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3-05 狩人帰還

クロムを確保するのに2日、鉄を確保するのに更に3日ほど費やしたある日のことだ。


夕方頃、狩人が村に帰ってきた。

遠目にみると、ずいぶんと憔悴しているように見える。


(恐らく、その原因は私でしょうね・・・)


身に覚えが合ったワルツは、勿体ぶらずに声をかけた。


「あら、遅かったですね?」


そう言って、ニヤリと笑うワルツ。


「ちょっ・・・何で・・・」


狩人は、口をパクパクさせながら眼を白黒させていた。

言葉を失うとは、まさにこのことを言うのだろう。


「ええと、本当は逃げたかったんですけど、逃げるところもないし、これから新しい居場所を作るっていうのも大変ですから・・・」


聞いているのか、聞いていないのか、混乱状態にある狩人に対して、この村にとどまっている理由を語るワルツ。

しばらくして我に返ったのか、狩人は俯いてボソッと口を開いた。


「・・・んだから・・・」


「えっ?」


「心配したんだから!」


そう言って彼女は泣いた。


「・・・ごめんなさい」


きっと彼女は、自分のせいでワルツが町や村にいられなくなって、どこか遠くに行ってしまったのだと考えたのだろう。

ワルツは素直に謝る。


「もしかしたら、これからも逃げることがあるかもしれませんが、今度はどこへも行かないですから」


ワルツがそう言うと、狩人がワルツに抱きついてきた。


「馬鹿っ・・・」


(あれぇ・・・こんな関係だったっけ?)


どうやら、ワルツの知らない場所で、狩人との関係が思わぬ方向に発展していっているらしい。


(・・・まぁ、原因は私にあるから仕方ないわね・・・)


と、甘んじて抱きつかれたのだった。


狩人との別れ際に、明日、狩りに出かけるという話になったので、承諾した。

すると、さっきまで泣いていたのに、妙に嬉しそうな顔をする狩人。

そのまま、テンション高めに家に戻っていった彼女は、随分と切り替えが早いようだ。




狩人に挨拶を済ませたワルツは、工房に戻ってきた。


工房では、ルシアとカタリナがせっせと土魔法で地下空間を作っていた。

この地下空間はホムンクルスを製造するための設備を設置するためのもので、大きさとしては、工房と呼んでいるワルツ達の家、表の道、さらには道を挟んで向かい側の酒場の地下にまで到達するほどの巨大なものである。

完成した暁には、ワルツはここに3人の部屋を作るつもりだ。


ワルツが工房の地下へと足を踏み入れると、ルシアが地下空間の掘削と同時に、風魔法を駆使して換気を行っている一方、カタリナは細かい調整や計測を行っていた。


「ルシアちゃん、ここの所、あと10cm広げてもらえる?」


ワルツが作成した図面通りに掘削されているか、部屋のサイズを確認し、時にはルシアに指示を出す。

その上、階段の作成や壁の小さな修正など、手作業で行わなくてはならない大変な仕事も行う。

それがカタリナの役割だった。

そんな文句を言わずに懸命に頑張っている姿を見て、ワルツは脱帽するのだった。


こうしてこの日の夜には、地下工房の基礎的な工事が完了した。

この時点で内部の崩落を防ぐための鉄柱の設置は既に完了しているので、あとは、掘削してきた鉄とクロムそして微量しか採れなかったのニッケルを混ぜた、なんちゃってステンレス合金を使って壁・床・天井の設置を行うだけだ。


作業を終えた後、工房のリビングで、夕食を取る3人。

今日の夕食は、酒場の店主に貰った野菜のスープと魔物ステーキ、それに家の裏でとれたレタスもどきのサラダだった。


明日のスケジュールについて話し合う良い機会なので、ワルツは話を切り出す。


「狩人さんが帰ってきたわ」


そんなワルツの言葉に対し、ルシアとカタリナは困った顔をする。

まさか、また逃げるのか、と。


彼女たちが何を言いたいのかを察したワルツが、


「大丈夫よ。狩人さんから逃げることはないから。それに狩人さんとはもう挨拶も済ませているし」


と言うと、2人とも安心した顔を見せた。


(私のせいで、みんなに迷惑をかけてるのね・・・)


