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8.4-27 いばらの道27

「(何だコイツ?!)」


明らかに致命傷と思しきダメージを受けたはずなのに、まるでそれを気にしないかのように立ち上がった剣士に対し、驚愕の表情を向けるホムンクルスの少年。

彼の人生はそれほど長いものではなかったが、ほぼ無防備の人間の急所を突いて、それで何もなかったかのように動ける剣士が、極めて異常な存在であることはハッキリと理解できたようである。


故に彼は、自身に向かって名乗った剣士に対し、追加で問いかけようとした。

――名前など、どうでも良い。お前は本当に人間なのか、と。


だが、彼が言葉を口にすることはできなかった。


ズドォォォォン!!


まるで戦艦の砲撃のような音と共に、剣士から放たれたのは――単なる剣の一振(ひとふ)り。


それが少年の持っていた剣に当たり、彼はその衝撃で、


ドシャァァァン!

ドシャァァァン!

ドシャァァァン!


後ろにあったシリンダーをいつくか破壊しながら、吹き飛ばされたれてしまったのだ。


「何だこれ……」


その言葉を口にしたのは、攻撃を放った剣士本人だった。

もしかすると彼は、吹き飛んだ少年よりも、事情が飲み込めずに混乱しているのかもしれない。


ただ、戦士として死ぬことを決めた今の彼にとっては、大した問題ではなかったようである。

今の彼にとっては、結果がすべてだったのだ。


それから彼は、タービンブレードに欠けが無いことを確認すると、それを構えながら、割れたシリンダーの方へと進んでいった。


すると、


ブゥン!


壊れたシリンダーの部品の一部が、剣士の方へと飛んでくる。

やはりホムンクルスは、剣士が力任せに吹き飛ばした程度では、機能を停止しなかったらしい。


剣士はそれを、


ズドォォォォン!!


と、下から振り抜いた剣で豪快に切断しながら上へと打ち返し、


ドゴォォォォン!!


ソレを天井の高さまで吹き飛ばした。

その結果、天井にあった照明と共に、天井の一部が崩れ、その真下にあったシリンダーが数基潰れる。


だが、今の剣士にとって、そんな些細なことは気にならないようだ。

彼は目の前にあったシリンダーのところまでやってくると、持っていたタービンブレードの峰の部分を、まるでゴルフのボールを打つかのようにスイングし、


ズドォォォォン!!


シリンダーの土台ごと、ホムンクルスがいるだろう方向へと、吹き飛ばした。

もちろん、その軸線上にあったすべてのシリンダーを、砲撃で消し飛ばすかのようにして。


その瞬間、彼の後に、不意に気配が生じる。


ガァァァァァン!!


その気配に反応して、剣士が剣を構えると、強い衝撃音がその場に響き渡った。

そこには服がボロボロになりながらも、無傷な様子の少年の姿があって、ひしゃげた剣を使って、剣士に斬りかかろうとしていたようだ。


「化物め!」


「化物?」


攻撃が防がれたことを察したホムンクルスの少年が、何度かバックステップをしながら距離を取り、そこで剣士に向かって悪態を吐く。


「お前のことだよ!オカマ!お前、絶対、人間じゃねぇだろ!」


「……お前は何を言ってるんだ?」


「チッ!話が通じねぇ……」


言葉は通じていても、話が通じない事に苛立ちを感じたのか、苦々しい表情を浮かべる少年。

それから彼は、化け物じみた強さの剣士と正面から戦うことを諦めたのか、その場に曲がった剣を投げ捨てた。


そして、その変わりと言わんばかりに、腰のベルトにつけていた手のひら大の黒い物体をそこから引き抜くと、それを剣士の方へと向けながら、こう口にしたのである。


「これに頼るのはいけ好かねぇが、仕方ねぇか……」


その瞬間だった。


パァンッ!!


乾いた音と共に、


ブスッ……


剣士の足元から、そんな鈍い音が聞こえてきたのである。

それから間もなくして、


()っ!」


彼の足から力が抜け、同時に激痛が走ったようだ。


「化物っつっても、流石に効くか……」


パァンッ!!

パァンッ!!

パァンッ!!


連続してその場の空間に反響する、乾いた音。

その度に剣士の足や腹部、肩や腕に小さな穴が空いて、遂に彼は、


ドサッ……


地面に膝を突いてしまったようである。


「何だ、これ……」


何故、自分の身体に穴が空いて、そこから血が吹き出しているのか理解できず、真っ赤に染まった自身の手に視線を落として固まる剣士。


すると再び笑みを取り戻した少年が、警戒しながらも剣士の方へと近づき、


「あ?銃だが?」


と道具の名を口にすると……。

未だ事情が飲み込めていない様子の剣士の胸に向かって、


パァンッ!!


