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8.3-01 魔王の卵1

『……いやホント、あの時のクラークの表情、見せたかったわ……』


『ほう?もしやお姉さまは……年上が好みなのですか?』


『どうしたらそんな発想に辿り着くのよ……』


皆が寝静まった後、ベッドの中で寝たふりをしながら、体内にある無線通信システムを使って会話を交わすワルツとテンポ。

そんな通信の電波の上には、彼女たちの他にも、


『はぁ……胃が痛い……』


具合の悪そうなアトラスや、


『…………zzz』


睡眠中(?)のテレサもいて……4人は不定期に開かれる、深夜のホムンクルス会議を交わしていたようである。


そんな中、本来この場に居なくてはならないはずの人物がいないことを思い出したワルツが、おもむろにこう切り出した。


『ところでさ……コルテックス、あの娘がどこに行ったのか誰か知らない?』


すると、その質問に対して、テンポが返答する。


『あのマクロファージ(ナメクジ)なら、この城に到着した途端、物陰に隠れながら、どこかに姿を消しましたよ?ナメクジとは思えない敏捷さでしたね。今度、試しに、塩を掛けてみましょう』


『それ多分、意味ないと思うわよ?』


『まったく……お姉様は、夢がないですね?塩を掛けて縮まらないのなら、縮まるような『魔法の塩』を作ればいいと、なぜポジティブに考えないのですか?』


『いや、だって、私魔法使えないし……。っていうか、それ、ポジティブって言うの?』


『本当に夢もロマンもないですね……』


と、今日も一言おき(?)に、ワルツを口撃するテンポ。


すると今度は、どこか気持ちの悪そうな雰囲気を出していたアトラスが、何かを思い出したかのように喋り始めた。

とはいえ、ワルツとテンポの棘だらけのやり取りに介入するつもりは無かったようだが。


『うっぷ……。そ、そう言えばコルテックスのやつ、王城で何かやることがある、って言ってたぞ?それと、その間は、できるだけ一人にして欲しいんだってよ』


『ふーん。どこで何をしてるのかしらね?あの娘……』


と、ホムンクルス会議を始める前に、一度は無線を飛ばしてみたものの、しかし返事をしなかったコルテックスのことを考えて、ベッドの中で首を傾げるワルツ。


とはいえ、それも短い時間のこと。

彼女は今日、この会議を開いた目的を思い出すと、コルテックスの話を早々に切り上げて、本題を話し始めた。


『ま、コルテックスはその内、戻ってくるでしょ。それよりも、問題は……数時間後に天使たちがここに来るかもしれない、って話と、エクレリアが攻めてくるかもしれないって話の方よね』


すると、その言葉を聞いて、


『やっぱり、ユリアたちの報告は間違いじゃなかったんだな……』げっそり


と気持ち悪さに輪を掛けて、心底疲れたような雰囲気を出すアトラスと、


『……今、初めて聞いたのですが?』ゴゴゴゴゴ


半ば、殺意に近い気配を滲ませるテンポ。


そんな2人に対して、ワルツは、


『私が知ったのも数時間前のことだし、別に報告が遅れたわけじゃないわよ?』


と、弁解の言葉を口にした。

それが功を奏したのか、テンポはワルツへの口撃を一時中断すると、天使の話題について真面目に(?)返答を初める。


『では、うちの子とエネルギアちゃんを呼び寄せるとしましょう』


『うちの子って……多分、ポテンティアの事を言ってるんだと思うけど、あの子、あんたの子どもじゃないじゃない……。まぁ、それは良いんだけど、今回、2人のことを呼ぶのはどうかと思うのよね……』


『オリージャの人々が混乱すると?』


『それもあるんだけどさ……あまり相手に手札を見せたくないのよ。特にエクレリアの連中に対してさ?』


そう言った後で、小さくため息を吐くワルツ。

すると、今度はアトラスが、当然とも言える質問を投げかけた。


『何でなんだ?俺個人としては、部下たちを無駄死にさせたくないから、あの2隻を呼び寄せることについては賛成なんだが……』


『いやさ?前に誘拐されたイブをエクレリアまで助けに行った事があるんだけど、その時、妙に近代化された施設や戦車を見たのよね……。それに、メルクリオの湖にはメルクリオ製の潜水艦が沈んでたし……いや、沈めたし……』


