8.3-17 セカンドコンタクト5
その異様な雰囲気に、誰しもが道を開けた。
ミッドエデンの国旗が浮かぶ真っ白なマントもさることながら、腰まで届く銀色の長い髪に、それと同じ色をした2つの獣耳と、立派な一本の尻尾……。
例え身長は低くとも、それを補うだけのオーラのようなものが、コルテックスの身体から染み出していたようである。
「ふむふむ……。和装用のコートもあったのじゃな。悪くないのじゃ?」
……まぁ、そんな彼女と瓜二つで、クルクルと周りながらその隣を歩く和服のテレサの方は、3回魔法を使ったせいで、未だしょんぼりとした尻尾のままだったためか、微妙な雰囲気を纏っていたようだが……。
そんな彼女たちの後ろからは、
「テレサが……2人……?」
オリージャの姫であるベアトリクスが、眼を真ん丸にしながら、付かず離れずついてきていたようである。
事情を詳しく知らない彼女の眼からは、もしかすると……突然テレサが増えたように見えていたのかもしれない。
更にその後ろには、ミッドエデンの勇者専用のマントを羽織ったルシア。
その横には、背中に赤色の十字が描かれた白衣を身に付けたカタリナ。
そして、さらにその後ろからは……
「みんな行くんだし、私も行かなきゃダメよね……」
姿を隠すこと無く、げっそりとした表情のワルツも、一緒に付いてきていたようである。
ただ、普段通りの姿ではなく、お気に入りなのか黒狐娘の姿で、その上、どういうわけかメイド服を着ていたようだが……。
そして彼女たちの周りには、どこからともなく湧いて出てきた来た、ミッドエデンの騎士たちの姿があって……。
そんな一同の見た目は、紛うこと無くミッドエデンからの使節団そのものだった。
そのためもあってか、王城の敷地に入る時も、彼女たちを止める者の姿はなく……。
そればかりか、オリージャ国王たちが今もなお、これからのことを話し合っているだろう会議室まで、そのまま素通し状態だったようである。
そして、会議室の前にたどり着いた瞬間、そこにあった扉に、そっと手を触れて、
ドゴォォォォン!
と容赦なく、それを吹き飛ばすコルテックス。
するとそこではやはり、オリージャの政府関係者たちが、答えのない問を探すように、堂々巡りな話し合いをしていたようだ。
外交室長のクラークの表情が、まるでゾンビのように、土気色の顔色になっていたのがその証拠と言えるだろう。
しかしそれも、コルテックスたちが会議室に入ってくる瞬間までの話。
吹き飛ばされた扉が直線を描きながら、会議室の机の上を、部屋の反対側まで吹き飛んでいく姿を見て……皆が呆然とした表情を浮かべ、中には頭を抱えて机の下に逃げ込む者までいたようだ。
特に、外交室長のクラークは、以下同文……。
そんな者たちの姿を見たコルテックスは、満足そうな表情を浮かべながら、声高らかに宣告した。
「私はミッドエデン共和国、国家議会議長代理、コルテックス=A=Eyeです。今、この瞬間からこの国、オリージャ王国は、ミッドエデン共和国の暫定的な統治下に置くと宣言しましょう」
その発言に、
「「「…………」」」ぽかーん
とした表情を浮かべながら、唖然として固まる、ほぼ全員。
いきなり現れて、重いはずの扉を軽々と吹き飛ばし、そして降伏勧告を通り越して、制圧宣言(?)を口にする背の低い少女を前に、皆が、状況を飲み込めない様子だった。
まぁ、もちろん、例外もいたが。
「あんた、また面倒な事を言って……。さっきとかなり、話が違うじゃない……」
と、呆れた様子で、そう口にする貧相な体つきのメイド――もといワルツ。
その他、コルテックスの横暴について知っている者たちは、皆が苦笑や呆れを含む表情を浮かべていたようである。
そんな視線を向けられていたコルテックスは、姉の言葉に対して、腰に手を当てながら、不満げに返答を始めた。
「大して変わりませんよ〜?そもそも、この国は、放っておけば、あと数日で滅ぶ国なんですから、今ここで滅んだことにして、ミッドエデンが吸収したところで、な〜んにも問題ないと思うのですが〜?」
彼女がそう口にすると……。
その言葉の内容が気に入らなかったのか、オリージャ王国の政府関係者の一人が、勇敢にも抗議の声を上げた。
……いや、正確には、上げようとした。
「貴様、何を言っt」
