8.4-08 いばらの道8
一方、その頃。
狩人とテレサ、それにベアトリクスの3人は、食事の買い出しと宿屋の確保をするために、町の中を歩いていたようである。
「冒険者か……。一度、なってみたかったんだよ。楽しみだ!」
「あら、奇遇ですわね?狩人様。私も楽しみですのよ」
「令嬢生活を送ってたら、絶対に冒険者になんて、なれなかっただろうからな」
「……気のせいじゃろうか……。ベアと狩人殿の姿が、何処か被って見えるのじゃ……」
そんなやり取りを交わす元令嬢(?)の3人がやって来ていたのは、リーパの町にある小さな市場だった。
そこには、ボレアスの中でも温かいこの地域でしか取れない農作物や魔物の肉が並んでいて……。
狩人は、そこにあった品物から、これからの旅で出会うだろう見知らぬ魔物の姿を想像しつつ、晩御飯の食材を買い込んでいたようである。
今日は宿に泊まるというのに、彼女は自炊する気満々だったのだ。
そんな狩人は、早速、大好きな肉に眼を付けたようである。
「ほう?この霜降り肉は……ボア系の肉か?」
「えぇ、今が旬のプロカーミボアの肉でさぁ。どうですお嬢さん?安くしとくんで、買いやせんか?」
「いくらなんだ?」
「(100)グラム、560ゴールドでさぁ」
「ほう……結構するな」
と、一般的な肉が、グラム88ゴールド程度で売っていることを考え、肉屋の店主に向かって、率直な感想を口にする狩人。
ただ、肉の霜降り具合を考えるなら、妥当な金額と言えなくもなかったようだ。
とはいえ、適切な市場価値については、狩人にも分かり兼ねていたらしく……。
彼女はとりあえず値切ることにしたようである。
そんな彼女の頭の中は、今日もワルツの好物(?)を作ることで一杯になっているに違いない。
「もう少しどうにかならないか?」
「そうだな……買ってもらう量が多けりゃ、相談に乗ってもいいでっせ?」
「じゃぁ、とりあえず……これだ」
と言って、指を1つ立てる狩人。
それを見て、肉屋の店主はこう答えた。
「1kg……なら5分引きでさぁ」
対して狩人は首を振りながら重さを告げる。
「いや、10kgだ」
「じゅ、10kg!?」
「あぁ。うちの連中、食べ盛りが多いからな。もちろん、安くしてくれんだろう?」
「そりゃ安くも出来るが……お嬢さんのその格好、『狩人』ではないんですかい?自分で狩りに行ったほうが早んじゃないですかねぇ?」
「今から狩りに行ってたんじゃ、遅くなるからいいんだ。それに、仕込みもしなきゃならないしな」
「そうですかい。じゃぁ……3割でどうでぇ?」
「4割……」
「……3割5分」
「……まぁいいか。じゃぁ、それで頼む」
「しめて……36400……ええい!35000ゴールドで良いやい!」
「すまんな。ひー、ふー、みー……はい、35000ゴールドだ」
「……確かに。少し待っててくれ」
そう言うと、屋台の後ろの方に移動する肉屋の店主。
そして戻ってきた彼の手には、注文通り10kgの高級肉が入った、紙の包みが載っていたようだ。
◇
それから、上機嫌な様子の肉屋の店主に見送られてから。
ベアトリクスが、関心したように口を開く。
「凄いですわ、狩人様。半値近くまで値切ってしまうなんて……」
「いや、安くしてくれるって言うから、聞いてみただけだ。まだ値切っている内には入らないぞ?」
「えっ?」
「値切るっていうのは、こんなモノじゃないさ。今季は良い魔物が沢山捕れたとか、肉の色が悪いとか、他の店だともっと安かったとか……商品に適当な理由や言いがかりを付けて、もっと安くしてもらうことなんだ。だから、今回みたいに、相手が最初から安くしておくって言ってて、割り引いてもらったのは、まだ値切る内には入らないな」
「そ、そうだったのですわね……」
と、戸惑い気味に相槌を打つベアトリクス。
なお、言うまでもないことだが、『狩人』の姿をした狩人だからこそ出来ることであって、もしもこれがワルツなら、逆に割増料金を取られていた可能性も否定できなかったりする。
まぁ、それはさておいて。
それからベアトリクスは、腕を掴んで離さなかったテレサへと、その視線を向けた。
