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8.4-10 いばらの道10

「…………」ぱたぱた


「(なんでだろう……。なんかイブの立場が、危うくなるような予感がするかも……)」ぷるぷる


ローズマリーと名乗ったサキュバスの少女に連れられる形で、城塞都市リーパにある諜報部の支部……もとい、彼女の自宅へとやって来た、ヌルたち3人。


そこへとやってくる同時に、ローズマリーは3人分のお茶を入れると……。

3つしか無い椅子を客人に譲って、自身はベッドの上で正座をし、尻尾を嬉しそうに振り始めた。


そんな彼女の様子を見て……イブは何故か危機感を感じ取っていたようである。

とはいえ、命に関わる危機感……というわけではなかったようだが。


「(ねぇ、ヌル様?)」


「(なんですか?)」


「(失礼かもだけど……本当にこんな小さな子が、諜報部隊員(ちょーほーぶたいいん)かもなの?)」


と、どこからどう見ても、自分よりも年少としか思えないサキュバスの少女を目の当たりにして、小さな声でヌルに確認を取るイブ。


するとヌルは、少しだけ難しそうな表情を浮かべながら、こう返答する。


「(サキュバスという種族は、見た目と実年齢が一致しない種族です。一説には、エルフの血が混じっている、という話もあります)」


「(ふーん……)」


「(ですから、今から、本当に我が国の諜報部隊員なのかを確認してみようと思います。私も、全員を把握してるわけではないですからね……)」


そう口にすると、イブからサキュバスの少女の方へと視線を向けるヌル。

そして彼女は、真剣な表情を浮かべて、少女に対し問いかけた。


「ローズマリー……と言いましたね?あなたが本当に我が国の諜報部隊員かを確認したいので、幾つか質問してもいいですか?」


「もちろん良いですよ?」


と、ヌルの質問に対し、尻尾を振りながら首を傾げて、返答するローズマリー。

その際、ツヴァイ(ユキB)が、なぜか急に鼻を押さえ始めたようだが……理由は不明である。


「では行きます。……私の名前は?」


「シリウス様です!」


「……どうやら、人違いだったようですね」


「「「えっ?!」」」


と、最初の質問から躓いてしまったのか、諜報部隊員ではないと即断したヌルの言葉に、耳を疑ってしまうその場の3人。

なお、正しい解答は、ボレアス式の敬礼をした上で、ミドルネームの『ヌル』を抜いた『ユークリッド=シリウス』を口にすることである。


ローズマリーが諜報部隊員ではないと即断したヌルは、しかしそれ以上、彼女に対し、諜報部隊員であることの確認をすることなく……。

部屋の中を見渡して、そこが間違いなく諜報部の支部であることを確認してから、ベッドの上で泣きそうな表情を浮かべていたローズマリーに対して、別の質問を投げかけた。


「もしかしてあなた……部隊員の誰かのお子さんでしょうか?確か、この町の出身は……」


そう口にしてから…………なぜか固まって、その続きを口にしなかったヌル。

そればかりか、みるみるうちに、彼女の表情は青くなっていき……。

そして終いには、


「ご、ごめんなさい!」


どういうわけか、急に謝り始めた。


「ふぇ?」


そんなヌルの行動が理解できなかったのか、目尻に涙を蓄えたまま、再び首を傾げるローズマリー。


するとヌルは、何を思ったのか、ワルツに渡されていた無線機を取り出すと……その向こう側へ向かって焦り気味に、こう口にしたのである。


「ゆ、ユリア!ヌルです!今すぐ、リーパの町に来て下さい!」


それから数秒後、


『な、な、な、なんですか?!何かあったんですか?!まだ悪いことは何もしてないですよ?!』


とミッドエデンにいるだろうユリアの声が返って来る。


「悪いとか悪くないとかは関係無いです!前諜報部隊長の……ロザリア(ロザリー)の娘が、見つかりました!」


『えっ?!ちょっ!?』


その言葉を聞いた瞬間、無線機の向こう側でバタバタと騒がしい音を立てながら、どこかへと移動する様子のユリア。

どうやら彼女は、必死になって、こちら側に来る方法を探し始めたようだ。



……そして、3分後。


ガチャ……


「ほんと、すみませんコルテックス様……」


「別に良いですけど〜、帰りは違う方法で帰ってきてくださいね〜?1回、使う度に、相当量の魔力の充填が必要になりますし、魔道具の指輪はこれ1つしか作ってないのですから〜。さて〜、暇なエンデルスから、魔力を奪取してきますかね〜……」ガチャリ


