8.3-33 セカンドコンタクト21
「さーて、エクレリアの件……どうしようかしらねー」
『反物質弾でも首都に打ち込んで、皆殺しで良いのではないですか〜?』
「殺しても、どーせ死なないんだから、ヤるだけ無駄だし……っていうか、そもそもからして、ヤる気は無いわよ……」
朝食を摂った後、未だバタバタとしていた王城へと、ふらりとやって来たワルツは、そこに居たミッドエデンの騎士たちが青空の下で開いているデブリーフィングの様子を見ながら、いつの間にか隣りにいたマクロファージと共に、そんなやり取りを交わしていた。
今、彼女たちの話題は、エクレリアの襲撃をとりあえず乗り越えた今、これからどうするのか、という話である。
「もうしばらくは、エクレリアがオリージャに攻めてくるなんてことは無いでしょ……。完敗したわけだし、それなりに怖い思いをしたはずだし……。それでもまた攻めてくるってなら……もう頭がオカシイとしか考えられないわね。ま、そうなれば、どんな可能性だって有りだと思うけどさ?」
そう言いながら、面倒そうな表情を浮かべて、座っていた椅子から四肢を投げ出すワルツ。
それから彼女は、マクロファージの向こう側にいるだろうコルテックスに向けて、自身の考えを口にした。
「そろそろ、ボレアスに向かおうと思うのよ。すっごく行きたくないけどね……」
それを聞いたコルテックスは、特に変わった反応を見せることなく、こう返答する。
『エクレリアがもう来ないとは言い切れなかったり、国境を守っていたはずのこの国の西方部隊が全滅していたりすると思うのですけれど〜……ボレアスで起こっていること考えれば、それも仕方のないことですかね〜……』
「ふーん。反対しないのね?」
『えぇ、反対はしませんよ〜?今のところ、私の計算に狂いは出ていませんからね〜』
「どんな計算してるのかは知らないけど……あんまり無茶苦茶なことしたらダメよ?」
『はい。それは分かっていますよ〜?ただひたすらに、ミッドエデンがこの世界における唯一の強国になれるよう、経済活動、軍事活動、慈善活動……その他諸々の手回しをしているだけです。それも水面下で〜』
「……それを無茶苦茶っていうんじゃないの?」
『そうは言いますけど〜、これはとても重要な事なのですよ〜?今やエクレリアは、この人間側の領域にあるオリージャだけでなく、魔族の領域にすら手を出し始めているのです。それをただ見ているだけでは、その内、後塵を拝するのは必然。いま動かなければ、近い未来、もっと面倒なことになるはずですからね〜』
「……一応、聞いておくけど、それは真面目な話?それとも、物は言いようってやつ?」
『両方ですね〜』
「……そう」
半分呆れたように相槌を打つと、椅子にのけぞって、背もたれに後頭部を載せ……。
たまに流れてくる白い雲が浮かぶ空へと、ワルツは視線を投げた
現代世界の日本出身と思しき者たちがいるこの世界で、できるだけ……いや、絶対に目立ちたくなかった彼女にとっては、自分たちのいるミッドエデンが大きく行動するという流れに、賛成しかねていたようである。
とはいえ、このままだと、本来この世界にあるべきバランスが大きく崩れて、いつかはミッドエデンもそれに巻き込まれてしまう事は分かっていたので……。
ワルツはコルテックスの方針について、しばらく様子を見ることにしたようだ。
一方、その頃。
「……というわけで、ムッツr……マクニール様?一応、この国をエクレリアから守ったわけですが……シラヌイさんの情報を、約束通り、お教えいただけるのですよね?」ニコニコ
ユリアとシラヌイは、ワルツが宿を出た後で、以前、マクニールと出会った『勇者の酒場』へと彼を呼び出し、再び密会していた。
そんな彼女たちの目的は……ユリアの言葉にあった通り、シラヌイの情報を聞き出すことである。
「…………分かった。話そう」
「お願いします(まぁ、私たちは寝てただけですけど……)」
「…………?」
マクニールが重々しく口を開いた後で、ユリアがチラッと見せた表情に気づいて、首を傾げるシルビア。
