8.3-36 セカンドコンタクト24
「……なんか、納得出来ないんだけど……」
「俺だってそうだけど、コルテックスが裏で動いてんだから仕方ないだろ……。っていうか、ちょっと俺も準備してくる!このままだと置いて行かれそうだからな!」
アトラス他、1500人ほどの騎士たちをこの町に置いて、出発しようとしていたワルツたち。
しかし、コルテックスが手配した10万人のオリージャ市民の送還と、自動防衛システムの設置によって、騎士たちの部隊を半分に割く必要はなくなった。
結果、全員が出発できることになり……街を離れる予定だった側も、留まるつもりだった側も、すぐに受け入れることが出来ずに、戸惑っていたようである。
とはいえ、それも数分の話で、すぐに皆、急いで旅の出発準備を始めたようだが。
そんな、ミッドエデンの者たちが慌ただしく準備を始める原因となった、大量のオリージャ国民たちのことを運んできたのは、ミッドエデンの南西にある3大大国の一つ、エンデルシア王国の飛行艇だった。
その中でも、武装などを一切つけていない、輸送のみに特化した飛行艇50隻ほどが、一隻当たり2000人の人々を乗せて、合計で10万人を運んできたようである。
ただ、そんな飛行艇たちは、本来、自国であるエンデルシア外には出られないはずだった。
自国を取り巻く高い山脈を越えられないことや、もしも越えたとしても、その先で燃料(?)を補給できないことから、国外に出ることが難しかったのだ。
一部に例外があるとすれば、勇者たちがかつて乗っていた、軽量小型で風の影響が少ない、私有の小型飛行艇くらいのものだろう。
まぁ、それも、旅先で燃料の補給が確約されていなければ、墜落することに変わりはなかったが。
しかし、エンデルシアの飛行艇は、現にこうして、山脈どころか、国を跨いで飛んできていた。
それは、片道切符で、戻ることを想定していなかったから……というわけではない。
その秘密は、彼らの先頭を飛んできただろうポテンティアにあった。
彼の船体の上部には、まるで黒い飛行船のような形状をした、巨大なタンクが備え付けられており、そこに飛行艇の燃料となるマナが大量に搭載されていたのだ。
ポテンティアはそれを使って、空中給油機のような役割を果たしていたようで、50隻の飛行艇たちは、彼からマナの補給を受けながら、ここまで飛んできたのだという。
もう一つ、飛行艇たちが高度が上げられない問題についても……マイクロマシンを使って自ら原理不明の謎武装を作り出すことのできるポテンティアにとっては、飛行の障害になる山脈上部の地形を変えて新しい航路を開拓する程度、造作もないことだったようだ。
まぁ、それはさておいて。
「そう言えば、この国の人たち……どうやって誘拐されたのかしらね?」
慌てて出発の準備を始めた1500人の騎士たちや、喜びの声を上げて抱き合っている市民の姿を眺めながら、ワルツは王城の中庭のベンチに腰掛けつつ、そんなつぶやきを口にした。
それに対し返答したのは、
「それ実は、情報局もよく分かってないんですよ」
背中に大きなリュックを背負っていたユリアである。
彼女が持ってきていた荷物は、それですべてらしい。
「エンデルシア側で一通り尋問したらしいんですけど、皆、記憶があやふやというか……。気付いたら、サウスフォートレスに突撃しようとしていたり、ソンビ化していたり……って感じらしいですね」
「何が起ったのか、まったく分かってないの?ヒントも無いわけ?」
「いえ。状況から推測することは可能です」
「そう……。ちなみにユリアたちは何があった、って考えてる?」
と口にしながら、暇そうな視線を、横にいたユリアへと向けるワルツ。
するとユリアは、どこか嬉しそうに、自身の推理――――情報局の見解を口にし始めた。
「最初、70万人の人々がサウスフォートレスに現れた際、ルシアちゃんが彼らのことを、エンデルシア領内に転移させた……という話でしたよね?」
「えぇ。サウスフォートレスの上空から見えたエンデルシアの町の郊外に、ドラッグアンドドロp……転移魔法で移動させてたわね。それについては私も見てたから間違いないわ」
「はい。ワルツ様が見ていたのですから、それには疑いの余地もありません。ゾンビ化は……その後に起こったみたいですね。まぁ、そのおかげで、なんとなく全体像を把握できそうなんですけど」
「どういうこと?」
一旦そこで話を区切ったユリアに、首を傾げながら、その先の言葉を促すワルツ。
するとユリアは、ワルツの座っていたベンチの背もたれに手を付き、空を眺めながら、再び話し始めた。
