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8.4-13 いばらの道13

ドゴォォォォン!!


「(フッ……。どうです?私の渾身のいちげk……えっ?だ、誰も反応していない、ですって?!)」


冒険者たちや門番の注意を引いて囮になるつもりだったにも関わらず、思い通りにならなかったために、自身の眼を疑う剣士。

森に隠れて爆発性の火魔法を行使した彼だったが、あまり魔法が得意ではない事もあってか、火力が小さすぎたようで、皆の注意を引くには至らなかったようだ。


そんな彼からは少し離れた位置に勇者がいて、唖然としていた剣士に対し、何やらハンドサインを送ってきていたようである。


「なになに?『もっと強い魔法を使え』ですって?無理ですわ……」


と、実際に口にしながら、『無理』とハンドサインを送る剣士。

すると、勇者は、残念そうな表情を見せながら、再びハンドサインを使って返事をした。


「え?『なら、もっと門番のところに近づいて、魔法を使え?あとは私がどうにかする?』。本当にやるのですの?」


『本当に?』という剣士のハンドサインを見て、首肯する勇者。

それを見て、剣士は一瞬だけ嫌そうな表情を浮かべるのだが……


「……分かりましたわ。わたくしの身は、レオに預けることにしましょう……」


『元』という名前が付いてしまったものの、今でもパーティーのリーダーである勇者の指示を、彼は大人しく受け入れることにしたようである。



ドゴォォォォン!!


「せ、先輩?!今、揺れましt」


「何度も言わせるんじゃねぇ!また今日も残業させるつもりか?あぁ?」


「なんでもありません……」しゅん



「(おかしいですわね……門に直撃させたのですけれど、中から門番たちが出て来ないですわ……)」


正門に組み込まれる形で作られていた検問所へと、火魔法を直接ぶつけられる位置まで移動した剣士。

より具体的に言うなら、正門から50mほど離れた場所にあった大きな岩の影である。


直接正門を攻撃すれば、蜂の巣を(つつ)くように、わらわらと兵士たちが出てくる、と剣士は考えていたようだが……その予想は完全に外れてしまったようだ。

そう。

彼が火魔法を正門にぶつけても、驚いたのは冒険者たちだけで、門番は出てこなかったのである。


「(何を考えているのかしら、あの門番……おっと、拙いですわ)」


岩の陰から正門の様子を伺っていると、兵士たちの代わりに、冒険者たちが大量にやってくる姿を見て、次の行動に移る剣士。

とはいえ、その場から必死になって逃げる……というわけではなく、彼は土魔法で作った地面の穴の中へと隠れることにしたようだ。


ただ、その程度のことでは、直ぐに見つかってしまうのは目に見えていた。

岩の裏を調べれば、そこに穴が開いている事など、簡単に分かってしまうはずなのだから。


……しかし、それでも、剣士が冒険者たちに見つかることはなかったようである。


ドゴォォォォン!!


