8.3-31 セカンドコンタクト19
バタバタとしたエクレリアの夜襲に対処して、そして事態が収束した後。
ワルツとルシアは、疲れたような表情を浮かべながら、宿屋へと戻ってきた。
彼女たちが部屋へと入ると、そこでは……
「あ、おかえりなさいかも!」
イブが2人の帰りを起きて待っていたらしく、再び明かりが灯されたランタンの載った机へと向かっていて……。
そして、
「…………zzz」
「…………zzz」
「…………zzz」
同じく非戦闘員であるテレサ、それに彼女たちを守る立場にあったユリアとシルビアが……どういうわけか、ここを出る前にワルツが寝ていたシングルサイズのベッドの上で、3人仲良く川の字に並びながら、ぐっすりと眠っていたようである。
なお、繰り返すようだが、彼女たちの部屋は、ここではなく、隣の部屋である。
そんな彼女たちの姿を見たワルツが、こわばった表情を浮かべて、片眉をピクピクと動かしていると……
「えっと……どうだった?ワルツ様?」
イブが椅子から立ち上がってワルツの元へと駆け寄り、心配そうに彼女の顔を覗き込みながら、事情を問いかけた。
恐らくイブは、ワルツのその表情を見て、あまり芳しくない出来事が起こった、と考えたのだろう。
しかし、もちろん、何か特別な出来事があったわけではなく……。
問いかけてきたイブに対し、ワルツは表情を和らげると、外であった出来事について、一部を簡単に説明した。
「何も問題は無かったわよ?思いの外、ウチの騎士たちが出来る人たちばかりだったおかげでね。あとは……この町の結界が一時的に壊れちゃったみたいだけど、それもすぐに修復できたし……(拷もn……尋問のことは、別に言わなくてもいいわよね……)」
「そっかー。心配すること無い、ってテレサ様方が言ってたかもだけど、その通りだったかもなんだね。イブも寝とけばよかった」ふぁ〜
「じゃぁ、イブちゃん。私たちも寝よっか?」
「うん!」
そして、再び着替えて、2人同時にベッドへと横になるルシアとイブ。
2人とも、流石にこの時間まで起きていると眠くなってきていたらしく、布団に入るなり、すぐに眠りに落ちてしまったようだ。
一方、自身のベッドを奪われたワルツの方は、というと、
「……まぁ、良いけどさ」
自分のベッドで眠る3人の事を叩き起こして、隣の部屋に追いやる……ことなく、そっとしておくことにしたようである。
……そう。
眠らない彼女がベッドに横になる必要性は、まったく無いのだから……。
一方、その頃。
空が徐々に白くなり、星々が薄らいで見えなくなった……そんな空の下で。
「……こうした光景を見ると、果たしてワルツ様の下に付くことが正しいのかどうか……悩ましくなります……」
メイド姿の女装勇者は、人のいなくなった王城前の広場を眺めながら、小さくボヤいていた。
彼が何故、浮かない顔をしながら、そんなつぶやきを口にしていたのか、というと……
「骨折り損でしたね……。しかし……彼らは本当に兵士でしょうか?あんなに泣き叫んで……」
「自分たちがまるで兵士ではない、みたいなことを口走っていましたね。武器を持った時点で、兵士だと言うのに……近頃の若い者は、まったく覚悟が足りない……」
「ふ、2人の会話に付いていけない……」
ユキたちが、捕らえたエクレリア兵へと片っ端から尋問(?)して……そしてそのまま、一人残らず、皆殺しにしてしまったからである。
いや、正確に言うなら、勝手に死んでしまった、と言うべきか。
どうやら、余計なことを口にすると死んでしまうような仕組みが、彼らの黒いヘルメットの中か、彼らの身体自体に仕込まれていたらしい。
なお、その後で彼らの身体がどうなったのかについては……この場に死体は残されていない、と言えば十分だろう。
勇者にはそんな彼女たちの非人道的な行動が、どうやら受け入れられなかったようである。
彼女たちが直接兵士たちを殺害したわけではないものの、途中で止めていれば、皆が死ぬことは無かったのではないか……。
最後まで繰り返し彼らを死に追いやる必要性はなかったのではないか……と、彼は考えてしまったようだ。
