8.3-18 セカンドコンタクト6
「……しっかし、傑作だったわね。国王が迷わず3番を選ぶなんて……。皆、真っ青な顔しながら命乞いして、これからは悔い改めるからって……結局、4番になっちゃったけどさ?」
「お姉ちゃん……。ちょっと、趣味悪いかもしれない……」
「えっ……そ、そう……?」
と、いつも通りの会話を交わすワルツとルシアたちがいたのは、騎士たちが壊れた馬車の再建(?)を進めている、王城内の中庭近くにあった仮設の馬車置き場である。
ゾロゾロと皆で会議室に押しかけたとなっては、話し合いをしようにも落ち着いて出来ないので、会議に出席するコルテックスとテレサ、それにベアトリクスと他数名の騎士たちを残して、他の者たちは外で待つことにしたのだ。
ところで……。
そんな彼女たちの周囲で、一つ問題が起こっていた。
一体どんな問題が起こっていたのかというと……雨が上がった後で見えてきた雲の切れ目から、空の青と、それに紛れて雲とは異なる真っ白な色が見え隠れしていた、と言えば大体分かってもらえるのではないだろうか。
ゴゴゴゴゴ……
……要するにエネルギアの巨体が、町の人々の眼に入ることになって、
「うわぁぁぁ|!エクレリアが攻めてきたぞぉぉぉ!!」
「あいつら飛行艇も作るのか?!」
「もうこの国は終わりだぁぁぁ!!」
と、街中が混乱状態に陥っていたのである。
「ねぇ、お姉ちゃん……。この混乱、放っておいても大丈夫かなぁ?」
その様子を見て、心配になったのか、眼を細めながらそう口にするルシア。
すると彼女の隣りにいたメイド姿のワルツは、胸の前で腕を組みつつ、どこか感慨深げな表情を見せながら、納得したようにこう呟いた。
「本来なら……この反応が正常な反応よね」
「えっ?」
「エネルギアを見た人々の反応のことよ?ウチのミッドエデンだと、驚いたり怖がったりするどころか……逆にみんな、嬉しそうに手を振ってくるじゃない?だから、このくらいの反応が普通じゃないかなー、って思って」
「んー……これくらいが普通かぁ……」
ワルツとずっと一緒にいるためか、ルシアには何が普通なのか、基準がよく分からなくなってきているようだ。
一方。
2人の近くには、一緒にここまでやって来ていたカタリナの姿もあった。
彼女は今、近くにあった椅子に座って、自身の白衣の隙間から顔(?)を出していたシュバルに昼食を与えつつ、そこ偶然居合わせたアトラスと共に、何やら会話を交わしていたようだ。
「さっき、エネルギアから降りてくる時、私と入れ違いに医務室へ戻ってきたテンポに聞いたんですが……この国にやってきた1万人の天使たちを、テレサ様が超強力な魔法を使って、たった一人で殲滅した……というのは本当ですか?」
「テンポ姉、また適当な事言って……。その話は恐らく、5割くらいが本当で、もう5割が脚色……ってところだろうな」
「……つまり、実際には5000人の天使たちが来たと?」
「いや…………すまない。今の割合の話は、聞かなかったことにしてくれ……」
と、言葉が足りなかったために、余計に話が拗れてしまったらしく、頭を抱えてしまうアトラス。
なお彼が言いたかったことは、天使たちを無効化したのは確かにテレサであって、その後で彼らを転移させて何処かへと移動させてしまったのはルシアである、ということだったりする
そんな2人の会話から推測すると……どうやらテンポは、カタリナと交代で、エネルギアの医務室にいるリアの看護へと戻ったようだ。
その他、ユキ(A)、ヌル、イブの3人は、まだ本調子ではないユキBの付き添いに。
そして、ユリアとシルビアの2人は、再び町中へと繰り出して、シラヌイの情報を集めているようである。
なお、飛竜は……行方不明である。
まぁ、それはさておき。
午前中にあったドタバタについて、アトラスがカタリナに対し、正確に説明してから。
