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8.3-02 魔王の卵2

一番最初にユリアたちとベアが会っておったのを忘れておったのじゃ……。

というわけで、サキュバスがおることに気付いたベアの反応についての補足を、加筆修正したのじゃ。

……なんか、気に食わないがの。

そして次の日の朝……。


「……ふぁ〜。よく寝たのじゃ」

「私は少し寝不足気味ですね……」

「お兄ちゃん……もう、お腹いっぱいだよぉ……zzz」


テレサとユリア、それにシルビアは、早めに眼を覚ましたようだ(?)。

それは、天使たちがやってくるかもしれないという焦りがあったから……というわけではなく、普段から朝の早い彼女たちにとって、いつも通りのことである。


ただし、彼女たちが寝ていたのは……


「……よく眠れたかしら?」


王都の町で取っていた宿屋ではなく、ワルツたちのいる来賓室だったようだ。

それも、ワルツのベッドをコの字に取り囲むような形で、床に寝そべりながら……。


実は、昨日の夜のこと。

遅くまで王城内で活動していた彼女たちは、町まで戻るのが面倒になったらしく、ワルツたちの部屋に泊まらせてもらうことになったのである。

果たして本当に面倒になったのか、あるいは最初からワルツの部屋に泊まることが目的だったのかは定かでないが……いずれにしても彼女たちは、この部屋に泊まったことについて、非常に満足しているようだ。


