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8.4-09 いばらの道9

「他に何か気になることでもあったのか?」


引き続き、難しそうな表情を浮かべていたテレサに対し、問いかける狩人。

するとテレサは、考えていたもう一つの疑問の方も口にし始めた。


「先程、狩人殿は買い物をしたじゃろ?」


「あぁ、今夜の晩御飯をな」


「うむ。その際、貨幣を使ったと思うのじゃが……そのコインはミッドエデンに流通しておるもの使ったのではなかろうかの?」


「そりゃ、金を払わないと代金を支払えないからな」


「妾が疑問に思ったのはそこなのじゃ。まぁ、この町に入った時、入町税を払った瞬間から考えておったのじゃがの?」


「どういうことだ?」


と、テレサが何を言わんとしているのか分からなかったのか、首を傾げる狩人。

それはもちろん、ベアトリクスも例外ではなかったようで、彼女も不思議そうな表情をしていた。

どうやら2人とも、全世界どこでも同じ貨幣を使えて当然、と考えているようだ。


「いやの?国ごとに貨幣が異なっておって当然なはずなのに、なぜ同じものが使えるのか、と思ったのじゃ。2人とも、それを疑問に思ったことは無いかの?」


「そんな話は……聞いたことも無いし、考えたこともなかったな……。ベアトリクスはあるか?」


「いいえ?私も無いですわ。というより……そもそも、お金というものを使ったことが無かったですからね……」


「「…………」」


「……2人共揃って……どうしたのですの?」


「いや……なんでもない……」

「うむ、何でもないのじゃ……」


「変な2人ですわね……」


根っからの貴族だったためか、生まれてこの方、貨幣を使って売買をしたことが無かったらしいベアトリクス。


そんな彼女に付き合っていると、いつまで経っても話が進まないと考えたのか……。

テレサは、とりあえずそれを聞かなかったことにして、自身の話を進めることにしたようだ。


「それでのう。妾も経済学者ではないゆえ、詳しいことは言えぬが……お金の価値というものは、国ごとに異なっておって(しか)るべきなのじゃ。世界には、強国だったり弱国だったり、様々な国があって、当然国ごとで民の所得は変わってくるはずじゃからのう。例えば……月平均所得が多い国と、少ないの国があったとするじゃろ?その両国で、品々が同じ金額で売られているとするなら……所得の低い国の民たちはやっていけないはずなのじゃ。品が高すぎて買えぬはずじゃからのう。あるいは低所得の国の方を基準にして考えるなら、富国側の民たちは、相当に豪勢な暮らしを送っておるはずなのじゃ。じゃが……少なくとも、妾たちが見てきた、ミッドエデンも、オリージャも、そしてボレアスも、どの国も生活水準は同じくらいなのじゃ。2人は、そのことに……違和感を感じぬかのう?」


その問いかけに対し、


「いや……これまで考えてことも無かったな……」


「えぇ……私も同じですわ(これが私とテレサの差……)」


と、驚いたような表情を浮かべる狩人とベアトリクス。

経済に関する事前知識がなければ、少々理解に苦しむかもしれない話だったが……どうやら、小さい頃から英才教育を受けてきた2人には、部分的かも知れないが、テレサの言葉が理解できたようである。


「でも、テレサ?それと貨幣の話とは、直接関係しないのではなくって?」


「いやの?そんなことはないのじゃ。国と国との経済的な格差を、見かけ上、無くす方法として……国ごとに、その国だけで使える貨幣を作って流通させる、という方法があるのじゃ。そうすれば、国家間の貧富の差と国内の経済を切り離せて、民の暮らしを保証できるからのう。じゃが……見る限り、この世界には、そういった機構が存在しないようなのじゃ。これは計算上、ありえないことなのじゃ?……全世界が一つの経済システムを作って、経済活動の差を吸収するような仕組みが存在しない限り、の……。それについては分かってもらえるかのう?」


「少し難しいが……つまりあれだろ?例えば、ミッドエデンの王都みたいに、人がたくさんいて、発展しているところばかりにたくさん金が集中して、ほか小さな町からは逆に金が消えていく……。その結果、中央ばかりが富んで、地方が疲弊していく、ってことだろ?なのに、なぜかよく分からないけど、実際は金が一箇所に集中しない……そんな感じか?」


