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8.3-07 魔王の卵7

そして、自分たちに対して様々な思惑の視線を向けてくる、オリージャ政府関係者たちを撒くように逃げて。

ワルツたちは、どうにか無事に、来賓室へと戻ってきたわけだが……


「食欲、出ないわね……」

「うむ……」

「ん?」もぐもぐ


皆、先程、少なくない量の血を見てしまったためか、朝食を取ろうという気分にはなれなかったようである。

まぁ……いつも通りに、好物の解凍稲荷寿司を食べるルシアだけは、それとは無関係だったようだが。


「そういえば、良かったの?テレサ。貴女から切り出したのに、ユリアたちと一緒に行かないでさ?」


「……に、逃げられなかったのじゃ……」


「〜〜〜♪」


「あらー……それは残念だったわね?」


げっそりとした表情を浮かべるテレサの腕にしがみつきながら、嬉しそうな表情を浮かべているベアトリクスの姿に対し、ニヤリとした笑みを浮かべるワルツ。

恐らく彼女は、自分が皆から向けられる好意(?)の重さを、テレサに知ってもらう良い機会、とでも考えているのだろう。


それから空気が少しだけ柔らかくなったところで……。

ワルツは、朝方、ベアトリクスが用意してくれて、しかしまだ手を付けていなかった朝食を摂ることにしたようである。


その際、彼女は、幸せそうに持参の稲荷寿司を食べているルシアに対し、優しげな視線を向けながら、こんな質問を投げかけた。


「そう言えば、ルシア?堕天した天使たちのことなんだけど、どこに飛ばしたの?」


「へんへふひは」もぐもぐ


「ごめんルシア……。ちょっと、何言ってるか分かんないんだけど……」


「もぐもぐ、ごくん。……えっとね、エンデルシア?」


「……何でエンデルシア?」


「だって……敵かもしれないのに、ミッドエデンに送るわけにもいかないし、それだと、ストレラちゃんがいるメルクリオも同じかなぁ、って。あと……ボレアスって選択肢もあるけど、食べ物の支援を求めてるくらいだから、あそこに1万人も()天使さんたちを送ったら、大変なことになるはずだよね?そうなると……あとはエンデルシアくらいしかないかなぁ、って」


「ふーん。よく、あんな短時間で、そこまで考えついたわね?」


「えっとねぇ、この前、コルちゃんが言ってたんだけど……何か面倒なモノがあったら、とりあえず迷わず全部、エンデルシアに送ってから……言い訳は後で考えれば良いですよ〜、だって?」


「なるほど。あの娘、たまには良いことを言うわね」


そう口にしながら、幾つかの点において、ミッドエデンよりも進んでいる隣国の大国のことを思い出すワルツ。

ついでに彼女は、いつも迷惑ばかりを掛けてくる、某国の国王の事も思い出したようだ。


すると今度は、今もなおベッタリとベアトリクスに付きまとわれているテレサが、目の前の席に据わっていたルシアに対して、切実そうな表情を向けながら、こう言った。


「ル、ルシア嬢……。可能ならベアのことも……エンデルシア送りにしてほしいのじゃ……」


「うん、無理」


「んぐっ……」


「だって、ベアちゃん、何も悪いことしてないよね?……誰かと違って」


「ぐ、ぐぬっ……!」


ルシアの指摘に対して、かろうじて()()()()を上げるテレサ。

しかし、反論を口にすることは叶わず……。

彼女は、今ある現状を、ただただ受け入れる他なかったようだ。




それから、稲荷寿司(ぜんさい)を食べ終わった後で、ベアトリクスが持ってきた朝食へと改めて手を付け始めたルシアに怪訝な表情を向けながら……。

自身も食事を摂り始めたテレサが、おもむろにこう切り出した。


「ところで……『魔王の卵』とやらは、いったいどんなものなのじゃろうかの?」


それに対し返答したのは、朝食を頬いっぱいに詰め込んで咀嚼しているルシア……ではなく、ワルツだった。


「さぁ?あの真っ黒な死神みたいな姿になった枢機卿(しんぷ)が、真っ黒な姿に変身するのに使っちゃったんじゃないの?ま、アレが魔王だって表現するのはどうかと思うけど、そういう効果のあるアイテムだった、って言われれば、すんなりと納得できる気がするのよね……」


「うむ。確かにそうじゃのう。じゃが……ユリアたちによると、その『ゆで卵』とやらは、教会の下に囚われておる、という話だったのじゃ?果たして、人ではない、一種のアイテムのようなものを『囚える』と表現するじゃろうかの?」


「そうね……。でも……教会、潰れちゃったし、それにもう天使だっていないんだから、『温泉卵』なんて放っといて良いんじゃないの?まぁ、その内、掘り起こしたオリージャの人が、大変な目に合うかもしれないけど……」


「うむ……。じゃが……妾は思うのじゃ。もしや、そのなんたら卵とやらは……シラヌイ殿のことを指しておったのではないか、と……」


「いや、それは……」


「完全に否定できるかの?」


「……魔族ってところしか、シラヌイと魔王の共通点は無いと思うけど……タイミング的には否定出来ないわね……」


という会話を交わしながら、ゆで卵の殻を剥がしていくテレサと、温泉卵を割って容器に移すワルツ。

その後で彼女たちが、その玉子料理をゆっくりと眺めていたのは……その姿に『魔王の卵』を重ねたからか。


そんな彼女たちの間に、言葉が無くなると……今度は、最初はここで食事は摂らないと言っていたものの、いつの間にかテレサの真横で、(イブの分の)朝食を食べていたベアトリクスが、こんなことを言い始めた。


「教会の地下牢でしたら、王城の地下から繋がっていますわよ?何なら、この食事が終わったら、案内しますわよ?」


その言葉を聞いて、


「……ねぇ、貴女。怖くないの?」


そう口にしながら、関心したような……それでいて何処か呆れたような表情を、ベアトリクスへと向けるワルツ。

それにはテレサも同感だったらしく、2人が少しだけ興味を持って、ベアトリクスの言葉を待っていると……彼女はキリッとした表情を浮かべて、手にしていた食事用のナイフを握りしめながら、こう言い放った。


「テレサの行く所……怖いもの無しですわ!」がくがく


「……のう、ベアよ?手が震えておるのじゃ?」


「こ、怖いもの無しですわ!」がくがく


「「「…………」」」


発言と行動が一致しないベアトリクスの姿に、微妙そうな表情を浮かべる3人。

とはいえ、ワルツたちにとって、案内役は必要だったらしく……。

食事を摂り終わった後、怖がる(?)ベアトリクスを先頭に、ワルツ、テレサ、ルシアの合計4人は、王城の地下道を通って、教会へと向かうことになったのであった。

今日は、調子が悪いのじゃ。

いや、気持ち悪いとか、身体がダルいとかではないのじゃがの?

飲む茶の濃さを間違えたのじゃ……。


いつもは、夕食後に、これでもか、というくらいに濃いほうじ茶を飲むのじゃが、一回一回淹れるのが面倒じゃと思って、今日は()()()()()()式のほうじ茶を入れたのじゃ?

じゃがのう……この茶が、薄すぎてのう……。

かふぇいんを取ろうと思っておったのに、全然効果が無かったのじゃ。

お陰で、頭が回らないのじゃ……。


というわけで、今日はちょっと短いのじゃが、本文もあとがきも、ここいらで切り上げさせてもらうのじゃ?

流石に今の時間から、かふぇいん漬けになると、明日の朝、起きれなくなるからのう。

……え?ならこれから何をするのか、じゃと?

それはのう……愚問なのじゃ?


…………zzz。

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