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8.4-07 いばらの道7

「いやー……一時はどうなるかと思ったわよ。検問所で、みんな、身分証のカードを持ってないって言ったときのあの門番の表情。今、思い出しても、ヒヤヒヤものだったわね……」


「でも、お姉ちゃん。ヌルちゃんのこと……ちょっと酷く言いすぎじゃないかなぁ?」


「人間じゃない……。人間じゃ……ない……」


「……そ、そうね。今度はもう少し、違う方法を考えるわ……」


町の検問所にたどり着いたところで、全員が身分証を持っていないことを門番に告げた際、再び怪しまれそうになって、とっさにヌルを使った言い訳を口にしたワルツ。

その結果、ヌルの心は深く傷付き(?)、彼女の身体からは、冷気と異なる濃い青色のオーラが染み出していたようである。


「ごめんなさい、ヌル。でも、お陰で助かったわ」


「い、いえ。悪意も他意も無いことは分かっていますし、実際、私は人間じゃなくて……魔族ですから……」ずーん


「うっ……(もしかしてヌルって……人間になりたかったのかしら?)」


ワルツはそう考えるものの……ヌルが悩んでいる理由は、それとは異なるものだった。


というのも、『人間』という言葉は、『魔族』という言葉と対を成して、住んでいる領域を指すだけでなく……『ヒト』という種族を全体を指す言葉でもあったのである。

そのためヌルは、自分が『ヒト』ではないと言われた気がして、落ち込んでしまったのだ。

その上、ワルツの言葉は、ヌルにとって特別な意味を持っていたので……彼女は余計にダメージを負ってしまったようである。

まぁ、厳密に言えば、ヌルは自ら人造人間(ホムンクルス)になって、寿命という(しがらみ)から開放された場所にいるので……人間でないといえば、確かに人間ではないのだが。


それはさておいて。


「とりあえずは、こうして町の中に入れたわけなんだけど……」


そう口にして、町の中へと視線を飛ばすワルツ。

そこには四方を高い石の壁に囲まれた町の風景が広がっていて、ミッドエデンにある城塞都市と同じように、所狭しと建物が建てられていた。

最初に自分たちを守る壁を立てて、その中に町が発展していった結果、すぐに飽和状態に陥った……そんな見た目である。

とはいえ、ボレアスの中でも最南端と言っても過言ではない辺境の町なので、これ以上発展することを考えなくても十分なのだろう。


そんな町並みは、木造建築の建物が多かったようである。

時には雪がぱらつくというこの地方においては、熱伝導性の高い石造りの建物よりも、断熱性のある木造建築のほうが好まれているらしい。

ただ、この町には砦の役割もあったので、火矢などに対する耐火性を増すためか、家々の壁は防火性の真っ黒な塗料で覆われているようだ。


そんな町並みの中を一行は、ワルツを先頭に8人ほどで歩いていたわけだが……


「まず、どこに行きましょうか?」


行き先をどこにするかで、迷っていたようである。

ボレアスの状況を確かめるためにこの町にあるという諜報部の支部に向かうべきか、先に冒険者として登録すべきか、あるいはシラヌイの足取りを探すべきか……。

ワルツはそんなことを考えていたようだが……


「お腹、減ったね……」

「これから先、急に冷えてくるので、防寒着を調達する必要もありますね」

「この先、どんな魔物が出るのか、調べておきたいよな……」


その他にもやることは、山ほどあったようである。


「やらなきゃなんないこと、多いわね……。じゃぁ、とりあえず、分かれて行動しましょうか」


「私、お姉ちゃんに付いてく」

「私もだ」

「イブも行こうかな」

「妾もなのじゃ?」

「テレサが行く所、どこまでも付いていきますわよ?」

「せっかくボレアスに来たのですし、私が案内しましょう」

「……え?全員で、ワルツ様に付いていくのですか?では私も……」


「みんなで付いて来たら意味ないじゃない……」


皆、分かれて行動したくないのか、あるいは他に理由があるのか……。

全員が一緒に付いてくると言い出したことに、ワルツは溜息を吐いた。


しかし、それでは流石に非効率が悪すぎたので……。

彼女たちは、個別に登録が必要な冒険者ギルドを除いて、先にその他の用事を分担して片付けることにしたようだ。


なお、そこにはいつも通り、勇者たちは含まれていないかったのだが……この時、彼らが何をしていたのかについては、また後ほど。



それから皆と分かれて、ワルツとルシアの2人がやって来たのは……


「凄いよ、お姉ちゃん!クマさんみたいな服があるよ?」


「へぇ、この世界にもクマがいるのね……。きっと背中からは触手が生えているんでしょうね……」


「えっ?クマさんって……触手なんて生えてないよ?」


「えっ?この世界の魔物なのに、触手、生えてないの?」


「えっ?」


「えっ?」


……そんなやり取りの通り、これから先、雪が降り積もっていて、厳しい寒さに襲われているだろうボレアス国内を温かく進むために、防寒着を買おうと服屋へとやって来たのである。


そこにはルシアが言った通り、頭の先から爪先まで、真っ黒い毛に覆われた、まるで()()()()のような防寒着があった。

恐らくは、熊のような魔物からそのまま皮を剥いで作った防寒着なのだろう。

そこには他にも、魔物の皮を使って作った防寒着が多く飾られており……どうやらボレアスでは、こうした魔物の皮を使った防寒着が一般的に着られているようだ。


「なるほどね……。これだもん、魔物の素材が重宝されるわけだわ……」


防寒着だけでなく、もふもふな毛で覆われた靴や、登山に使いそうなピッケルにまで、魔物の素材が数多く使われていて……。

ワルツはこの世界における魔物の素材の重要性について、再発見したようである。


それについては、ルシアも同意見だったようだ。


「うん。私もこんな魔物のキグルミみたいな服がたくさんおいてあるの……始めて見た」


「まぁ、そうよね。ミッドエd……私たちが住んでたところって、そんな寒くならないし、最近はコルテックスのおかげ(せい)で、随分と工業製品が流通してるしね」


と、2人でそこにあった魔物の素材を基調とした服を見て、感嘆の声を上げながら、全員分の防寒着を選んでいくワルツとルシア。

通常、ワルツは、ルシアの長い服選びに、できるだけ参加しないようにしていたが、今回に限っては彼女も積極的に参加していたようである。

選択肢が少なかった上、ルシアではサイズが選べなかったということもあったが、自分も服選びに参加すれば、苦痛には感じないはず……そう考えたらしい。


まぁ、それも1人分を決めるのに、1時間以上掛かることに気づくまでの話だったようだが……。

そろそろのう。

勇者たちのことについて、もう少し詳しく書いてみようかと思うのじゃ。

まぁ、何をどう書けば良いのかについては、まだ考えておる最中なのじゃがの?


とは言っても、大筋は考えてあるのじゃ?

問題は……どうすれば勇者たちのことを、勇者たちらしく描けるか……そこなのじゃ。

剣士殿とロリコンに関しては、どうにかなりそうなのじゃが……問題は他の3人なのじゃ……。

影の薄い彼らのあいでんてぃてぃーを考えるために……いくつか、サイドストーリーでも考えてみようかのう……。

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