8.3-27 セカンドコンタクト15
「……おすしが8192個」
「……しつじが8193匹」
「……あんたたち、さっさと寝なさいよ……」
数え始めてから、およそ4時間。
どうやらルシアもイブも、未だに眠くならなかったようである。
「だって……数えてて、眠ったりなんかしたら、ルシアちゃんに悪いかも、って……」
「私も、イブちゃんより先に眠ったら、お姉ちゃん役として失格かなぁ、って……」
「いや……うん……。もう、数えなくていいから、寝た方がいいと思うわ……」
部屋の中が暗かったために、お互いに顔は見えなかったようだが、ルシアもイブも、眼を真っ赤にしながら、げっそりとした表情を浮かべていたようだ。
その結果、ワルツは、呆れたように苦笑したわけだが……そんなワルツについて、イブは何かに気づいたことがあったらしく、彼女はおもむろにこんな問いかけを口にした。
「ワルツ様は……眠くならないかもなの?」
それを聞いて、
「えっ?い、いや……うん……。今日はちょっとね……」
と、しどろもどろな様子で返答するワルツ。
自身が眠らないことを知っているのは、ホムンクルスたちとユキくらいのもので……。
彼女は出来ることなら、ルシアやイブたちに、知られたくなかったようである。
一方。
ワルツと比較的長い間、衣食住を共にしてきたルシアも、イブと同じような疑問を抱いていたようだ。
「そう言えば私も、お姉ちゃんが寝てる所……一度も見たことないかもしれない……」
「そ、そうだっけ?」
「ふーん。ルシアちゃんも見たことないかもなんだ……。これは……事件の予感かも?!」きゅぴーん
「い、いいから、2人とも早く寝なさい!」
と、これ以上、下手に答えるのは下策だと思ったのか、頭から布団を被ってしまうワルツ。
これ以上、何を聞かれても、答える気はない……その意思表示だろう。
……しかしである。
そんな彼女の事を、無理矢理に布団から引きずり出そうとする音が、閉ざされている窓の外から聞こえてきた。
ドゴォォォォン!!
「「「?!」」」
その大きな音と振動を聞いて、布団をはねのけ、そして立ち上がるワルツとルシア。
ただ、イブの方は……
「……寝てても良いかな?」
できるだけ、その大きな音には関わりたくなかったらしく、まるで先程のワルツと同じように、頭から布団を被ることにしたようだ。
まぁ……結局は無視できずに、2人に習って、起き上がることにしたようだが。
ドゴォォォォン!!
その音は、皆が寝静まった後の街の中へと断続的に響き渡り……そして大きく大地を揺るがしていた。
より正確に言うなら……町を取り囲む市壁が、その音と振動の源だったようだ。
「何の音かなぁ?」
「さぁ?まぁ、大体予想はつくけど……」
大きな月も、巨大なエネルギアもいない、ただ星だけが輝く、真っ暗な町の空を、音の聞こえる方向に向かって飛行するワルツとルシア。
とはいえ、町の切れ目まで飛行するのに、さほど時間はかからず……。
宿屋の窓から飛び立って10秒ほどで、2人は目的の場所へとたどり着いた。
するとそこでは、こんな光景が広がっていたようである。
ピカッ……
地平線近くで、雷か、あるいはカメラのフラッシュのような……そんな眩しい光の点が生じたと思うと、そこから真っ赤に輝く物体が、弾道軌道を描きながら、急速にワルツたちのいた町の方へと飛翔してきて……
ドゴォォォォン!!
市壁に当たり、その場を粉々に吹き飛ばしてしまったのだ。
今回のケースでは、市壁に当たったわけだが、それよりも前に飛んできていた飛翔体は、一部が壁より手前の荒野へと……。
そして別の一部は、町の中へと落下して、小さくはないクレーターを穿っていたようである。
「うーわ、面倒くさ……」
その光景を見て、思わず呟くワルツ。
そんな彼女の眼から見えていたのは……
「自走榴弾砲……。しかも、骨董品みたいなやつみたいね……。ま、誰かが見よう見まねで作ったんでしょうね……きっと……」
鉄で出来た箱の上に、やたらと長い筒が取り付けられているような見た目の戦車……自走榴弾砲だったようである。
とは言え、飛んでくる弾頭は、炸裂する榴弾ではなく、単なる金属の固まりか、徹甲弾に類する弾体だったようだが。
それが町から5km程度離れた場所……より具体的に言うなら、この町を挟み込むように存在する深い崖の向こう側に停車していて、そこから町の壁か、あるいは町自体を狙って砲撃してきていた。
そんな自走榴弾砲は……どういうわけか、たったの1台だけだったようである。
「国を滅ぼすのに戦車1台だけあれば十分、とか思ってるんでしょうね……」
この世界の平均的な文明の進み具合に照らし合わせて考えるなら、現代世界において骨董品的な戦車であっても、ここでは相当な戦力を誇ると言っても過言ではなかった。
そもそもからして、この世界には、数km以上離れた場所から攻撃を加えられる武器や魔法は、一部の特殊な例を除けば、存在しないのである。