とは思いつつも、今後も『面倒事からは逃げる』という方針を変えるつもりはないワルツ。


それはさておいて、狩人会った際に話した内容について伝える。


「明日の朝、狩人さんと一緒に狩りに出かけようと思うの」


「うん、いいよ」


「私も、お伴させていただきます」


と、二つ返事で承諾する2人。


だが、狩りをするにあたってどうにかしなければならない問題がある。

ワルツはそれをカタリナに聞いてみた。


「ねぇ、カタリナ。前に勇者が私に言っていたんだけど、プレッシャーって何?」


おそらくは、魔物が近づいてこない原因だと予想しているワルツ。

それが正しいとすれば、プレッシャーをどうにかしない限り、まともな狩りにならないだろう。

ヘタをすれば、前回のように全く魔物がいないという状況になりかねない。


「プレッシャーですか。端的に言ってしまえば、殺気ですかね」


「殺気?」


(普段の生活の中で殺気を出してる人って、どうなの?)


全く身に覚えがないワルツだったが、カタリナは意外な事を口にする。


「ワルツさん。例えばなんですけど、なんでもいいので近くにいる魔物を狩って下さい、と言ったら、何秒で狩れますか?」


と聞かれたので、正しく答える。


「ええと、最短で0.000026秒?」


「それって、今すぐでも、ですか?」


「ええ、そうだけど・・・」


「・・・それを殺気立ってると言うのではないでしょうか」


ため息混じりに語るカタリナ。


(・・・魔物が近づいてこないのは、自分の命の危険を感じているからなのね・・・まさに第六感)


ようやく、殺気(プレッシャー)の意味を理解するワルツ。


「じゃぁどうすればいいのかしら・・・」


彼女にとっては本気で、どうすればいいのか分からなかった。

なぜなら、味方ではない者を知覚した瞬間に、火器管制システムが勝手にロックオンしてしまうからだ。

ワルツがプレッシャーの正体に気づけなかったのは、このシステムが独立的にターゲッティングしてしまうためでもあった。

殺気を止めるだけなら、このシステムを止めればのだが、そうすると、守りたい者(ルシアやカタリナなどの仲間や知人)も守れなくなる・・・


(システムが起動状態なら遅延26usec(0.000026秒)で攻撃できるけど、起動していない状態から起動して攻撃に移るまでとなると、50usec(0.00005秒)か・・・意外と時間がかかるわね・・・)


