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8.5-19 流れ19

「えーと?アレかしら?賢者が死んで……ゾンビ化した?」


「いや、お姉ちゃん……それどうかと思う……」


ポテンティアが賢者を連れて食堂へと赴くと、そこには、ワルツとルシアの姉妹の姿があった。

その他、狩人やイブ、ユリアにローズマリー、そしてテレサとベアトリクスの姿もあったが、彼女たちは忙しそうに厨房で朝食を作っていたようである。

要するに、料理の手伝いが出来ないワルツたちは、邪魔をしないように、朝食が出来るのを大人しく待っていたのだ。


そんな中、ワルツは、そこにやってきたポテンティアと意識のない賢者の姿を見て、賢者がゾンビ化したと答えたわけだが……。

それはポテンティアが何者なのか分からなくてそう答えた、というわけではなかったようである。


「ポテンティア。貴方、いつのまにかここに来てたのね?」


『はい。姉のエネルギアから、幾つか頼み事を受けまして……』


「ふーん。でも貴方、王都から離れてるんだし、人の姿に変わったらどう?この時間に来るってことは、朝食が目的なんでしょ?」


『はい。仰る通りです』


そう口にすると――


カサカサカサ……


賢者を移動させるために使っていた自身のマイクロマシンを、一箇所に集中させて、再び少年の姿へと戻るポテンティア。

すると、その姿に、ルシアは何か思うことがあったらしく、変身したポテンティアに対し、こんな質問を投げかけた。


「ポテちゃん、前と違って……私とあまんまり似てない?」


『えぇ、ルシアちゃんが嫌がっていると聞いて、できるだけ異なる姿に変身できるよう、努力しました』


「そっかぁ……(努力してどうにかなるものなんだね……)」


と、ポテンティアの説明に、一応は納得げな反応を見せるルシア。

そのあとで今度は、ワルツが事情を問いかけた。


「で、貴方、何しにここにきたの?そこにいる意識のない賢者のことも気になるけど……」


『昨夜、ゆーしゃ様が、姉ところにいるリサ様の元に向かわれたのですが、その際、偶然その場に居合わせた僕に、姉が『ゆーしゃが居ない間、ポテくんがビクトールさんの護衛をお願いね?』と申し付けられまして……。ちなみに賢者様は、二度寝中です』


「ふーん、偶然居合わせた、ね。でも貴方、それ剣士(ビクトール)じゃなくて賢者よ?」


『えぇ、分かっています。賢者様と行動を共にしようと考えたのは、剣士様の護衛を兼ねて、賢者様に『賢者』たる者のイロハを教わろうと思ってのことです。ここにいる内は、剣士様に危害が加わる可能性も限りなく低いですし、昨晩は遅くに宿へと到着しましたので、まだ眠そうでしたし……』


「はーん。なるほど…………って、え?賢者と行動を共に?」


ポテンティアの説明を聞いて、思わず耳を疑ってしまった様子のワルツ。

そんな彼女に対しポテンティアは、まっすぐに視線を向けながら、こう返答した。


『テンポお母様には、許可を頂いております。手段は問わないから、『賢き者』になって来い、と……。この旅路がこの先、どのくらい続くかは分かりかねますが、暫くの間、よろしくお願いします』


ポテンティアはそう言って、深々と頭を下げた。


「テンポ……一体、何考えてるのかしら……」


「(お姉ちゃんと同じなら……多分、何も考えてないんじゃないかなぁ?)」


「……仕方ないわね。同行するのは構わないけど……ポテンティア。貴方、他のマイクロマシンは?まさか、その身体を形成する量がすべて、ってわけじゃないでしょ?っていうか、すっごく大量に作った記憶があるし……」


『流石はワルツ様。僕の身体のことを覚えていて下さったのですね?実は、皆様を驚かせないようにと思い、屋根裏や床下、それに冷蔵の魔道具や家具の裏や下などに、分散させて入り込ませています。もちろん、この宿屋だけでは足りなかったので、街全体の建物という建物に……』


