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8.6-18 ザパトの町3

突如として現れたその巨体に、人々は混乱した。


いや、混乱したのは人だけではない。

馬車を引いていた一部の馬たちや、周囲にいた地竜たちも、その大きさに恐れおののき……。

そして屈強そうに見えるドワーフたちでさえ、必死になって後退して距離を取ろうと藻掻いていたようである。

まぁ、彼らの場合は、ワルツの重力制御システムの影響を受けていたので、1mmたりとも逃げられなかったようだが。


そしてその巨大なドラゴンの姿に戻って――


「ふーむ……。やはり翼と尻尾を思う存分いっぱいに伸ばすというのも悪くないものだ……」


と言いながら、ストレッチを始める飛竜。

その様子が何処か人間じみていたのは、彼女が人間社会で生活するようになった影響か、あるいは元の姿に戻っても、メイド服を着たままだったためか。


それから飛竜は、ひとしきり準備運動を終えたところで、足元にいた()()たちへと首を下ろし……。

そして開いた口から少しだけ炎をちらつかせながら、こう問いかけた。


「……して、主ら。先程、酒精がどうのと抜かしておったようだが、生憎、我の主殿(イブ)もワルツ様も、酒は一滴たりとも飲めぬゆえ、持ち合わせてはおらぬ。それで何だったか……確か、酒を持っておらぬ我らのことを敵だと申しておったか?……狩人殿?今日はドワーフステーキかな?」


と口にしながら、離れた場所にあった馬車に向かって視線を送る飛竜。

すると、そのかなり先の方で、狩人が、『人は無理!』と言いながら首をブンブンと振っていたようだが……。

相当な距離があったので、それが飛竜に伝わったかどうかは不明である。


そんな飛竜の問いかけに対し、ドワーフの1人が、顔を真っ青にしながら声を上げた。


「わ、儂らを食べるというのか?!」


すると、どういうわけか、その問いかけに対して、首を傾げる飛竜。

その反応は、ドワーフのその質問の意味が分からなかったから、というわけではなく――


「ふむ……。小さきものが、何やら(ささや)いておるようだが……小さすぎて我には聞き取れぬな……」


そもそも聞こえないふりをしているようだ。

なお、断っておくが、飛竜の耳に彼らの声が届いていない、というわけではない。


それから飛竜は、誰に向けるでもなく、こんな言葉を口にした。


「しかし困ったものだ。我らは今、このボレアスという国を愚者たちの手から取り返そうと行動しておるというのに、どうやらザパトの町の者たちは、飽くまで我らを敵として扱う、というのだからな。この分だと、長い距離を旅してきた我らは……」


そこで何故か言葉を止める飛竜。

それから彼女は、くしゃみをするかのような素振りを見せて――


「……おっと、失礼」


ドゴォォォォォン!!


白い雪が降り積もる山脈の頂上に向かって、くしゃみ――もとい、ブレスを吹き出した。


その見た目は、火炎放射器が吹き出す火柱とは大きく異なったものだった。

そればかりか、一般的なドラゴンたちが口から吹くドラゴンブレスとも、まるで違っていたようである。


彼女の放ったブレスは、ガスやビーム状ではなく、黄色い太陽のような丸い形状をしていた。

いや、実際、それは太陽だったようである。

先日、ルシアがトンネルの中を照らし出すために使っていた人工太陽を、飛竜はそのまま真似したのだから。


それはまるで砲弾のように飛竜の口から放たれると、そこから見えるひときわ高い山に当たり――


チュドォォォォォン!!


大爆発を起こして、山の八合目から上を、木っ端微塵に吹き飛ばしてしまった。


それを見て――


「…………」ぽかーん


眼を真ん丸に見開き、言葉を失う飛竜。

ルシアの魔法を真似るということが、一体何を意味しているのか……。

どうやら飛竜はよく理解していなかったようである。


「やるわね?飛竜……」


「う、うむ……。そ、そういう訳でだ。我らに風邪を引かせたくなくば、宿を提供するがいい。さもなくば、うっかりとザパトの町を吹き飛ばしかねぬ……」


そう言って、再び、足元へと視線を向ける飛竜。

するとそこでは、ムキムキマッチョのドワーフたちが、身を抱えるように小さくなり、そして震えていて……。

返答が出来ない状態になっていたようである。



「貴女、勉強をしたいとか言って私たちに付いてきて、それで華麗に活躍するとか……とんだ策士よね」


「いえ。我もまさか、ルシアちゃん殿の魔法を真似するとあんな風になるとは思ってもみなかったのでございます……。あの魔法……使ってはならぬ禁忌の類の魔法でございましたか……」


