8.5-05 流れ5
「ねぇ、お姉ちゃん。さっきヌルちゃんと一緒に出掛ける時、町の方を見ちゃいけない、って言ってたけど……町で何かしてたの?」
「ううん。ナニモシテナイワヨ?」
「そ、そうなの?(どうして棒読み?)」
街まであと2km程度のところにあった林の影に馬車を止めてから、どうにかしてくる、と言って馬車を離れたワルツとヌルの2人組。
それから実際に、街を占領して戻ってきた姉に対し、森のくまさん装備のルシアは、事情が分からず首を傾げた。
どうやらワルツは妹たちに対し、町を占領した方法を説明したくなかったようである。
ただ、大まかな作戦の概要については、皆が知っていた。
その作戦を提案したのが、ルシアよりも4歳年下のイブだったからである。
「ワルツ様?イブたちの考えた作戦の効果……どうかもだった?」
「そりゃもう、抜群だったわよ?たとえ、もう一回、生き返ったとしても、二度とアルバの町には帰ってこれないでしょうね……」
「えっ……何をしたかもなの?」
「ううん。ナンニモナカッタワヨ?キニシナイデ?」
「う、うん。聞かないでおくかも……(よっぽど酷いことをしたかもなんだね……)」
町の執政官を襲っただろう、恐ろしい出来事を想像して、目を細めてしまうイブ。
なお、彼女が提案したのは、執政官を貶めて町から追い出す、ということであって、執政官のプライベートを録画し、その動画をホログラムで公衆の面前に晒し出す、などというエゲツナイことではない。
「ほら、見えてきたわよ?」
再び馬車を走らせ、林を抜けると、そこに、先程までワルツとヌルが居たアルバの町の姿が見えてきた。
「お姉ちゃん。そう言えば、ヌルちゃんは?」
「ヌル?彼女なら、まだあの町の中よ?今頃、執政官がいなくなってからの後処理でもしてるんじゃないかしら?」
「ないかしらって……もしかして、あの中に1人だけ置いてきたの?」
「えぇ。多分、問題ないかなー、って思って」
「そうなんだ……(大丈夫かなぁ……ヌルちゃん……)」
既にエクレリアから派遣された執政官はいないものの、ほぼ四面楚歌状態に陥っているだろうヌルのことを想像して、ルシアは心配になってしまったようだ。
もちろん、ヌルの妹であるユキBもまた然り、である。
まぁ、それも、町の中央に位置する城に掲げられた国旗が、見慣れたものであることを確認するまでの話だったようだが。
◇
「ワルツ様方。お待ちしておりました」
町に到着すると、ワルツたちのことを正門で待っていたヌル、他数名の兵士たち。
どうやら彼女は、アルバの町の兵士たちを、無事に説得できたようである。
「流石はこの国の魔王ね。無事だって信じてたわ?」
「やはりわざと置いていったのですね……」
と口にしながら、死んだ魚のような眼を見せるヌル。
ワルツが町を去った後で、どうやら彼女は、かなり面倒な出来事に対処しなくてはならなかったようである。
しかし、ワルツにとってはどこ吹く風。
ヌルのその疲れ切った表情を見ても、彼女にそれを気にした様子はなく。
そればかりか、白々しく、こんなことを言い始めた。
「えっと?お姉さまと会うのは、これが久しぶりのはずですけど?」
と口にする、雪女スタイルのワルツ。
どうやら彼女は、ここに来ても、できるだけ町の政治には関わりたくないらしい。
それを知っていたのか、ヌルは、苦笑を浮かべると……。
馬車の上に立つワルツに手を差し伸べながら、こう口にした。
「……ようこそ、ワルツ。アルバの町へ」
そして、ワルツはヌルの手を取って、地面に降りて。
それから偽名で作った身分証を使い、正しく(?)入町手続きを済ませてから、アルバの町へと入ったのである。
◇
それから、街の中に家があった難民たちと離れ。
彼らとは別行動を取り始めたワルツたち。
「アルバって名前の割には、随分、黒い家が多いわよね?」
「1年を通してみれば、雪に覆われている期間のほうが多いので……」
そんなやり取りの通り、街の中を進むワルツたちの眼には、屋根に積もる雪以外の部分が、真っ黒な塗料で塗られた町並みの姿が見えていた。
