表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
816/3387

8.5-13 流れ13

そして、昼を過ぎた頃。


「世の中、おかしいわよね……」


倉庫の中には、遠い視線を、天井の(はり)辺りに向けるワルツの姿があった。

その隣には、


「そうですね……。ビクトール……。どうしてこうなったのでしょう……」


同じく、天井に視線を向ける勇者の姿もあったようである。

それぞれ意味は少し異なるものの、2人とも現実逃避をしていたらしい。

では一体何故、彼女たちは、現実から眼を背けていたのか。


それは、倉庫へと様子を見に来たギルド職員の男性のこんな一言から、大体推測できるのではないだろうか。


「なんだこれは……」


その光景を目の当たりにして、言葉を失ってしまった様子の男性。

魔物解体の光景を見慣れているはずの彼でも、思わず眼を疑ってしまうような、そんな光景が、倉庫の中に広がっていたようだ。


「ふっ……カタリナには勝てなかったよ……」


「何を言ってるんですか?狩人さん。狩人さんも、十分に凄いと思いますよ?ナイフだけで、ここまでキレイに解体(バラ)してしまうなんて、他で見たことがありません。それにビクトールさんも、その剣さばき、いつの間にか上達したんじゃないですか?」


「お、おう……そうみたいだな……(カタリナに褒められるとか……エネルギア様々だな……)」げっそり


「3人共、すごいです!マリーも見習うです!」


「マリーちゃんも凄いですよ?一人で、魚を半分以上、捌いてしまうなんて、私にも難しいと思います。しかも捌き方が丁寧ですし……」


「日頃の特訓のたまものです!」きりっ


というやり取りをする狩人、カタリナ、剣士、ローズマリーの会話通り、すべての獲物の解体が終わたのである。

結果、そこには、倉庫の天井まで届かんばかりの山のような魔物の素材や肉。

そして地面には血の海が出来上がっていて……。

そんなこの世のものとは思えない光景を目の当たりにして、ギルド職員の男性は、言葉を失ってしまったのだ。

これが人手の少ない今の彼らによって行われたなら、少なくとも1週間以上は掛かるほどの量だったのだから。


ちなみに。

この解体は、皆がバラバラなって並列に行われた、わけではない。

それぞれが得意とする役割に分かれ、流れ作業のように行われたのである。


カタリナは結界魔法を使って毛皮の剥ぎ取りを。

狩人はダガーを使って(はらわた)の切り出しを。

剣士はエネルギアのタービンブレードを使って骨から肉を絶ち……。

そして、勇者が細かい後処理を行った。


なお、ローズマリーは、途中から一人で魚の解体を担当していて、カタリナの言葉通り、半分以上、彼女が捌いてしまったようである。

他、ユリアは、アイテムボックスからの魔物の供給と、一時的な素材の整理を行ったようだ。


そして、パーティーのリーダーであるワルツは……見学である。


「何か私にも出来ることがあるかと思ってたんだけど……」


そう呟きながら、6人の手際を思い出すワルツ。

そんな彼女は、本来ここへは、見学に来たわけではなく、手伝いをするために来たつもりだった。

例えば、素材として売ることの出来ないゴミになる部分を、蒸発させて処理する、などの手伝いを考えていたようである。


しかし、それすら、彼女にはできなかった。

なぜなら、そこに、7()()()の助っ人(?)が居たからである。


狩人が魔物から切り出した腸を、カタリナの白衣の隙間から伸ばした触手のようなものを使って吸収する、黒い闇の固まりのような物体。

迷宮の孤児(みなしご)――シュバルである。


「…………」にゅる?


「もちろんシュバルちゃんも、良い活躍をしてましたよ?お陰で助かりました」


「…………」にゅる!


親代わりのカタリナに褒められたためか、空間拡張が施された白衣の隙間から出していた頭部と思しき部分を、嬉しそうに左右へとブンブン振るシュバル。

なお、彼は、今でも、人の赤子程度の大きさしかなかったが、その体積以上の吸収を行っても、身体が大きくなったり、体重が増えたりすることはなかったようである。

どうやらシュバルの体内に吸収された物体は、異空間に消えているか、質量保存の法則を無視した状態に変化しているか……。

あるいは魔力に変換されて、彼の身体の中に蓄えられているようだ。


「あの子、いつか爆発するんじゃないかしら……」


「……ワルツ様?流石に冗談でもそういうことは……」


「冗談っていうか、本気で心配してるんだけど?どうする?勇者。ある日気付いたら、突然妹が最強の魔法使いになってて、だけど魔法の使い方を知らなくて爆発しそうになる、とか。そんな展開が、カタリナとシュバルの間にもあるかもしれないわよ?」