『『は?』』


『あれ?言ってなかったっけ?』


『『…………』』


言ってない……。

無言の内に、そんな雰囲気を含ませるテンポとアトラス。

ちなみに、コルテックスとストレラに対しては、報告済みである。


『まぁ、そんなわけだから、相手側の技術力が分からない以上、下手にこっちの手を見せるわけにはいかないのよ。……影でコソコソと動く分には、問題ないと思うけどさ?』


『……お姉さま?この胸の中にあるイライラとムカムカを発散させたいと思うのですが……この際、試しに、サンドバッグになってはみませんか?』


『同感だな……。っていうか、姉貴。それじゃぁ明日はどうすんだ?うちの部下たちと天使たちを戦わせるっていうのは戦闘にならないだろうから……代わりに誰かが天使の相手をしなきゃならないと思うんだが?』


『あー、ちょうどいいところに天使たちが来るってわけね。2人とも、良いサンドバッグができて良かったじゃない』


『『…………はぁ』』


ワルツの言葉を聞いて、テンポとアトラスは、思わず深い溜息を吐いてしまったようだ。


とはいえ、2人とも、ワルツの提案に反対、というわけではなかったようである。


『……前に痛い目に合わされたしな。その分をやりかえす、ってもの悪くないかもしれないな』


『……仕方ありませんね。大切な仲間たちを守るために、ここは一肌脱ぐことにしましょう。機動装甲が無いのは痛いところですが、まぁ、1万人程度、大した問題では無いでしょう』


『そう……頑張ってね?応援だけしてるわ?』


『姉貴も戦うんだよ!』

『……今度、お姉様の食事に毒を混ぜておきます。絶対にやりますからね?』


『冗談よ?冗談……』


2人から飛んできた言葉に対し、即座に冗談という言葉を口にするワルツ。

まぁ、その言葉がたとえ冗談ではなかったとしても、なんだかんだ言って、ワルツはいつも先頭に立って戦っているので、今回もまた、逃げること無く、戦場に身を置くのだろう。


……ところで、である。


『……そう言えばさ。テレサ、起きてんのよね?』


ここまで会話に参加していなかったテレサのことを思い出したのか、ワルツはそんな問いかけを電波に乗せた。

テレサは非戦闘員だったので、会話に参加しなくても問題は無かったが……繋ぐ意思が無ければ通信できないはずなので、ワルツは寝ているはずの彼女がどうして通信に参加できているのか、疑問に思ってしまったようである。


『…………zzz』


『まさか……死んでる?』


『まぁ、生きてはおらぬかの?』


『起きてるじゃない……』


『話は聞いておったのじゃ?じゃが、内容的に、妾には出来ることは、あまり無さそうじゃったゆえ、話を聞きながら、別のことをしておったのじゃ』


『別のこと?』


『ふっふっふ……秘密なのじゃ?』


『やっぱり貴女……最近、コルテックス化してきたわよね……』


とテレサの言動が妹の姿と被って見えたのか、呆れと疲れが混ざったような呟きを口にするワルツ。

ただ、それ以上、彼女がテレサの行動について追求することはなく……。

その夜のホムンクルス会議は、そこで解散、ということになったのであった。

たまにサブタイトルを付けた後で……後悔することがあるのじゃ。

あの時、なぜ、もう少し考えて、タイトルを決めなかったのか、と……。

まぁ、これからの話については、書かねばならぬ話ゆえ、その範疇には無いと思うのじゃがの。


さて、そんなわけで、新章(?)が始まったのじゃ?

とはいえ、何も新しいことは無いのじゃがのう。

ただ、話の流れは変わる故、一応新章(?)としてカウントして問題ないと思うのじゃ。

何がどう変わるのかは……乞うご期待なのじゃ!

……まぁ、あまり変わらぬ公算の方が大きいのじゃがの……。

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