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8.3-24 セカンドコンタクト12

ガキィィィンッ!!


「今日の晩御飯は何かなぁ?お寿司かなぁ?」


「ルシア……お前、よく飽きないな?実は、そんなルシアには申し訳ないんだが……昨日がこってり系の料理だったから、さっぱり系の料理を作って欲しい、って、さっき狩人姉に頼んでおいたんだ。だけど、この匂いからすると……今日もまた肉料理なんだろうな……」


「狩人殿が、りくえすとを無視するとも思えぬゆえ……恐らくは、さっぱり系の肉料理ではなかろうかの?まったくもって不思議なのじゃ……。どうやったら肉を使って、あんなさっぱりとs」


「って、皆様?!なんで冷静でいられるのですの?!」


突然、武器を取り出して鍔迫り合い(?)を始めたソフィアとヌルの行動を、何もなかったかのようにスルーすることが出来ず、思わず声を上げてしまった様子のベアトリクス。

なお、そんな彼女の反応はまったくの正常であって……むしろ反応しない者たちの方が異常である。


「まだ料理も出てきてないし、埃が入るわけでもないから……別に良いんじゃない?」


「色々なところから、様々な者たちが来ておるゆえ、多少の衝突があっても、おかしくはないのじゃ?」


「そういうこったな。細かいことを一々気にしてたら、コルテックスとやってけないしな」


「いや、そう言う問題では……」


と、言いかけたところで……しかし、どういうわけか、口を噤むベアトリクス。

その場にいたワルツや、今しがたやって来たばかりのカタリナや飛竜、さらには厨房にいた狩人にも、特に反応した様子はなかったようなので……ベアトリクスは、


「……そういうものなのですわね」


その類稀(たぐいまれ)な順応力(?)で、周囲を見習い、何事もなかったかのように振る舞い始めたようである。

ワルツたちを良好な関係を築いていく上で、とても重要な能力(?)と言えるだろう。


一方。

妙なオーラを纏いながら、剣と杖を交えていたヌルとソフィアは……今もなお、お互いに殺気をぶつけ合っていたようだ。


「貴様、どうしてここにいる!」ギギギギギ


「その言葉、そのままあんたに返すわ!」グググググ


と、机越しに、やり取りするヌルとソフィア。

その様子から察するに、彼女たちは、顔見知りだったようである。

それも、相当に、仲が悪いタイプの……。


そんな彼女たちに声を掛けたのは……何を食べてきたのか、口の周りを黄色いあんかけのようなものでギトギトにしていた飛竜……の隣りに座っていたカタリナであった。


「あの……お2人とも?まだ料理が出てきていないと言っても、ここは食事の席なので、一旦、座りませんか?」


そう言って、苦笑を浮かべるカタリナの言葉を聞いて……


「も、申し訳ございません……!」ずさっ

「……?…………!?」ずさっ


と、同時に得物を収めて、席に腰を下ろす2人。

それも、どういうわけか、顔を真っ青にしながら……。

ヌルはカタリナに面識があって、彼女のことをある程度知っているので、そういった反応を見せても無理もないことだが……ソフィアの方は、カタリナと殆ど面識がないはずなので、彼女が驚いたような反応を見せた理由は不明である。


そんな彼女たちの反応が、やはり不思議だったのか、


「どうしたのです?2人とも……」


カタリナが事情を問いかけると……


「い、いえ。なんでもありません……」


「こ、これは、お見苦しいところをお見せいたしました……」


まるで怖いものでも見たかのように、カタリナから眼を逸して俯いてしまう2人。


そんな中、眉間にしわを寄せたソフィアが、こんな一言を呟いた。


「ビクセン様?いや…………あ、確か、カタリナという名前の……」


それを聞いて、


「もしかして、ソフィアって……魔族?」


と問いかけるワルツ。

そんな彼女の問いかけに対し、ソフィアは……戸惑い気味の表情を浮かべながら、こう口にした。


「ここにはヌルちゃんがいるので……隠せませんね。確かに私は魔族。ボレアスの東隣にある国の出身です」


と、御年500歳にもなるヌルのことを、『ちゃん』付けで呼ぶソフィア。

それを聞いて、


「貴様、何を言っている?魔族どころの話では……」


ヌルがそう口にすると、


「…………」ギッ


ソフィアは、鋭い視線をヌルへと向けたようだ。

その視線の意味は、それ以上言うな、だろうか。


結果、彼女と仲が悪い様子のヌルは……しかし、それ以上、余計なことは口にしなかった。

……というよりも、ヌルの他に、おしゃべりな人物がいて、続きの言葉を言おうかどうかを悩んでいた彼女の代わりに、その言葉を口にしてしまったのだ。


「ソフィーったら、魔王らしいですよ?冗談なのか、本当なのか、知らな…………どうしたんですか?皆さん。そんな微妙そうな顔をして……」


「…………アンバー?」ゴゴゴゴゴ


「え?どうしたのソf……ひぃ!?」


そして、ソフィアのその形相に怯えた様子で、その場から立ち上がり、部屋から逃げ出そうとするアンバー。

口は災いの元……とは、今の彼女のためにある言葉なのかもしれない……。




それから目にも留まらぬ速度でアンバーの前に回り込んだソフィアが、アンバーが得意とする転移魔法で逃げられないようにと、転移魔法防止結界を張り、ロープでぐるぐる巻きにして……。