・・・わけでは無さそうだ。


どんな達人であっても、その差を知覚できないはずが、ガーディアンであるワルツはそれに気づかないようだ。

その割には、狩人を救えなかったのだが・・・。


彼女は結論として、通常時の火器管制システムを控えることにした。

使用する際も、最小限の時間に抑え、攻撃する瞬間だけ起動する。

彼女にとっては苦渋の決断だったが、普段から殺意を撒き散らすわけにもいかないので、無理矢理に納得することにしたようだ。


こうして、ワルツのプレッシャー問題は解決へと向かうのだった。




翌朝、日の出る前から、狩人と狩りに出かけるワルツ達一行。

村人の話では、どうやら近くの草原に魔物がよく湧いているのだとか。


ただ、草原で狩りをする場合、一般的には馬のような機動力がなければ、草原を走る魔物を追いかけることは出来ない。

もちろん、ワルツにとっては機動力など余り関係の無い話だったのだが、わざわざ自分の正体をバラすような真似をしたくなかったことは言うまでもないだろう。

なので、馬を所持していない彼女たちは、(くだん)の草原近くの森で狩りをすることにした。


少し空が明るくなってきた草原を進む4つの影。

露に湿る草原をしばらく行くと、目的の森が見えてくる。

生体反応センサーによると、森には大量の魔物が潜んでいるようで、どうやら草原に湧いて出るという魔物たちの寝床になっているらしい。


その様子に、ワルツは顔を顰めて口を開いた。


「狩人さん、何か、魔物が多すぎる気がするのですが、大丈夫でしょうか?」


すると狩人は口に手を当てて何かを考えた後、言った。


「では、私が先行するから、何かあったら後ろから援護してくれないか?」


どうやら前衛として先行するらしい。

ワルツはそんな狩人に、本当に大丈夫かしら、と一抹の不安を覚えながらも、何があってもいいように絶えず監視だけは続けるのだった。

もちろん、火器管制システムは切った状態で。


森の中を気配を消して進む狩人と、その後ろ10mくらいの距離をついていくワルツ達。

しばらくすると急に立ち止まり、無言で止まれと合図する狩人。

最初の魔物を見つけたようで、少し先に、かつてワルツが拘束したイノシシのようなが魔物が見えた。

どうやら、ワルツのプレッシャーが魔物を寄せ付けない原因、というのは当たりだったらしい。


そして気配を消して、更に近づいていく狩人。

音もなく・・・気配もなく・・・。

狩人はそのまま、イノシシの真横まで近づいて、首元にダガーを突き立てるのだった。


いったい、どれだけの鍛錬をすれば、魔物の真横にたってもバレないほど気配を消せるのだろうか。

ルシアとカタリナは、『狩人さんって、実は死神なんじゃ・・・』と考えるほどだった。


一方でワルツは、


(影が薄過ぎて魔物にすら認知されないなんて・・・)


