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8.6-14 山越え14

「うぅぅぅ……お、おすしぃ……」げっそり


「……はっ?!こ、これ、洒落にならぬやつなのじゃ……!」


朝起きると、隣で寝ていたルシアが、ぷるぷると震えながら虚空へと手を伸ばしている姿を見て、一瞬で眼が覚めた様子のテレサ。

その瞬間、彼女は、ルシアの寿司の重要(いぞん)性について、評価を改めていたようである。


結果、テレサは、驚いて寝袋の中から飛び起きるのだが……。

そんな時――


『宅配ですよ〜?サイン下さい。あと着払いです。再配達には対応していませんよ〜?受け取らなければ持ち帰って食べちゃいますよ〜?』


よく聞き覚えのある声が、テントの外から聞こえてきたようだ。

テレサと瓜二つの姿をした、コルテックスの声である。


その瞬間、


「…………」ゆらり


と、重力を無視した体勢で、寝袋の中から起き上がるルシア。

そして彼女は――


「お寿司ぃっ!」ドゴォ


先程までうなされていたとは思えないほどの猛烈な勢いで、テントの外へと出ていってしまったようである。

それも、着替えること無く、パジャマ姿のままで。


「なんなのじゃ……あれは……」


「いや、気にしたら負けだと思うわよ?テレサ。ルシアったら、稲荷寿司が無くなると、最近、いつもあんな感じなのよ」


「あやつ、大丈夫じゃろうか?やはり、寿司の中に、ヤクでも入っておるのではなかろうかの?」


「いやまぁ、大丈夫じゃない?カタリナも、特に異常はない、って言ってたし……」


「どう見ても頭に異常があるようにしか見えぬのじゃがのう……」


「だとすれば、余計に触れようが無いわね……。まぁ、多分違うと思うけど」


と、ルシアが去っていったテントの向こう側へと、テレサと共に、微妙そうな視線を向けるワルツ。


すると程なくして、どういうわけか――


「お、ぉ、お姉ぢゃん?!」


出ていったときとはまるで異なる表情を浮かべながら、ルシアが戻ってきた。


「え?何?もしかして、コルテックス……あの娘、稲荷寿司を持ってこなかったわけ?」


「ち、違うよ!外を見て!」


「え?外?ドラゴンが寝てるって?」


「「えっ……?」」


「いや、こう見えても私の本体、大きくて邪魔だから、テントの外にいるし……」


と、なんてことはない、といった様子で答えるワルツ。


そんな彼女の本体である機動装甲は、彼女の言葉通り身長が高すぎて、テントの中に入れていなかった。

つまり、ドラゴンたちが、深夜のうちに、テントの周囲へと群がってきたその光景を、彼女は直接観察していたのである。


ただ、ワルツから見る限りでは、ドラゴンたちに何か妙な動きがあるようには見えなかったので……。

彼女はドラゴンたちのことをそのまま放置していたのだ。

尤も、何もせずにテントを取り囲むという行動自体が、妙な動き、と言えなくもないが。


なお、深夜の見張り役はポテンティアや勇者たちが担っていたが、彼らもまた、見て見ぬふりをしていたようである。

恐らく勇者たちも、害意や悪意のないドラゴンたちの命を奪うことはできなかったのだろう。

そしてそれと共に、寝静まった人々のことを大声で起こすことも……。


「まぁ、下手に刺激しなきゃ、大丈夫じゃない?敵意も感じられないし、そもそも敵意なんて出したら、その瞬間、肉塊決定だし……」


「……それもそうだね!あっ!お寿司!」ドゴォ


「ルシア嬢……あやつ、大丈夫じゃろうか?」


「それ、さっきも聞いたわよ……」


再びテントの外へとパジャマ姿で駆け出していったルシアの後ろ姿に、心底呆れたような視線を投げるワルツたち。

それからしばらくして戻ってきたルシアが、尻尾を左右にブンブンと振りながら、ほくほく顔を浮かべていた際の話については、あえて述べるまでもないだろう。



そのドタバタで仲間たちが、皆一斉に眼を覚まし始め……。

そしてそれぞれが外を見て、各々にこんな言葉を口にする。


「……獲物がいるです!」

「いや、ローズマリー?逃げない獲物は『獲物』とは言わないぞ?……単なる拾得物だ」

「あの、狩人様?その表現、どうかと思いますわよ?」

「我が国にはこんなにも多くのドラゴンがいたのですね……」

「ボクも今日まで知らなかった……じゃなくて、大丈夫でしょうか?この状況……」

「み、みんな大っきなドラゴンばかりで、モフモフ出来ない……」もふもふ

「くぅん……」


どうやら皆、最初は驚いても、慣れればどうってことはない、といった様子である。


