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8.3-23 セカンドコンタクト11

その日は、1日、特に進展は無かったようである。

オリージャは東西に長い国境の西端をエクレリアと接しているわけだが、そこに配備している兵士たちからの連絡はまだ無く、今のところしばらくは、平穏な日々が続きそうな様子であった。


そんな中、日が落ちた後で、ミッドエデン側の者たちに、大きな変化があったようである。

ただし、オリージャ政府が把握しない内に、エクレリアが攻めてきた……というわけではない。


これは、ワルツたちがいた宿屋での出来事である。


「ワルツゥー!会いたかったぞー?元気にしてたかー?」


「いや、狩人さん?3日前にも会いましたよね?」


「み、3日?!私はそんなにも長い間、我慢していたのか……」


「…………はい」


ただ大げさなだけなのか、それとも本心からなのか……。

たった3日、ワルツに会えなかっただけで、絶望していた狩人は……その部屋にやって来た瞬間、まるで数年会っていない知人に向けるような表情を見せながら、ワルツの手を取って、ブンブンと振り回し始めた。

彼女にとっては、ワルツに会えないことが、よほど苦痛でならなかったようである。


そんな狩人は、エネルギアに運ばれて、ここへとやって来たらしい。

昼間、カタリナから話を聞いていたアトラスが、狩人のことが心配になって、連れてくるように手配したようである。


さらに、である。

エネルギアに運ばれて、ワルツたちがいた宿屋へとやってきたのは……何も狩人だけでは無かった。


「あ、ワルツさん!お久しぶりです!」


「お久しぶりですね。ワルツさん」


そう口にしたのは、大きな(つば)の付いた三角帽子を被った魔女2人……。

マギマウスの一件が片付いて、サウスフォートレスからアルクの村へと無事に帰ることができた、アンバーとソフィアである。


「2人とも、よく来てくれたわね?」


「それはもちろんですよ。ワルツさんが力を貸してほしいと頼まれるのでしたら、たとえ火の中、水の中……」


「ワルツさんの頼みなら、どこへでも駆けつけますが……ちょっと私は、炎と水の中は勘弁してもらいたいわね……アンバー?試しに火を付けてみましょうか?」にっこり


「げっ…………や、やっぱり、今の無しで……」ガクガク


「あ、うん……。まぁ、2人とも元気そうで良かったわ」


と、アンバーたちのやり取りを見て、苦笑を浮かべるワルツ。


それから、その場に重そうな荷物を置いたソフィアは、ワルツに対して、質問を投げかけた。


「それで、ワルツさん?私たちに何かご用ですか?もしかして、人手が足りないとか?」


するとワルツは……少しだけ難しそうな表情を浮かべながら、早速、彼女たちをここへと呼び寄せた理由を口にする。


「実はさ……ここでこれから、ちょっと大規模な戦闘が行われるのよ。2人には……そこで、生じたけが人の手当をしてもらいたい……と思ったんだけど、危ないかもしれないから、無理に、とは言わないわよ?」