「朝から、ワルツの声が聞けるなら……どんな悪夢を見ていようとも、それだけで快眠に変わるのじゃ」

「確かにその通りです。なんて、清々しい朝なんでしょう」

「…………んあ?」ぽりぽり


「外、土砂降りだけどね……」


とまだ薄暗い外へと眼を向けながら、呆れたような表情を浮かべるワルツ。


ちなみに。

目を覚ましていたのは、彼女たちだけではなかったようだ。


「…………」

「…………」


彼女たちと同じく朝の早いイブと、逆に朝には弱いはずのルシアも、未だベッドの中ではあったものの、眼をパッチリと開けていたのである。

ただ……どういうわけか、彼女たちの表情は、外の暗い雲のように優れなかったようだ。

一体、何が起ったのかについては……彼女たちの名誉のために、伏せておこうと思う。




その後、イブだけでなく、ルシアにも襲いかかったという()()の話を聞いて……何故か顔を真っ青にして震え始めたテレサを、


ブゥン……


と、ルシアが事情を聞くこと無く、スコールの降り注ぐ中庭へと転移させてから……。


朝食があるのか無いのか、という話をワルツたちが交わしていると、


コンコンコン……


タイミングよく、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「この感じ……朝食は出るみたいね?」


「そうみたいだね。はーい!」


元気よくそう言って、部屋の扉を開ける普段着姿のルシア。


すると扉の向こう側から……


「おはようございますですわ!」


朝からやたらとテンションの高いベアトリクスが姿を見せた。

そんな彼女は、最初にここへとやって来た時と同じように、お姫様らしい服装をしていたようである。

その上、嬉しそうな表情を浮かべていたところを見ると……どうやらテレサの魔法は、無事に効果を発揮したようだ。


「どうしたの?ベアちゃん」


「朝食を持ってきましたわよ?」


「えっ……テレサちゃんのことが目当てじゃなかったの?」


「んぐっ……!」


そう言って、苦々しい表情を浮かべるベアトリクス。

どうやらルシアの指摘は図星だったらしい。


とはいえ、食事を持ってきたことについて変わりはなかったので、


「えっとね、ここで立ち話をするのも何だから、部屋の中にどうぞ?」


「あ、ありがとう」


ルシアは、ベアトリクスを部屋の中へと招き入れることにしたようである。

ただ……


「……あれ?テレサが居ない?しかも、5人いる?……ってサキュバス?!」


一度、ユリアに会ったことがあるはずのベアトリクスは、まだサキュバスという存在について見慣れていなかったためか、混乱してしまったようだが。




それから、ユリアとシルビアがどうしてここにいるのかについて簡単に説明し、そして3人分の追加の食事が用意できたところで……


「それにしても、テレサちゃんがここにいるって、よく分かったね?」


テレサたちが本来、城の外に泊まっていることを知っているはずのベアトリクスに対し、ルシアはそんな疑問を投げかけた。

つまり、ベアトリクスは、本来ならこの部屋ではなく、町の宿屋に押しかけなくてはおかしい……そう思ったようである。


そんなルシアの疑問に対し、ベアトリクスはこう答えた。


「それはもちろん、テレサの匂いがしていましたから。なんというか……こう……機械のような匂いというか……」


「ベアちゃん、鼻が良いんだね……」


犬の獣人であるベアトリクスの発言を聞いて、納得げな表情を浮かべるルシア。

それに対して同じ犬の獣人であるイブは、どこか不機嫌な表情を。

そして匂いに敏感なシルビアの方は、首をウンウンと縦に振りながら、感慨深げな表情を浮かべていたようである。


それから、ルシアが一緒に朝食を摂るかを問いかけて、それに対しベアトリクスが、国王たちと朝食会があると口にしたところで……


ガチャリ……


「ひ、酷い目に遭ったのじゃ……」ぐっしょり


頭の天辺から、尻尾の先端まで、満遍なく雨に濡れたテレサがようやく戻ってきた。


「自業自得だよ?テレサちゃん」


「妾、まだ何もしてな……いや、うん……すまなかったのじゃ……」しょんぼり


と、ルシアの指摘に対して、申し訳無さそうに返答するテレサ。

ちなみに何もしていないはずの彼女が、どうしてルシアに対して謝ったのかというと……ワルツに自身もプレッシャー(ロックオン)が使えることを聞いた彼女が、就寝する前にその使い方を試していて……寝ているイブだけでなく、ルシアのことも巻き添えにしてしまったためだったりする。

なお、一応述べておくが、本当はイブのことも、巻き込むつもりは無かったようだ。


「……お寿司10人前ね?」


「……昨日の分と合わせて、15人前かのう?」


「ううん。その前に、トランプでいかさましてるから、20人前」


「わ、分かったのじゃ……(1人でそんなに食べて、どうして太らないのじゃ……)」


どうやら、ルシアとテレサの間で、和解が成立したようである。

ちなみにイブの方は……


「はぁ……。どうすれば、治るかもなのかな……」


ルシアとテレサのやり取りには参加せず、自分が悪いわけでもないのに、証拠隠滅を図っていたようだ。


そんなやり取りが一通り終わったところで……


「て、テレサ?!その格好、大丈夫ですの?!」ゆさゆさ


遂に我慢できなくなったのか、尻尾をブンブンと横に振りながら、ベアトリクスがテレサの両肩を掴んで揺らし始めた。


「だ、大丈夫なのじゃ。大丈夫じゃから、まずはその手を離すのじゃ!」がくがく


「こ、こうしちゃいられないですわ!今すぐ替えのドレスを……」


「い、いや、結構なのじゃ!着替えはちゃんとあるのじゃ?それに……妾には、あいでんてぃてぃーがあって、ドレスは着ないことにしておるのじゃ!そっちの服を着るのは、コルの方なのじゃ?」


そう口にして、部屋を出ていこうとするベアトリクスの手を引っ張ろうとするテレサ。

そして彼女が手を掴んだ瞬間、どういうわけか……


「あっ……」ぽっ


ベアトリクスは顔を真っ赤にすると、千切れんばかりの勢いでブンブンと尻尾を振って、後ろを振り返りながら、涙ぐんだような視線をテレサへと向け始めたようだ。

その様子を見て、


「はぁ…………」


と、心底、後悔したような表情を浮かべて、頭を抱えるテレサ。

どうやら彼女には、ベアトリクスの好意を、回避する術は無さそうである……。


そんな時。

テレサにとっては幸運(?)で、そしてワルツたちにとっては面倒な知らせが飛んできた。


『……姉貴。来たぞ?』


無線機越しに飛んできたアトラスのその言葉通り、外の大雨の中を飛んで、大量の天使たちがやって来たようである。

正直……ベアの扱いが大変なのじゃ。

放っておくと、単なる変態にしかならぬ気しかしないのじゃ……。

いや、実際、変態なのじゃがの?


まぁ、そんな彼女のことは、追々書いていくとして。

他に補足すべきことは……あるのじゃが、省略させてもらうのじゃ?

どうしてルシア嬢とイブ嬢がすぐに起きてこなかったのか……。

そして証拠隠滅とは何か……。

……妾の口からは裂けても言えぬのじゃ……。

想像におまかせするのじゃ?


今日のあとがきは……こんなものかのう。

実のところ、今はあまり頭が回らぬのじゃ……。

いやの?

さっき、いちご大福を食べたのじゃが……アレを食べると、幸福感が増してくる反面、頭が回らなくなってきて、キツイのじゃ……。

……美味しいのじゃがの……。

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