再び、その黒い道具のトリガーを引いたのだ。



「ったく……せっかく作った秘密基地が台無しじゃねぇか……」


最早、壊れていないシリンダーを探すほうが早いのではないかと思うほどに、悲惨な状況になっていた空間に眼を向ける少年。

それから彼は、足元に倒れている()に向かって、悪態を吐く。


「しかもよりにもよって、()()()()()()()()()か……。こりゃ、上に、色々と文句を言われそうだぜ……。くそっ……」


それから彼は、


ドゴォッ!!


そこに転がっていた忌々しい死体を蹴り飛ばした。

どうやら少年は、相当にストレスが溜まっていたらしい。

それは、好きでもない仕事を無理やりにさせられていたためか、はたまた、目の前の『化物』に、銃を使わなければ勝てなかったためか……。

いずれにしても、このあと彼には、上司から何らかのネガティブな通達があるようである。


と、そんな時。

彼は、とあることに気付いた。


「ん?虫?」


先程蹴り飛ばした男性の側で、親指サイズの黒い物体が、カサカサと動いていたのである。


「化物も死んだ後は、虫に食われて朽ちて終わりか……」


その様子に、何とも言い難い、複雑な表情を向ける少年。

このとき彼は、自分でも理解しがたい感情が胸から湧き上がっていて、少々、混乱していたようである。


それから彼が、この施設を放棄して立ち去ろうか、と考え始めた時だった。


カサカサ……


「また虫か……」


彼の視界の中に、再び黒い物体が映り込んできたようである。


「妙だな……これまでにここで、こんな虫は見たこと無いんだけどな……」


1匹目の虫は、息絶えた男性の身体に付着して、持ち込まれたものである可能性が高かった。

一方、男性から離れた場所にいたその虫については、自らこの場へと入ってきた以外に、説明がつかなかなかったのである。

とはいえ、単にこれまで、少年が見たことが無いだけであって、どこにでもいる昆虫である可能性もまた否定はできなかったので……。

結局、少年はその虫を見ても、警戒することは無かったようだ。




だが、その時点で、既に事は始まっていて……そして、既に終わっていた。




ソレは、地面を走る虫が、一体どこへ行くのかと、少年がその先に眼を向けたところに居た。


『ごめんね、ビクトールさん。僕が渡した弱い武器と防具のせいで、怪我しちゃったんだよね……』


「いや、そんなことはないさ。十分に助かったよ。実際、こうして生きてるんだから、問題は無いだろ?」


『ありがとう、ビクトールさん……って、話し方、元に戻ったんだね?』


「え?あ、そういえば……」


そこで死んでいたはずの男性が――その場にいつの間にか現れていた全裸の少女と、会話を交わしていたのである。


そんな2人の姿を見て、今度こそ、固まるホムンクルスの少年。

すると、彼の方へと、裸の少女が振り返り……。

そして、にっこりと笑みを浮かべて、こう言った。




『 ゆ る さ な い 』




その瞬間だった。


ゾゾゾゾゾッ……


無数の黒い虫たちが、一斉に天井を走ったかと思うと、そこからありえないものが2つ、現れたのである。


まずは、空。

そう、真っ青な空である。

本来そこには、地表まで2000mを超える山脈があったはずなのだが、それがまるで最初から無かったかのように、青い空が現れたのだ。


そして次に現れたのは、


「な……」


真っ白な雲……ではない。

白く輝く巨大な構造物が空に浮いていて、少年の目の前へと、


ドゴォォォォ!!


と、筒状の物体を差し込んできたのである。


それはあたかも、少年が先程まで手にしていた黒い道具――銃と同じような構造をしていた。

筒の内部には、螺旋状の溝が作られており、まるで中から何かを射出するかのような構造になっていたのである。


ただ、違う事があるとすればそのサイズだろうか。

片や直径9mm、片や直径1200mmである。


そして、唖然とする少年に向かって、


ズドォォォォン!!


と、音の5倍以上の速度で飛び出す、大質量のタングステン-オリハルコン合金の塊。


その瞬間、ただでさえ()()()()()()()ニクスヘーレの山岳地帯は、平らを通り越して、窪地になってしまったようだ。



よく目にする言葉があるのじゃ。

『やりすぎた。今も後悔しておらぬ』

あれ、どんな自信があれば書けるのじゃろうのう……。

いつかは妾も、自分の文に自信を持ちたいものじゃのう。


というわけで。

エネルギア嬢召喚なのじゃ?

もう、力の暴力なのじゃ。

まぁ、名前からして、そういう名前じゃがの。


なお、洞窟にいた妾たちやワルツ、それに勇者たちがどうなったのかについては、次話で述べる予定なのじゃ?

……述べねば、主役死亡で、この物語は終わってしまうからのう……。


じゃが、そう考えると、皆、いつ突然死んでもおかしくない状況に常にさらされておるのじゃ。

ワルツ然り、ルシア嬢然り、カタリナ殿然り、エネルギア嬢然り……。

なお、当の本人たちは、自分自身が危険極まりない存在(?)である事に気付いていない模様なのじゃ?

まぁ、物語など、往々にして、そういうものなのじゃがのー。



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