8.5-23 流れ23
一つ前の話で、書き忘れておったのじゃ。
ランク据え置きの方法なのじゃが、単にポイントを加算しなかっただけなのじゃ?
Eランクなら、Dランクになるギリギリのところに数値を抑える、的な感じでの?
というわけで、無事(?)暫定Eランクになったワルツたち。
だが、この話はまだ終わっていない。
薬草の納品は終えたが、魔物の肉や素材の精算が、まだ大量に残っているのだから。
「さて。じゃぁ、次行きますね?」
「そ、そうだったな。次は……何だ?」
「EランクからDランクに上がるための納品ですね」
ワルツはそう口にすると。
『Eランク』と書かれた掲示板から、あらかじめ目星を付けてあった依頼書をすべて剥がすと.
それらをカウンターの上に置いて、こう言った。
「これ全部、納品します」
「は?」
「昨日見ましたよね?あの魔物の山。これが目的のために、狩ってきた魔物だったんですから」
「あれ、食料だけじゃなかったのかよ……(っていうか、最初からDランクに上がるつもりなら、さっきの話は断らないで、そのまま素材として売却しろよ……)」
と、ワルツの言葉に、ゲッソリとした表情を見せながら、書類の山を受け取るギルド職員の男性。
それからワルツは、ユリアに目配せして、アイテムボックスから、依頼書に書かれていた討伐依頼の対象になっていた魔物の討伐証明部位や、特殊な薬草、あるいは鉱石などが入った麻袋を取り出させた。
そしてそれらをカウンターへと置いて、再び口を開く。
「はい、どうぞ」
「どうぞって……これ全部終わってんのか?」
「そりゃそうじゃないですか?今日、この町を出発するつもりなんですから、今この時点で終わってなきゃ、依頼なんて受けられないですよ」
「…………」
「で、どうなんですか?受け取ってもらえますか?」
「……今確認する」
ギルドの仕事として拒否できるわけもなく……。
大量に提出されたその品と、依頼書の中身が一致するかを確かめていく男性。
そんな彼のことを、遠巻きに眺めていたギルドの職員や冒険者たちが、彼に対して同情するような視線を向けていたのは、恐らく気のせいではないだろう。
それから1人、2人といつの間にか他の職員たちも納品物の確認に参加して……。
およそ10分ほどで、すべての確認が終わった。
「……集計できたぞ?」
「どんな感じですか?」
「ちょっとその前に確認したいんだが……」
「何です?」
「……今日一日で、どこまでランクを上げるつもりだ?」
「Aランクです」ざわざわ
「即答かよ……」
「そのための素材は、既にすべて揃ってますからね」
「そうかい……。なら、確認するから全部出してくれ……。Dランク以上に上げるかどうかは、それで判断する」
「だってさ?ユリ……マーガレット?」
「分かりました」
ズドォォォォン!!
メキメキッ!!
そして、再び床を抜き、その場へと現れた納品物の山。
その様子を見たギルド職員たちからは、一気に生気が失われ、中には泣き出す者もいたようである。
あるいは、その場にいた冒険者たちも、ワルツたちに好奇の眼を向けるのを止め、顔を真っ青にしながら、その場から姿を消した者までいたとか、いなかったとか。
「……で、数えてほしいんですけど?」
「…………」
「あの、聞いてます?」
「……昨日、隣の倉庫で受け取った、あの素材の山は何だったんだ?」
「あれですか?ランクアップに必要ない余計な素材と肉です。で、こっちがランクアップに関係のある素材の山ですね。いや、実は2つ山があったんですよ。邪魔なので、こっちの素材の山は、アイテムボックスに仕舞ってましたけど」
「…………」
そして、何も言わずに、ズルズルとカウンターの向こう側へと沈んでいく男性。
この瞬間、ギルド職員たちは、自分たちがこの仕事に就いたことを、後悔したに違いない。
◇
「結局、Cランクだったわね……」
「そりゃそうですよ。でも昇級試験を無視して、Cランクに上げてもらえたのは、収穫だと思いますよ?」
「その昇級試験の話を聞いて、私が、Bランク以上の素材の納品をやめる、って言った時のギルド職員たちの顔。未だに忘れられないわー。あの嬉しいような悲しいような、なんとも言えない絶望的な表情?」
「人って、あんなに複雑な表情が浮かべられる生き物だったんですね……」
「…………」にゅるっ!
