少女に対し、思わずツッコんでしまうワルツ。


すると、その様子を苦笑しながら眺めていたユリアが、少女の前へと一歩、踏み出すと。

真っ赤な瞳を妖しげに光らせながら、少女に対して質問を始めた。


「あなた『お名前は?』」


ユリアのその質問には、テレサの使う言霊魔法に近い効果を持つ、『魔眼の力』が含まれていた。

それは、常人が受けたなら、魔力が途絶えない限り、術者の指示を拒否できなくなるという精神支配系の魔法の一種で……。

サキュバスの中でも、一部の者だけが使えるという、特殊な魔法である。


ようするに。

サキュバスの少女は、今この瞬間から、ユリアの尋問の対象になったのだ。


結果、少女は、虚ろな表情を浮かべながら、ユリアの質問に答え始める。


「……アリサです」


「では、アリサ。あなたはどこから来たのですか?」


「……この近くにあるキプカという村です」


「キプカ……キプカ……どこだろ……。まぁ、それは置いておいて……。あなたは、どうして、この馬車の前に飛び出てきたのです?」


「馬車の列がどこまでも長く並んでるのが、すっごく珍しくて……。もっと近くで観察しようと思ったら、気付くと道に出てしまいました」


「「「あっ…………」」」


「……ねぇ、ユリア?もしかして、この娘……ちょっと単にアレなだけじゃない?」


「そうみたいですね……」


と、アリサと名乗るサキュバスの少女に対し、微妙そうな視線を向けるワルツたち。

ポジティブな言葉で表現するなら、どうやらアリサは、好奇心旺盛な少女のようだ。


「まぁ、敵対するつもりがない単なるサキュバスなら、別にここで放してあげても良いんじゃないかしら?」


「そうですね…………あ、そうだ。もう一つ聞いておきたいことがありました」


ユリアはそう言うと、未だ魔眼の影響を受けたままだったアリサに対して、質問を追加した。


「アリサさん。さっきあなたは、私たちサキュバスのことを見て、驚いていた様子でしたが……あれはどうしてなのですか?この地方ではサキュバスなど、珍しくもなんともない存在のはずですが……」


それを聞いたアリサは、相変わらずポカーンとした表情を浮かべたままで……。

……しかし、何故か、目尻から涙を零しながら、淡々とこんなことを口にし始めた。


「……今、この地方では、サキュバスやインキュバスたちが集められて兵士にされています。何か、大きな争いごとがあるらしくて、あたしのお父さんやお母さん、お兄ちゃん、それに近所のおじちゃんやおばちゃんたちもみんな、村を出ていってしまいました。それで私は……1人だけ村でお留守番です。ですから、もしかして、サキュバスの兵士さんたちが、私のことを迎えに来たのかな、と思ったんです」


「……何これ……すっごく、重いんだけど……」

「……お姉ぢゃん……この人、なんか可哀想……」ぶわっ

「うむ……世知辛い世の中じゃのう……」


と、アリサが作り出した重い空気に、胸を痛めている様子の一同。

もしもこれがアリサの虚言だとするなら、彼女は相当な役者ということになるのだが……。

幸いというべきか、残念というべきか、ユリアの魔法の影響を受けているアリサに、嘘を付く余裕は無さそうだった。


そんな彼女の言葉を聞いて、ユリアが暗い表情を浮かべながら、口を開く。


「……まだやっているのですね」


「「「えっ?」」」


「サキュバスとインキュバスの徴兵です。それだけなら、他の地域でもやっているとは思うのですが、この地を統括するお祖母様……いえ、シャッハ家がやっているのは、徴兵という名の『選別』です。老若男女関係なく徴兵して、使える者は手元において、そして使えない者は戦地や中央に送り出す……。つまり、私は、使えないサキュバスだった、ってわけです」


「いや、貴女が使えないサキュバスって言うなら、全世界のサキュバス、どうすんのよ?」


「この地方においてその評価を決めるのは、本家の人たちですから……。ところで、アリサさん。あなたは何故、ここに留まっていたのですか?徴兵の対象には、あなたも含まれているはずですが……」


と首を傾げながら質問するユリア。


するとアリサはその質問に対し、彼女らしい(?)返答を口にした。


「あたし、字が読めなくて、徴兵の紙が来ても、なんて書いてあるか分からなかったんです。それで、集合日時が分からなくて……でも今更、中央に出頭できなくて……」


「……ねぇ、ユリア?」


「……なんですか?ワルツ様?」


「もしかして……もしかしてだけど、私たちのことを離れて監視してたサキュバスとかインキュバスたちって、この娘を強制的に回収しに来た人たちなんじゃ……」


「……なるほど」


と、ユリアが納得げな反応を見せた――その瞬間だった。


「っ!また来たぜぇ!ロリババアども!」


ロリコンが進路上に何かを見つけたらしく、再び暴言を吐いたのだ。

いやむしろ、何故か、狂喜乱舞していたと言うべきか……。

そんな彼の視線の先では、また少女が道の上で立ちすくんでいた、というわけではなかったようである。


そこにいたのは、サキュバスが2人と、インキュバスが1人。

しかも3人ともが、魔道具と思しき太い筒状の兵装を手にしていた。

それはまるで、長距離用の武器――いや、銃か、あるいはロケットランチャーのようだった、と表現すべきか。


「「ちょっ?!」」


その姿を見て、驚きの声を上げるワルツとユリア。

しかし、彼女たちが、何か行動に出る前に――


ズドォォォォォン!!


3人から飛んできた飛翔体が馬車に当たり、大きな衝撃を伴いながら爆ぜて……。

そして、ワルツたちの乗った馬車を、猛烈な勢いの炎で包み込んだのである。



完!


って、終われる日は、いつになったらやってくるのかのう……。

半分以上は書いたかの?

それとも、まだ半分、行ってないかの?

……まぁ、ゴールが見えなくても、淡々と書いていくだけなのじゃがの。


さて。

今日も特にコレと言って紹介できるレベルで詰まった場所は無かったのじゃ。

というか、詰まり過ぎて、どれを紹介すればいいか分からぬレベルだった、といった方が良いかも知れぬのう。

本当、文の繋がりって何なのじゃろうか……。

読みやすさ、伝わりやすさって何なのじゃろうか……。

奥ゆかしさって……(ry


まぁ、一言で言うと……今日も頭が一杯なのじゃ!


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