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8.4-06 いばらの道6

「おい!そこの馬車!乗ってるやつは、全員、表に出ろ!」


「……よく考えたら、こっち側から来る馬車なんて、人間側の領域から来た連中だけよね……」


「お姉ちゃん?いっその事、転移魔法で吹き飛ばしちゃう?」


「……悪くないわね」


と、数十名の兵士たちに囲まれつつあった馬車の中で、そんな過激なやり取りを交わすワルツとルシア。

なお、言うまでもないことだが、それはルシアなりの冗談である。


すると、当然の流れ、と言うべきか……


「ここは私が出ます」


ボレアスの本来のトップであるヌルが、おもむろに立ち上がると、馬車を降りていった。

どうやら彼女は、やってきた兵士たちを説得するつもりらしい。


……とはいえ、


「……貴様ら。この馬車が、誰の馬車と思っての狼藉か……!」ジャキーン


ボレアス式の説得だったようだが……。


「あーあ。死んだわね、あの兵士たち……」


「お姉ちゃん……。このまま見てるだけだったら、本当に死んじゃうと思うよ?」


「……仕方ないわね」


そう口にすると、ホログラムの姿を消すワルツ。

それから彼女は、背中に大きなボレアスの国旗をはためかせたヌルと、そんな彼女を見て後ずさりを始めた兵士たちの間に、


ブゥン……


と、その姿を見せた。

ただし、最近お気に入り(?)の黒狐娘の姿ではなく、青白い髪色をした雪女のような姿になって……。


それから、ワルツは何を思ったのか、こんな言葉を口にする。


「はいはい。ダメよ?ヌr……お姉さま?せっかくここまで来たんだから、兵士さんたちの言う通りにしましょ?」


「ワ、ワルツ様……え?おね…………え?」


「いいからいいから」


と言って、何重かの意味で驚いていたヌルが握っていた剣を、重力制御システムを使い、収めさせるワルツ。


それから彼女は、その場にいた兵士たちに対して、こう口にした。


「すみません。さっき魔物に襲われたばかりで、ウチの姉、気が立っていたみたいで……兵士さんたちのことを、盗賊か何かと勘違いしたみたいです。それで……私たちに何かご用でしょうか?」


突然現れて、低姿勢な様子で質問する彼女の姿は、その場の者たちの眼に、転移魔法を使って現れた魔法使いのように見えていたようだ。

結果、ワルツが急に現れたことについては、誰も気にした様子は無く、相手側の兵士――その中でも、リーダー格の人物から、こんな言葉が富んできた。


「そうか、それは災難だったな……。だとしても、だ。一つ、()せん事がある。お前たち、なぜそちらの方角からやって来た?実は人間側の者たちではないのか?」


と、そこに居たヌルが何の者なのかを知らないのか、ボレアスの国旗が描かれたマントを身に付けた彼女のことを見ても、特に反応を見せない兵士。

まぁ、ここはボレアスの中でも、辺境中の辺境のような場所なので、自国の皇帝の顔を知っていなくても当然なのかも知れないが……。


ただ、ワルツにとって、そのほうが好都合だったようだ。


「人間?いえ、ただ道に迷ってただけです。というか、ウチの姉を見て『人間か?』は無いですよ……。ボレアスの国旗をマントに書くくらい国を愛している雪女が、人間なわけ無いじゃないですか……」


「それもそうか……。よし、通っていいぞ」


「え?あ、はい……(そんなんでいいの?ザルね……。せめて馬車の中を(あらた)めるとかすればいいのに……っていうか、勇者たちの馬車なんて、完全に見てないし……)」


と、存外に説得が楽だったためか、通過を許す兵士に対し、内心で呆れるワルツ。


ちなみに、勇者たちの馬車は、彼らの持つ魔道具によって、仲間以外には認識しにくくなっているので、兵士たちはそこに2台目の馬車がいる事自体に気付いていなかったりする。

それが、紛争地帯などを通過する際、巻き込まれないようにするための、勇者たちのやり方らしい。


なお、ワルツに()き下ろされたヌルの方は……


「(人間じゃない……いえ、確かに人間でなく魔族ですが、人間じゃないと言われると……なんか、傷つきますね……)」ずーん


ワルツの言葉を聞いて、予想以上のダメージを受けていたらしく、先程の激怒した様子とは打って変わって、しょんぼりとしていたようだ。



歩哨していた兵士たちから開放されて、それから十数分ほど進むと……。

いよいよワルツたちの眼に、ボレアスの城塞都市リーパの城門が見えてきた。


「思っていた町よりも……小さいな」


「ここはボレアスの中でも最南端の町で、人間側の領域に面する前線基地みたいなものですから、そんなに大きくはないですよ?ちなみにもっと大きな町は、あの木々の向こう側に見える山脈の麓にあります」


