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8.4-21 いばらの道21

修正:

最後の方で、食事を堪能した、といった旨の表現があったのじゃが、そこを変更して、調理を始めた、に変えたのじゃ。

「剣士のやつと、どこで(はぐ)れたか覚えているか?」


「それが……わからないのです。ビクトールは私たちの最後尾を歩いていたのですが、気づくといつの間にか消えていて……」


「真後ろにいたアイツがいつ消えたのか、俺にも分からなかった……」


「そうか……」


そもそも剣士が崖から落ちてしまったことにすら気づかず、洞窟の中を歩いていた狩人たち。

折り返し地点まで来たところで、ようやく剣士がいないことに気付いて、皆、今になって慌てていたようだ。


そんな中、難しい表情を浮かべていた勇者が、小さくため息を吐くと、狩人に対し、こう口にする。


「ですが、それほど心配する必要は無いでしょう。彼もまた元勇者パーティーのメンバー。逸れてしまっても、こうした洞窟の歩き方には慣れているはずです。それにここは、それほど()()()()魔物しか出ないようですし……」


「……それもそうか。いつもエネルギアに鍛えられている剣士のやつだ。出発までにはどうにか戻ってくるだろう」


野営地点からここまでの間で狩ってきた魔物が、中型犬サイズの爬虫類や、毒々しい色のスライム、それにゴブリンの亜種くらいのものだったので、勇者も狩人も、そして賢者も、逸れてしまった剣士のことを心配するのは止めたようである。


それから狩人は表情を改めると、笑みを浮かべながら振り返り、その場にいた年少組の者たちに向かって、こう口にする。


「さて、お前たち。ここまでは狩りの手本みたいなものだ。帰り道は、お前たちが先頭を歩いて狩りをしてみろ。……いいか?よく頭を使って、戦うんだぞ?まぁ、何かあったときはサポートするから、安心して狩りを楽しんでくれ」


それに対し、


「はいです!」

「頑張るかもだし!」

「冒険者としての第一歩ですわね!」

「なんで妾も……」


やる気満々な様子で返答する一同(?)。

こうして、少女たちによる魔物狩りが、幕を開けたのである。



折り返し地点から歩くと、およそ30分ほどかかるその帰り道に、魔物の姿はなかなか現れなかった。

ワルツたちの待つ野営地点から移動してくる間に、狩人がレクチャーを兼ねて狩りを行ったせいか、どうやら魔物たちは狩りきられてしまったか、あるいは警戒して出てこなくなってしまったようだ。


しかしそれでも一行がしばらく歩いていくと、15分程して、不意に魔物が現れる。


シューッ


そんなガスの抜けるような音を立てながら現れたのは――――胴体の太さが1mほどはあろうかという巨大な蛇だった。

それを見て、


「(なんでこんなところにバジリスクが?!これは拙いな……)」


と、眉を顰める狩人。


その魔物……ケーブバジリスクは、その眼で見た相手を麻痺させて、動けなくなった獲物を生きたまま丸呑みする、という特徴を持っており、冒険者ギルドでは、Aランクに指定される危険な魔物だった。

その上、その牙には猛毒があり、どう考えても、Fランクの冒険者が戦う相手ではなかったのである。


それを知っていた狩人は、年少組が対処するには難しすぎると考えたらしく、自ら戦って倒すことにしたようだ。

この強そうな相手がトラウマになって、狩りを嫌いにならないで欲しい……。

自身のダガーに手を掛けた彼女は、そんな思いを抱いていたようである。


だが、年少組の少女たちは、ケープバジリスクの巨体を見て、唖然として固まったり、泣き出したりなど、戦意を喪失することはなかった。

そればかりか、前に出る気でいた狩人よりも先に、行動を始めたのである。


「『麻痺』するです!サキュバスを甘く見るなです!」ゴゴゴゴゴ

「ナイスサポートかもだね、マリーちゃん!今度はイブが、転移魔法で、硬い表皮と脊椎の骨を剥がすかもだよ!」ブゥン

「私の出番ですわ!」グサッ「ついでに、雷魔法をお見舞いしますわ!」ビリッ

「あ、あれ?妾の出番は?」


本来なら、その『魔眼』によって麻痺の効果がある魔法を仕掛けてくるはずのバジリスクのことを、逆にローズマリーが、サキュバスの種族特有の『魔眼』を使い、麻痺状態にして……。

そして動けなくなったところに、イブが近づき、背中の部分にある皮と、脊椎の神経を守っている骨を、いまいち使いどころのないはずの転移魔法で剥がして……。

そこに向かってベアトリクスが、愛用の細いレイピアを突き刺し、雷魔法を行使する……。


その瞬間、


ビクン!

