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8.7-06 シャッハ家6

ガラガラガラガラ……


野営地点の近くに、人通りのあまり多くなさそうな道を見つけたワルツたち一行。

ここがどこで、その道がどこにつながっているのか、ユリアにも、ヌルにも、そしてカペラにも分からなかったが……。

馬車の列が道なき道を進んで、地形をショートカットするのは難しかったので、ワルツたちは、仕方なくその道を進むことにしたようである。


そんな馬車の列には、今日もドラゴンたちの姿が混じっていた。

結局、朝食の際に人化したドラゴンは、ポラリス1人だけで……。

他のドラゴンたちは、依然、大きな身体のままだった。

まずは、ポラリスだけが人化を体験し、不都合がないかを確かめて、それで何もなければ他のドラゴンたちにも勧めてみる、ということになったらしい。


その車列の中には、依然として、アルバの町から付いてきていた人々の姿もあった。

しかも、町を離れてからの脱落者は、今のところ誰一人としておらず。

皆、嬉しそうに、ワルツたちの馬車を追いかけていたようである。

何故、彼らが嬉しそうだったのかは不明だが、まさか、追いかけてくるドラゴンたちの姿を目の当たりにして、顔が引き攣っていただけ、ということはないだろう。


そしてもう1団。

アルバの町の者たちが乗った馬車群の後方に、いつの間にか見慣れない馬車の列が連なっていた。

そのデザインは、てんでんばらばらで、中には、金属でできた少し高級そうな馬車も含まれていたようである。


そんな彼らは、一行がザパトの町に立ち寄った際に合流した者たちだった。

例えば、エクレリアに追われる形で、ザパトの町へと避難してきていた者。

あるいは、軍の規律(?)に背いて、死刑にされかかって、帰る場所を失った者。

はたまた、何者かに鉱山を荒らされた挙句、強制的に地主の権利を奪われた者。

その他、鉱山での働き口を失った者たちや、町にいた傭兵たちなどなど……。


結果、ワルツたち一行の車列の長さは、軽く2kmを超えていたようである。

それでも渋滞することが無かったのは、数台おきにポテンティアの黒い馬車が挟まっていたためか。


「すっごい長さだよねー……。これ、1台でも故障したら、大変なことになるんじゃないかなぁ?」


その馬車の列の先頭を走っていた、妙にメカメカしい木製の馬車の中で、後ろを眺めながら、そんな感想を呟くルシア。


彼女の眼からは、後ろの馬車がどこまで連なっているのか、その終わりを見ることはできず……。

丘陵地帯の谷間を縫うように、くねくねと続いていた道の上を、馬車の列がどこまでも連なっているように見えていたようである。


「ま、大丈夫じゃない?暇があったら、私とかテレサとかベアトリクスとかポテンティアが、皆の馬車を見て回って、壊れそうなところ修理してるし……」


「ふーん。じゃぁ、食事の準備をしてる時に、お姉ちゃんが馬車の周りを散歩してたのって……つまり、そういうことだったんだね?暇だった、ってわけじゃなかったんだぁ……」


「う、うん……そ、そうよ?」


と、ルシアの言葉を聞いて、挙動不審な反応を見せながら返答するワルツ。

どうやら彼女には、何か後ろめたいことがあったらしい。

尤も、食事の準備も、馬車の整備も手伝えないルシアの場合は、その間、本当に暇を持て余していたようだが。


まぁ、それはさておいて。

彼女たちがそんな会話を交わしていた馬車の中(?)には、何やら険悪な空気が漂っていたようである。


「くっそ、ワルツのやつ……。いつか仕返ししてやるからな!」


「……お前。良く本人の前で、そんなことが言えるな?」


と、激怒している様子のロリコンの隣で、呆れたような、あるいは関心したような、そんな反応を見せるカペラ。


ようするに。

ポラリスのプライバシーを守ろうとしたワルツによって、超重力を掛けられたロリコンが、御者台に座って馬たちを操りながら、ワルツの眼の前で、堂々と不平不満を口にしていたのである。