どうやら彼女は、試しに自分が夕食を作って、テレサに食べさせてみよう、などと考えたらしい。
だが、何を作って良いのか分からず、彼女はテレサに何が食べたいかを聞こうとしたようである。
なお、ベアトリクスは、人生で一度たりとも料理をしたことはない……。
そんな彼女に、ターゲッティングされたテレサは……しかし、視線が向けられていることに気づかず、どういうわけか難しい表情を浮かべていたようだ。
それは、ベアトリクスにガッチリと掴まれた腕の感覚が、徐々に無くなり始めていたから……というわけでは無さそうである。
「テレサ?どうしたのですの?」
「うむ……この市場を回っておって、1つ……いや、2つほど気になることがあっての」
「気になる……こと?」
見える景色が真新しい事だらけで、少々浮かれ気味だったベアトリクスは、テレサが何故表情を曇らせていたのか分からず、頭を傾げてしまった。
自分が気付いていないことに、テレサは気付いている……。
それが悔しかったのか、それともテレサに近づきたい一心だったのか……。
それからベアトリクスは、周囲に向かって視線を飛ばし、その場に異変がないかを探し始めたようだ。
だが、テレサが気になっていたことは、何も直接的に見える異変だったわけではなかったようで……。
ベアトリクスが気づく前に、テレサはその場にあった屋台群を一瞥してから、口を開いた。
「今、ボレアスは、食糧難に陥っておるはずなのじゃ。とある事情から、迷宮産業(?)が壊滅的なダメージを負って……それと同時に、広大な畑や備蓄も失ってしまったからのう。じゃが……ここの町に並んでおる食材の品揃えは、随分と豊富な様子で……妾が聞いておった話と、少々矛盾しておるような気がしなくもないのじゃ。もちろん、全土が食糧難というわけではないはずじゃが……それなら物資の分配があっても良いように思うのじゃ?(まぁ、理由など、大体決まっておるじゃがのう……)」
「ボレアス……そんな大変な事になっていたのですわね……」
「あぁ。今、ここにはいないが、エネルギア……ミッドエデンの大型飛行艇の中に、大量の食料が積んであって、私たちは、それをボレアスに届けるところだったんだ。あ、そうそう。あらかめ言っておくけど……ならどうして飛んでいかないんだ、って質問は聞かないでくれよ?これには色々と事情があるんだ……」
と、テレサの代わりに、自分たちの旅の目的を簡単に説明する狩人。
ただ、事細かに説明することはなく……。
どうやら彼女は、エネルギアを使って飛んでいかないその説明を、原因の一つを担っていたテレサに任せることにしたようだ。
だが……
「うむ…………」
テレサは何かを考えることに忙しいようで、狩人の視線には気付いていなかった。
どうやら彼女は、2つ目の疑問について、その頭を悩ませているようだ……。
……いや、別に、そんなことで頭は悩ませぬがの?
もっと頭を悩ませねばならぬことが、山ほどあるのじゃ……。
そう……この世界の技術は、誰も気付いておらぬだけで、あいでぃあといのーべしょんに満ち溢れ……いや、なんでもないのじゃ。
まぁ、そんなことは置いておいて、なのじゃ。
10[kg]の肉……そんなに、誰が食べるのか、と、書いた後で思わなくもないのじゃ……。
余ったら……最悪、残飯処理係の飛竜が処理するかのう。
もしかすると、ロリコンたち辺りが、無理して食べるかもしれぬのう。
ちなみに、最初の案では40[kg]だったのじゃ?
じゃが、流石にそれはありえぬという結論になって、1/4まで下げたのじゃ。
頭が固いゆえ、40[kg]の肉をどうやって合理的に処理するか、考えられなくてのう……。
というか、1食を超える量の肉を買うというのは……毎朝狩りに出掛ける狩人魂が許さないじゃろうのう……。
あと、何か書いておく駄文はあったじゃろうか……。
プロカーミについては、敢えて省略するのじゃ?
別に、真新しい意味を持っておるわけでもないからのう。
うむ。
無いのじゃ。
というわけで、今日も駄文だけであとがきを埋めて、妾は退散するのじゃ!




