8.6-17 ザパトの町2
馬車を止めた場所からおよそ500mほど先で、戦車を文字通りボコボコにしていたドワーフと思しき者たち。
そんな彼らは、ワルツたちの馬車に気付くと、今度は彼女たちに向かって、鋭い視線を向け始めたようだ。
一方。
「何ていうか……こう……思ってたのと、かなり違うというか……」
ドワーフたちの姿を見たワルツは、どういうわけか裏切られたような表情を見せていた。
彼女の頭の中に、一体どんなドワーフ像が浮かび上がっていたのかは不明だが、少なくとも、筋肉の塊のような男性たちの姿ではなかったようである。
それから彼女は、急にハッとしたような表情を見せると、ヌルに対して、こう問いかけた。
「ヌル?もしかしてだけど……あれ、実はドワーフじゃない、なんてことはないわよね?顔はドワーフのイメージと一致してるんだけど、なんかそれ以外の見た目と行動が、どうも一致しないのよね……」
ワルツは、大きなハンマーを手に持った髭まみれの亜人、というだけで、ドワーフと断定するのは早計だ、と考えたらしい。
その言葉には、彼らがドワーフではなければ良いのに、というワルツの希望に近い成分が多分に込められていたようだが……。
そんな彼女の質問に対し、ヌルはどこか誇らしげな表情を浮かべると、ワルツの希望的推測(?)を真っ向から否定した。
「あれは紛れもなく、我が国のドワーフたちです。しかし、さすがですね……。あの鉄の乗り物を、素手で破壊してしまうとは……」
「やっぱりそうなのね……。っていうか、どんな腕力があったら、ハンマーだけで戦車を破壊できるのよ……」
ヌルから戻ってきた返答が、期待とは異なる内容だったせいか、ワルツは再び眉を顰めてしまったようだ。
ちなみに、他の者たちは、『ドワーフ』という亜人たちに対して、ワルツのように変な先入観が無かったためか、大きく混乱した様子は無かったようである。
むしろ、彼女たちは、ここにエクレリアの戦車がいる事の方に驚いていたらしく、皆、ワルツとは異なる話題で持ちきりだったようだ。
……この分だと、ザパトの町は、エクレリアにまだ占領されていなさそうだ、と。
しかしである。
そんな彼女たちの楽観的な推測は、違う意味で、もろくも崩れ去ってしまう。
巨大なフォージハンマーを手に持った3人のドワーフたちが、何を思ったのか、殺気を漏らしながら――ワルツたちの馬車の方へと向かってきたのだ。
その様子を見て――
「こ、この感じ……もしかしなくても、エクレリアの人たちと間違われたかもだね……」
「確か……エクレリアの者たちは、鉄の馬車と共に、大量の魔物たちを連れて、町に押し寄せるのですわよね?」
「ふむふむ……つまり、今の妾たちは、戦車には乗っておらぬものの、大量のドラゴンたちを連れておるという、まさにエクレリアの者たちに近い構成で、ザパトの町へと向かっておる、というわけじゃな?……もう、どうにもならぬ気しかしないのじゃ……」
と、停車する馬車を取り囲むようにして鎮座していたドラゴンたちのことを眺めながら、そんなやり取りを交わす一同。
どうやらワルツたちは、ザパトの町が占領されているかいないかに関係なく、そこに住まうものたちから敵視される運命にあったようだ。
とはいえ、それはワルツたちにとって、不本意な展開でしか無かった。
本来彼女たちは、厳ついドワーフたちを含めて、ボレアスの民をエクレリアの支配から開放するために、ここまで馬車に揺られてきたのである。
ドワーフたちと戦わなくてはならない理由など、どこにも無かったのだ。
結果、ワルツたちは、馬車を降りて、ドワーフたちと話し合うことにしたようである。
そう。
彼らは、言葉の通じないドラゴンとは違うのだから。
◇
ドワーフたちに対応すべく、馬車を降りて、しばらく道を歩いて進むワルツたち。
メンバーは、ワルツ、ヌル、ユキ(A)、飛竜の4人である。
本来ならユキBもこの場にいて然るべきだったが、彼女にはこれと言って戦闘力がなく、不測の事態が生じても対処できないので、今回は馬車の中で留守番している。
逆に、飛竜は、この場にいなくてもいい人物だったが、何やら最近の彼女は、人の世界の色々なことを学ぶのに精力的だったようで、この話し合いにも、勉強のためにやってきていたようだ。
「……そろそろかしらね」
そう口にしてから、徐々に姿を薄くしていくワルツ。