「妾が言いたいこととは少し違うかもしれぬが……それを国同士のやり取りに拡張すれば、同じような感じかもしれぬのう。ちなみに、国の中のお金の流れを言うなら、国が発注する公共事業という名目で、中央から地方に向かって資金の還流があったりするのじゃぞ?以前、サウスフォートレスに付いた、市壁補修用の特別予算などが、それに当たるのじゃ。(たまにどこかの誰かが、無駄遣いが云々と騒ぎ立てて、国の経済活動の動脈とも言えるソレを遮断して、地方が壊死したりするんじゃがのう……)まぁ、それは置いておいてなのじゃ。ホント……一体誰が、どうやって、国家間に流れる資金の再分配をしておるのかのう……」


「んー、ミッドエデンの場合は、コルテックスがうまくやってくれてそうだけど、国同士のやり取りについては……分からないな……」


「そうなのじゃ……。他にも、国家間における貨幣価値の保証や、造幣は誰がしておるのか、という疑問もあるのじゃが……まぁ、ここでどんなに考えても、答えは見つからぬじゃろうのう……」


「今度、コルテックスに聞いてみるか……」


と、透明なスライムのような物体を思い出しながら、そんな呟きを口にする狩人。

どうやら彼女は、テレサの指摘によって、何故今までそのことに気づかなかったのか、改めて疑問に思ってしまったようだ。


一方、ベアトリクスの方は、というと……


「(す、凄いですわ、テレサ……。いつかあなたのような存在になりたいと思っていましたけれど……道は険しそうですわね……。絶対に諦めませんけど!)」


どういうわけか、眼に炎のようなモノを宿らせて……テレサのことを凝視していたようである。


なお、そんな彼女の視線に気付いて、テレサがどう思ったのかについては……省略する。



一方、その頃。


「……随分と長いこと来ていなかったので、支部のある場所を忘れてしまいました。ツヴァイは場所を覚えていますか?」


「あの……ヌル姉様?私、ここに来たこと自体、一度も無いのですが……」


「え゛っ……」


ヌルとユキB(ツヴァイ)、それにイブの3人は、リーパの町の中で迷っていた。

そんな彼女たちが向かっていた先は、ボレアス帝国所属の諜報部隊がこの街で根城にしているという建物……のはずだった。

だが、数十年ほど来ていなかったこの町のどこに目的の建物があるのか、道案内をしていたヌル自身が思い出せず……。

結果、3人は、それほど大きくはない町の中を、ただひたすらにグルグルと回っていたようだ。


それから1時間以上、歩き続け……。

終いにはヌルが泣きそうな表情を浮かべ始めた頃……。


「あの……」


不意に3人は、イブよりも更に小さな少女に話しかけられた。

見た目はこの町の子ども、と言った雰囲気である。


そんな彼女は、どこか遠慮気味な様子で、彷徨っていた3人の中で最も背の高かったヌルに対して、こう問いかけた。


「まさかとは思いますが……あなた様は、シリウス様でございますですか?」


その言葉に、


「い、いえ……」


「「えっ……」」


と、思わず否定した様子のヌルに対し、微妙そうな視線を向けるツヴァイとイブ。

どうやら2人とも、ヌルがその背中に背負っている国章と、その鎧に、何か猛烈に言いたいことがあったようだ。


しかし、少女の方は、ヌルのその否定の言葉を聞いても、正反対の結論にたどり着いたようである。


「し、シリウス様!ようやく見つけたです……!」がばっ


そう口にしながら、ヌルのラストネームを叫びつつ、彼女に抱きつく小さな少女。

すると次第に、少女の髪と肌の色が変わって……ついには背中から黒い翼が現れた。


「サ、サキュバス?!ということは……」


と、驚きの色半分、安堵の色半分と言った様子で呟くヌル。

そんな彼女に、少女は言った。


「はい!わたし、諜報部隊のローズマリーといいますです!」


そう言って満面の笑みを浮かべる少女。

どうやらヌルたちは、目的地にたどり着くための重要なヒントを持っているだろう人物と、ようやく会うことに成功したようだ。




マリー嬢は、冷花殿とキャラが被っておるのじゃ……。

まぁ、方向性はまるで違うのじゃがの。

……許せ!なのじゃ。


まぁ、そんなことはさておいて、なのじゃ。

今日はこれから、明日の分も書かねばならぬのじゃ。

明日は凄まじく、帰りが遅くなるはずじゃからのう……。

しかも具合が、すこぶる悪いのじゃ……。


というわけで、駄文(あとがき)はここまで。

あでゅー、なのじゃ!


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