8.6-04 山越え4
「その前に一つ聞いておくけど、いいニュースって……本当にいいニュースなのよね?」
『受け取り方によりますね〜』
「それ、良いとは限らないやつじゃん……」
『で、どちらにしますか〜?』
「……じゃぁ、先に悪い方のニュースで」
と、どこか疲れた様子で報告の選択をするワルツ。
どちらのニュースも、あまり聞きたくない、まさにそんな様子である。
そんな彼女たちの話には、他の者たちも耳をそばだてていたようだ
寝袋に入ったルシアや狩人たちの耳が、せわしなくピクピクと動いていたのがその証拠と言えるだろう。
コルテックスは、そんな仲間たちの様子に気付いていても、しかし、言葉を止める様子はなく。
彼女はそのまま『悪いニュース』について、口を開いた。
どうやら彼女はその報告を、皆にも聞かせるつもりだったらしい。
『エクレリアが正式に宣戦布告してきました〜』
「「「…………?!」」」
「あ、そう」
『あれ〜?お姉さまは驚かれないのですか〜?』
「遅かれ早かれ、そうなるのは分かってたし、ミッドエデンに私がいる以上、避けられないことも分かってたしね……」
『そうですか〜。ちなみに彼ら、メルクリオとエンデルシアにも喧嘩を売ったみたいですよ〜?神々の意志に反して、邪悪な『魔神』に与する、外道な者たち〜、などという位置づけらしいですね〜。あ、そうそう。エクレリアがミッドエデンに何と言って喧嘩を売ってきたのか、聞きますか〜?』
「いや、ハッキリ予想できるから、言う必要は無いわね……。でもさ、言葉は汚いかもしれないけど……あいつら、馬鹿なんじゃないの?手当たり次第に喧嘩売ったら、周りの国に袋叩きにされて、最後にはただ殺られるだけじゃん。それとも何?自分たちの力に、余程、自信を持ってたりするわけ?他の国に頼らなくても、一国だけで生きていけるって。あいつら光合成でもしてるのかしら?」
『さぁ〜?でも、そうとでも考えないと、説明できない宣戦布告ですよね〜』
「ちなみに、そのトップだって噂のアル○○ルは、なんか言ってきた?」
『それが、何も無いのですよ〜。何かを企んでのことなのか、それとも情報自体が、ガセだったのか〜……』
「何?今になって、アル○○ルが、エクレリアのトップじゃないっていうわけ?」
『実際に目で見て確認した者がいるわけではなく、情報局の職員たち経由の報告なので、なんとも言い難いところですね〜』
「ふーん……その情報が正しくても、正しくなくても、いずれにしても頭が痛い問題ね……」
と、ため息とともに、右手の手のひらで、こめかみを抑えるワルツ。
それから彼女は、その状態のままで、コルテックスに対し質問した。
「で、もう一つの報告は?できればこれ以上、良くない報告は聞きたくないんだけど?」
『いえ、決して悪い報告では無いですよ〜?』
コルテックスはそう口にすると、どこか嬉しそうな様子で、こう口にする。
『実はですね〜……お姉さま方がボレアスに出かけている間、王都でも色々あったのですよ〜』
「……もう、聞きたくないんだけど良い?」
『ですから、そんな悪い話ではありませんよ〜?それで、大きな変化が2つありました〜』
「報告、1つ増えてんじゃん……」
『まずはですね〜……以前、妾が乗って、着陸した際に燃えた飛行機なのですが〜、ブレーズたちが頑張って作り直しました〜。ただし、エンジンを除いて、ですけど〜。ね〜?妾〜?』
「zzz…………む?!エンジン?!複合サイクルエンジンかの?!…………zzz」
「これ多分、ダメなやつね……。今のテレサがエンジン作ったら、たとえレシプロエンジンだったとしても、可変バルブタイミング機構付きW32気筒、オクテットターボエンジンとかくらいは平気で作りそうね……」
『まぁ〜、そこは要相談ですね〜』
「で、最後は何よ?」
と、怪訝な視線をマクロファージの向こう側にいるだろうコルテックスへと向けるワルツ。
するとコルテックスは何気ない様子で、こんなことを口にした。
『いえ、大した報告ではないのですが、テンポお姉様と共同で、機動装甲の基本フレームを開発しました〜』
「…………は?」
『連絡は以上です』ブツンッ
「いや、ちょっと待ちなさいよ!」
しかしそのまま切れてしまうコルテックスとの会話。
どうやら、ワルツたちがいない間に、王都では色々なことが大きく変わりつつあるようだ。
「(何?機動装甲の基本フレームを作ったって、量産でもするつもり?っていうか、宣戦布告を受けたなら、別にコソコソ動く必要は無くなったのかしら?なんかすっごく、消化不良な報告だったわね……)」
ワルツはそんなことを頭の中で考えながら、重力制御システムを使い、自身の寝袋を人混み(?)の中から引き出して……。