「「…………」」


ポテンティアのその言葉を聞いて、眉を潜めるワルツとルシア。

それから彼女たちは、試しにその場にあった家具を退()けたところで、見てはならないものを見た、というような表情を浮かべると……。

そのまま何もなかったかのように、家具を元に戻して、席に座り直したようだ。


なお、着座した後で、彼女たちの眼から輝きが失われているように見えたが……。

それが何故なのか、ポテンティアには分からなかったようである。



それからこれといって大きな事件もなく、この町に入ってから3日目の朝食を終え。

そしてワルツたちは再び冒険者ギルドへと向かっていた。

今日は薬草の納品による精算と、魔物の素材や肉を売却する日である。


メンバーは、先日と同じく、ワルツとユリアだったのだが……。

昨日とは違って、その場にはもう1人、追加で別の人物がいた。


「冒険者ギルドですか……。久しぶりですね」


昨日、こちらに呼ばれてから、未だ帰っていなかったカタリナである。

彼女は昨日の解体作業の際、冒険者ギルドの横にあった倉庫には行ったものの、冒険者ギルド本体には出入りしていなかった。

そのため、彼女がこの町の冒険者ギルドに行くのは、今日が初めてだったのだ。


「やっぱり、勇者たちと行動してた頃は、しょっちゅう行ってたわけ?」


「えぇ。旅の資金は基本、魔物の素材を売ることで確保していましたから、街にいる時は殆ど毎日、通い詰めでしたね。その日限定の、特別な依頼があったりしましたし……」


「ふーん……」


とカタリナの話を聞いて納得げとも、呆れ気味とも取れる、微妙な反応を見せるワルツ。

そんな彼女の脳裏では、カタリナが魔物相手に無双する光景が広がっていたようだが……。

ちなみに、カタリナが、今のような化け物じみた強さになったのは、ごく最近のことなので。

その当時は、襲ってくる魔物を相手に、恐怖で震えていたとか、いなかったとか。


と、そんな時。


「そう言えば、カタリナ様?カタリナ様は、こちらの冒険者ギルドで、偽名を使った冒険者登録はしないんですか?」


ユリアが、カタリナに対して、そんな質問を投げかけた。

というのも、ユリアは今回のギルド訪問で、偽名を使って冒険者になるつもりだったのである。

どうやら、彼女は、仲間たちが仲良くパーティーを組み、冒険者のランクを上げようとしている姿を見て、我慢できなくなったらしい。


「偽名で冒険者登録?皆さん……何かしてるんですか?」


「実はボレアスに辿り着くまでの間に、みんなでAランクまで冒険者のランクをあげよう、っていう話になっていまして……」


「そうですか……。随分と面白そうなことをしているんですね?ワルツさん。もしかして、昨日の解体も……」


「いや、そんなことで、忙しいカタリナの手を煩わせるようなことなんて……しないとは言い切れないけど、昨日の場合は、それ以外にも、この町の食糧事情とか、短時間で素材を買い取ってもらいたかったとか、色々なことが重なってたから、お願いしたのよ。……怒ってる?」


「いえ、除け者にされたら怒ってたかもしれませんけど、今は怒ってないですよ?ですけど……Aランクって、そう簡単にはなれないですよ?こちら側はどうか知りませんけど、人間側の領域では、Cランク以上になるためには昇級試験が必要でしたし……。でも、面白そうなので、その話、私も参加させてもらってもいいですか?」


「もちろんいいわよ?そういえばカタリナ?貴女、人間側の領域で、冒険者ランクは何だったの?」


「Bですよ?」


「へー。Sじゃなかったんだ……」


「意外ですね……」


「意外って……私、そんなに強そうに見えます?」


「はい」

「うん」


「……そうですか」


即答した2人の言葉を聞いて、何故かシュンと獣耳を倒してしまうカタリナ。

どうやら彼女は、未だ自分が()()()存在だと思っていたらしい。


3人がそんなやり取りを交わしながら、黒い町並みの中を歩いていると。

中に何もない屋台が立ち並ぶ通りに入ったところで、その先に冒険者ギルドの姿が見えてきた。


だが、そこにあった冒険者ギルドの様子は、昨日と比べると、随分と異なっていたようだ。

それを見て、3人の内、ワルツが、真っ先に足を止める。


「何あれ……」


すると他の2人も、ワルツに倣うように、立ち止まった。


「馬車ですね……」


「人だかりですね……」


「いや、うん……そうなんだけどさ……。何であんなに人がごった返してると思う?」


「……ワルツさん。もしかしてですけど……分かってて聞いてます?」


「……うん」


「「…………」」


ワルツの返答に、微妙そうな表情を見せるカタリナとユリア。

どうやら2人とも、この瞬間、ワルツが何を考えていたのか、ほぼ完璧に予想が付いたようだ。



おーんせん、おーんせん♪


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