と、馬車に揺られながら、道の先にある町の姿を見て、言葉を交わす狩人とユキB。


その隣では、小さな町の姿に、キラキラとした視線を向けていたベアトリクスが、ルシアとこんな会話を交わしていた。


「あの町で……私は夢を一つ叶えるのですわね……」


「夢って?」


「もちろん、冒険者になることですわ?ギルドに所属して、ランクを上げて、ダンジョンに潜って財宝を探す……。もう、それを考えるだけで、ワクワクが止まりませんわ!」キラッ


「ふ、ふーん……(ど、どうしよう……。ビクセンにある迷宮は、みんなお姉ちゃんが潰しちゃったって言ったら……やっぱりベアちゃん、傷つくのかなぁ……)」


「ちなみに、ルシアちゃんは、冒険者ギルドには行ったことがありまして?」


「ううん。まだ無いよ?お姉ちゃんがあんまり行きたくないみたいだったし、用事も無かったからね」


その言葉を聞いて、


「えっ……?!」がくぜん


眼を丸くするベアトリクス。

冒険者に憧れる彼女にとって、ルシアのその言葉は、驚愕に値するものだったようである。


というのも、この世界の()()()()()では、魔物の素材の取引や、その素材を使った製品の生産は、国を支える産業の核とも言うべきもので……。

素材を冒険者から買い取って市場に提供する冒険者ギルドと、国を運営する政府との間には、切っても切れない関係がある()()だったのである。

しかし、国のトップに近い立場にあるはずのワルツもルシアも、冒険者ギルドとは繋がりが無いと聞いて……ベアトリクスは思わず耳を疑ってしまったようだ。

なお、ミッドエデン政府が冒険者ギルドとあまり繋がりが無い理由については、言うまでもないだろう。


そしてもう一つ理由があった。

娯楽の少ないこの世界において、冒険者が語る武勇伝は、人々の数少ない娯楽の一つである。

王城暮らしが長く、あまり外を出歩いたことのないベアトリクスにとっては、王城に出入りする業者などから聞くその話が楽しみだったこともあり、ワルツたちが冒険者ギルドを避けているという話は、にわかには信じられなかったのだ。


「そんなに驚くことかなぁ?」


「いや、それはもう、驚きですわ?クラークに聞く話はいつも、勇敢な冒険者が、ドラゴンに拐われた姫を助けるとか助けないとか、そういう話ばかりでしたし……人間と魔族――いえ、勇者と魔王のおとぎ話には、必ずと言っていいほど、冒険で手に入れた宝物の売買で、旅の資金を工面したという話がついて回りますし……」


「そう言えば……そうかもしれないね……」


と口にしながら……馬車の後ろの方で膝を抱えつつ『人間じゃない……人間じゃない……』とブツブツと呟いていた魔王(ヌル)に向かって視線を向けるルシア。

その際、ルシアは、ヌルたちが治めているボレアスという国自体、迷宮から出た様々な品々によって経済が潤って()()ことを思い出すと……


「宝物かぁ……。そう聞くと、少し楽しみかなぁ?」


そう言って、笑みを浮かべたようである。

今まで冒険者ギルドに行ったことがなかった彼女も、冒険者になって冒険をすることに、興味が湧いてきたのだろう。


……なお。

ルシアのその発言を聞いていたワルツとテレサ、それに狩人とイブが、何故か渋い顔をしていたことに……ルシア自身は気付いていなかったようだ。




そして、世界に終焉が訪れたのじゃ。

……まぁ、もしも、本当に、ルシア嬢の暴走によって終焉が訪れるとするなら、一瞬で世界は無くなってしまうじゃろうから……


『ルシアは魔法を使った。 完』


と、なるじゃろうのう……。

まぁ、1回、この世界は、ワルツの暴走で滅びたことがあるのじゃがの……。


そんなことはさておいて。

明日もまた、忙しすぎて、更新できぬと思うのじゃ。

というわけで、今から、ストックを消費する作業に移ろうと思うのじゃ?

駄文ゆえ、ストックだけは、やたらと溜まっておるからのう……。

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