8.3-21 セカンドコンタクト9
「ロリコンが逃げようとしてるかも……!?」
ロリコンとカペラに対し、善意から昼食を届けようとしていたイブは……偶然に、2人の良からぬ企み(?)を聞いてしまったようである。
まぁ、それが本当に良くない話だったかどうかについては、言うまでもないだろう。
しかしである。
最初から2人の話を聞いていなかったイブにとっては、決していい話には聞こえなかったようだ。
結果、彼女は、思わずその場から逃げるようにして、走り去ろうとしていたわけだが……
「ま、待ってくれ!ロリっ子!」
「うわっ?!付いてきたかもだし?!」
「ロリコン……名前で呼ばなかったら逆効果だろ……(いや、どんな呼び方で呼んでも、いまさら手遅れか……)」
彼女が後ろを振り返ると、今さっき立ち去ったばかりの厩舎の出入り口から、ロリコンとカペラの2人が、必死な形相で追いかけてきた姿が眼に入ってきたようだ。
「こ、こういう場合、どうすれば……」
後ろから聞こえてくる2人の呼び声に振り向くこと無く、ひたすらに走りながら対策を考えるイブ。
「(こ、コル様から貰った指輪を使って吹き飛ばす?ううん、そんなことしたら、街の中にも被害が出るかもだし……。無線機でアトラス様のこと呼ぶ?……あんまり会いたくないかもだし……)」
それからも走りながら色々と考えた彼女は……一つの結論にたどり着いた。
彼女はポシェットから無線機を取り出すと……それに向かって、こう言ったのだ。
「ゆ、ユキちゃん!助けて……!」
その瞬間、
ドゴォォォォン!!
と周囲の建物の壁や屋根を吹き飛ばしながら、
ズドォォォォン!!
と、イブの前に現れるユキ(A)。
しかもその手には、ヌル専用のはずの、青く透き通った長剣が握られていて……。
どうやら彼女は、本気で戦闘する気満々のようである。
「何かあったのですか?!イブちゃん!」
周囲に巻き上げた土煙が晴れる前から、イブに向かって事情を問いかけるユキ。
そんな彼女に……
「えっと……うん…………」
イブはすぐに返答できなかったようである。
もしも正直に、ロリコンたちに追われている、などと口にしたなら、2人はどうなってしまうか……。
彼女にはハッキリと、彼らのその悲惨な未来が、想像できていたようだ。
「…………?」
それから、何処か言い難そうにモジモジとしているイブの言葉を、ユキが静かに待っていると……次第に周囲に巻き上がっていた土煙が薄れて、
「げほっげほっ……うぉっ?!」
「て、手遅れだったか……」
そこからロリコンたちの姿が現れた。
その様子を見て……
「…………」カチャリ
と、無言のまま、ヌルの剣を握り直すユキ。
どうやらロリコンたちの命運は、イブが正直に説明せずとも、あと数秒で尽きてしまいそうである。
……しかし。
そんな彼らのことを救おうとする人物が現れた。
それは……彼ら2人から追われていた当の本人であるはずのイブであった。
「ちょ、ちょっと待ってほしいかも、ユキちゃん。確かにイブは、2人から追いかけられてたかもだけど、やっつけたりする必要はないと思うかもだよ?」
その言葉を聞いたユキは、一度、イブに対して優しげな視線を送ると……しかし構えた剣を降ろさないまま、ロリコンたちの方へと振り返ると、彼らに鋭い視線を向けながら、こう口にした。
「……こんな幼い少女に庇われるなんて、2人とも恥ずかしいとは思わないのですか?」
それに対し、
「こ、これには深い理由が……」
「…………」ごくり
と、タジタジな様子のロリコンとカペラ。
しかしユキがその言葉に耳を貸すことはなく……。
男たちの説明など聞かない、言わんばかりに、イブに対して事情を問いかけた。
「一体、何があったのですか?イブちゃん」
それに対しイブは、難しそうな表情を浮かべ、「んー」と唸った後で、説明を始めた。
「あんね……実はイブ、あの二人が逃げ出す相談してるのを聞いちゃったかもなんだよね……。それで、その話を聞いてたのがバレて、追われてたかも?」
その瞬間、
「今後のことを考えると……やはりここで消したほうが良さそうですね……」ゴゴゴゴゴ
今となっては魔法が殆ど使えないはずの身体から、青白いオーラを放つユキ。
やはり、ロリコンたちの余命は、この先、幾ばくも無さそうだ。
それに対して、
「ほ、本当に誤解だ!イブを追っていたのも、誤解を解くためなんだ!」
「あぁ。俺たちだって、またイブちゃんに対して手を出したりなんかしたら、消されることくらいよく分かってるつもりだ。たとえそれが、どこに逃げたとしてもな……」
と、必死になって、釈明するロリコンたち。
そんな彼らの言葉を聞いたユキは……しかし、剣を収めるどころか、
ドゴォォォォン!!
