8.7-04 シャッハ家4
皆が朝食を取っていた場所から100mほど離れた場所に、地竜ポラリスの姿はあった。
彼(?)は、地竜たちの群れのリーダーを務めているらしいが、他のドラゴンたちからは常に少し離れた場所にいて……。
単なるリーダー、というわけでもなかったようである。
そんなポラリスは、そこで1匹(頭?)、イブに貰った朝食を静かに眺めていた。
それが何故なのかは定かでなく……。
これまで野生の魔物にただ齧りつくだけだった彼にとっては、もしかするとその食事が、特別な高級料理のように見えていたのかも知れない。
まぁ、彼のことを一見する限りでは、食事をお預けにされて、食べても良い、という許可を待っているようにしか見えなかったが。
それを見て――
「……食べないの?」
と質問するワルツ。
そんな彼女の言葉には、ポラリスの体調を心配するような声色も含まれていたようである。
それを聞いたポラリスは、不意に顔を上げると、そこに居たワルツに初めて気付いたかのように、こう言った。
「朝は、おはようございます、という呪文を唱えるのだったか?」
「まぁ、呪文というよりは挨拶ね。それ自体に深い意味は無いんだけど、その返事や声質を聞けば、相手の体調とか機嫌が大体予想できるじゃない?」
「なるほど……。群れて関わり合うことを円滑にするために作られた魔法の言葉、というわけか……」
「魔法の言葉、ね……。あながち間違いではないかもしれないけど、そんな深い意味は無いわよ?人の習性みたいなものかしら」
と、ポラリスが挨拶を知っていたことに感心したような様子で、説明するワルツ。
それから彼女は、最初の問いかけへと戻ることにしたようだ。
「で、それ、食べないの?別に毒が入ってるわけでもないし、それに早く食べないと冷めちゃうわよ?こういうのは温かい内に食べるのが一番美味しいんだから(多分、もう冷めてると思うけど……)」
すると、ポラリスは、少しだけ目を細めると……。
小さくため息を吐いてから、ワルツの質問にこう答えた。
「食べるのが……勿体無いのである。食べた瞬間、心が満たされるような味が口の中いっぱいに広がるのであるが、それも一瞬のことで……。その後に訪れるのは、もう一口食べたい、という寂しさなのである……」
「ふーん。やっぱ、量が少なすぎるのね……。じゃぁ、そんなあなたに朗報があるんだけど……聞く?」
と、相手が何と答えても説明するつもりだったにも関わらず、敢えて問いかけるワルツ。
もちろん、ポラリスがそれを断るはずもなく……。
彼が不思議そうに首を傾げたところで、ワルツは本題を切り出した。
「あなた……人間になってみない?」
それを聞いて――
「……へ?」
と、大きな図体をもったドラゴンとは思えない、間の抜けたような声を出すポラリス。
まぁ、いきなり、人間にならないか、などと言われれば、耳を疑ってしまっても無理はないだろう。
逆に人間に例えるなら、ドラゴンになってみないか、と聞かれることと同じなのだから。
そんなポラリスに対し、ワルツは事情を説明した。
「いや、飛竜みたいに人間の姿になって身体が小さくなれば、相対的に食事のサイズが大きくなるから、少しの量の食事でも、お腹いっぱい食べれるようになるわよ?」
そんなワルツの言葉を聞いたポラリスは、しかしすぐには返答できなかったようである。
それは、彼女の提案に驚いていたから、ということもあったが、それ以外にも理由があったようだ。
「そんな簡単になれるのであるか?」
どうやら彼は、飛竜の説明を聞いた際に少し勘違いしていたようで、人になるには相当な困難が付きまとうと考えていたらしい。
「いや……うん……。マナを飲むだけだし、簡単っちゃ簡単だけど……。問題があるとすれば、変身する時に、身体が痛むくらいかしらね?まぁ、死ぬほど痛いってわけじゃないみたいだけどさ?」
「肉体的な痛みなど、この胸の痛みに比べれば、些細なこと。ぜひ、人になってみたいのである!」
「……分かったわ。じゃぁ、口開けてもらえるかしら?今から、マナ、飲ませるから」
そう言うと、自身の後ろ――つまり馬車の方角に向かって、重力制御システムの力場を展開するワルツ。
すると――
「んはっ?!おちるぅぅぅぅぅっ?!」
そんな叫び声を上げながら、100m離れた場所から、黄色い毛玉が、猛烈な勢いで、水平方向に落下してきたようだ。
ワルツはそんなイブのことをそっと抱きとめて。
それから彼女に対し、要件を伝えた。
「……というわけだから、イブ?ポラリスにマナを飲ませてもらえるかしら?」
するとイブは、わなわなと震えながら、ワルツに向かって声を上げる。
「ちょっ……ワルツ様!酷いかもだし!呼ぶなら声で呼んでくれれば、歩いて来るのに……。もしかしてワルツ様、イブのこと嫌いかもなの?!」ぐすっ
「…………ごめん」