とはいえ、それも、マクニールが話し始めたことで、有耶無耶になってしまったようだが。
「彼女は……」
「「彼女は?」」
マクニールの言葉を繰り返し、その先の発言を促すユリアたち。
それからマクニールはもったいぶること無く、2人が求めていた言葉を口にした。
……ただし、彼の話は、ユリアたちにとって、少々期待ハズレなものだったようだが。
「……もうこの国には居ない」
「……死にますか?」にっこり
「いや、ちょっ……後輩ちゃん!いきなり、なんてこと言うのよ……(いや、私も殺意は持ったけど……)」
と、シルビアが言わなかったら、もしかすると自分が言っていたかもしれないと思いつつ、アタフタするユリア。
そんな彼女たちの脅しに近い発言を受けても……やはり、表情を崩すことのなかったマクニールは、それからも言葉を続け、シラヌイの情報について説明を始めた。
「つい1週間前のことだ。この酒場に飲みに来る顔なじみの河渡しから、シラヌイという魔族の少女に、運賃の代わりに見たこともないような立派なアクセサリーを作ってもらい、それを対価に彼女のことを河の向こう側に渡した、という話を聞いてな」
「(……間違いなくシラヌイさんでしょうね。彼女らしいというか……)」
「(立派なアクセサリー……刃物ですかね?)」
「その際の話によると、彼女の次の行き先は……」
「「行き先は?」」
「……まずはボレアスに行くという話だったらしい。本当は何処か目的地があるようだが、そこまで行く道程がわからないんだとか……」
「「ボレアス……」」
その国名を聞いて、苦々しい表情を浮かべるユリアとシルビア。
どうやら二人とも、エクレリアが攻め入って占領してしまっただろうボレアスの事を考えたらしく、そこへ行ったというシラヌイがその事情を知っているか心配になってしまったようである。
「ど、どうしましょう……先輩……」
「そりゃ……追いかけるしかないでしょ。無線機を置いていってるんだから、連絡を取りようにも取れないし……。ま、私たちだってボレアスに用事があるわけだし、最悪な話だったわけではないと思うわよ?少しポジティブに考えましょ。まぁ、これで、死んだとか殺したとか言ってたら……この国ごと滅ぼしちゃおうかと思ったけどね?」
「ちょっ……先輩……。発言が過激すぎますよ……」
と言って、手のひらを見せながらアタフタとした反応を見せるシルビア。
やはりこの2人は、揃って似た者同士のようである。
「情報提供、ありがとございました」
「ありがとうございます」
そう言って、酒場を後にしようとするユリアたち。
すると、そんな2人の事を
「……待て。1つ言いそびれていたことがあった」
マクニールはおもむろに呼び止めたようである。
それを聞いて、
「え?なんですか?」
「ま、まさか……やっぱり私たちの身体が目当て……」
「いや、だから違うって……後輩ちゃん……」
と、初めてここに来た際にも交わしたやり取りを口にするユリアたち。
そんな彼女たちにマクニールが言った言葉は……
「……ありがとう」にっこり
「「…………え?」」
2人が予想したものとは、大きく異なっていたようだ。
ふぅ……。
長旅から戻ってきたのじゃ。
もう、足がボロボロなのじゃ……。
……で、の?
新幹線に乗っておって、4時間揺られる間、余りに暇じゃったから、いつも通りに執筆活動……ではなく、今日は久しぶりに、他の者の物語を読んだのじゃ。
前にも書いたかもしれぬが、これまでは、あまり他者の書き方に影響されまいと、読む機会を減らしておったのじゃ。
じゃが、ほぼ書き方が確定した今なら、影響されようとも、それほど大きな変化は無いと思っての?
本格的な読書を解禁したのじゃ。
それで、久しぶりに物語を読んで、その結果、見えてきたのは……今だからこそ分かる、筆者の苦悩だったのじゃ。
やはり、読むだけでなく、書く側に回ってこそ、物語は本当に面白くなるのかも知れぬ。
まぁ、ここに他人の物語の感想を書いても仕方ないゆえ、何を読んで、具体的に何を思ったのかについては省略させてもらうのじゃが……物語というものは、やはり面白いものじゃのう。




