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8.6-20 ザパトの町5

その日、ザパトの町で起こったことは、後世に渡って、長く語り継がれたとか、継がれていないとか……。


ドスンッ……!!


ドラゴンたちやワルツたちを残して、固く閉じられてしまったザパトの町の正門。

そこを一部に組み込むようにして町をぐるりと取り囲んでいた市壁の上では、早速ドワーフの兵士たちが、各々の武器を構えて、一斉に周囲の警戒を始めたようである。


そんな壁の上にいた兵士たちの多くが、その警戒の対象にしていたのは、ワルツたち、ではなく、ドラゴンたちのことだった。

これまで暗黙の了解があったかのようにして、お互いにお互いの生活の範囲へと入り込むことを避けて生きてきた両者だったが、それをドラゴンたちが一方的に破り、町の近くへと押しかけてきたので、ドワーフたちとしては、警戒しないほうが難しかったようである。

そう。

彼らはこれまで、常に狩るか狩られるかのどちらかの立場でしか、接触してこなかったのだから。


そのためか、ワルツのことを警戒していた人物は殆どいなかったようである。

まぁ、リーダー格のドワーフと彼女とのやり取りを見ていた人物自体が、それほど多くはなかったので、無理もないことではあるのだが。


それを見て、


「あー、やっちゃったー……」


と言いながら、頭を抱えるワルツ。

余計なことをしたせいで、状況が最悪な方向に転がってしまったことを、今になって後悔していたようである。


それから彼女は、面倒なことから眼を背けるように後ろを振り向くと……。

その場にいたものたちに対して、こう問いかけた。


「これ、ザパトの町に入るのは諦めて、さっさとユリアん()に向かったほうがいいかもしれないわね……」


それに対し、


「んー、そうだな。無理にここに寄る必要はないからな」

「うむ……すこし残念じゃがのう……」

「そうですわね……。鉱山に行けば金銀財宝ザックザクだと思っていましたけれど……仕方ありませんわね」

「(ベアちゃんって、そういうところ、お姫様っぽくないかもだよね……)」


と、そんな反応を見せる仲間たち。


……しかしである。

現状において、何が何でも、ザパトの町に立ち寄らなくてはならない人物の姿が、その中にあったようだ。


「お……お姉ぢゃん……」ガクガク


……ルシアである。


「あっ…………」


なぜ妹が、アルコール依存症患者のように小刻みに震えているのか、その理由に思い当たって、ワルツは思わず固まった。


そんな姉に対して、ルシアが震える声で問いかける。


「……ユ、ユリアお姉ちゃんのお(うち)まで……あとどのくらい……?」げっそり


それに対し答えたのは、この国の地理をほぼ知り尽くしていたヌルだった。

ところが――


「そうですね……ここまで来たようにして、地面に穴を掘ってまっすぐに移動したとすれば、あと3日ほどでsy……ひぃっ!?」


喋っている途中で、何か恐ろしいものを見た、といったような表情を浮かべて、小さな悲鳴を上げつつ、その場から一歩二歩と後ずさっていく現魔王。

それほどまでに恐ろしい存在が、彼女の前に立っていたようである。


「ふ……ふふふ……ふふふふふ」カタカタ


――どうやらルシアの精神が、ついに限界をしまったようだ。


「あ、終わったわね。この町」


ワルツが遠い視線をザパトの街へと向けて、そんな縁起の悪い言葉を呟いた瞬間だった。


「お寿司ぃぃっ!!」


ブゥン……


そんな低い音と共に、その場から巨大なものが瞬時に消え去ったのである。

町を取り囲んでいた市壁と、その上に陣取っていた兵士たち、そのすべてが。

言い換えるなら、ルシアの行く手を阻む、すべてのものが消え去った、と表現できるかもしれない。


そしてその直後――


ズドォォォォォン!!