まさかイブが泣くとは思ってなかったのか、至極、申し訳無さそうな表情を見せて謝罪するワルツ。
そんな彼女の頭の中では、とある人物が、人の扱いの基準となっていたのだが……。
どうやら幼いイブは、その『基準』よりも、もう少し丁寧に扱わなければならないようである。
なお、念のため断っておくが、『基準』はルシア、ではない。
「もう、次やったら、本気で怒るかもだからね?カタリナ様や、テンポ様とかに言いつけるかもなんだから!」ぷんぷん
「私の弱点、ちゃんと把握してるわけね……」
怒り心頭な様子のイブの言葉を聞いて、ワルツは今後、イブだけでなく、すべての人間のことをもう少し丁寧に扱おうと心に決めたようである。
……ただし、例外を除く。
それからイブは大きなため息を吐いて、表情を元に戻すと。
ポシェットの中に手を入れて、試験管のようなものに入った透明な液体を取り出した。
変身1回に必要となる分量のマナである。
そして彼女は、それを手にしたまま、口を大きく開けて待っていたポラリスのところへと歩み寄って。
彼の口の中へとマナを流し込む前に、念のため、確認の言葉を口にした。
「えっと、ポラリス様?口の中にマナを入れるかもだから、イブの手をガブッといかないように注意してほしいかも?」
「うむ」
「じゃぁいくね?」ドボドボ
そう言いながら、片腕をポラリスの口の中へと入れると、試験管の中身をそこに空けて。
そして、すぐに手を引っ込めるイブ。
すると――
「…………?!」
ポラリスが身体の違和感を感じ取ったのか、急に目を見開いた。
その瞬間――
ボフンッ!
と周囲に立ち込める白い煙。
どうやら飛竜の時と同じく、彼の変身が始まったようだ。
「どんな姿になるかもかな?」
「さぁね?でも……どうする?頭から触手の生えた、空想上の火星人みたいな、とんでもない姿になったら……」
「『かせいじん』っていうのはよく分かんないかもだけど、シュバルちゃんみたいな見た目でも、イブはかまわないかもだよ?多分、ポラリス様なら、シュバルちゃんみたいに齧ってこないと思うかもだし……」
「……そう(イブ、意外に、包容力があるのね……)」
と、包容力が皆無な様子のワルツが感心していると。
周囲に立ち込めていた煙が、徐々に薄くなってきた。
そしてそこから、一人の人物が現れる。
どうやら、ポラリスの頭に、触手は生えていなかったようだ。
「んー、ちょっと……ありきたりかもしれないわね……」
「ポラリス様がどんな姿をしてたら、ワルツ様が満足できたのか……イブ、あんまり想像したくないかもなんだけど……」
「いや、どんな姿でも、別に満足とか不満足とか無いけどね?」
と、イブの言葉に対し、反論するワルツ。
そんな彼女たちの前には、地面にぐったりと伏せる女性の姿があったようである。
それも、飛竜やイブと、ほぼ同じくらいの年齢の……。
やはり、睡眠不足が原因かの?
今日は2箇所ほど引っかかった部分があったのじゃ。
・修正前
『それは、皿を食べないようにして、どうやって肉だけを食べようかと考えあぐねていた、というわけでも、量が少なすぎることに不満だった、というわけでもなく……』
・修正後
『ただ、それが何故なのかは定かでなく……』
……めんどくさくなってショートカットした、としか言えぬ適当な感じの修正になってしまったのじゃ……。
これが1件目なのじゃ?
で、2件目。
・修正前
『もしかすると、これまで野生の魔物にただ齧りつくだけだった彼にとって、イブの作ったその食事は、まるで芸術的な高級料理か何かのように見えていたのかも知れない』
・修正後
『これまで野生の魔物にただ齧りつくだけだった彼にとっては、もしかするとその食事が、特別な高級料理のように見えていたのかも知れない』
煩雑な感じがあったゆえ、いくつか冗長な情報をカットして、文の前後移動をしたのじゃ。
じゃが、修正した今でも、納得できておらぬがの……。
1件目については、気分の問題だと思うのじゃ。
長い文を読みにくいと思うか、思わないか……。
それだけの違いなのじゃ?
問題は2件目の方かのう……。
実はこのパターンで詰まることがよくあるのじゃ。
文の順番については、この際、置いておくとして……。
何に詰まるのかというと、『は』と『が』の使い方なのじゃ。
『は』も『が』も沢山ありすぎると、何が主語なのか分からなくなってくるし、間抜けな感じがしてくるからのう。
こう、メリハリが無いというか、日本語として破綻しておるというか……。
かと言って、完全に別の文に置き換えてしまうというのも、解せんしのう……。
それをどうにか納得できるように試行錯誤しておったら、15分が経過しておった……というわけなのじゃ。
もうダメかも知れぬ……。
まぁ、これからも引き続き、分析していこうかのう……。