とはいえ、かつてエクレリア側に属していたロリコンやカペラたちと、ある程度つながりのあった彼は、光の粒子になって消えてしまった兵士たちが本当に死んだわけではない事を知っていた上、ユキたちの行動についても一定の理解があったので……本当にどうしようかを悩んでいた、というわけではなかったようだが。
「私はどこから来て、どこへと行くのでしょうね……」
と、細めた視線を随分と明るくなった東の空へと向けながら、そんなつぶやきを口にする勇者。
すると、そんな彼の言葉に対し、近くにいた剣士が返答した。
「そんなの、エンデルシアから来て、どこか行き着くところに行き着くに決まってますわ。それがどこなのかは、わたくしも知りませんけどね。……ほらレオ?さっさと戻って寝ないと、また寝不足になりますわよ?」
そんな仲間の言葉を聞いた勇者は、少しだけ安堵したような表情を見せ、そして一旦は振り返るものの……その際、その視線の中に、理解に苦しむ光景が写り込んできたらしく、彼は思わず固まってしまったようだ。
すると、もう一人。
どういうわけか……包帯まみれで、松葉杖のようなものを付いていた賢者が、妙な行動をした勇者に対して、その事情を問いかけた。
「どうしたんだ?レオ」
「あれ……何をしてるのでしょう?」
「「あれ」?」
と、オウム返しのように返答して、勇者が見ていた方向へと視線を向ける剣士と賢者。
するとそこには……
「我がボレアスの拷問が世界一だ!」ググググ
「何、わけのわからないこと言ってるのよ!マギアが最強に決まってるじゃない!」ギギギギ
お互いに両の手を組み合いながら、額をくっつけて睨み合うヌルとソフィアの姿が……。
それを見て、
「勇者……。俺はてっきり、見て見ぬふりをするつもりだと思ってたんだが?」
「あれは間違いなく、触らぬ何とやらに祟りなしってやつですわ……。ほら。小さい頃、親が言っていましたでしょ?見ちゃいけない、見ちゃいけない、って」
と、それぞれ口にする賢者と剣士。
どうやら2人とも、ヌルとソフィアのやり取りに、危険な雰囲気を感じ取っていたようである。
特に、経験豊富(?)な剣士の方は、それを本能的に察していたようだ。
「そうですね……同感です。では、戻りましょうか……」
それから、ヌルたち2人に話しかける……などという愚行には及ばず、そのまま帰ることにした様子の勇者。
しかし、彼は、王城の方に視線を向けたところで……再び立ち止まってしまった。
そこに、知った顔が立っていたのである。
「マクニール……」
どこか遠い視線を、包帯だらけの部下たちに向けて、憔悴したような、あるいは自身の無力さを感じているような……そんな虚ろな表情を浮かべて立ちすくんでいる彼の名を、勇者は小さく呟いた。
そんなマクニールにも、身体の所々に包帯が巻かれていたところを見ると……彼も今回の戦闘に参加していたようである。
恐らく彼の負傷も、エクレリア兵が使っていた銃器によって受けたものだろう。
勇者に呼びかけられたマクニールは、我を取り戻したのか、視線を勇者へと向けた。
それから彼は、いつものポーカーフェイスに戻り、直前の雰囲気をすっかりと消すと、勇者の呼びかけに答える形で、こう口にした。
「流石、ミッドエデン……。噂通りだ」
「噂?」
マクニールが急に何を言いだしたのか分からず、その真意を問う勇者。
するとマクニールは、その『噂』について、説明を始めたのである……。
……え?
エクレリアとの『せかんどこんたくと』はこれで終わりか、じゃと?
……サブタイトルのナンバリングを見てもらえるじゃろうか。
もう30を超えておる……すなわち1ヶ月以上、同じ話を書いておるのじゃ。
まぁ、全面対決は、まだ先の話で問題なかろう。
それに、色々と下準備も、伏線の回収も、できておらぬからのう。
さて。
今日、明日と、書いておる時間があまりないゆえ、あとがきはここで切り上げさせてもらうのじゃ?
もう少しゆっくりと書きたいところなのじゃが、時間と環境がそれをゆるしてくれなくてのう……。
というわけで、手抜きなあとがきは、明日も続くのじゃが……もうしばらく、お付き合いくださると幸いなのじゃ?
……え?いつも、あとがきは手抜きじゃと?
…………zzz(のーこめんと)。