「ルシアちゃんに転移魔法を受けた後で、すぐに別の転移魔法のようなものが発動して、彼らのことをその場から消し去ったみたいです。その後でゾンビ化させて、エンデルシアの首都を襲わせた……そうとしか考えられません」
「流れ的には、当然そうなるでしょうね。まぁ、本当に転移魔法を使ったのかどうかは分かんないけどさ?」
「それが……ほぼ間違いなく、転移魔法だと判明しているんですよ。それもルシアちゃんと同等か、それ以上の出力をもった転移魔法で……」
「えっ……なにそれ……」
「実は……エンデルシアにあるミッドエデンの国境にほど近い町、エリオという都市なんですが、同時期に町ごと……消失してるんですよ」
「……それ、ホラー?」
「いえ、ホラーでも冗談でもありません。後日、首都に現れたゾンビたちの中に、エリオの人々がいる事が確認されているので、恐らく……」
「みんな一緒に転移魔法で誘拐されて、ゾンビ化させられた、ってわけ?」
「そういうことになりそうです。そして彼らがこの国から連れ去られた際も……恐らくは転移魔法を使って誘拐したのだと思います。まぁ、推測ですけどね」
「…………」
ユリアのその言葉を聞いて、背筋に冷たいものを感じたワルツ。
もしかすると、今この瞬間も、自分たちは誰かの転移魔法の対象になっているかもしれない……彼女はそう考えたらしい。
その懸念については、ユリアも分かっていたようで、彼女はこんな言葉を付け足した。
「何度も言いますが、これは推測でしかありません。もしかすると、何か特殊な条件がある転移魔法かもしれませんし、それ以外の高度な魔法である可能性もゼロではありません。もしも簡単に転移魔法を使って人々を誘拐できるなら……ミッドエデンの王都など、ひとたまりも無いはずですからね」
「そりゃそうかもしれないけど……ルシアが使うくらいの強力な転移魔法だったらイヤよね……。ある日、突然、知らない場所に飛ばされるとか……。そういう経験が無いわけじゃないけどさ……」
「はい?」
「ううん。気にしないで。その辺の対策、コルテックスはちゃんとしてるのかしら?」
「一応、報告はしてありますが……対策をしているかは、私の方では聞いていません」
「……まぁ、コルテックスが何も言わないところをみると、大丈夫なんでしょ。きっと」
ワルツはそう口にすると、まるでクセのように、小さく溜息を吐いた。
恐らく彼女はこの瞬間、聞かなければよかった……そう思っているに違いない。
それから仲間たちの準備が整った頃。
自分たちのことを見送りに来たアンバーとソフィアの2人に対し、ワルツは頼み事をしていた。
「……というわけで、アンバーとソフィア?申し訳ないんだけど、この国が安定するまでの間……そうね、1ヶ月くらいでいいから、この町に留まって、もしもの場合に備えてもらえるかしら?」
「えぇ、良いですよ?最悪の場合は、この町ごと転移魔法で移動させますから、おまかせ下さい!」グッ
「……アンバーのことは任せて下さい。私が手綱を握って見せますので」
「えっ?私?」
「う、うん……頼むわね。滞在時に掛かった費用に関しては、ミッドエデンが持つから、その都度、請求してね?もちろん、豪遊しても別にかまわないわよ?……多分(そういえば、アンバーも強い転移魔法が使えるんだったわね……いや、まさか……ねぇ?)」
と、心の何処かでアンバーのことを疑ってから、それをすぐに霧散させるワルツ。
なお、言うまでもないことだが……アンバーにとっては知らない土地であるエンデルシアやオリージャから、転移魔法を使って人々を移動させることは出来ないので、彼女はオリージャ国民大量失踪事件とは関係なかったりする。
それから、魔女たち2人と別れの挨拶を交わしたワルツは、自分の乗る馬車の方へと移動した。
そう、いよいよ出発の時が来たのだ。
その際、ワルツは、馬車の中にいた少女の姿の飛竜を見て……思わず、微妙な表情を浮かべながら、彼女に問いかけてしまう。
「ねぇ、飛竜……貴女、その口どうしたの?」
「む?我の口がどうかしたのですかな?」
「いや、なんかこう……凄く言いにくいんだけど……ギットリとしてるというかなんというか……」
「ん?……おっと。いつの間にか汚れていたようだ……」ごしごし
そう言って、ミスリル製の糸で作られたメイド服の袖で、口を拭う飛竜。
どうやら彼女は、これからマナーというものを学ぶ必要がありそうだ。
「で、何を食べたわけ?」
と、黄色いあんかけのようなものが、鼻のてっぺんと頬のあたりまで付着していた飛竜に対し、問いかけるワルツ。
すると、所々に拭き残しがあるものの、口を拭い終わった飛竜は、空間拡張されたメイド服のポケットの中から、紙袋を取り出して……そこから、黄色いあんかけがたっぷりかけられた串料理を1本取り出すと、ワルツに対し、こう答えた。