そしてソレを部屋の片隅へと、無造作に放置した後。


間もなくしてテーブルの上へと運ばれてきた狩人料理へと、皆で美味しそうに手を付けながら……ワルツはソフィアに対し、事情を問いかけた。


「貴女……もしかしなくても魔王だったりするわけ?」


その質問に対し、


「……いえ、魔族です」


と、(かたく)なに否定して、飽くまでも自分はただの魔族である、と主張しようとするソフィア。

とはいえ、例え魔王であっても、魔族に属することに変わりはないのだが。


結果、ワルツは、その後で、事情を知っている様子のヌルへと視線を向けた。

しかし、ソフィアと仲が悪いはずのヌルは、自らソフィアの正体を明かすつもりは無いらしく、そのままその視線を、隣にいた妹のユキ(A)に向けてしまう。

するとユキ(A)は、その隣りにいたユキBに。

そしてそのユキBは……


「…………?どうしたのですか?」


……そもそもからして、ソフィアの正体を知らなかったようである。


そんなシリウス姉妹の様子を見て、


「ま、いいけどさ……。でも、カタリナのことを、すぐにビクセン様なんて言うなんて……普通の魔族じゃないわよ?」


ワルツは無理に追求するのを諦めたようだ。

自分の仲間たちの中にも、素性がよく分からない者たちが多く含まれていることを考えてのことなのだろう。

特に、ルシアや、イブや、カタリナなどなど……。


すると、ビクセンと呼ばれたカタリナは、何を思ったのか……


「……ふっふっふ。私の名は、こんな時代になっても、有名なんですね……」


と、いつも通り、どこか根暗な様子で笑みを浮かべながら、そんな言葉を口にした。


もちろんそれは、彼女なりの冗談である。

実際、彼女の事をそれなりに深く知っている者たちは、それに気づいていたようだ。


だが……彼女と出会って間もないヌルとソフィアは……


「「…………?!」」


食べようとしていた肉料理を、口に入れ損ねて、床に落としてしまうほどに、戸惑ってしまったようである。

彼女たちにとって、ビクセンという人物は、よほど特別な存在だったらしい。


「いや、カタリナ?それ笑えない冗談だからね?」


「やっぱり、そうですかね……。でも、どうして皆さん、私のことをビクセンビクセンと呼ぶんでしょうか?そんなに似てるんでしょうか?」


そう言って、首を傾げるカタリナ。


すると、ようやくカタリナの言葉が、冗談であることに気付いたソフィアが……


「本当に驚くほど、肖像画によく似てるのよ……」


と口にしながら、近くの椅子の上においてあった魔女帽子の中から、B6サイズ程度の、一枚の写真のような絵を取り出した。

恐らく、彼女の帽子にも空間拡張のエンチャントがかかっていて、その中は見た目以上に広くなっているのだろう。


そんな帽子の中からソフィアが取り出したその絵は……それはとにかく、細部まで描かれた肖像画であった。

油絵の具のようなもので描かれていて、表面に小さな凹凸があったものの……まるで写真と見まごわんばかりに忠実に描かれた絵画である。

もしかすると、以前、ボレアスの城に飾ってあったという魔王ビクセンの肖像画の……その縮小版なのかもしれない。


そして、その中にいた人物は……


「……あれ?これ、カタリナじゃん……」


「えっ?……あ、ホントですね……」


どこからどう見てもカタリナだったようである。

それも、着ている白衣まで、まったく同じ姿の……。

今日はのう……もうダメかもしれぬから、新しいストックを貯めずに、さっさと眠るのじゃ。

何がダメって……何がダメなのじゃろうのう……。

いや、別に、嫌なことがあったわけでは無いのじゃが……耳が……いや、なんでもないのじゃ……。

今日はとにかく、安静にして眠るのじゃ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 763/1772 ・『ガキィィィンッ!!』←これがミッドエデンの日常なのか~ [気になる点] ・「「…………?!」」 以前から気になっていたのですが『!?』と『?!』に明確な違いはある…
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