彼は、その後で、こんな質問を口にする。
「(ミッドエデンの)王都の方は、どうだ?何か変わったこととか無かったか?」
と、1ヶ月ほど戻っていない王都の事情を問いかけるアトラス。
定期的にコルテックスと連絡を取り合っているとは言え、彼女と共にミッドエデン政府の要として働いている彼としては、長く開けている王都のことが心配だったようである。
「特に変わったことはありません。街も大樹も工房もコルテックスも、いつも通りです」
「(……最後の一言だけ余計だな……)」
カタリナの発言に承服し難い一言が含まれていたためか、アトラスが一瞬だけ眉を顰めると……。
どういうわけか、カタリナも、難しい表情を浮かべ始めた。
とはいえそれは、アトラスの態度が気に食わなかったから……という、彼の周囲にいる女性たちにありがちな理由からではなく、王都での出来事が原因だったようだが。
「ですが……食事に山谷が出て、困ってます……」
「……やまたに?(『やまたに』なんて名前の魔物か植物……そんなのいたか?)」
「狩人さんの作る食事に、最近、ムラがあるんです。今朝は比較的落ち着いていましたが、数日前は……もう最悪でしたね。今日の夕食あたりも、相当、酷いことになるんじゃないでしょうか……」
「そういうことな……」
カタリナの言葉の意味を理解したのか、苦笑を浮かべるアトラス。
どうやら狩人は、ワルツと離れて王都で留守番をしなくてはならないせいで、相当に落ち込んでいるらしい。
特に今日の場合は、カタリナもコルテックスがこちらに来たこともあって、置いて行かれた彼女がそれを知って、余計に落ち込むのではないか、というわけである。
「もう……最悪、食事だけ持ってきてもらうようにした方が良いか?給仕のメイドじゃないし、善意で作ってもらってるものだから、食事をもらう側としては心が痛むんだが……でも、本人の事を考えると、そっちの方が良さそうな気もするしな……」
「ちょっと手間かもしれませんが、エネルギアちゃんかポテンティアくんが、毎日王都から運んでも良い、と言うなら……そうしてもらった方が良いかもしれませんね。まずは試してみて、経過を見てみるのが良いと思います」
「そうなると……まるで通い妻だな。……あ、今の話は、姉貴や狩人姉に言わないでくれよ?」
「……考えておきます」にっこり
「ちょっ……」
そして、余計なことを言ってしまった、という様子で、頭を掻くアトラス。
そんな彼とカタリナの様子は、獣耳や尻尾に違いはあれど、姉弟そのものだったようである。
……まぁ、それも、
「そう言えば、さっき……コルテックスがこの街に来た時に使っていた、あの『なんとかドア』という魔道具。あれを使えばもっと簡単に…………って、どうしたんですか?アトラス?」
「コルテックス……ここ来てんのかよ……」
コルテックスが来ていることを知らなかったアトラスが、そのことを知るまでの話だったようだが……。
この1週間……。
夜な夜な妾は、凄まじく難しい間違い探しをしておったのじゃ……(実話)。
何がどのくらい難しいかを例えると……都道府県の全市区町村のリストがあって、ソートされてないその2つの表の中から、たったひとつの漢字の間違えを探す……恐らくはそのくらい難しかったのじゃ……。
まぁ、丁度良い睡眠導入剤ではあったのじゃがの?
で、それがさっき、仮眠を取る直前に、ぴこーん!、と来てのう?
ようやく喉に引っかかっておった餅が取れたような……今は、そんな晴れやかな気分なのじゃ。
早く、電源とオシロスコープのある場所に行きたいのじゃ。
それでも問題が解決してなかったら……もう明日あたり、妾は、グレておるやも知れぬ……。
というわけで、ちょっと行ってくるのじゃ?
すべては……ワルツのために、のう?