「……その(たと)え話は、ルシア様ですか?」


「んー、まぁ、ルシアは爆発しそうにないから、ただの喩えだけどね?でも、ホント……シュバルが吸収したこれまでの食べ物って、いったいどこに消えてるんでしょうね?」


「…………」


ワルツの問いかけを聞いてもすぐには答えられず、考え込んでしまった様子の勇者。

しかし、この世界の誰も知らない迷宮(?)の生態のことが、彼に理解できるはずもなく……。

結局、彼は、それからも、魔物の素材が積み上がっていた天井へと、遠い視線を向ける他なかったようだ。



「……ってわけで、買い取ってくれます?」


解体の終わった魔物と魚の山を眺めるギルド職員の男性に対し、そう問いかけるワルツ。

すると、固まっていた男性が、すこしだけ遅れて返答する。


「あ、あぁ……。それは構わんが……何だこの量は?これだけの量の魔物をどこから持ってきた?」


「え?いや、普通に町の外に居ましたよ?雪の中とか、洞穴の中とか、木の虚の中とか、雲の上とか……」


「なんだこれ……おいおい、ワイバーンまで狩ってたのか……」


「ドラゴンもいたらしいですけど、ちょっと事情があって、狩れなかったですね(流石に人の言葉を話す魔物(?)まで狩る気にはなれないし……っていうか、食べたいと思えないし……)」


「そりゃ無理だろうよ……」


と、ワルツたちの事情を、曲解した様子の男性。

それから彼は、ワルツの買い取りについての質問に対し、こう答えた。


「量が量だから、買い取りのための評価に、それなりの時間が必要だ。明日までに買い取るなら……ここにある山の、半分の半分くらいが限度だろうな」


ただでさえ、薬草のチェックと集計するのに人員が割かれているというのに、それと同時に山のような素材をチェックして買い取るというのは、アルバの町の冒険者ギルドには困難な話だったようである。

結果、彼はこんな代案を口にした。


「……だから、商人ギルドや知り合いの商会の連中にも話を通して、買い取ってもらえるように伝えよう。そうすれば、明日までには、ここにある殆どの素材を買い取れるはずだからな」


それを聞いて、


「ん゛ー……」


眉を顰めながら、唸るワルツ。

彼女が男性の言葉を聞いて何を考えたのか……。

その場にいたユリアには分かったようだ。


「ワルツ様?なんでしたら、私の方で手続きをしておきますよ?」


と、ワルツが商会の人々と顔を合わせないように、取り計らおうとするユリア。


なお、ワルツが渋い顔をしていたのは、商会の人物の中に会いたくない者が居たから、ではない。

まぁ、商会の者たち全員に会いたくない、と言う意味ではあながち間違いとは言えないかもしれないが、正確には、不特定多数の者たちと、腹黒い会話をするのが嫌だった、からである。

特に相手が商人ともなれば、なおさらだろう。


……しかし、である。

ワルツはユリアに対して首を振ると、珍しいことに、こう言った。


「ううん。ここに来てから何もしてないし、私()売買の場には立会うわ。もちろん、一人で立ち会うのは嫌だけどね?」


そんないつものワルツにはありえない言葉を聞いて、


「……何かあったんですか?」


怪訝な表情を浮かべながら問いかけるユリア。


しかしワルツが、その問いかけに答えること無く、


「まぁ、気分よ、気分。良いんじゃない?たまには」


彼女はただ小さく笑みを浮かべてそう口にすると、質問をはぐらかしてしまったようだ。



たまにあるじゃろ?

すごく嫌だったことが、友人と一緒なら、やってもよいか、と思うこと。

この時のワルツも、恐らくはそんなことを考えておったはずなのじゃ。

この世界に来て間もなくの頃は、近くにルシア嬢しかおらんかったから、冒険者ギルドなどの面倒なところには、間違っても近寄りたくなかった、と本人も言っておったしのう。

じゃが、信頼できる仲間がおる今なら、それを楽しむのも悪くない、と思ったのじゃろう。


……前にも言ったかのう?

まぁ、よいか。


ちなみに、勇者殿が冒頭で、遠い視線を天井に向けておった理由は、伝わっておるじゃろうか?

実は話の流れが気に食わなくて、何度か書き直しておってのう……。

多分、大丈夫とは思うのじゃが、念のため述べておくと、剣士に嫉妬……はしてないと思うのじゃが、勇者殿はそれに近い感情を抱いておったようなのじゃ。

強くなりたいと思う自分のことを通り越して、明らかに剣士の方が、強くなりつつあるからのう。

勇者殿もまったくもって大変なのじゃ。


今日の駄文は、こんなところかの。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