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8.4-24 いばらの道24

それから高い頻度で、Sランク級の魔物と遭遇しつつも、プレッシャーだけでねじ伏せて……。

不必要な殺傷も戦闘もせずに、洞窟の中を進んでいくワルツたち。


その際、一行の先頭を、ワルツと狩人が歩いていたわけだが……。

近くにいる魔物のことを気しない様子で歩いて行く彼女たちのその姿を、後ろから眺めていた勇者や賢者、それにヌルは、一体どんなことを考えながら眺めていたのか。

それはこんな会話の中に現れていた。


「……おい、勇者」


「なんでございますか?ヌル様?」


「ワルツ様方は……いつもこうなのか?」


「こうしてワルツ様に同行してダンジョンを歩くのは、私も初めてなので、いつも同じかは分かりかねますが……隣にいる狩人様が驚いていないところを見ると、これがいつも通りなのでしょう」


「そうか……」


「(いや……狩人姐さん、平然を装っているが、尻尾がパンパンに膨れてるだろ……。あれはどこからどう見ても……)」


そんなやり取りの通り、やはり皆、戸惑っていたようだ。

洞窟のいたるところで、一般の冒険者には恐ろしい存在であるSランクのドラゴンや幻獣の眼が輝いているというのに、彼らはその場から動かず、まるで品定めするかのように、じっと自分たちを眺めているのである。

彼らの姿を見て戸惑わないほうが、異常であると言えるだろう。


なお、それ自体は、狩人も例外ではなかったようである。


「……ワルツ。これ、本当に大丈夫なのか?」


「えぇ、大丈夫ですよ?プレッシャーを与えていますから、よほど血迷わない限りは、襲ってこないんじゃないでしょうか?まぁ、もしも襲ってきたら、肉塊にしますよ」


「そ、そうか……。ワルツがそういうのなら、そうなんだろうな」


「でも……心配事が無いわけではないんですよ。置いてきたルシアが、私がいない間に暴走しないかどうか……そっちのほうが心配ですね……」


「不穏なこと言うなよ……。そんなに心配なら、なんで連れてこなかったんだ?」


「向こうにはユリアがいるので大丈夫だと思うんですけど、万が一を考えて置いてきました。ですけど今になってよく考えてみると、剣士なんかよりもずっとルシアのほうが気になって……。姉としてダメですよね?妹を信頼できないとか……」


「いや、ダメってことは……(って、それ、姉とか妹とか関係ないと思うぞ?)」


ワルツの言葉に答えにくかったのか、その先の言葉が出なかった様子の狩人。

どうやら狩人は、自身とワルツとの間に、認識の齟齬が生じていることを感じ取ったらしく、下手な返答を口にできなかったようである。


それから狩人が、どうにかその場を取り繕う言葉を探そうとした、そんな時。


「……ん?分かれ道?」


タイミングよく、先頭を歩く狩人たちの前に、2手に分かれる洞窟の様子が見えてきた。

そこまで移動して、2度3度、左右の道を見比べて……


「こっちだ」


と、進む道を選択する狩人。

恐らくはそちらの方から、風が吹いてきていたのだろう。


ただ、どういうわけか、ワルツはその二股の分かれ道で立ち止まってしまった。

何やら道の先に思うことがあったらしい。


これまでの話で、剣士はおそらく外を目指して歩くので、風の流れてくる方向へと進んでいくはず、という結論になっていた。

その推測通りなら、間違いなく剣士は、狩人の選択した方向へと歩いて行っているはずである。

もしもそうでなかった場合、それは自殺行為以外の何者でもないのだから。


しかしそれが分かっていても、ワルツは風の流れてこない淀んだ空気の溜まった通路の方へと視線を向けたまま、その場から動こうとはしなかった。

風の流れてくる道の方へと進みかけていた狩人は、そんなワルツの様子を見て、同じく立ち止まって振り返りながら問いかける。


「どうした?ワルツ。何かあったのか?」


「えぇ、なんか引っかかるんですよね……」


「何がだ?蜘蛛の巣か?」


「いえ、なんというか……機械(マシン)である私がこんな不確定なことを言うのもどうかと思うんですけど、前に感じたことのある雰囲気が、あの通路の向こう側から漏れ出してる気がするというか……」


