8.5-11 流れ11
カランコロン……
ワルツとユリアが冒険者ギルドへと入ると、ギルド諸君たちの視線が、彼女たちに集中した。
その表情は、また面倒な奴らがやってきた、と無言で語っていたようである。
そんな中。
昨日、ワルツたちに対応した男性が、少しだけ嫌そうな表情を見せながら、2人の元へと近づいてくる。
「おはよう、お二人さん。すまねぇが……薬草の件は、まだこの有様だ。まだ集計は終わってねぇから、昨日の話通り、もう一日待ってくれねぇか?」
「おはようございます。大変そうですね……」
「おはよう……って感じじゃないですね。もしかして、昨日から家に帰ってないとか?」
「あぁ……なんせ、今は閑散期で、ギルドの職員も減ってるからな……。まぁ、今日、臨時に職員たちを呼び寄せたり、他のギルドに声を掛けて応援を呼んだりするから、明日の朝までにはどうにか終わってるはずだ」
「もしこれで、期限が今日の昼までだったら、もっと凄いことになってたんですね……」
「だろうな……」
そう言って、苦い笑みを浮かべるギルド職員の男性。
そんな彼に対し、ワルツは早速、切り出した。
それも、その言葉が、彼らにとって、さらなる重荷になることを分かっていながら、である。
「こんな大変な時に、申し訳ないんですけど……狩ってきた魔物の買い取りをしてもらってもいいですか?」
その瞬間、男性は、
「え゛……」
と、表現に困る声を出して、固まってしまった。
想像している中で、最悪の出来事が起こった、そんな反応である。
それから男性はすぐに回復したが、それでも、引きつり気味の表情までは隠しきれなかったらしい。
そして彼は、口元をピクピクとさせながら、ワルツたちに対し問いかけた。
「そ、そうか。ちなみだが、それって……相当な量があったりするのか?」
それに対しワルツは、顎に指を当てながら、思い出すように返答する。
「んー、普段よりは少ないくらいだと思います」
「その普段、ってのが、かなり怖いが……まぁ、とりあえず見てから考えるか。俺達としちゃぁ、食料はいくらあっても困らねぇしな」
「そう言ってもらって助かります。ここに出せばいいですか?」
「いや、流石に薬草と違って、魔物は血が滴るから、ここじゃないほうがいいだろう。俺に付いてきてくれ」
そう言って、ギルドの入り口から外に出る男性。
それからワルツたちは、その言葉に従い、彼の後ろに付いていった。
◇
「ここだ」
そして3人がやって来たのは、冒険者ギルドの横にあった建物。
冒険者ギルド専用の倉庫である。
倉庫の床には石畳が敷かれ、壁際には、山のように木箱が積まれていた。
恐らくはその中に、冒険者たちから買い取った素材などが仕舞われていて、必要に応じて市場に流されているのだろう。
その他、その場の地面には何やら染みのようなものがあって、建物内部に凍っていない井戸があるところを見ると……。
どうやらここでは、魔物の解体も行われているようである。
とは言っても建物の中には、ワルツたち以外に誰もいなかったので、今は単なる倉庫にしか見えなかったが。
「さて。それじゃ、ここの床に出してもらえるか?」
「はい、分かりました。ユリア?」
「じゃぁ、いきますね?」
そう言って、ギルド職員の男性に誘導された場所へと手を翳すユリア。
すると、次の瞬間、
ドサッ!