町に隣接して存在していた森の中から、轟音が鳴り響いて……。

町の周囲から消えた市壁が、そこへと現れた。


どうやらルシアは、転移魔法を使って、市壁を森の中へと移動させたようである。


「ふぅ。これで、お寿司の材料を買いにいけるね?お姉ちゃん!」


「…………はぁ」


妹のあまりの横暴に、頭を抱えながら、大きなため息を吐くワルツ。


ともあれ。

こうしてワルツたちは、無事に(?)ザパトの町へと入ることに成功したのである。



「もう、ダメよ?ルシア。乱暴なことをするのは、これっきりだからね?」


「ワルツの言うとおりだ。ルシアは少し、力を持つ者としての自覚を考えた方がいいと思うぞ?お仕置きに稲荷寿司はおあずけだ」


「ぐすっ……お、お姉ちゃんたちに……怒られた……。しかも、お寿司……で、出ない……」げっそり


「そりゃそうじゃろ……。お主の勝手で寿司を食べ尽くして、その上、町の人々に迷惑を掛けたのじゃからのう……」


外にドラゴンたちを残し、無くなった市壁を通過して、そして街の中へと入ってから。

文字通り私利私欲のために市壁を移動したルシアは、ワルツと狩人の2人に叱られていたようだ。


その上、ただ叱られるならまだしも、稲荷寿司も作ってもらえなくなってしまったので……。

ルシアは、この瞬間、これまで見せたことが無いほどに、しょんぼりとしていたようである。


そんな彼女たちは、アルバの町から付いてきていた人々やドワーフの兵士3人組、それに仲間たちと一旦離れ、この町の執政官がいるという建物へと向かっていた。

本来、街に着いたなら、宿屋へと直行して宿の確保を優先すべきところだが、町の中を人がごった返していたこともあって、彼女たちは早々に宿の確保を諦めたようである。

要するに一行は、宿を取ること無く、普段通りに野営を行い、夜を明かすことにしたのだ。


まぁ、それはさておいて。

では、ワルツたちは執政官の館へと向かって、何をしようとしていたのか。

もちろん、ヌルが執政官に会って挨拶をするというのも理由の一つだが、それだけではない。

ルシアがこの町から壁を消し飛ばしてしまったことを、謝罪しに向かうところだったのだ。

尤も、町は戦時の状態にあったので、許してくれるかどうかは定かでないが……。


「なんか……外の方は人が多かったけど、こっちの方は思ったより人が少なわいね?」


「やっぱり……ルシアが市壁を消したから、皆、エクレリアが攻めてきたと思って、逃げ出したんじゃないか?」


「う、うぅ……」ぷるぷる


「後悔するなら、やめておけばよいのに……」


と、周囲の人の数が疎らな理由を考えながら、町の中を歩いて行くワルツたち。

メンバーの内訳は、ワルツ、ルシア、狩人、テレサ、そしてヌルの合計5人である。


ただ、どういうわけか、ヌルは一行の会話には参加していなかったようだ。

彼女が浮かべていた表情から察するに――どうやら彼女は、ルシアの魔法を見て、驚きのあまり、今日も言葉を失っているようである。

ぽかーん、と口を開けて、遠い空を眺めているのが、その証拠だ。


その様子に気づいて、ワルツが口を開く。


「なんか、ヌルの神経回路に異常がありそうなんですけど……狩人さん、もしかして、ヌルの食事だけ栄養を抜いてるとか、してるんじゃないですか?(DHAとか……)」


「いや、ユリアたちダイエット派の食事は調整してるが、武闘派(?)のヌルの食事まで質素にした覚えないぞ?」


「じゃぁ、あれですかね?身体の筋肉の方にばかり栄養が行って、頭の方に栄養が行かないとか……いや、マッチョではなさそうですけど……」


「……それ、私にはどうしようもないな」


「……ですよね」


と、暗にヌルが脳筋だ、という会話を交わすワルツと狩人。


しかし、それでもヌルに反応はなく……。

このままだと、執政官に合っても、マトモな会話になりそうになかったので、ワルツはヌルのことを、強制的に現実世界へと戻すことにしたようだ。


「ヌルー?生きてるー?あー、元々ホムンクルスの身体だから、生きてはいないかー」


と言いながら、ヌルの肩をガクガクと揺らすワルツ。


その結果、頭を大きく揺らされたヌルは、どうにか精神世界から戻ってくることに成功したようだ。

どうやら彼女は、古い家電製品のように、物理的な衝撃を与えると、我を取り戻すようである。


「はっ!」


「え?何?気合でも入れたの?」


「い、いえ……何度見ても、ルシアちゃんの魔法は、次元が違うと思いまして……」


「ダメよ?ヌル。変な常識なんかに囚われるから、ちょっと見たことのない現象を見ただけでも、混乱しちゃうのよ?早く、常識や先入観なんか、かなぐり捨てちゃったほうがいいと思うわよ?」


と、先入観の塊で出来ているようなワルツが口にすると――


「そうですね……皆さんの行動を見ていると、それが良く分かります。私も少し、考え方を改めるとしましょう……」


ヌルはその言葉を疑うこともなく……。

そのまま、ワルツのその無責任な忠告を、受け入れることにしたようである。


と、そんな時。


「……!これは……久しぶりだな。長老!」


直前の表情とは打って変わって、ヌルの態度が一変した。

どうやら彼女は、その視線の先に、旧知の知り合いの姿を見つけたようである。


それに気付いて、ワルツが同じ方向へと眼を向けると――


「えっ……。長老って……普通、髭を生やして、腰を曲げた、背の低いおじいちゃんじゃないの……?」


早速、彼女が持っていた固定観念を覆すかのようにして、身長200cmを超える筋骨隆々な老齢のドワーフの男性の姿が、その場にあったようである。


どうやら彼が――


「おぉ!これは、ヌル様!ご無事でござったか!つまり、この騒ぎは……貴女様が起こしたものだったようでござるな?」


この町の執政官、『ザパト』のようだ。



文量を、減らす減らす詐欺なのじゃ?

……いや、増やしたいなどとは、これっぽちも思っておらぬが、勝手に増えていくのじゃ。

おかしいのう……。


確か、修正前の文は、2700文字くらいだった気がするのじゃ。

それが気付くと3800文字を超えておるとか、修正とは言わぬような気しかしないのじゃ……。


まぁ、それは良いのじゃがの?

問題は……駄文以外に書くことが特に無いことかのう?

というか、このままの多重修正な書き方で書き続けておると、あとがきで書く内容が完全に無くなってしまうような気がするのじゃ。


じゃから、何か、ここで書くことを、マジメに考えねばならぬのじゃが……。

……えっ?

あとがきなんて良いから、さっさと、あっぷろーどしろじゃと?


まったく……。

妾から駄文を取ったら、狐以外に何も残らぬと言うのに……。


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