ゆらり……

ドスンッ!


ケープバジリスクは、まるで糸が切れた人形のように、地面に伏し、そして細かく痙攣をした後で、ついには動かなくなってしまった。


すると、今にも駆け出して、ケープバジリスクの胴体を切断しようとしていた狩人が、嬉しそうに声を上げる。


「……完璧だ!凄いぞ?みんな!今日は朝からごちそうだな!」


その後で、鉄パイプを構えていた勇者も口を開く。


「同感ですね。てっきり、私か狩人様が、代わりに戦わなければならないかと思っていましたが、まったくの杞憂でした」


ただ、賢者だけは、


「(いやいや、狩人さんもレオも、基準がおかしいぞ?Fランクのメンバーが4人だけで、戦える相手じゃないだろ……)」


何か言いたげな様子だったが……。

結局、彼がそれを口にすることは無かったようである。



それから、巨大なバジリスクを解体していくと、横穴の中に30m近い巨体が繋がっていて……。

素材を剥ぎ取る部位があまりに多すぎるために、すべては持ち帰れず、仕方なく半分以上をその場に放置することにした様子の一行。

その後は、他の魔物に遭遇することも無く、狩人たちは無事にワルツたちが待つ野営地点まで戻ってきたようだ。


しかし、そこには、


「「「「…………」」」」ぐったり


魔導ランタンが置かれた机へと、力なく突っ伏すワルツたちの姿が……。

そこに、焼けた茄子のような野菜が載った皿が置いてあるところを見ると、皆、それを食べて、ダウンしてしまったようである。


「何やってるんだ?ワルツ……」


そこにいて、ピクピクと痙攣しているワルツに対し、問いかける狩人。

すると、ワルツは、突っ伏したままで何が起ったのか、その説明を始めた。


「お腹が減ったので、何か間食を取ろうと思ったんです……。野菜を焼いて塩をかけるくらいなら、料理のできない私にもできるかと思って……」げっそり


「……そのピクルスプラント、火を通すと、超すっぱくなるぞ?」


「……身をもって体験しました……」


そう口にしてから、それっきり動かなくなってしまうワルツ。

そこには彼女の他にも、口から泡を吹くヌルやユキB、それにユリアの姿があって、どうやら3人とも、ワルツと同じ目にあってしまったようだ。

なお、朝の弱いルシアだけは、手付かずの焼き茄子(?)を前に寝息を立てていたので、彼女は間食を摂らずに、眠っているようである。


「さてと……。まだ剣士は戻ってきてないようだが、料理を始めるか!」

「イブも手伝うかもだよ?」

「マリーもやるです!」

「私も是非、手伝わせていただきますわ」

「この流れ……妾もなのじゃろうのう……」


それから皆で、エプロンを身に着け……。

こうして一行は、冒険者として初めて狩った魔物の料理を、協力して作り始めたのである。

一方その頃。

ミッドエデン所属の騎士たちの一部が、ワルツたちの後を追うようにリーパの町にやって来ていた。

より具体的に言うなら、リーパの町で冒険者の登録をして、そして町を出たところである。


「なぁ、なんでここ、草が生えてないと思う?」


「誰かが抜いたからでしょう。もしかして、あれじゃないですか?ボレアスでは草むしりが流行っているとか」


「んなわけ無いだろ……と言いたいところだが、そんな感じの見た目だよな……」


「困ったっすね……。これじゃ、いつまで経ってもSランクになれないじゃないっすか……」


「お前、飛躍しすぎだろ……。まずは、堅くEランクからだ」


「だとしても、薬草が生えてないんすよ?そりゃ、道を逸れて森の中に入っていけばあるかもしれないっすけど……土地勘無いんで、危険すよね……。これじゃ、Fランク向けの依頼が達成できないっすよ……」


「だよな……」


「仕方ない。ゴブリンでも狩るか……」


「隊長。ゴブリンの討伐は、Eランク以上からです。リーパの街にあったFランク向けの依頼は、薬草の採取しかありませんでした」


「どうすんだよ……」


そして、頭を抱えるフォックストロットリーダー他、メンバーたち。

果たして彼らがEランクになれる日はやってくるのか。

彼らには、そこにあるEランクの壁が、断崖絶壁のように感じられていたようだ。


――――――――


たまには、ストレラとカノープス殿の話でも書こうかのう……。




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