8.4-11 いばらの道11
ローズマリーと名乗るサキュバスの少女の前にしゃがみ込み、そして彼女と同じ視線の高さになった後。
ユリアは少女に対し、話し掛け始めた。
「マリーちゃん?急な話で困っちゃうかもしれないけど……お姉ちゃんと一緒に住まない?」
そんな彼女の問いかけに対し、ローズマリーは即答する。
「お断りしますです!」
と口にしてから、頬を膨らませる、齢5歳くらいのサキュバスの少女。
それから彼女は、こう付け足した。
「ここでマリーは、ママの帰りを待ってるです!それに、知らない人には付いていっちゃいけない、って言われてるです!」
その言葉を聞いて、
「「「…………」」」
口を閉ざし、眉を顰める大人たち3人(+1人)。
どうやら彼女たちは、幼いローズマリーに対し、これからとあることを説明しなくてはならなそうである。
すなわち……
「……マリーちゃん。あなたのママは……もうここには帰ってきません」
……彼女の母親であるロザリアは、既にこの世界を去ってしまっていることを、である。
「えっ?ママはもうすぐ帰って来るですよ?1年経ったら、迎えに来るって言ってたです!」
「凄いですね……。1年間もここで頑張っていたのですね……」
「はいです。とーぜんです。それが諜報部隊の隊長たる者のしゅくめーです!」
「そうですか……(なんて説明すれば良いのかしら……)」
見た目よりも、しっかりとしている様子のローズマリーに対して、どう説明して良いものかと頭を悩ませるユリア。
そんな彼女には、いくつかの選択肢があった。
まず最初に、彼女の母親が死んでしまったことを素直に伝えること。
道理を考えるなら、それが最も適切ではあったが、幼い彼女の心が大きく傷ついてしまう可能性が否定できなかった。
あるいは、この場で適当な嘘を言って、とにかくこの家から彼女のことを連れ出し、母親が戻ってくるという話を有耶無耶にしてしまうこと。
言い換えれば『優しい嘘』、と言えるかもしれない。
とはいえ、いつかは本当のことを話さなくてはならないだが……。
最後は……テレサの魔法を使い、ローズマリーの頭の中から母親の記憶をすべて消し去ってしまうこと……。
おそらく3つの選択肢の中で、最も残酷な代わりに、唯一彼女の心が傷つかないだろう方法である。
その代わり、ユリアもテレサも、心に大きな傷を残してしまうことになるはずだが……。
その中でユリアが選んだのは……いや、最初から彼女は、選択肢について悩んではいなかった。
ただ、それを選ぶ時間と勇気が必要だったのである。
「……では、諜報部隊の隊長を志願するローズマリーちゃんに、私は一つ報告しなくてはならないことがあります。それを聞くのは、あなたにとって、とても大変なことかもしれませんが……あなたに、それを受け入れる覚悟はありますか?」
そう口にしながら、心の中で……自分の弱さを呪うユリア。
ローズマリーが本物の諜報部隊員になりたい、と思っているその心を利用しようとする自分自身が、彼女は許せなかったのである。
それでもユリアに、今の言い方を変えるつもりはなかったようだ。
諜報部……あるいは情報局の仕事というのは、子どもが思っているよりも遥かに過酷で……そして汚いものなのだから。
それに対し、ローズマリーは、
「んー…………」
幼いながらにも、これからユリアから飛んで来るだろう言葉の重さを感じていたようである。
だが、そんな彼女に覚悟を決めさせたのは……やはり、憧れる母の背中だったようだ。
「……分かりましたです。お聞きしますです!」
その言葉を聞いて、ユリアは一旦、眼を閉じると……深呼吸した後で、再び開き……。
そして、ローズマリーのことを真っ直ぐに見据えながら、その口を開いたのである。
「では……ミッドエデン共和国情報局局長マーガレット=ジュリアス=シャッハがお伝えします。ローズマリーちゃん。あなたのお母さんは、旧ミッドエデン王国に潜入中……名誉の戦死を遂げました。ですからもう……彼女がここへ戻って来ることはありません……」
「…………」
「……申し訳ありません。私がもっと強ければ、あんなことにはならなかったはずなのに……」
「…………」
そして、部屋の中に沈黙が訪れた。
イブもヌルもユキBも、皆が俯き、辛そうな表情を見せて……。
言い知れない重い雰囲気が、そこを包み込んだようである。
もちろんそれは、本名を名乗り、真実を口にしたユリアも同じで……。
特に彼女の場合は、血が出るのではないかと思えるほどに、下唇を噛み締めていたようだ。
……しかしである。
母の死を告げられたローズマリーの方は、驚いたように眼を見開くものの……しかし、泣くことは無かった。
そればかりか、座っていたベッドからおもむろに立ち上がると、壁にかかっていた小さなリュックを背負って……逆に泣きそうな表情を浮かべていたユリアに対し、こう口にしたのである。
「……分かりましたです。諜報部の仕事をしている以上、いつ命を落としてもおかしくない、とママは言ってたです。きっと……今日がその日だったですね。それともう一つ、ママが言っていたです。もしもその日が来たら、迎えに来た仲間に付いていきなさい、と……」
「……っ!」
ガバッ!
