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8.4-04 いばらの道4

「やっぱり、やりすぎたかしら……(っていうか、国が大変だっていうのに……この辺の冒険者ギルドとかやってるのかしらね?)」


「いや、悪くはない伝令だったと思う。ワルツが騎士たちのことを行動の妨げになってると感じていたのは知ってるし、騎士たちも、強くなれるなら、手段は問わないと思ってるだろうしな」


「そんな、妨げだなんて…………はい。思ってました」


「だろ?」


自分たちの馬車の後ろから、長い隊列がいなくなり、付いてくる者が勇者たちだけになってから。

ワルツは少し心配した様子で、誰も居なくなった後ろに向かって、その視線を投げていた。

そんな折、狩人がフォローの言葉を送ったわけだが……結論として、ワルツは、後悔して()()()ようである。


というのも、それよりも何よりも、頭を悩ませるだろう問題が、この先で待ち受けている可能性が高かったからだ。


「さて……問題は身内の騎士たちなんかじゃなくて、ビクセンの市民の方よね……。ボレアス国内に入ったんだし、どうにかして、知り合いか誰かに連絡取って、情報集められないの?」


ワルツがそんな言葉を向けたのは、馬車の行く先に向かって視線を飛ばしていた、この国の皇帝のヌルである。

すると彼女は、視線の先に向かって指を差しながら、こう返答した。


「……この先、馬車で1日ほど進んだところに、城塞都市があります。まぁ、城塞都市と言っても、村に毛が生えた程度の小さな町ですが、町の中に我が国ボレアスの諜報部の支部がありますので、まずはそこに立ち寄って、事情を聞くことにしましょう。ですが……」


「もしかすると、そこも……エクレリアに占拠されている可能性がある?」


「はい。その可能性は十分にあると思います。何があってもいいように、警戒しながら行くべきかと……」


「無事だといいのですが……」


と口にしながら、揃って心配そうに眼を細めるヌル、そしてユキB。

彼女たちは、可能なら今すぐにでも走って行きたかったようだが、ワルツたちに止められていたために、どうにか我慢していたようである。


ところで。

どうしてワルツたちは、エネルギアやポテンティアを使って、次の町やビクセンへ行こうとしなかったのか。

それは、目立った行動をして、エクレリアに手札を見せたくなかったから……という理由だけでは無かった。


「でも、ホント、どうしようかしら……。町の中に入り込んだエクレリア兵から、どうやってビクセンを取り返せばいいかしらね?」


そんなワルツの言葉通り、既に町へと入り込み、町を占領してしまっている者たちにどう対処していいのか、未だ決め兼ねていたのである。


「軍隊対軍隊だったら、数を使って、占領し返せばいいけど……私たち少人数だし……」


と、今さっき、3000人の騎士たちを野に放った(?)本人であるワルツが口にすると、


「お姉ちゃん……それ分かってたなら、騎士さんたちを解散させないで、一緒に付いてきてもらえばよかったのに……」


彼女の隣で、友人3人とカードゲームに勤しんでいたルシアが、おもむろにそう呟いた。


「いやさ?コレには深い理由があるのよ……。もしかすると、私たちが移動してるときに、騎士たちの隊列に転移魔法が仕掛けられて、彼らが誘拐されちゃうかもしれない、って思ってさ。このまえ戻ってきたオリージャ国民たちは、転移魔法で誘拐された可能性が高い、って話だし……。あと、マイナスな話だけでなくて、希望的な話を言えば……騎士たちが望む通り、みんなに強くなってもらう、って理由もあったしね」


「転移魔法のことはともかく……騎士さんたちが強くなってビクセンまで移動するのは、ずっと先の話になりそうな気がするけどね……」


「まぁ、物は言い様よ。とにかく今、一緒に固まってボレアス国内を進むのは、あまり適切ではないと思うのよ。目立つし、隠れられないし、逃げられないし、ごまかせないし……」


「んー……それもそうだね」


と、逃げることばかりを考えている姉の言葉に、納得げな反応を見せるルシア。

なお、そんな彼女は、姉の逃げ姿勢に批判的ではなく、むしろ賛成側の人間である。


「まぁ、折角、小回りが効くようになったんだから、しばらくの間は、静かに行動しましょ?単なる旅人と思わせる……そんな感じでさ?」


と、当面の行動について、ワルツがそう口にした……そんな時。


人生で初めてカードゲームやって、最初の1回以外、全勝していたベアトリクスが……不意に眼をキラキラと輝かせながら、こんなことを口にしたのである。


「まさか、冒険者になるのですの?!」


一体なぜ、彼女がそんなことを言い始めたのかは不明だが……ベアトリクスの眼を見る限り、彼女は冒険者という存在に興味があったようだ。


「そうねぇ……冒険者のふりでもいいし、商人のふりでもいいし……。要は、相手に疑われないような方法で、ビクセンの町の中に侵入できればいいと思うのよ。って言っても、ビクセンの現状が分からない以上、まずは調査から始めなきゃなんないけどね。でも、そうねぇ……。冒険者だと思わせて近づくっていうのは、良い選択かもしれないわね」


「冒険者……!一度なってみたかったのですわ!」


と嬉しそうな表情を浮かべるベアトリクス。

その際、彼女の真隣に座っていたテレサが、冒険者という言葉を聞いて、少しだけ尻尾を振るのだが……ベアトリクスが喜んでいる姿を見て、げっそりとした表情を浮かべてしまった理由については……不明である。


まぁ、それはさておき。

ワルツとベアトリクスの発言に異論が出なかったことで、彼女たちの次なる目的が定まったようだ。


「ねぇ、ヌル?次の町って、冒険者ギルドはあるわけ?」


「えぇ、もちろんありますよ?城塞都市なので、魔物の討伐の拠点などにも利用されますから」


「ちなみにそれって……人間側の領域のギルドで登録した情報とか、そのまま使えたりするの?」


「流石にそれは…………いえ、確証があるわけではないですが、恐らく使えないかと。魔族側の領域内なら、問題は無いと思いますが、大河を越えたり、海を超えたりすると、やはり難しいのではないでしょうか。ただ、絶対に使えない、とも言い切れないですね。ボレアスを治めていたと言っても、私たちとて、ギルドの活動に口出しは出来ませんでしたから……」


「政治的問題、ってやつね……」


「力でねじ伏せることは出来ますが、そんなことをすれば、我が国の主要産業……迷宮攻略が、干される事になりますので……」


「ギルドが素材の買い取りを拒否して……冒険者が誰も来なくなる、ってわけね?」


「はい……」


「ふーん……。意外に、王様の知らないところで、魔族側の領域と、人間側の領域とで、ギルドを介した情報交換が行われてたりして……」


と苦笑を浮かべながらそう呟くワルツ。

対して、ボレアスを収める側のヌルとしては、自身を(ないがし)ろにした政治的やり取りが、ギルドを介して行われていたら面白く無い、と思ったらしく……彼女はできるだけその可能性については考えないようにしたようだ。

今日は土曜日なのじゃ。

後は――分かるじゃろ?


なお、エイプリルフールは関係ない模様、なのじゃ。

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