ランクアップのための手続きが一通り終わり、冒険者ギルドの中の比較的大きな会議室へと場所を変えたワルツたち。
そこで彼女たちは、ギルド側から出された煎餅のような菓子を食べながら、そんな会話を交わしていた。
「それはそうと、問題はこれからよねー。どうやって、商人たちを黙らせるか……」
「黙らせることを考えてたんですか?」
「いやさ?正直言って、商人、嫌いだし……」
「アルクの村にいた頃、彼らにふっかけられましたからね……」
「え?そんな事があったんですか?」
ワルツとカタリナの話を聞いて、驚いたような表情を見せるユリア。
純度の高い鉄をキャラバン隊に売って、買い叩かれていた頃、彼女はまだ、ワルツたちと行動を共にしていなかったので、事情を知らなかったようである。
とは言っても、ワルツが、商人たちやギルドを嫌っていることは、はっきりと感じていたようだが。
そんな彼女たちは、その会話の通り、先日解体した魔物の素材や肉を売るための価格交渉を行うために、商人たちのことを会議室で待っていた。
冒険者ギルドだけでは、素材の評価が追いつかず、今日中に買い取れないという話だったので……。
そのため冒険者ギルド側が、商人たちや商人ギルドにも声をかけて、皆で分散して買い取る、という流れになっていたのである。
ちなみに冒険者ギルドの外に停まっていた大量の馬車と人だかりは、素材を買い取りに来た商人たちの馬車とその関係者である。
今ごろ、彼らは、隣の倉庫にある素材や肉を吟味して、買取金額を算定しているところだろう。
まぁ、それはさておいて。
「えぇ。そりゃ、もう、酷かったわよ?精錬した鉄を売ってたんだけど、たしか、相場の1/10くらいで買い叩かれてたような気がするわ」
「えっ、なんですか?その詐欺行為……」
「そんなことがあったから、商人たちやギルドのことを信用出来ないのよね……。まぁ、今はお金がほしいわけじゃないから、買い叩かれてもかまわないんだけどさ?」
「そうでしたか……。では、私におまかせください!情報局のトップとして、ワルツ様が納得できる金額で、買い取ってもらえるよう、商談いたします!(あと、ミッドエデンに戻ったら、商人たちを粛清しておきますね。社会的に抹殺すればいいでしょうか?ふっふっふ……)」
「いや、ちょっとユリア?今言ったばかりだけど、別にお金が必要なわk」
「ふふっ……腕の見せ所ですね!」ゴゴゴゴゴ
「「「…………」」」
やる気に満ちているのか、眼をギラギラと輝かせるユリアに向かって、呆れたような視線を向けるワルツたち。
それからワルツが、やはり帰ろうか、と思案していると――
コンコンコン……
タイミングよく(?)、会議室に来客がやってきた。
ガチャリ……
そして扉を開いて部屋へと入ってきたのは、どういうわけかヌルだった。
「あれ?ヌルじゃない。どうしたの?」
「申し訳ありません、忙しい所。実は、補佐を頼んでいた賢者殿……に付いてきたポテ殿に、この食糧難を乗り切るために掛かる費用を計算してもらったのですが、商人たちやギルドに支払う予定の食糧難対策金を交付せずに、ワルツ様方に支払って、アルバの町が直接食料を買い取った方が、コストは大きく抑えられる、という計算結果になりまして……」
「「「えっ……」」」
「ですから、言い値で構いませんので、食料を売ってもらえませんか?」
「「「…………」」」
ヌルから飛んできた突然の申し出に、短い時間、固まるワルツたち。
「……ほら、ユリア?出番よ?」ぼそっ
「え゛っ?!ヌル様相手に?!本気ですか?!」
「うん、冗談」
「ですよね……」ほっ
「……いったい何の話をしていたのですか?」
「ううん、何でもないわ?」
と、ヌルの問いかけに対して、ワルツが話を誤魔化すように首を振った……そんな時だった。
扉の前に立っていたヌルの背後から、無数の人の気配が近づいてきたようである。
「いやー、中々に素晴らしい素材と肉でしたな」
「需要と供給のバランスが釣り合っていない今なら、一攫千金も夢ではないですぞ?」
「そうですね。これは販路をしっかり考えたほうがいいかもしれません」
その気配は、紛れもなく、商人たちのものだったようだ。
「うわぁ……このタイミングで来るとか面倒くさ……」
と、彼らの気配を感じて、心底嫌そうな表情を浮かべるワルツ。
このままヌル――もといアルバの町が買い食料を取っていれば、ワルツとしては余計な心的負担を抑えられるので、好都合だったのだが……。
どうやらこのままだと、ワルツは商人たちのことを、本当にどうにかして、黙らせなくてはならなそうである。
毎年1回だけ、必ず体調を崩す日があるのじゃ。
88夜を過ぎて、100夜(?)前後になった5月中旬あたりから、夏至を迎える6月中旬にかけてのどこか1日。
冬モードから夏モードに切り替わる際……どうしても熱中症になってしまうのじゃ。
一番、過ごしやすい季節だとは思うのじゃが、身体の方が付いてこなくてのう……。
要するに、今、この瞬間、ぐったりでげっそりなのじゃ。
まぁ、1度切り替われば、来年まで熱中症になることは殆どないのじゃがの。
逆に夏モードから冬モードへの切り替わりがないのが解せぬところではあるのじゃが……。
ちなみに去年は6月18日なのじゃ?
はぁ……。
頭痛が痛いのじゃ……。
今日はもう、駄文を書くのはやめて、眠ろうかの……。