健気に振る舞うローズマリーの姿に、居ても立ってもいられなくなったのか、彼女のことを抱き寄せるユリア。
そんな彼女の突然の行動に、ローズマリーは最初戸惑っていたものの……。
しばらくすると、彼女は声を上げて、泣き出してしまったのであった。
◇
それからローズマリーが落ち着いて…………というより、
「お姉ちゃん……落ち着いたですか?」
「お、おかしいですね……なんで私が泣いてるんでしょうか……」ぐすっ
いつまでも泣きやまないユリアのことを、ローズマリーの方が宥めて落ち着かせてから……。
小さな諜報部隊員に対して、ヌルがこんな問いかけを口にした。
「マリーちゃん。一つ質問があります。最初、私たちに会った時、マリーちゃんは私の顔を見て、『ようやく見つけた』と言っていましたが……あれは、どういう意味だったのですか?」
その言葉を聞いて、
「あっ……忘れるところでしたです!」
ハッとしたような表情を見せてから、キッチンの方へと走り去り……そしてそこから何やら水晶のような物体が取り付けられた小物と、紙の切れ端のようなものを持ってくるローズマリー。
それを見て、ヌルが再び口を開く。
「それは……遠隔転写用の魔道具ですか?」
「はいです。2週間程前、このメッセージが急に現れたです!」
ローズマリーはそう言うと、紙切れに書かれていた文字を、ヌルたちが見えるように掲げた。
そこには、まるで象形文字のようなもので文が書かれており……どうやら暗号化されているらしい。
しかし、ローズマリーにはその解読が出来るらしく……。
彼女はそこに書かれている文章を、皆に分かるようと朗読し始めたのである。
妾は今、どうにもならない絶望を感じておるのじゃ。
……土曜日なのに温泉に行けなかったこと……ではないのじゃ?
なくもないがの?
では何故なのかというと、なのじゃ。
……他の者の作品を見て……自分の文が、駄文にすら到達できておらぬ、駄文以下の駄文でしかないことに気付いてしまったからなのじゃ……。
あれ、どうやって書いておるのかのう?
皆、まったくもって、魔法としか思えぬくおりてぃーで書いておるのじゃ。
まぁ、チートのしようがないゆえ、妾は妾の文を極めて行くしかないのじゃが……レベルの低い妾にとっては、信じがたいものを見たように感じた……そんな今日このごろなのじゃ。
そんな身内話はさておいて。
『〜DEATH』キャラを出そうかどうかと悩んで……結局出してしまったのじゃ。
まぁ、すでに、『〜DEATHわ』キャラや『鴨ダシ』キャラがおるゆえ、今更とは思うがの?
……え?『nano邪』が抜けておる?
一体、なにを言っておるのか、妾には分からぬのじゃ!
で、のう。
メッセンジャーについて、補足しておこうと思うのじゃ。
ルーペなどを使って太陽光を集めて、紙の表面に焦点を集めると、表面が黒く焦げたり、燃え上がる事があるじゃろ?
あれの応用で、水晶の下に紙を置いておくと、遠隔地から飛んできた光魔法によって、その紙に文字を焼き付ける、というものなのじゃ。
紙の充填が人力なところを除けば、FAXと同じものと言えるかもしれぬのう。
さて……。
そろそろ駄文は切り上げて、いのべーしょんのきっかけでも考えながら、次の話でも書くとするかのう……。