恐らくは、一つ前に立ち寄ったリーパの町と、同じような背景があるのだろう。
「夏暑くて冬暖かいってやつね」
「それは……はい。確かに夏は熱いので、皆、大変なようですね。夏だけ壁を白く塗ったり、日差しが直接家に当たらないように簾を下げたりして、家の中の気温が上がらないように工夫する者も多いです」
と、ワルツの言葉に首肯するヌル。
どうやらこの国では、冬の寒さに耐えるために、夏の快適性を犠牲にしているらしい。
まぁ、クーラーの存在しないこの国においては、光熱費が掛かるのは冬だけなので、家は必然的に、冬に特化した作りになってしまったのだろう。
なお、ヌルが拠点にしていたビクセンでは、迷宮の中に城を作っていたので、一年中同じ気候が保たれていたりする。
そんな会話を交わしながら、一行は町の中のとある場所へと向かっていた。
普通、旅先の町に入ってまずすべきことは、宿の確保のはずだが、彼女たちが向かっていた先は、宿ではなかったようである。
「ここです……」
「ダメ、か……」
その姿を見て、残念そうな表情を見せ、溜息を吐くワルツたち。
そこには焼け焦げた瓦礫だけが残っていて、火事の後、といった雰囲気だった。
それもまだ風化していない、つい最近、燃えたばかりの跡のようである。
そこには一体、何の建物が建っていたのか。
「まさか、諜報部が消されるなんて……」
そんなユリアのつぶやき通り、そこはアルバの町にあるはずの諜報部の支部の入った建物があるはずだった。
それがピンポイントで燃えてしまったようである。
エクレリアの者たちががこの町を掌握していたことを加味すると、状況的に、狙って燃やされた、と考えるのが自然だろう。
「火の不始末……じゃないわよね」
「でしょうね……」
「なぜ諜報部だけが……」
と口にしながら、難しそうな表情を浮かべる3人。
もちろん彼女たちだけでなく、その場にいた他の者たちが皆、同じような表情を浮かべていたことについては、言うまでもないだろう。
「ねぇ、ヌル?この近くの諜報部の支部って、もうビクセンに行くしか無いの?」
「いえ、ビクセンとアルバの町の間には、まだ2つほど大きな町が残っています。あるいはそこなら、ここよりも大きな施設があるので、残っている可能性も否定は出来ませんが……」
「同じように潰されてる可能性も否定は出来ない、ってところかしら?」
「はい……」
そう言って残念そうな表情を浮かべるヌル。
その評定は、ワルツの役に立てずに申し訳ない、という点が半分。
そして、自分たちが作り上げた諜報部が、うまく機能していないことを残念に思う点が半分、といった様子である。
「まぁ、しゃぁないわね。この町の役人たちや、ギルドとかから、情報収集をしましょ?」
そう口にしてヌルに小さく笑みを向けた後で、その場に背を向けるワルツ。
こうして一行は、結局、自分たちの力だけで、情報を集めることになったのである。
そしてワルツたちは、町の中にある次なる目的地へと足を進めた。
ただし、今回もまた宿屋ではない。
そう。
ここまでの道程で大量に刈り取っていた薬草を使って、冒険者のランクを上げるために冒険者ギルドへと……。
最近のう。
文を崩して書くことが多いのじゃ。
まともに文が書けぬ者にとっては、やってはならぬパターンかもしれぬが、読みやすさと、文を崩すのとは、大きく関係ないような気がしてのう。
長い文になるくらいなら、言い切りの形にして、途中で改行して……。
その後につながっておった文を、別の文として書いた方が読みやすいのではないか、と思って、改善してみたのじゃ。
↑こんな感じでの?
まぁ、書いておる文の内容自体は、まったく変わっておらぬはず……なのじゃ。
と言ってものう。
この書き方は、段落の中で、『。(句点)』の後に改行するような書き方の場合のみ、機能するような気がするのじゃ。
つまり、続けて書く場合は、やっちゃいけいないような……。
まぁ、細かいことは気にしないでほしいのじゃ!