剣士が穴の中に隠れた後で、爆散する大きな岩。

それをやったのは……一人のメイド姿の少女(?)だった。


「……残念ですが、犯人は取り逃がしてしまったようです……」


やって来た冒険者たちの前で、吹き飛んだ岩に向かって、蔑んだような視線を向けるメイド姿の少女(?)。

そんな彼女に冒険者たちは、当然のごとく、事情を問いかけたかったようだが……


「あいつヤバイやつだろ……」

「あぁ、俺もヤバイ気がする……」

「鉄パイプで殴って岩を爆破するとか、化けもんだろ……」


皆、彼女(?)が発する異様な雰囲気に、二の足を踏んで……。

結局、誰も話しかけること無く、全員、正門へと戻っていったようだ。


こうして隠れていた剣士は、事なきを得た(?)のである。



『レ、レオ!お前、わたくしのこと殺す気ですの?!』


『いえ。地中に逃げたことを確認した上での攻撃です。当てるつもりはありませんでした』


『わたくし、もう……このまま地中で死ぬかと思いましたわ……』


と、地中にいる剣士と会話をする勇者。

そんな2人の会話を、息を潜めながら、コルテックス製のイヤホンで聞いていたのは……


「(……さて、どうするか……)」


混乱に乗じて、検問所の中にあるクローゼットの中へと侵入することに成功した賢者である。

勇者が力任せに岩を吹き飛ばしたその瞬間、彼は爆音と振動で混乱する検問所へと、うまく入りこんだのだ。


「(中にはもっと多くいると思ったんだが……2人だけか……)」


少しだけ開いたクローゼットの扉の隙間から、部屋の中の状況を確認する賢者。

その結果、彼は、この検問所が手薄であることを確認すると……こんな行動に出た。


「(……スリープミスト!)」


自身の口に布を当ててから、そこに睡眠ガスを生じさせたのである。


ただ、不用意に魔法を行使すれば、魔力を聞き取ることの出来る獣耳持ちの者たちがいたなら、そこに不審者(けんじゃ)がいることは直ぐにバレてしまうはずだった。

それも、賢者がいたクローゼットから、兵士たちまでの距離は5メートルもないので、なおさらである。


しかし、幸いなことに、そこにいた兵士たちに獣耳はなく……。

賢者は遠慮することなく、魔法を行使したのだ。


「(さぁ、眠いだろ?遠慮するな、眠れ!)」


魔法の行使を続けながら、必死に手を動かしている門番の兵士たちに向かって、念を送る賢者。

なお、念を送っても、余計に眠くなる……ということはない。


しかし、魔法自体の効果は確実に届いていたので、若い兵士のほうが、うつらうつらと身体を揺らし始めた。

……そんな時である。


スパァァァン!!


部屋の中を、切れの良い音がこだました。


「んはっ?!」


「寝るんじゃねぇよ!顔を洗って、茶飲んでこい、茶!(くっそ、俺も眠くなってきやがったぜ……)」


「は、はひぃ?!」


壮年の兵士が、そこにあった羊皮紙を丸めて、若い兵士の後頭部を思い切り殴りつけたのである。

殴られた若い兵士が涙目になっているところを見ると、その音通りに痛かったらしい……。


それから彼は、眠そうな眼を擦りなりながら、賢者のいたクローゼットの方へと歩み寄ってくる。

クローゼットの中に仕舞われていた茶を取りにやって来たのだ。


「(拙っ?!)」


まさか、自分のところへやってくるとは予想していなかったのか、クローゼットの中で、必死になって逃げ道を探そうとする賢者。

しかし、そこに裏道があるわけもなく……。

結果、賢者は、ひとつの選択に出る。


「(勇者!助けろ!)」


その小さな声は、無線機に向けた声だった。

それは見えない電子の振動となり、光の速度で壁を突き抜け……そして勇者の無線機へと到達する。


……その瞬間だった。


ドゴォォォォン!!


上半分が吹き飛んでいるはずの大岩に向かって、勇者が再び、愛用の鉄パイプを振りかざしたのである。


……それはこれまでの比ではない衝撃を生んだ。

鉄パイプが岩に当たった瞬間、そこを中心に猛烈な火花が上がり、上空に向かって砕けた岩が巻き上がるのと同時に……凄まじい衝撃が、揺れとなって、検問所のある場所まで到達したのだ。


「うおぉ?!地震か?!」


「く、崩れますよ?!」


「逃げろ!」


「は、はひぃ!」


そう口にして、ようやく建物の中から逃げ去っていく兵士たち。

その瞬間、賢者はクローゼットから飛び出すと……勇者から預かっていた『勇者』専用の身分証を、読み取り用の魔道具へと翳したのである……。

……こうして。

大岩の横に穴を掘って隠れていた剣士殿は、衝撃に巻き込まれてお星様になったのじゃ?


……なんてことになったら、ほぼ間違いなく、エネルギア嬢vs勇者殿の戦いが勃発するじゃろうのう……。

極超音速で飛んでくる直径1200mm全長3000mmのタングステンカーバイドを鉄パイプ1本で迎撃する勇者……。

これを胸熱というのかのう……。

まぁ……そんな未来はこないはずなのじゃ。

……多分の。


さて。

今日は何の補足をしようかのう。

誰がどんな魔法を使えるかくらいは書いても良いかもしれぬが……それだけで軽く10万文字くらいは行きそうじゃから、止めておくのじゃ。

その代わり、検問所について、簡単に説明しておこうかのう。


検問所というのはのう、街に不穏分子が侵入することを防ぐだけでなく、誰が町に入ったのか、あるいは出ていったのかというのを管理したり、税金を取ったりする場所なのじゃ。

もう少し適切な単語があると思うのじゃが……どうもこの2年ほど出てこなくてのう……。

そんなわけで、『検問所』というのは、便宜的に妾がそう書いておるだけなのじゃ。

もしかするともっと適切な単語があるかも知れぬから、その場合は読み替えてほしいのじゃ?


それでのう。

リーパの町にある検問所の場合、正門の壁に部屋を作って、そこで入町の手続きをしておるのじゃ。

雰囲気としては、博物館や科学館、あるいは美術館の入り口にある受付を想像してほしいのじゃ。

まぁ、それはリーパの町に限った話ではなく、大体の町が同じような感じなのじゃがの?

例外があるとすれば、ミッドエデンの王都や、ボレアスの首都ビクセンなど、大量に人の出入りがある大都市や、小さな村くらいなものかのう。

そちらについては、機会があれば語ろうと思うのじゃ?


今日の駄文(あとがき)は……こんなものかのう。

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