最近、様々な話し合いの場に参加するようにしていた彼女だったが、さすがに怒っていることが分かっている相手との話し合いには、できるだけ参加したくなかったらしい。
とはいえ、完全に逃げてしまうのもどうかと思ったらしく、彼女は半透明な状態で、話し合いに参加することにしたようだ。
まぁ、視覚的に薄くなったところで、精神的な負担が軽減されるわけではないはずだが。
そして両者は、あと20m程度で接触するといったところで、不意に足を止めた。
それ以上近づくと、お互いのキルゾーンに入る、と言わんばかりの様子で……。
それから、ドワーフたちの先頭に立っていたリーダーと思しき男性が、ギラギラとした眼光をワルツたちに向けたまま、その口を開いた。
「主ら……酒を持ってないか?」
「「「……はい?」」」
開口一番に飛んできた問いかけが、あまりに予想外過ぎる内容だったために、おもわず聞き返してしまうワルツたち。
だが、再びドワーフ側から同じ言葉が飛んでくることはなく……。
結果、ワルツたちが、返答に戸惑っていると――
「……酒を持ってないやつぁ、みんな敵だぁ!」
「「「うぉぉぉ!!」」」
突然、ドワーフたちが襲い掛かってきた。
彼らのその発言から推測するに、どうやら3人とも、体内のアルコールが切れ掛かっていて、禁断症状を発症しかかっていたようである。
雰囲気としては、稲荷寿司が無くて、狂乱状態に陥ったルシアに近い、と表現できるかもしれない……。
そんな対処が面倒臭すぎるアルコール依存症患者たちに対し、しかしワルツは、むしろ安堵したような表情を浮かべると、こう口にした。
「あー、良かったー。細かいことを気にせず対応できるって、楽よね?じゃぁ、ヌル?やっちゃっていいわよ?」
どうやらワルツは、まともな対応(?)をしなくても良くなったことで、精神的負担から開放される、と考えたらしい。
……ところが。
その言葉が向けられたヌルの方は――
「?!」
襲い掛かってくる筋肉の塊たちに向かって、なにやら驚いたような表情を浮かべて立ちすくんでいたらしく、ワルツの言葉へとすぐに反応できなかったようだ。
自国民に襲われるとは思っていなかったのか、あるいは、凄まじく強いというドワーフたちが3人も同時に襲ってきたためか……。
彼女の内心を計り知ることは出来ないが、そこには行動を不能にしてしまうほどの、何か大きな理由があったようである。
そんな姉の様子に気付いたのか、ユキが姿勢を落としながらワルツに対して問いかけた。
「ボクが出ますか?」
「んー、ここで流血沙汰にしたところで、私たちには何にも得はないから、適当にボッコボコにするだけでいいんだけど、貴女が出ると……ねぇ……」
……ドワーフたちが肉塊になりかねない……。
ワルツは、重力制御システムを使って、突撃してくるドワーフたちの動きを制限しながら、そんな懸念で頭を悩ませていたようである。
もしも生身(?)であるヌルが対処していたなら、わざとやらない限りは、そうはならないはずだが、サイボーグであるユキが対処したなら、無難に終わる気がしなかったらしい。
するとそんな時。
「ふむ。では、この場は、我が対処してみよう」
ここには交渉の社会科見学(?)をしにきたはずの飛竜が、何を思ったのか、急にそんなことを言い始めた。
その直後彼女は、周囲に向かって――
ボフンッ……
というガスの抜けるような大きな音と共に、白い煙を撒き散らすと……。
次の瞬間、巨大な飛行性のドラゴンの姿へと戻ってしまった。
その姿は、周囲のドラゴンたちからもよく見えていたようだ。
何しろ、彼女の全高は、そこに生えていた木々よりも高く……。
その体長も、周囲にいた地竜たちより、およそ3倍近く、大きかったのだから……。
今日は温泉に行っておらぬのじゃ……。
修正のことを考えると、今日中に書き終わる気がしなかったからのう……。
これはさっさと修正能力を磨いて、書き終わる速度を上げるしかなさそうじゃの……。
そうでないと、長期に渡って、温泉に行けぬ気しかせんからのう……。
まぁ、それは全体の半分の理由でしか無いのじゃがの?
もう半分は、来週末、当日のあっぷろーどが出来ぬ予定が入っておるゆえ、今のうちから準備せねばならず、温泉に行っておる時間が取れなかった、という理由があったからなのじゃ。
じゃから、妾の執筆能力が足りなくて、温泉に行けなかったことを苦には……思っておらぬのじゃ?
……そう自分を言い聞かせたのじゃ……。