などと失礼な事を考えていた・・・。


それはともかく、周りの魔物に気づかれることなく一撃で命を狩る狩人は、紛うとこなき職人のそれだった。


その後は、血抜きを済ませ、ルシアの魔法で村の倉庫に転移させた。




そして狩りが再開する。


次はワルツの番だ。

実は、プレッシャーが無くなって魔物が逃げなくなった今なら存分に『狩り』という名の狩りができることに、彼女は張り切っていたのだ。

なので、『次は私が出るわ』と狩人達に告げた後、魔物がいる場所をセンサーで見つけて先行した。

そして、ホログラムの出力を抑えるワルツ。

すると、彼女の影が徐々に薄くなっていき、終いには完全に見えなくなってし合ったのだった。


狩人は、自分の隠密スキルにそれなりの自信があったが、目の前で起きている現象を理解することができなかった。

人間である自分だと、どう頑張っても、姿を隠すことは出来ない。

だがそれでも、鍛錬を積み重ねれば、いつかこの境地にたどり着くことができるのだろう、と自分を言い聞かせることにしたようだ。


一方、ルシアとカタリナは、いつものことだ、とばかりに無反応だった。


というわけで、不可視状態になって、魔物に近づいていくワルツ。

本体である機動装甲は空中に浮かせてあるので、移動させても音は生じない。

故に、今のワルツは、殺気も、足音も、姿も見えない、完全なるステルス状態だった。


そんな状態で獲物に近寄っていくワルツとは別に、狩人は目からも、20匹ほどの犬型の魔物が森に隠れているのが見えていた。

どうやら、相手もこちらの存在が分かっているのか警戒しているようだ。


「(これは拙い、か・・・?)」


狩り、とは、食物連鎖の中の食うか食われるかの世界に自分の身を投じることである。

即ち、こちらが気を抜けば、得物であるはずの魔物に、逆に得物にされてしまうなどということも十分にありえたのである。

狩人は、それを危惧し、魔物がいつ襲ってきてもいいように身構えたのだ。


ところが、違和感に襲われる。

相手がこっちに気づいて警戒しているのは分かるのだが、殺意がない。

まるで、精巧な剥製か何かのようだと感じる狩人。


そんなことを考えていると、不意にワルツが目の前に現れて狩人は動揺した。

さながら、幽霊である。

どうやらルシアやカタリナも、さすがに驚いたようで、多少後ずさっていた。

だが、声に出さないところは、流石に同じパーティーのメンバーだ、と逆に狩人は感心するのだった。


そんな折、ワルツは狩人たちに声を上げた。


「で、血抜きはどうすればいいの?」


「(まて?魔物は狩った・・・のか?)」


未だ魔物と対峙しているにもかかわらず、そんな狩った後のようなことを聞いてくるワルツ。

そんな彼女に対して、まだ終わっていないだろう、と()()()()しながら、狩人は魔物の方を指した。

そんな二人のやりとりを、あぁ・・・、とどこか納得した様子で観察しているルシアとカタリナ。

既に狩り終わったことを悟ったらしい。


「狩人さん、もう終わってますよ?」


口を開いたのはカタリナだ。


「いや、まだ魔物は立っているじゃないか」


と狩人。

カタリナには魔物が見えていなかったので、彼女が何を言っているのか分からなかったが、近くに魔物がいるのだろうとすぐに理解した。


そんなカタリナと狩人のやり取りを見て、あ、忘れてた、と言った様子のワルツ。

そしてすぐに重力制御を解除する。


すると、


バタバタ


と音を立てて、20匹の魔物が同時に地面に伏した。


「は?」


どうやら理解できていない狩人にワルツは説明する。


「ええと、透明になって魔物を狩ろうと思ったんですけど、それだと自分の気配は消せても、魔物を殺った時の気配は消せないんですよ。だから、殺った魔物は気配が消えないようにその場に浮かせて・・・。あとは一匹ずつ同じことを繰り返した、って感じです」


言葉で言うのと、実際にやるのとでは相当違うんだろうな、などと狩人は思いながら、自分のセンスの無さを悔いて頭を抱えるのだった。

何度も言うようだが、普通の人間は透明にはなれない。


・・・だが、この日から、狩人は隠密の鍛錬を始める。

城を抜け出す際に意図せず獲得した隠密スキルだが、これまで鍛錬という形で磨いたことは無かったのだ。

果たして彼女の努力がどういった形で実を結ぶのか・・・。





というわけで、20匹の魔物の血抜きを重力制御で済ませた後、獲物を倉庫へ転移させた。


さて、次は、ルシアの狩りの番だ。

ルシアは(よわい)10歳にして、一人で森へ薬草を摘みに行くほどのやり手である。

そういう点では狩人と同じ穴の狢だろうか。


だが、狩人とは決定的に違う事がある。

・・・魔力量だ。


「あ、火と水と氷の魔法は、森が大変なことになるから使っちゃダメよ?」


と忠告するワルツ。


「うーん・・・」


難しそうな顔をするルシア。どうやら、挙げた三つの魔法のどれかで狩りをしようとしていたらしい。


「わかった。じゃぁこれかな?」


などと言って手を前にかざすルシア。

その様子に、ワルツはどうにも嫌な予感しかしなかった。

そもそも、敵の位置が分かってないのに攻撃しようとしていないか、と。


・・・次の瞬間、百を超える魔物と共に、森の四分の一が消失した。

ルシアが放ったのは、風魔法、中でもカマイタチに属する風の刃だ。


狩人が眼にしたのは水平に進む一本の線。

この魔法は、騎士団の魔法使いが使っていたのでよく覚えていた。

木に当たると、精々表面の皮を切断して止まる程度の魔法だが、剣で切るのと同じような威力を持っていたので、決して馬鹿にはできないものだった。


故に、狩人は思っていた。

放たれたこの魔法も木にあたって止まるのだろう。

それに、ルシアはまだ子供である。

周囲も明るいとは言えないし、木の影に魔物の虚影でも見たのかもしれない、と。


だが、問題は魔法を使ったのがルシアだった、ということ。

それが狩人唯一の誤算だ。


ルシアのカマイタチは、波が広がっていくかのように徐々に拡散しながら進んでいった。

木に当たっても幹ごと切断し、岩、魔物、少し凹凸のある地面など、障害物という障害物をすり抜けるように通過していく。

音もなく、明確な殺意もなく、ただ森を駆け抜ける風のように。


そして、あとに残ったのは、単なる更地だった・・・。


どうやら、金属の精錬で大出力の魔法を連日使っていたせいか、威力が上がっているようだ。

オーバーキルを通り越して、パワーのインフレである。


ワルツといえば、


(これでも魔法が苦手っていうんだからすごい話よね・・・。この世界のまともな魔法使いって、相当な強さなんでしょうね・・・)