一方で――


『きゃぁぁぁぁ!!』

『うおぉぁっ?!』

『なんだこりゃぁぁ?!』


近くにあった、別のテントからは、断続的にそんな声が飛んできていた。

ワルツたちにとっては、大した問題ではなかったが、他の者たちにとっては、それなりに心的負荷の大きい出来事だったようである。

おそらくは、一気に血圧が上がったに違いない。


その叫び声を聞いて――


「やはり、助けに行った方がいいでしょうか?」


と、呟くヌル。

魔王である彼女としては、自国民が窮地に陥っている(?)現在の状況を、無視できなかったようである。


それに対し、ワルツが適当な様子で手を振りながら、こう返答した。


「いやいや、大丈夫そうよ?相手のドラゴンたち、別に何かするつもりは無さそう……っていうか、こっちを見て、私たちを観察してるだけっぽいし……」


「分かるのですか?」


「一定の距離を保ったまま、近寄ってこないからね。たまにいるのよ。鳥類とか爬虫類とかで、そういう習性をもってる生き物。まぁ、美味そうなやつを品定めしてる可能性も完全には否定出来ないけどね?って、そんなことより、私たちも早く食事にしましょ?」


「えっ……」


「いやさ?このままだと、ドラゴンに襲われるなんかよりも……もっと大きな問題が起こりそうな気がするのよ……」ちらっ


「……おすしぃ……」じゅるっ


「……ね?」


「そ、そのようですね……」


朝食の時間まで、稲荷寿司を我慢している様子のルシアの姿を見て、今、自分たちが何を最優先にすべきかを察するヌル。

そんな彼女の中では、そこに居たルシアが、ドラゴン以上の猛獣か何かのように見えていたに違いない。


「というわけで、狩人さん。朝食の準備を始めてもらえます?」


「あぁ、構わないが……テントの中は狭いから、もちろん外でだよな?」


「えぇ。でも、心配しなくてもいいですよ?何かあった時はユキが囮になりますし、私も警戒してますから」


「えっ?あ、はい!囮になります!」


「なら安心だな!」


「頑張ってね?ユキ」


「あの……冗談ですよね?」


と、頑張ると言っておきながら、自身の役割について確認を取るユキ。

そんな彼女に対し、ワルツと狩人の2人ともが、得も言われぬ表情を向けて居たようだが……。

それがどんな意味を持っていたのかについては、不明である。


ともあれ。

こうして、ドラゴンたちに囲まれ、そして興味深げに観察されるという環境の中で、今日も普段通りに、狩人の料理が始まったのである。

なお、念のため断っておくが、今日もドラゴンの肉は使っていない。



ルシア嬢が単なる稲荷寿司好きの狐娘じゃと、思っておったかの?

……え?思ってない?

さよか……。


……というわけで、昨日の微妙な話は、ここから始まる展開のために書いた拙文だったのじゃ。

いつか修正する時は、もうすこし読みやすい話に出来ると良いのじゃがのう。

というか、この話数まで、修正する気になれるのじゃろうか……。

ほぼ確実に、修正せぬ気しかしないのじゃ……。


あ、そうそう。

そう言えば『拙文』と書いて、思い出したルーチンワークがあったのじゃ。

……3ヶ月ごとに、3ヶ月前の駄文を思い返して、妾の文章能力の移り変わりを嘆く(?)という作業がの。

たしか、以前、ホタルが飛ぶ時期に云々と書いておった記憶があるのじゃ。

それが正しければ、ちょうど今がその時期に当たるのではなかろうかの。


実はのう。

最近、ちょっと読み返してみたのじゃ。

ネタの確認のためにの?

それで、気がついたのじゃ。

いまより3ヶ月くらい前の文なら、今とそれほど大差のない書き方をしておるということに、の。

これを良いと捉えるべきか、あるいは進歩の停滞と捉えるべきか……。

まぁ、ただ一つだけ言えることは……今なら、大体一貫した書き方で、文の修正ができる、ということかの。

……時間が取れず、思ったように修正ができておらぬがの……。


さて。

次の3ヶ月後の嘆き(?)は、一体いつの話になるじゃろうか。

今が6月。

じゃから9月ころになるかのう。

その頃に何があるじゃろう……。

残暑……秋祭り……アシダカ軍曹との戦い……。

特に、イベントが思いつかぬのじゃ……。


……あ。

そう言えば、一つだけあったの。

ワルツの……いや、何でもないのじゃ。

まぁ、かなり重要なイベントがあるゆえ、まず忘れることは無いと思うのじゃ?

……きっと、のう。


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