と獲物の一部が姿を現した。
最初に出てきたのは、ベアトリクスたちが獲ってきた、大量の魚の一部である。
合計でおよそ300キログラム、と言ったところだろうか。
「これまた随分な量の魚で……」
その様子を見て、眼を細めるギルド職員の男性。
彼はその魚を『随分な量』と表現したわけだが、その表情の裏では、『この程度の量で済んでよかった』などと安堵しているに違いない。
それが分かってか分からずか、
「まだありますよ?」にっこり
男性に対して笑顔を向けながら、魚を追加で少しずつ、アイテムボックスから取り出していくユリア。
アイテムボックスの中から魚を一度に出すことも出来るはずだが、彼女がそうしなかったのは、昨日、麻袋入りの薬草をいっぺんに出して、冒険者ギルドの床を破壊してしまったことが原因かもしれない。
そして……。
絶望的な表情を浮かべていた男性の前には、結局、2トンもの量の魚が出てきたようだ。
その様子を見て、男性が声を上げる。
「いや、取り過ぎだろ……」
「たくさんいたんですよ……魚」
「そりゃそうだろうけどよ……」
「魚類はこれで終わりです。次は魔物の方を行きますね」
「まだあるのかよ……」
「それが終わったら、今度は山菜ですよ?」
「…………」
ワルツとユリアの数量の基準が、自分の基準と比べて3桁ほど異なることを察して、閉口するギルド職員の男性。
そして今度は、コルテックスたちが狩ってきた魔物を出す番になったわけだが……。
ギルド職員の男性の様子がおかしかったためか、ワルツは、獲物を出そうとしているユリアを制止させて、あることを確かめることにしたようである。
「ところで、一つ確認なんですけど……これ、ここのギルドで、全部買い取れます?」
そんなワルツの問いかけに、
「……このまま大量に出てくるようなら難しいかもしれん。だが……」
と口にして、その言葉通りに、難しそうな表情を浮かべる男性。
買い取りの資金がギルド内にあることを前提に考えても、明日までに薬草の集計を終わらせる必要があり、その上、魔物にしても魚にしても、買い取るためには解体が必要だったので……。
明日までに、そのすべてを終わらせるというのは、人手の少ないアルバの町の冒険者ギルドにとって、中々に困難な話だったようである。
ただ、男性としては、可能な限り、魚や魔物の肉を買い取りたかったようだ。
薬草が欲しい理由については言うまでもないが、町が食糧難に陥っている現状では、可能な限り、食料も確保したかったのである。
この機会を逃したなら、次、いつ、食料を得ることが出来るのか、予想すら付かなかったのだから……。
「どうにかならんもんか……」
と、誰に向けるでもなく、ため息混じりに小さく呟く男性。
彼は頭の中で、どうにか食料を買い取る方法がないか、考えを巡らせているようだ。
そんな彼の様子に思ったことがあったのか、ワルツは、こう質問した。
「(一部だけの買い取りでも良いのに……まぁ、別にいいけど)えっとー……逆に、どうすれば買い取って貰えますか?」
「そうだな……。一番時間が掛かるのは解体だ。皮や内蔵、肉に骨。あるいは角や爪に牙。場合によっては魔石なんかも取れる事があるんだが、それらを価値のある状態として剥ぎ取るためには、ある程度、技術が必要になるんだ。ところが、今それが出来る職員が、うちのギルドに殆どいなくてな……」
「(ふーん。魔石ねぇ……。紅玉やオリハルコンみたいなものかしら?)」
「そもそも、この時期は、解体担当が居ねぇんだよ……。元々、そんな大量に持ち込まれることはねぇし、冒険者なら皆、自分で捌いちまうからな。それがどうにかなりゃ、すぐに買い取ることも出来なくはないが……」
「なるほど。じゃぁ、私たちの方で解体してしまえば良い、ってわけですね?」
「え?あ、あぁ……。出来ることならやってもらいたいが……出来るのか?ここに、素の状態で持ってくるってことは、解体できないんだろ?もしも、下手な解体をしたら、素材が売りもんにならなくなるぞ?」
「んー……ちょっと相談は必要かもしれないですけど、アテがあるのでどうにかなると思います」
そう言ってから、自分の考えを肯定するように、頷くワルツ。
その際、隣にいたユリアが、苦笑を浮かべていたのは、これからワルツが誰に解体を頼むのか、なんとなく予想が付いていたからか……。
……おっと、危ない。
間違えて、違う物語に、あっぷろーどしてしまうところだったのじゃ。
そんなことはさておいて。
今、妾は移動中なのじゃ。
この機会を逃すと、今日のあっぷろーどが12時を越えてしまう可能性が極めて高いゆえ、取り急ぎ、あっぷろーどだけさせてもらうのじゃ?
あとがきは……まぁ、明日、いいだけ書こうと思うのじゃ。
いつも通り、駄文じゃがの?