コルテックス製の『魔導どこで○ドア』を使って、ユリアはリーパの町にある諜報部支部へとやって来た。


そんな彼女は、そこにいる元上司のヌルに挨拶をするより先に、ローズマリーを見て……


「んな……まさかとは思いましたが……隊長……娘さんがいたんですね……」ぐすっ


かつて自身が所属していた部隊の隊長のことを思い出したのか、口を押さえて涙を流し始めた。


そんな、急に現れて、急に泣き出したサキュバスに対し、


「えっとですね……悲しいときは、楽しいことを思い出すですよ?そうすれば、心が温かくなってくるです!」


ベッドの上に座ったままのローズマリーは、そんなことを口にして、ニッコリと微笑んだ。


すると、ツヴァイが……どういうわけか、鼻から真っ赤な液体を流しながら、急にこんなことを言い始める。


「ぶはっ……ぬ、ヌル姉様……!もう、辛抱なりません……!抱っこしていいですか?!」ぷるぷる


「はい?何を言っているのですかツヴァイ?あなた、一体、何を考えて……って、なんですか、その鼻血……」


「(気のせいかな……。つゔぁい様からロリコンと同じ気配がするかも……)」


と、何かを感じ取って、目を細めるイブ。


こうして、リーパにある諜報部支部を、カオスな雰囲気が急激に包み込んでいったのである。



さらにそれからしばらく経ち……そして皆が落ち着いた頃。

鼻に詰め物をしたツヴァイによって、クシャクシャに撫で回されていたローズマリーに対し、ユリアは事情を問いかけ始めた。


「えーと、ローズマリーちゃん……マリーちゃんって呼んでも良い?」


「はい、構わないですよ?」


「じゃぁ、マリーちゃん。マリーちゃんのお母さんは、ロザリー……じゃなくて、ロザリアって名前の人で合ってる?」


「はいです」


「そう……。じゃぁ……マリーちゃんは、お母さんからここを任されてた、ってことでいいかな?」


「はいです。マリーは、頑張って、諜報部隊のトップになるですから!」ゴゴゴゴゴ


「う、うん……頑張ってね……。それで次の質問なんだけど……」


そう口にすると、ユリアは少しだけ難しそうな表情を浮かべた後で、こう口にした。


「……お父さんはどこ?」


その質問に対し……


「おとうさん?おとうさんって何ですか?」


と、『父』というものが分からない様子で、首を傾げるローズマリー。

どうやら彼女に父親はいないらしい。

恐らくは彼女が小さな頃に他界したのだろう……。


それを聞いて、ユリアの頭の中に、一つの疑念が生じたようだ。


「ごめんね。じゃぁ、別の質問だけど……マリーちゃんは、もしかして……ずっとここに一人で住んでたの?」


その質問に対し、


「はいです!諜報部隊員にサバイバル能力は必須です!それに、ママが帰ってくるまで……マリーはここをキレイにするという任務がありますです!」


と元気よく即答するローズマリー。

だが、その一言は、その場にいたものたちの心に、容赦なく突き刺さったようだ。


「も、もうしわけないです……」

「うぅ……」ぐすっ

「そうかもなんだ……」


と、暗い表情で、口々に呟くヌルとツヴァイとイブ。


ただ、ユリアだけは、3人とは異なる様子だった。


彼女は、何かを決意したような表情を浮かべると、暗いオーラを纏っていたヌルに対し、こんな質問を口にしたのだ。


「……ヌル様。この子……私が預かってもよろしいでしょうか?」


「えっ……?」


「親になったことのない私が、この子の親の代わりを務められるとは言いません。でも……見て見なかったふりをことはできない……。それに、このくらいの歳の子には、これから色々と大切な教えなくてはいけないんです。もちろん、教会に預けるという方法もあるかもしれませんが……でも、この子は見知らぬ他人の子どもではありません。ですから……私がこの子を預かって面倒を見ます」


そんなユリアの言葉に対し、


「……私にはそれを決める権利はありませんよ?ユリア。あなたとローズマリーちゃんとの間で決めるべきことだと思います」


ヌルは干渉せず、ユリアとローズマリーに任せることにしたようである。


それからユリアは微笑むと……自分よりもずっと小さなサキュバスに対して、問いかけ始めたのだ。

まともに文も書けぬのに、また一人、仲間が増えた……と言われないかと、心配しておるのじゃ。

じゃが、展開的に、必要な人物じゃったからのう……。

しかたあるまい。


というわけで、今、余裕がなくてカツカツゆえ、あとがきは短く済まさせてもらうのじゃ?

具合も悪いしのう……。

……この時期の雨は苦手なのじゃ……。

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