ブゥン!!
その場から猛烈な速度で2人の懐近くまで飛び込むと……その刃を、凄まじい勢いで繰り出したのである。
ただ。
彼らの身体が、その場で半分になったり、首が吹き飛んだり……などということは無かったようだ。
ユキは振るった長剣を、彼らの喉元ギリギリの場所で止めたのである。
「……この刃を汚す程の価値もありません。そんなに逃げたいのなら、好きなところへと消えなさい。ボクから、貴方は死んだ、とでもワルツ様に言っておきましょう。ですが、もう一度でもその顔を見せるようなことがあったら……ボクは容赦なく、お前たちを切り飛ばす!」
剣を構えたまま、明確な殺意を持って、2人に宣言するユキ。
そんな彼女から、まるで刃のように鋭い言葉を向けられたロリコンとカペラは……
「ち、ちがう……違うんだ……」うるうる
「そうじゃないんだ……」うるうる
2人揃って、頭を抱えながら、泣きそうな表情を浮かべていたようだ。
それを見て違和感を持ったのは、彼らの近くで長剣を振り回していたユキ……ではなく、少し離れた場所で、3人のやり取りを見ていたイブだった。
「……どういうことかもなの?」
それに対し、ロリコンが眼を真っ赤にしながら返答する。
「俺たち……狩人姐さんの料理が食べたいって話をしてて……そのためなら逃げるのも悪くないって言ってたんだ……。それを勘違いされて……」
その言葉を聞いて、
「「…………え?」」ぽかーん
唖然とした表情を浮かべるイブとユキ。
「逃げるだなんて思わない……。どんな酷い仕事でも構わないから……あの料理だけは食べさせてくれ……」
「あぁ……。あの料理だけが、俺たちの生き甲斐なんだ……」
カペラもロリコンと同じ考えだったらしく、彼らは2人揃って……ついには泣き出してしまったようだ。
結果、事情を知ったイブとユキは、
「えっと……どうしよう、ユキちゃん……」
「えっ……そ、そうですね……」
繰り出した鉾の納めどころが分からず、戸惑ってしまったようである。
それから2人が、勘違いしたことを、ロリコンたちに謝罪しようか、と考えていると……
ドゴォォォォン!!
「イブっ?!大丈夫か?!」
無線機でイブの助けを求める声を聞いたのか、ユキが現れたときのようにアトラスが空から降ってきて……
シュタッ!!
「大丈夫ですか?!イブちゃん!」
その後から、カタリナも駆けつけた。
更には、
ズドォォォォン!!
「イボンヌ?!あんた、大丈夫?!」
着地の瞬間、妙に重い音を響かせるワルツや、
「イブちゃぁぁぁぁん!!」
シュタッ!!
ルシアも駆けつけ……。
そして皆が、戸惑い気味のイブと、剣を持ったユキ、それに絶望的な表情を浮かべるロリコンとカペラの姿を見て……ここへとやって来た当初のユキと同じように、ロリコンたちに向かって鋭い視線を送り始めたようだ。
その姿を見て……
「……ど、どうしよ?」
「一人ひとり説明するしか無いと思います……」
「そ、それしかないかもだね……」
と口にしながら、青ざめるイブとユキ。
こうしてイブたちは、次々とその場に現れて、殺気を放つ仲間たちから……ロリコンとカペラのことを助ける立場へと回ることになったのであった。
しょーもない話……だと思うじゃろ?
確かに、しょーもない話なのじゃ。
じゃがのう……。
実は必要な話だったりするのじゃ?
まぁ、うまく書けておるかどうかは、別の話じゃがの。
さて。
明日は、恐らく書けぬと思うゆえ、これから次の話もあっぷろーどしてしまおうと思うのじゃ。
というわけで、今日の駄文は、ここで切り上げさせてもらうのじゃ?
せめて明日の話は……駄文ではない話が書きたい……いや、無理じゃの。