「コレでございます。どうも我は、この串料理というものが好みらしく、食べると幸せになれるのでございます」
「それ、トカゲだけど、共食i……いや、うん。よかったわね。好物が見つかってさ?」
「はい」
そして、それに齧り付き……再び口の周りを汚す飛竜。
そんな彼女の様子は、その身長と相まって、幼い少女のように見えていたようである。
なお、彼女の実年齢は、誰も知らないどころか、本人にも分からないので……実は、その見た目通りの年齢である可能性も否定できなかったりする
さて。
それからワルツが馬車に乗り、外に立っていた者たちが皆乗り込んだところで……
「それじゃ、行きましょうか」
彼女は出発を宣言した。
その瞬間、
「よーし、行くぞ?ハナコとコハナ?」
とロリコンが口にすると、
「「ヒヒィィィィン!!」」かっぽかっぽ
ムチを打つこと無く、勝手に歩き始める2頭の馬。
どうやらロリコンの愛(?)は、彼にテイマーとしての能力を目覚めさせたようである。
なお、その際、御者台から離れた馬車の後ろの方に乗っていたイブが、ロリコンの口にした馬の名前を聞いて、眉を顰めていたようだが……大した問題ではなさそうなので、割愛しよう。
そしてワルツたちの乗った馬車が動き出すと同時に、後ろに連なっていた騎士たちの馬車群も、一斉に動き出したようである。
その様子を王城側から眺めて、マクニールとクラークが口を開く。
「とんでもない奴らだった……」
「うむ……。彼らなら、姫様を無事にお守りしてくれよう……」ぐすっ
「噂通り……といったところか……」
「いや、死んでしまったと思っておった我が国の同胞たちを、最後に残していってくれたのだ。最早、噂どころの話ではあるまい。ミッドエデンとは、直ちに休戦協定を交わして……いや、この際、平和協定を交わしても良いだろう。何と言っても、姫様が嫁がr……付いて行ってしまったのだからな(それに食糧問題も……)」
「……そうだな……」
と、小さく溜息を吐きながら、真っ青な空に向かって細めた視線を向けるマクニール。
それから彼は、こんな呟きを口にした。
「……混沌を以って、世界に安寧をもたらす者たち……」
すると、クラークは承服し難い表情を浮かべながら、反論する。
「それが貴殿の聞いた噂であるか……。吾輩が聞いたのものとは少し違っておる。確か……圧倒的力を以って、『世界の理』に歯向かう者たち、であった。それゆえ吾輩は、彼らを……いや彼女らをこの国に招いて、饗したのだ。このままだと滅びゆく運命にあった我らの国を救って欲しい、と思ってな」
「……それほど大差はないと思うがな」
「貴殿の思考はよく分からぬ……」
と口にしながら、呆れたような視線をマクニールへと向けるクラーク。
それから彼は、最後の馬車が王城の敷地を出る姿を見送ると……
「行ってらっしゃいませ。姫様……」
自身とマクニール以外には聞こえないだろう、そんな別れの言葉を口にした。
こうしてワルツたちは、オリージャの首都から旅立っていったのである……。
まぁ……
「おや?馬車が停まったようだが……」
「……人々が一斉に返ってきた上、あれだけ大量の大型馬車だ。一斉に町を通過しようとすれば、渋滞にもなるだろう……」
すべての馬車が町を出るまでに、2時間ほど掛かったようだが。
……書き過ぎた感、満載なのじゃ……。
2話分を1話にまとめたからのう。
お陰で、ブツリ、ブツリと話が断線しておるが……まぁ、いつも通り、平常運転なのじゃ?
というか、伏線を回収しておかねば、あとで面倒じゃからのう……。
それでのう。
今日は用事があるゆえ、あまり時間はないのじゃが、1点だけ補足しておくのじゃ。
イブ嬢がどうして眉を顰めておったのか。
それはのう……ロリコンのことが嫌いで嫌いでしかたなくて、彼の一挙手一投足がすべて気に食わなかったから……というわけではないのじゃ?
以前、イブ嬢が、サウスフォートレス地下でミノタウロスと遭遇した際、そこにいたミノタウロスに付けた名前が、ハナコ、だったのじゃ。
要するに、ネーミングセンスが、イブ嬢もロリコンも同じだったから、それに嫌悪した……というわけなのじゃ?
まぁ、取り留めのない、どうでもいい話じゃがの。
なお……アンバー殿がテイムしておる『サー・ロイン』と同一ミノタウロスの模様なのじゃ?
それも、本編とは関係のない、どーでもいい話じゃがの。
さて。
それじゃ、妾はこれから……おーぶんれんじと戯れてくるかのう。
……分からぬじゃろ?
おーぶんれんじを使った遊び方。
料理を作るのではないのじゃぞ?
ヒントは……表面実装なのじゃ!(答え)




