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8.6-32 ザパトの町17

「なるほど……。これがヌル様のお仲間でござるか……」


人力では成し得ないほどの圧倒的な力の差を見せつつ、離れた場所からザパトの町周辺を攻撃してきたエクレリアの戦車群。

そんな彼らのことを、更に上回る物量で圧倒したルシアやポテンティア、それにテレサたちを前に、声が出せるようになったザパトは、納得げな反応を見せていたようである。

……すなわち、魔王たるものの付き人として、ふさわしい者たちが仲間になった、と。

そんな彼の眼に映った一行は、勇者が作る勇者パーティーならぬ、魔王が作る魔王パーティー(?)のように見えていたに違いない。


すると。

そんな修正困難な勘違いをしているだろうザパトの脳内を察したヌルが、その思い違いを大きく訂正するようなことはせずに、苦笑しながら、少しだけ方向の修正を行い始めた。


「……あぁ、そうだ。私に助力してくれる、頼もしい仲間たちだ。……だから頼む。皆には失礼のないようにしてほしい。彼女たちが機嫌を損ねても、私にはどうすることもできないのだ。それについては……長老自身がよく分かっているのではないか?」


「……今回の一件で身に染みたでござる」


と、つい先程まで、テレサによって言葉を封じられていたことを思い出したのか、重々しく首肯するザパト。


それから彼はその場で振り向くと……。

後ろにいたドワーフの兵士たちに対して、眼でサインを送った。


すると、兵士たちの列が2つに割れて……。

その向こう側から、豪奢な馬車の列が現れた。

どうやら彼は、ワルツたち一行のことを、執政官の館かどこかで(もてな)すつもりのようだ。


だが、ここにいるメンバーは、誰しもが饗されることに慣れているわけではなかった。

中でも、一行のリーダーたる人物は、饗されることで機嫌を悪くする、と言っても過言ではない人物だと言えるだろう。

というよりも、彼女だけが例外的、と言った方が正しいかもしれないが。


結果、一行のリーダーを務めていた人物――ワルツは、ザパトの用意した馬車を見た途端、苦い表情を浮かべて、1歩2歩と下がると……。

ザパトとやり取りをしていたヌルに対し、こう言ったのである。


「あー、ごめんねー?ヌル。ちょーっと、私は遠慮させてもらおうかしら?」


すると、それに合わせるかのように――


「お姉ちゃんが行かないなら、私もここで待ってよっかなぁ……」

「む?ワルツが行かぬのなら、妾も行かぬのじゃ?」

「テレサが行かないなら、私もここで待ちますわ?」

「えっ……じゃあ、イブもかも?」

「む?主殿が行かぬなら、我もだ」

「zzz……」


――と、次々に遠慮の言葉(?)を口にする仲間たち。

そんな彼女たちは、ワルツと違って、饗されること自体に対して忌避感があったわけではないようだが……。

それでもワルツに追従したのは、何もワルツから離れたくなかったことだけが、唯一の理由、というわけではないだろう。


そんな仲間たちの様子を見て、聞いて、そして察して……。

ヌルは、ザパトに向かって、首を振りながらこう言った。


「私たちを歓待してくれるという気持ちだけは、ありがたく受け取っておこう。だが、ワルツ様方は、饗しを欲してはいないようだ。すまないが、今日のところは引き取って貰えないか?」


それに対し――


「し、しかし、それでは、我々が一方的に、ヌル様方に粗相を働いたままになってしまうでござる。儂に挽回の機会を与えては下さりませぬか?あるいは、どうしても歓待が受け入れられぬというのでござるなら、何か別の形で饗させてもらっても構わぬでござるぞ?」