そして、いつの間にかそこに入り込んでいたテレサを取り出し、テントの反対側に追いやると、その場に寝袋を広げて、その中に入り込む素振りを見せた。
それからの彼女は、自身の修復作業を中断して、これからのことに頭を悩ませ始めたようである。
それと同時に、自分の周りの人口密度が、再び高まってきたことにも……。
◇
次の日も、これまでと変わらない様子で、雪原の上を進んでいくワルツたちの馬車の列。
だがその中にいるワルツの表情は、周囲の天候と同じように、かなり優れなかった。
「…………」
昨晩の報告を聞いて、最もけろっとしていたはずの彼女が、今この馬車の中では、一番重苦しい雰囲気を作り出していたのである。
そんな彼女の隣にいた、ミッドエデンの軍部の最高指揮官(名目上)の狩人には、それほど思い詰めた様子はなかったようだ。
彼女の場合は、事細かにアトラスやミッドエデンの関係者たちと無線機で会談をしており、その上、帰ろうと思えば、ルシアかコルテックスの転移魔法を使えばいつでも帰ることができたので、特に悩むことはなかったらしい。
結果彼女は、自分よりもミッドエデンのことを考えているように見えるワルツに対し、苦笑を浮かべながら問いかけた。
「どうしたんだ?ワルツ。昨日のことをそんなに気にしてるのか?」
「気にしてない……って言ったら嘘ですけど、あっちはコルテックスとアトラスが適当にどうにかすると思いますし、メルクリオはストレラがいるので、何も心配することはないと思ってます。気にしてるのはミッドエデンのことじゃなくて……今ここにいる私たちのことですかね……」
「私たちのこと?」
「えぇ。今までは、なんだかんだ言って、こっそりと移動してきたつもりだったんですよ。できるだけ、この世界にありふれた技術だけを使うことで、ちょっと目立ったとしても、本当のことを覆い隠せれば良いかな、程度に……」
「そうだな……。普段と比べれば、ずっと遅い速度で移動してきたな……」
「でも、それももう、必要ないかな、って思うんですよね……。相手側が宣戦布告してきた理由は分かりませんけど、アルバの町を取り返しにやってこようとしていた戦車群は、明らかに対人戦闘を想定したものではなかったものではなかったような気がするんですよ。まぁ、推測でしか無いですけどね……」
「つまり……エネルギアを相手に戦おうとしていたと?」
「かもしれないですね。まぁ、あの程度の戦力で、どうにかなるエネルギアやポテンティアじゃないと思いますけど」
そう言って、後ろから付いてくる馬車へと視線を向けるワルツ。
そこには、真っ黒な色をした馬車が、大量に連なっていて……。
今日もポテンティアは、賢者や勇者たちの乗った馬車に乗り込みつつも、余ったマイクロマシンを使って、町の人々を何事もなく運んでいるようである。
要するに、この馬車の車列は、先頭を走るワルツの馬車と、勇者たちの馬車、それに他の一部の馬車以外、足りない馬車は皆、ポテンティアのマイクロマシンが形作ったものだったのだ。
姿を変えれば、いつでもエネルギア級の空中戦艦になれるというのに、である。
「なら、ワルツはどうしたいんだ?」
「そうですね……。流石に、こっちの手札を全部出す必要は無いと思いますが、少しくらいなら、手札を見せてもいいかもしれないですね(それに、ルシアの稲荷寿司枯渇問題もあるわけだし……)」
そう言って馬車の中で立ち上がると、馬車の揺れをまったく気にした様子無く、後部へと歩いていくワルツ。
そして、そこから見える林の景色に、彼女は眼を細めると――
「……やりますか!」
何かを決めたかのようにそう口にすると、御者台に座っていた2人の男たちに対し、馬車の停止を命じたのである。
どうでもいいことなのじゃが、妾のらっぷとっぷの予測変換の内容が、何かおかしいのじゃ。
なぜ、『ふむふむ』と入力して、『フムフムヌクヌクアプアア』が出てくるのか……。
まぁ、変わった単語があって調べたら、意外に面白かった、なんてことがあるゆえ、別に困ってはおらぬのじゃがの?
というわけで、技術的・魔法的制限開放の兆し、なのじゃ。
いやの?
いい加減、話を先に進めたいと思っての……。
それでも、先に進むかどうかは分からぬが、まぁ、とりあえず、移動速度を上げてみようと思うのじゃ。
まぁ、そんな極端には、高速化しないがの?
さて。
明日は凄まじく忙しいのじゃ。
じゃから、今から、明日の分を書かねばならぬのじゃ。
そんなわけで、駄文はこの辺で切り上げさせてもらうのじゃ?
明日が終われば、しばらく精神的・時間的余裕が生まれるはずなのじゃ。
逆に、凹んでおる可能性も否定はできぬがの……。