「ん?なんふぁいっふぁ(なんか言った)?」もぐもぐ


「「…………」」ふるふる


ドワーフたちと話を付けることに成功(?)して、縄を付けた彼らを先頭に、馬車の列をゆっくりと進ませながら、ザパトの町へと向かう一行。

そんな馬車の中で、人の姿に戻った飛竜とワルツたちは、反省会を開いていたわけだが、そこに―― 


「…………」ずーん


あたりの空気を侵食する、暗い雰囲気をまとった人物がいたようである。

話し合いの場で、まったく役に立てなかったヌルだ。


「……ヌル?そんなに気を落とさなくてもいいと思うわよ?誰だって、いきなり相手が襲い掛かってくるような事があれば、戸惑って当然なんだから……」


「……申し訳ございません……」ぷるぷる


「そんな、謝ること無いって……」


膝を抱えて皆に背を向け、そしてひたすら謝り続ける御年500歳余りの雪女に対し、何と声を掛けていいものか、と戸惑うワルツ。

すると、逆にヌルの方から、なぜ当時、動けなかったのか、その事情を説明する言葉が飛んできた。


「酒を要求した挙句、武器を振りかざして襲ってくる野蛮な者たちなのだから、この場で切り捨てても良い……私は最初、そう思っていました。ですが、鞘から剣を抜こうとしても、何故か剣が抜けなかったのです。剣を握った手が動こうとしなかった……。これが老いというものでしょうか……」


「いや、そんなことないと思うわよ?そりゃ、相手も暴漢とは言え、自国民なわけだし、剣を抜こうとして迷いが生じたとしても、仕方ないことなんじゃない?」


「あれが迷いだったのか、それとも恐れだったのか……。もしも恐れだったとすれば、私はもう、魔王としてやっていけないのではないか……そう思ってしまうのです……」げっそり


「……困ったわねぇ」


そう言って、腕を組み、ため息を吐くワルツ。

まさに、お手上げ、と言った様子である。


ちなみにヌルの妹であるユキやユキBの方は、触らぬ魔王に祟りなし状態(?)だったようである。

もしかするとヌルは、時折、こうして細かいことを気にする性格なのかもしれない。


と、そんな時。

1人の人物が動き始めた。

ヴァイスシルトの料理担当、兼食料調達担当、兼オカン担当の狩人である。


彼女はヌルの背中に自身の背中を当てるような形でその場に腰を下ろすと、おもむろに自分の経験を口にし始めた。


「あのな、ヌル。実はな、私もたまに、武器を鞘から取り出せなくなることがあるんだ」


「…………?」


「森のなかで魔物の子どもを可愛がっていたことがあるんだが、それがしばらく見ないうちに、ずいぶんと大きく育っててな……。そいつが、私のことを襲ってきた時は……もう、辛かった、って言葉じゃ説明できないくらいに、辛かったよ」


「…………」


「剣を抜けば、簡単に命を奪うことも出来るけれど、でも、もしかすると私のことを思い出してくれるかもしれない……そう思うと、剣が抜けなくてな……」


「……それで、狩人様はどうしたのです?」


「そうだな……結論から言えば、切ったさ。普段、魔物たちの命を狩るのと同じようにしてな……」


「なぜそのようなことが……」


「簡単な話さ?私にとって、その瞬間、何が重要なのかを考えたんだ。私は何のために、森の中で狩りをしているのか…………当然、生きるためだ。それは私にとって、何よりも重要なことで、そして魔物を愛でることよりも優先されることだった。だから、無心で剣を振るったよ。……生きて、狩った魔物を食べるためにな」


「…………」


「私からヌルに言える助言は、ただ一つだけだ。もしかしてヌルは……何か大切なことを、失いかけているんじゃないか?」


「…………!」


「まっ、無理するなよ?」


そう言って立ち上がると、ヌルの肩に手を置いて、颯爽とその場を立ち去る狩人。

その後で、ヌルの瞳に、輝きと鋭さが戻ってきたのは、狩人の言葉通り、何か忘れそうになっていたことを思い出したためか。


と、そんな時である。


「おう、見えてきたぞ?」


御者台に座って馬たちを操っていたロリコンが、不意にそんな言葉を口にした。

その言葉を聞いて、一斉に前方へと眼を向けるワルツたち。


するとそこには、色とりどりの煙を上げる山間の町の姿があって、そこに建っていたひときわ高い建物の屋根にボレアスの国旗が掲げられていたところを見ると……。

どうやらザパトの町は、未だエクレリアには占拠されておらず、無事だったようである。



修正すればするほど、乾燥したワカメのように増えていく文章。

逆に修正すると減って困っていた頃の文章が、今ではずいぶんと懐かく感じるのじゃ……。

……え?

駄文が短かったことなど、これまでに一度もない、じゃと?

……減った分の駄文を、代わりの駄文で補っておったからのう。

今思えば、修正の意味があったのか、甚だ疑問なのじゃ……。


まぁ、そんなことはどうでもいいのじゃ。

ここで述べておかねばならぬことがあるのじゃ?

昨日もあとがきで書いたのじゃが、今週の妾は――すこぶる忙しいのじゃ。

もう、どうにもならぬほどに、のう……。


というわけで今週は、あとがきで長々と駄文を書き連ねておる余裕が無いのじゃ。

次の話を修正したり、減った分のストックを補わねばならぬからのう。

……まさか、本文のダメくおりてぃーを、これ以上、落とすわけにもいかぬじゃろ?

そうすれば、今の5倍くらいの速さで書けるようになるのじゃがのう……。


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