などと思っていたのだった。


一方、狩人は2週間前のことを思い出していた。

当時、彼女はルシアの魔法を目の当たりにして、自分も魔法を使えるようになりたい、と思っていたのだ。

そのために魔法の本を買って勉強したり、夜な夜な練習したり・・・。


だが、今、目の前で起こった光景は、もはや魔法という領域を超えていた。

狩りですら無い。

一方的な虐殺を伴った自然破壊と言うべきか。


もはや、狩人に紡げる言葉は無く、ただ真っ白になるだけだった・・・。


「やはり、大概ですね」


狩りに来て口数の少なかったカタリナが口を開く。


「うん!」


すごく嬉しそうなルシア。


「あちゃー。木まで切ったらダメよルシア。動物たちの住む場所が無くなっちゃうわよ?」


ワルツがそう言うと、


「えっ、・・・ごめんなさい。今度は切らないように気をつける・・・」


と彼女は消沈した。


「そうね。次は気をつけてね」


「うん!」


だが、ワルツにかけられた言葉で復活して、再びルシアは元気になるのだった。




ルシアの蹂躙によって始末された魔物を処理(血抜き)し、先程同様、倉庫への転送も終えた。

この時点で相当な時間がかかってしまい、頭の上には二つの太陽が輝いていた。

つまり、昼である。


さて、次はカタリナ番だが、カタリナには攻撃するための手段が無いので、狩りはしない。

それに、既に相当量の魔物を狩ってしまったので、これ以上続けると、いたずらに狩るだけになってしまうだろう。

なので今日はこの辺りでお開きとなった。


この頃には、魔法の練習も頑張るぞ!、と切り替えの早い狩人が意気込んでいたのだった。


というわけで、一行は、森()()()場所から抜けて、村へと引き返す。


この時、カタリナと狩人は目の前に広がっている景色を歩きながら眺めていた。

逆に、残りの二人は地面を見たり、空を見上げるなどして、気づかないふりをしていた。


カタリナの達の視界に入ってきた場所。

そこは、焦げたように赤茶けた平地が不自然に広がっている場所で、『魔物が多く湧いている』という噂通り、相当な数の魔物が跋扈している姿を見て取ることができた。


そして、平地の真ん中には何やら土が盛り上がって穴が空いている部分があった。

洞窟だろうか。


そんな様子を見て、カタリナが口を開く。


「・・・もしかして、あの穴ってダンジョンじゃないでしょうか?」


カタリナはかつて勇者たちと共に挑んだ迷宮を思い出す。


「(あの迷宮は、都市の中心部にあって大分整備されていたけど、入り口部分は似たような感じだったはず)」


「そうなのか?」


と狩人が返す。

そんな彼女の言葉に対し、


「いや、まさかこんな草原の真ん中にダンジョンができるはず無いわよー」


どこかわざとらしく言うワルツ。


同じようにして、冷や汗を掻きながらルシアも口を開く。


「だ、だよねお姉ちゃん。こんな何もない草原にダンジョンなんてできるはず無いよねー」


あからさまに怪しい。

地面が焦げていること、ワルツとルシアの様子がおかしいこと、そこから判断するカタリナ。


「つまり、原因は貴女方にある、ということですね・・・」


『・・・』


無言の二人。

カタリナと眼を合わせようとせず、明後日の方向を見上げているところが怪しかった。


ちなみにこの場所は、かつて、ワルツの重力制御とルシアの魔法をお披露目した場所だ。

その際、魔法の衝突や爆発で出来たクレーターが酷かったので、ばれないように更地に整地して、何事もないかのように隠蔽したつもりだった。

だが、どうやら、臭いものにフタをしただけだったようで、結果としてダンジョンが生成されてしまったようだ。


自分たちの所業がバレたことに気まずい様子の二人だったが、一方で狩人の様子は明るい。


「すごいぞ!これで村が繁栄するんじゃないか?!」


どうやら、ダンジョンがあると村が発達するらしい。


(どんな理屈よ!?)


と思うワルツだったが、ふと異世界のパターンを思い出す。


(魔石とか、ダンジョンの中でしか取れないアイテムとか、それを求めてやってくる冒険者や商人と商売をするわけね)


ワルツにはこの世界に魔石や特別なアイテムの類がこの世界に存在するかは分からなかったが、適当に当たりを付ける。


(もしも村が発達して、人がたくさん来るようになったら・・・逃げようかしら・・・)


そう、ワルツは人が多い場所が嫌いなのだ。

そんなことを考えながら、ワルツは村への帰路を歩いて行くのだった。




・・・その際、村へと帰らず、ダンジョンへと向かおうとする狩人をどうにか宥めなければならなくなったことは、言うまでもないだろう。


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