「しゃらっぷ!無能!戦闘が始まったら、自分の家族だけ国外逃亡できるように今から準備している軍の総司令官が、一体どこの国にいるというのですか〜?この負け犬め〜」
「なん……?!」
その瞬間、再び目を見開いて固まってしまう軍の総司令官を呼ばれた男性。
すると、そんな彼の反応が何を意味していたのか察した別の男が、彼に対して、問いかけ……ようとした。
「軍務大臣!いったいそれはどういうk」
だが、再び、
「しゃらっぷ!成金!戦争のために積み立てていた国家予算を私的流用して、不倫相手に貢いでいる財務大臣は、即刻死ぬべきですね〜?何ならそこに窓があるので、試しに離陸してみてはいかがですか〜?お手伝いしますよ〜?」
「んぐっ?!」
コルテックスの一撃で沈む財務大臣と呼ばれた男性。
それからコルテックスが、一人ひとりにニッコリとした笑みを向けていくのだが……その度に、皆が、どういうわけか青い顔をして俯いてしまったようである。
それもまるで、全員が全員、後ろめたいことがあるかのように……。
どうやら彼女は、この2日間、マクロファージを使って、政府高官全員の汚職について調べ尽くしていたようである。
その場にいたものたちを一通り一瞥した後、彼女は再び声を上げた。
「残念ながら、この部屋の中にいる者たちは、例外なく、この国を食い物にしているようです。そもそもからして、この国にとっての敵が、この部屋に集まって、あ〜でもないこ〜でもないと議論を交わしたところで、外からやってくる敵と、まともに戦えるでしょうか〜?こうなってしまえば、最早、この国は死んでいるも同然と言わざるを得ないでしょう。ミッドエデンなら、即刻、燃えるゴミとして焼却炉送りですね〜」
そう言いながら、にっこりと笑みを浮かべるコルテックス。
その副音声は……文句があるなら言ってみろ〜、だろうか。
それに対し、
「「「…………」」」ちーん
オリージャ政府の者たち皆が、頭を抱え、嗚咽を漏らし、ガタガタと震えていたのは……やはり、少なくない身に覚えが、良心を苛んでいたためか……。
それを見たコルテックスは、嬉しそうな表情を浮かべると……さきほど吹き飛ばした扉が、頭の上ギリギリのところに突き刺さったために、固まっていたオリージャ国王に対し、おもむろにこう問いかけた。
「というわけでオリージャ国王陛下〜?今から私が提案する選択肢について、この国の選択をお聞かせ下さい。なにも無理やりに統治しようってわけではないですからね〜。1、私たちを国外追放処分にして、攻めて来るエクレリアに、オリージャだけで対処してみる〜。2、ミッドエデンがこの国を問答無用で吸収合併する〜。3、ここにいる者たちを全員『大河』に沈めて、新しい政府を作ることにミッドエデンも協力する〜。4、従来通りの政府のまま、ミッドエデンの要求をすべて呑み込む〜。……さぁ、どれが良いですか〜?おすすめは1番ですよ〜?まぁ、選んだ瞬間、そこの窓から突き飛ばしますけどね〜?あと、3、4は同じ意味ですよ〜?ここにいる者たちが生きるか死ぬかだけの違いです」
「…………」
今までの人生で出会ってきたすべての国王たちとはまるで異なるコルテックスのその発言に……眼を丸くして、ポカーンと口を開けて、文字通り唖然とした表情を浮かべる老齢のオリージャ国王。
しかし、彼もまた、れっきとしたこの国の王。
すぐに彼女の言葉を理解したオリージャ国王は……何処か嬉しそうに一つの選択をしたのである……。
実際の生活におけるコルは……本当にこんな感じの性格をして、無理矢理に意見を通しておるのじゃ。
行動力、実現力、そして発言力……。
もう、妾にはついて行けない領域なのじゃ……。
まぁ、負けぬがの。
じゃがまぁ……性格に難があるのは認めるのじゃ?
とはいえ、その性格こそが、コルにその行動力を付与しておるのじゃろうのう。
妾もその半分の半分の半分程度で良いから、横暴さが欲しいのじゃ……。
……それでのう。
全然話は変わるのじゃが……白湯というものは良いものなのじゃ?
話によると、腸というものは、第2の脳とも言われておるのじゃ。
冷やすと代謝が下がって、身体全体の血行が悪くなり……逆に温めると、身体全体がポカポカと温まってくるのじゃ。
するとのう、頭の回転も良くなって、スッキリとしてくるのじゃ。
執筆活動をするには、今や欠かせぬモノなのじゃ。
まぁ……今日はまだ、飲んでおらぬのじゃがの……。