「…………?そうか?魔力の類は感じないが……もしかして、剣士の気配か?」


「いえ、違います。剣士は関係ありません。ちょっと……確かめてこようと思うので、狩人さんたちは、先に進んでてもらえますか?」


その言葉に、


「「「「えっ……」」」」


と、眼を丸くし、そして耳を疑うような素振りを見せる4人。

ここまではワルツのプレッシャーで魔物たちを退けていたわけだが、彼女がいなくなるとどうなるかを考えて、皆、心配になってしまったらしい。


とはいえ、そこにいたのは、一般の冒険者などではなく。勇者、魔王、狩人(騎士)、それに賢者(天使)。

戸惑ったのは一瞬のことだったようだ。


「……分かりました。ワルツ様がそう仰られるのなら、私たちだけでビクトールを探して参ります。もしも、ワルツ様が戻られる前にビクトールと合流できたときは、そのまま外に出て、エネルギア様を呼ぶ、ということでよろしいでしょうか?」


「えぇ、そうしてちょうだい。あるいは合流した場所で待っててもらってもいいわよ?あ、それと、どっちに行ったか分かるように、印も付けていってね?」


「かしこまりました。狩人様もヌル様もそれでよろしいでしょうか?」


「あぁ。私は問題ないぞ?」


「それがワルツ様のご命令とあらば……」


「(ん?俺の意見は?)」


「じゃぁ、ちょっと様子を見たら、すぐに追いかけるわ」


そう口にすると、これまで雪女スタイルだったワルツは、まるで闇に溶けるような色をした黒髪の狐娘スタイルへと変化し、下へと向かっていそうな通路へと歩き始めた。

まるでこの先に待っているものが何なのか、大方の予想がついているかのように……。



その頃、剣士ビクトールは……


「なんでわたくし、こっちに来たんだろ……」


強い魔物たちから逃げることに必死だったためか、時折、地の喋り方で呟きながら、穴蔵の中を彷徨っていたようである。

剣士のその口ぶりから推測すると、どうやら彼は道を間違えてしまったらしい。


「このままだとわたくし、本当にここで死んでしまいますわ……」


そう口にしながら、後ろを振り返る剣士。

そこには何もかもを吸い込んでしまいそうな闇と、赤い光点が幾つか明滅しており、彼の精神を徐々に蝕んでいたようである。

なお、言うまでもないことだが、魔法ではない。


「風も流れてないし、一旦引き返したいんだけど……」


……しかし、後ろには戻れない。

なぜなら彼は、今この瞬間、戦うのではなく逃げていたのだから。


それは彼が武器を失ったり、体力が底を付いたために戦えなくなった、という訳ではなく、文字通りに戦術的撤退を考えてのことだった。

武器にも、食料にも、そして意外なことに、体力にも問題は無かったが、それでも剣士は、無闇に戦闘を続けるのは現状において適切ではない、と判断したのである。

一番の懸念は、彼が生命線として使っているエネルギア製の武器も、いつまで同じ切れ味を保ってくれるか分からなかったことだろうか。


結果、剣士は逃げていた。

そう、ただひたすらに、逃げたのである。

通路をドラゴンが塞いでいても戦わず。

そして、魔法やブレスを放ってくる魔物にすら目もくれずに。

彼はその言葉の通りに()()になって、魔物の巣窟の中を走り抜けたのだ。

ただそのせいで、本来なら出口につながっているだろう風の吹いてくる方向とは、まるで異なる通路へ進んでしまったようだが。


「とにかく……一旦、安全が確保できそうな場所を探して休憩しよう」


朝食を摂っていなかったために、空腹に襲われていたこともあってか、食事がてら休憩したかった様子の剣士。

間違えた通路を戻るのは、それからでも遅くはない……。

彼はそう考えていたようである。


そして、そこから進むこと15分ほど。

彼の目に、開けた空間が見えてきた。

しかも、そこは真っ暗な訳ではなく、どういうわけか明るかった。


「まさか……外?!」


それを見た瞬間、小走りになって、見えた光の方へと進んでいく剣士。

しかし彼は、その開けた空間に入る直前で、急に足を止めてしまった。

なぜならそこは、外ではなかったからである。


ではそこにあった光は、何の光だったのか。

洞窟の中に自生するヒカリゴケやキノコのようなおぼろげな発光体によるもの、ではない。

直視すれば、思わず眼を細めてしまうほどに強力な光源である。


「……なんだこれ……」


その空間の中にあった、円筒形の透明なシリンダーを照らすための、人工的な照明による光だったのだ。

難しいのう。

特に地の文の繋がりが、の。

どうやったら滑らかに繋がるように書けるのか……。

未だ、そのコツが掴めぬ今日このごろなのじゃ。


はぁ。

まだ、体調が良くないのじゃ。

まぁ、体調が良ければスラスラと書けるものでもないのじゃがの。

問題はストックかのう。

ゼロではないのじゃが……もうダメかもしれぬ……。

とはいっても、サボっておったわけではなく、頭を悩ませた結果、筆が進んでおらんかっただけなのじゃがの?

その理由については、間もなく分かるはずなのじゃ。


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