それに対し、


「そうでしたか……。私は構いませんよ?」


「喜んでお手伝いさせていただきます」


と、二つ返事で、同意の意思を見せる2人。


だが……ワルツの次の一言には、首肯できなかったようである。


「そう。それは良かったわ。具体的には……回復魔法を使って、治療を進めてもらうことになると思うんだけど……」


彼女がそう口にした瞬間、


「「えっ」」


と、固まるソフィアとアンバー。


その反応を見て、


「えっ……もしかして……2人とも、回復魔法、使えなかったりする?」


ワルツはそんな、まさかの予想を立てたのだが……


「「はい……」」


2人は、難しい表情を浮かべながら、肯定の意思を示した。

彼女たちは、サウスフォートレスの施療院で、けが人の容態を見ていたわけだが……どうやら、それと回復魔法とは、別の話だったようである。


とはいえ……。

言うまでもないことかもしれないが、けが人の治療がまったくできない、というわけではなかったようだ。


「あの……薬草から傷薬を作り出すことは出来るのですが、回復魔法の代わりに、それを使うというのはダメでしょうか?」


「ソフィーの治療薬、ものすごく効くんですよ?アンデッドに使ったら……もう、一撃必殺間違い無しです!」


「えっ……う、うん。協力してくれるなら嬉しいけど……いいの?別に、断ってもいいのよ?危険かもしれないし……」


と、2人に対して、確認するワルツ。

そんな彼女は、アンバーたちが回復魔法が使えないことを知って、少々、心許(こころもと)なくなってしまったようである。

尤も、彼女の中にあった基準は、ルシアやカタリナだったので、回復魔法自体を過大評価していた点は否めないが……。


ワルツから確認の言葉を向けられたアンバーたちは……しかし、それでも、その頼みを断ることはなかった。


「おまかせ下さい。これまでに身に付けた技術や知識をすべて活用して、ワルツさんの期待に答えてみせます!」


「えっと……私はお手伝いしか出来ませんが、最悪、敵をみんな、転移魔法で吹き飛ばしますから安心して下さい!」


それに対して……


「ありがとう、2人とも。でも……敵を吹き飛ばす必要は無いわよ、アンバー?命の危険を感じたりしたらその限りではないけど、オリージャの人たちを手助けする感じで動いてもらえると助かるわ?」


と、少々言葉足らずな様子で、返答するワルツ。

その言葉に対し、アンバーは、


「えっ……そ、そうですか……。分かりました」


どこか残念そうな表情を見せるものの、一応、納得したような反応を見せていたようだ。


ただし。

そんな彼女が、果たしてワルツの言葉の意図を正確に理解したかどうかについては、不明だが……。




「コルテックス……怒ってねぇかな?」


「アトラスくん。多分、考え過ぎなんじゃないかなぁ?」


「何なら、エネルギア嬢に頼んで、一度、ミッドエデンに連れて行ってもらって、直接、コルの機嫌を確認してくれば良いのではなかろうかの?」


「(コルテックス様……そんなに恐ろしい方には見えなかったのですけれど……)」


と、宿屋1階にあった食堂で会話をしていたのは、宿屋の厨房を貸し切って食事の準備を進める狩人の料理を待っていた、アトラス、ルシア、テレサ、それにベアトリクスの4人である。


その際、アトラスは、浮かない表情をしながら、机に両肘を付いて頭を抱えていたわけだが……どうやら彼は、この国にやって来たコルテックスと顔を合わせられなかったことに、一言では表現できないほどの危機感を感じていたようである。