ワルツはそんな彼の事を、しかし、すぐに処刑するようなことはせず……。

むしろ、どころか申し訳無さそうな表情を浮かべながら、謝罪混じりにこう言った。


「いや、すまなかったと思ってるわよ?次、やる時は、事前通告してからやるから、今後は安心してちょうだい?」


「どうやったらそれで安心できんだよ!」


「そもそも貴方が、変な性癖を持ってなかったら、こんなことにはならなかったのよ?」


「だから言ってるだろ。名前と性癖は関係ないって……。単に幼女を眺めるのがすk」


「……カペラ?あんた、ロリコンの保護者なんでしょ?この死んでもどうにもならなそうな奴、どうにかしなさいよ」


「俺、道案内じゃなくて、保護者だったのかよ……」


ワルツから向けられる、その理不尽な言葉を聞いて、思わず頭を抱えてしまうカペラ。


するとそんな折――


「あ?何だありゃ?」


つい今さっきまで激怒していたロリコンが、急にマジメな表情(?)を浮かべたかと思うと、不意にそんな言葉を口にしたのである。

どうやら彼は、周囲の景色の中に、何かの姿を見つけたらしい。


その存在には、馬車の外に機動装甲を浮かべていたワルツも気付いていたようである。


「あぁ、あれ?斥候か何かじゃないの?」


ワルツのその言葉を聞いて――


「「「えっ……」」」


と声を上げる仲間たち。


すると、この地に住むサキュバスたちの事情に詳しいユリアが、馬車の中で立ち上がると、幌の影に隠れながら周囲の景色を観察して……。

だが、自分の眼からは斥候(?)の姿を確認できなかったのか、彼女はワルツに対し問いかけた。


「警戒されている感じでしょうか?」


「多分ね……。昨晩からサキュバスたちがフラフラと闇に紛れて飛んできてたから……まず間違いなく、警戒してるでしょうね」


「来てたんですね……サキュバス部隊……」


と、ワルツの遅すぎる報告を聞いて、呆れたような表情を見せるユリア。

それでも彼女が、ワルツのことを責めなかったのは、忠誠心の現れか、それともワルツのことを信じていたためか。


それからユリアは、元の位置に戻って、隣に座っていたローズマリーの頭の上にそっと手を置くと……。

この地を守るサキュバスたちの部隊について、説明を始めた。


「もしもこの先で、サキュバスやインキュバスの部隊が、私たちに攻撃を仕掛けてくるようなことがあるとすれば……恐らく、幻影魔法か、魔眼の力を使ったものになるかと思います。私たちはサキュバスは非力です。ですから、戦闘する場合は、魔法を使った精神への攻撃が主となるはずです」


その言葉を聞いて――


「「「…………?」」」


と、一斉に首を傾げる一同。

皆、『……非力?お主は何を言っておるのじゃ?』と言わんばかりの表情である。

どうやら彼女たちは、サキュバスという存在を、少しばかり勘違い(?)しているらしい。


「いや、どう考えても、非力じゃないでしょ?」


「えっ……いや、非力ですよ?この腕から、どんな力が出ると思ってるんですか?」


「……樹齢何年かも分からないくらい太い森の木々を、軽々となぎ倒すくらいの力?」


「あれ、魔法の効果です。幻影魔法です」


「物理的になぎ倒してるんだから、幻影なわけじゃない……」


とユリアの魔法の矛盾について、容赦なく突っ込むワルツ。


その他、イブたち年少組は、ローズマリーの巧みな包丁捌きのことを。

そしてシルビアは、ワルツに対して幾度となく刃を突き立てた同僚のリサのことを考えていたようだ。

そのどちらのケースでも、サキュバスは、()()な存在ではなかったと断言できるだろう。


それからユリアが追加の言い訳を口にしようとした――そんな時だった。


「おっと……。早速、お出ましだぜ?」


御者台に座っていたロリコンが、馬車の進路上に、人が立っている姿を見つけたようだ。


「女……いや、少女か?」


と、そこにいた人物の見た目を口にするカペラ。


その姿は、彼の隣に座っていたロリコンにもハッキリと目視できたはずだが……。

彼は、すぐに馬車を止めるどころか――


「少女だか幼女だか知らねぇが、ロリババアに興味はねぇ!死ねぇぇェェェ!!」


むしろ加速して――


ドシャッ!!


――道の真ん中に佇んでいた少女を、馬車で容赦なく轢いたようである。

どうやら彼の中で歪んでいたものは、性癖だけでは無かったようだ。

いやの?

文中にあった――

『……非力?お主は何を言っておるのじゃ?』

という一文。

本当は、普通に書くつもりだったのじゃが、別に良いかと思ってそのまま書いたのじゃ。

まぁ、馬車の中には妾もいることじゃし、何も問題は無いじゃろう。

代表者の声、といったところかの?

これからは、毎回、キャラクターを変えて書く、というも悪くないかも知れぬのう。


で、修正項目の話じゃが、今日は細かい修正が多くあった反面、大きな突っかかりは無かったのじゃ。

この感じ、後日になって、何故か気になる点が湧いて出てくるパターンな気がしなくもないのじゃ……。

というわけで、今日は修正点についての分析は無しなのじゃ?

まぁ、見ておる者はいないかもしれぬがの。


PS:

間違えて、違う物語にあっぷろーどしてしまったのじゃ……。

申し訳なかったのじゃ……。

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