と、何処か必死な様子で、饗しを勧めるザパト。

どうやら彼は、ワルツたちに――()いてはこの国を治めるヌルに対して無礼を働いたまま、それを挽回せずに、ここで彼女たちと別れてしまうことを恐れているようである。

そんな彼の反応は、もしかすると、ヌルがかつて暴君だったことを知っていたための反応なのかもしれない。


……ただ。

ザパトのその懸念は、すぐに払拭されることになったようだ。


「えーと?ちょっといいかしら?」


今この瞬間まで、饗されることに対し忌避感しか無かったはずのワルツが、ザパトの言葉の()()に反応したらしく、前向きな様子で2人の会話に首を挟んできたのである。

それも、眼をキラキラと輝かせながら……。


そしてワルツは、ザパトに対し、こんな質問を投げかけた。


「それってさ?別に、サービスを受けるとか、物を受け取るとか……そんなんじゃなくてもいいのよね?」


「は、はい。それ以外のもので、我々に出来ることなら、善処するでござるが……」


と、突然、よく知らない少女が話に割り込んできたことに、戸惑いの表情を隠せなかった様子のザパト。

彼女についての紹介を受けたのは、昼間、ザパトが酩酊している状態での話だったので、恐らくザパトは、彼女がワルツであることすら覚えていないのではないだろうか。


しかし、空気が読めないことの多いワルツが、そのことに気付くことはなく……。

彼女は、ザパトに向かって、自身の要望を口にした。


「じゃぁさ?短時間で構わないから……この町にある鉱山で、採掘していい?」にっこり


「……はい?」


ワルツが急に何を言い出したのか、すぐには理解できなかったらしく、ザパトは思わずその言葉の真意を聞き返してしまったようだ。


というのも、鉱山での採掘というのは、あえて言うまでもなく、大きな危険を伴う作業だったのである。

通常、奴隷か、犯罪者か、そういった訳ありの者たちによって行われる死と隣り合わせ作業であって、そうではない一般の者たちにとっては、嫌厭すべき仕事ランキングのトップ3に入っていたと言えるだろう。


そのせいもあって、ザパトはすぐにワルツの言葉が理解できなかったようである。

世間一般的に考えるなら、年端もいかない少女が、鉱山で穴を掘りたいなどと、まず言うはずが無いのだから……。


まぁ、ザパトがその言葉の意味を完全に理解しても、ワルツの希望をおいそれと受け入れることは、やはりできなかったようだが。


「そ、そんな危険なこと……」


「危険?危険かしらね?ヌル」


「ワルツ様方に限って言えば、危険があるとは言えないでしょう……」


「……って、ヌルが言ってるんだけど?」


と、自身の要望を通すために、ヌルの言質を取って、外堀を埋めていくワルツ。


すると、国のトップが認めている以上、ザパトの方も、頭ごなしに拒否できなくなったようで――


「……条件付きで、採掘を許可するでござる……。しかしくれぐれも、安全だけは第一に考えてくだされ?」


彼は渋々といった様子で、ワルツの要求を飲むことにしたようだ。


……なお。

その言葉を聞いた瞬間、ワルツは嬉しそうな表情を見せたわけだが……。

ワルツのその反応と同時に、彼女と同じような表情を見せた者がその場に数人いた事については、わざわざ取り上げるほどのことでも無いだろう。


まぁ、全員が全員、テンションが高くなった者たちばかりでなく、逆に低くなっている者もいたようだが。



妾は……どちらかと言うと、テンションが下がる側の狐かも知れぬ。

穴蔵に入って、手首を痛めながら、ツルハシを何度も振り下ろすくらいなら、お金を払って錬金術ギルドから良質な鉱石を買ったほうが良いと思うからの。


この時、誰が喜んだのかについては、次の話で軽く触れる予定なのじゃ?

まぁ、話に関係ない、どうでもいい話じゃがのー。


さて。

この土日でストックを貯めようと思ったのじゃが、実のところ、まったく貯まっておらぬのじゃ……。

そう、まったく、の?

±0なのじゃ。

この分じゃと、何かあった時に、あっぷろーどが滞ってしまう可能性も否定できないゆえ、今夜もこれからキーボードをクラッシュする作業に入ろうと思うのじゃ。

……まぁ、本当にそんなことしたら、主殿にこっ酷く怒られてしまうと思うがの……。


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