そう……彼は本来、3000人の騎士たちを束ねる立場にいる者ではなく、ミッドエデンの国家議会議長(コルテックス)専属の騎士のはずなのだから……。


「……なぁ、妾。試しに、俺の姿に化けて、コルテックスの機嫌を見てきてくれないか?」


「お主……妾に、死ねと?」


「テレサちゃん……その言い草、酷いと思う……」


と、2人のやり取りに呆れたような表情を浮かべるルシア。


それから彼女は、その不毛な会話をそこで遮るようにして、別の話題を話し始めた。


「そういえば……シラヌイちゃんは大丈夫かなぁ?ユリアお姉ちゃんと、シルビアお姉ちゃんが探してくれてるみたいだけど……」


「そうだな……。俺の方でも、部下たちに探させてるけど、まだコレと言った情報は、何も情報は上がってきてないな……」


「ふむ……。シラヌイ殿には迷惑を掛けてしまったからのう……。早く見つけて、妾がこうして()()()()()ことを伝えたいのじゃ」


と、自分が()()()()()とは口にしないテレサ。

彼女は、シラヌイが家出(?)することになった原因が、自分自身にあることを知っていて……それに対し、少なくない責任を感じていたらしい。


「だけど、あれだけ大量の部下たちを投入して、街中を探しても見つからないとなると……」


「「……なると?」」


「……みんなサボっておる?」


「いや、妾、そうじゃない。……シラヌイはもう、この国にはいないかもしれない、ってことだ」


「「「…………」」」


アトラスの言葉を聞いて、その可能性を考えたのか、険しい表情で俯くルシア、テレサ、それにベアトリクス。

ただ3人共、単純にシラヌイがこの町を去った、と考えたわけではなく……より最悪なケースを想定してしまったようだ。


特にベアトリクスは、シラヌイがどのような人物か知らなかったこともあってか、他の2人よりも、マイナスに考えてしまったらしい。

……ただ一人の女性だけで、長い旅ができるものなのか、と。

とはいえ、彼女場合は、箱入り娘そのものなので、一人旅がどれほど大変なことなのか、正確に分かっているわけでは無かったようだが。


と、そんな時。


「……で、どのくらい、ソフィアの回復薬は効くわけ?」


「えっと……スプーン1杯で、10000人のゾンビたちが死滅するレベルですかね?」


「アンバー……ちょっと後で話があるから」


「えっ?!」びくぅ


宿屋の上の階にあった部屋から、ワルツがアンバーたちと共に、狩人の作る料理の匂いにつられて、食堂へと降りてきたようである。


そしてその直後。

彼女たちの後ろから、


「言うべきか、言わないでおくべきか……」


「私は……言えない……」


「もう……。ヌル姉様も、ツヴァイも、いい加減、覚悟を決めてください」


「「……アインス(姉さま)。任せました!)」」


「えっ?!わ、私が言うのですか?」


「(姉妹じゃなくて……やっぱり同じ人に見えるかも……)」


ユキたち姉妹3人とイブも姿を見せた。


そして、皆が座れるようにと宿屋の主が並べた長い机に、対面するような形で腰を下ろす、アンバーたちとユキたち。

そんな彼女たちは、これが初対面で、お互いに挨拶を交わすことにしたようだ。


「えっと……お初にお目にかかります。ボクはユキと申します」


「イブはイブっていうかも!」


「あ、こちらこそはじめまして。アンバーです」


「私もユキと呼ばれていますが……混同を避けるために、ツヴァイとお呼び下さい」


と、挨拶を交わす、ユキ、イブ、アンバー、それにツヴァイ(ユキB)


しかしである。


「…………いや、そんなはずは……」


「…………おかしいわね。なんか知ってる人がいる気が……」


何やら、ヌルとソフィアの反応が芳しくなかったようである。


そんな彼女たちに対して、ユキとアンバーが問いかけた。


「……どうしたのですか?ヌル姉様?」


「初対面なのに挨拶しないなんて……もしかして人見知り?ソフィー?」


と、首を傾げながら質問する2人。

そんな彼女たちの隣りにいたツヴァイもイブも、揃って、同じような反応を見せていたようである。


だが、その質問は……言葉とは異なる形で返答されることになった。


「「…………っ?!」」


お互いの名前を知ったヌルとソフィアが、急に眼を見開くと……


ブゥン……


2人ともが、虚空から剣と杖を取り出して……


ガキィィィンッ!!


と、それをテーブル越しに交えたのである。

どうやら2人には、その場にいた者たちには分からない、因縁じみた関係があったようだ……。

駄文は駄文なのじゃが……今日の話は、ちゃんと読める文じゃったような気がするのじゃ。

抑揚というやつかのう。

じゃがそうすると……やはり、その日の調子によって、書けたり書けなかったり変動する気しかしないのじゃ。

もしもそうなら、あとは文の書き方ではなく、ネタの方の問題、ということになるのじゃろうか……。


まぁ、それはそれで、一歩前進と言えるのかもしれぬのう。

……2年前の凄まじい駄文に比べれば……飛躍的な改善と言えるのではなかろうか……。


さて、それはさておき。

オリージャに、魔女たち2人がやって来たのじゃ。

正直……この2人の個性を考えて書くのが、すごく大変なのじゃ……。

まぁ、アンバーの方は、シルビア殿と一緒に書かない限り、なんとかなるじゃろう。

問題は……ワルツとソフィアの方かのう……。

ついでにユリアがいれば、もう誰が誰なのか……いや、なんでもないのじゃ。


次回は、ソフィアの正体について、少しだけ触れる予定なのじゃ?

まぁ、彼女について、どれだけ深く掘り下げていくかは、まだ未定じゃがの。

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