戦車を持ち出した国――恐らくエクレリアは、それを利用し、一方的にしか届かない戦力を見せつけることで、相手の戦意を挫こうと考えたのだろう。
「どうする?お姉ちゃん……」
ルシアには相手の考えは分からなかったようだが、このまま見て見ぬふりをするわけにはいかない、と考えていたらしく、隣りにいた姉のことを、心配そうに見上げた。
しかし、その視線の先にいたワルツの方も……ルシアと同じく、戸惑い気味の様子だったようである。
「どうしようかしらねぇ……。こう、ドン、と潰すことは出来るんだけど、ちょっと困ってるのよね……。そんなことをしたら、あとで余計に大変な事になりそうだし、それにコルテックスの話もあるし……」
と言いつつも、こちらに向かって飛来してくる赤い物体――赤熱した砲弾を、重力制御システムで受け止めると、それをあさっての方向へと、跳ね返すワルツ。
そんな彼女に対して、隣りにいたルシアは、不思議そうに問いかけた。
「大変なことって?」
「そうね……。例えば、ここで、あの戦車を消し飛ばしたとするじゃない?すると、戦車1台で国を落とせると思っていたエクレリア側は、びっくりするでしょ?どうして急に、戦車が吹き飛んだろう、って。で、こういう結論に辿り着くわけよ。……オリージャを甘く見てた、ってさ?その次はどうなると思う?」
「次…………もしかして、もっとたくさん来る?」
「そ。そういうこと」
「それは……かなり困るよね……。じゃぁ、どうすればいいかなぁ……」
「そうなのよね……」
と、ルシアの問いかけに対して、ワルツもどうすれば良いのか分からなそうな反応を見せるのだが……。
しかし、彼女の中では、一つの結論が出ていたようである。
「それじゃぁ……こうしましょっか」
そう口にした後でワルツは……行動を始めた。
ピカッ……
定期的に飛んできた飛翔体を、
グイッ……
と、重力制御システムを使って受け止め、そしてそのベクトルを反転させると、
ピカッ……
再び光点が見えた瞬間に、
ドゴォォォォン!!
と、自走榴弾砲の砲身の中へと戻したのである。
その結果、どうなったのかというと。
内部から発射されようとしていた砲弾と、外部から入ってきた砲弾とが、砲身の内部で衝突して弾け……砲身がその内側から、まるで花が咲くように、吹き飛んだのである。
……要するにワルツは、砲弾を砲身内部で詰まらせて、あたかも暴発したように見せかけたのだ。
「なんか爆発したみたいだけど……お姉ちゃん、何をしたの?」
「事故ったように見せかけた?」
「…………?」
「いやさ?例えばだけど……しばらく走ってたら、勝手に分解する馬車があったとするじゃない?それも、むちゃくちゃ速いやつ。そんな馬車に……ルシアは乗りたいと思う?」
「ううん……絶対、イヤ」
「でしょ?それと同じこと。つまり……あの戦車はポンコツで、使い物にならない、って乗ってる人にそう思わせたわけ。ミッドエデンとか、メルクリオとか、エンデルシアで見たことないってことは……そんなに実戦経験も稼働実績も無いはずだから、こういう火傷が1回でもあれば、そう簡単にはまたやって来ない、って思ってさ?コツは……中の人を殺さないようにすることね(国に戻らせて、恐怖を蔓延させるために、さ?)」
「えっと……うん!」
ワルツの言葉を理解したかどうかは不明だが、不殺を口にした姉に、大きく首を縦に振るルシア。
すると砲塔を破壊された自走榴弾砲はそこから動いて……。
来た道を戻るように、その場から立ち去っていったようである。
「ほらね?」
「暗いから私には見えないけどね……」
そしてルシアが、ワルツに対し苦笑を向けた……そんな時だった。
パァン!!
そんな乾いた破裂音が、どこからともなく響き渡ってきたのである。
どうやら相手は……自走榴弾砲1台だけ、というわけではなかったようだ。
一昨日は歯が痛いと言っておったじゃろ?
それが今日になると……次は手首に移っておったのじゃ。
まぁ、歯痛が移ったわけではないと思うがの?
じゃがそうすると、どうして手首が痛くなってしまったのか……。
これをカタリナ殿に見てもらったなら……駄文の書き過ぎ、などと言われてしまう……そんな気がしてならないのじゃ。
もう、ダメかもしれぬ……。
まぁ、ダメなものはダメとして、ゴミ箱の中にでも置いておいて……。
実はのう……。
今週は、ちょー忙しくなりそうなのじゃ……。
まぁ、ある意味、取材に出掛けるようなものなのかもしれぬが、日本国中を縦横無尽に飛び回らねばならなくてのう……。
……いや、縦は無いかの。
東西に合計1000km以上、移動せねばならぬのじゃ。
それゆえ、もしやすると、最悪、夜の0時を跨ぐことがあるやも知れぬが……まぁ、何とか、書こうと思うのじゃ?
……ってこれ、あとがきじゃなくて、活動報告で書くべきなのじゃろうのう……。




