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8.2-32 河畔の国32

暗い大聖堂の中で、怪しげな笑みを浮かべつつ、会話を交わすオリージャ妃と司祭と思しき男性。

そんな2人は、もしもミッドエデンの騎士たちがここにいたら、聞き捨てならないだろう一言を口にしたわけだが……その後も彼女たちは、重要な発言を交わしていたようだ。


「しかし……どのようにして神々から、1万もの天使たち借り受ける約束を取り付けたのです?」


「やはり……気になりますか?」


「それはそうでしょう。襲撃してくるエクレリアは、蛮族とは言え一応人間側の者たち。魔族が戦争を仕掛けてくるわけではないのですから、神々が動くわけはありません。それに贄だって…………まさか」


「……えぇ。そのまさかです」


「なるほど……」


と、事情が分からないユリアやシルビアとっては、いまいち分からない内容の会話を交わす、オリージャ妃と司祭風の男性。

詳しいことは不明だが、どうやら天使たちを呼び寄せるためには、魔族が襲撃してくるか、あるいは何らかの『贄』が必要になるらしい。

そして、どうやら、司祭風の男は、贄を準備することに成功したようである。


ただ、贄が何なのかについては、オリージャ妃の方も解らなかったようで、彼女は興味深そうに言葉を続けた。


「天使たちを召喚できるほどの贄というのが、どれほどの存在なのか気になるところですが……」


と、直接、贄は何か、とは聞かないオリージャ妃。

どうやら彼女は、一応、聞いて良いことと、聞いてはいけないことの境目を知ってるようである。


そんな彼女の言葉を聞いた、司祭風の男性の方は、考え込むように眼を瞑りながら、こう返答を口にする。


「そうですね……。こればかりは、貴女様といえど、あまり追求はなさらないほうが良いかもしれません。ただ、それだけですと気になってしまうかと思いますので……一つここだけの話として、私がこれから話す言葉を、聞き流してもらえると幸いです」


「…………?」


「……魔王の卵を捕まえた」


「…………?!」


「神々に照合した結果なので、間違いないでしょう」


と口にしながら、驚くオリージャ費の姿を見て、笑みを浮かべる男性。

そんな彼の言葉を聞いたオリージャ妃の方は、魔王という言葉を聞いて、思わず戸惑ってしまったようだ。


「まさかそのような危険な者がここに囚われていると?!」


「それについては否定しません。しかし、今回のミッドエデンやエクレリアの件に対処するためには、ある程度のリスクは取らなくてはならない……。それについて、ご理解いただけると幸いです。それに『奴』は今、教皇陛下から授かった魔具で地下牢で厳重に封印している状態。万が一にも問題は生じませんのでご安心下さい」


「それなら……安心できそうですわね」


そう言って、胸を撫で下ろすオリージャ妃。

その際、彼女が見せた表情は、ベアトリクスに向けていたものからは想像がつかないほどに豊かで、そして何処か楽しそうだったようである。

その様子は、まるで、刺激の足りない普段の王城生活で溜め込んでいた鬱憤を、ここに来て解き放っている……そう表現できるかもしれない。


その様子を見て、


「(あー……これ、ドロドロしたやつね……)」


と、透明な姿のままで苦笑を浮かべるユリア。

恐らく、反対側にいるシルビアの方も、同じ表情を浮かべているのではないだろうか。


それからしばらくの間、取り留めのない会話を交わした2人は、日付が変わる頃になって解散することにしたようである。


「では明日の朝のこと……楽しみにしていますよ?」


「……おまかせ下さい」


そんなやり取りを交わして、一人、来た道を戻るオリージャ妃と、その場に佇んだままの司祭と思しき男性。

そして、


キィィィ……ガチャン……


オリージャ妃は、その場に笑みだけを残して、立ち去っていった。


「(さーて……どうしましょうね?)」


彼女がいなくなった後で、次の行動をどうするのかを思い悩むユリア。

オリージャ妃を追いかけて、更なる調査を行うか、そこにいる司祭を魔眼の力で魅了して、洗いざらい吐かせるか……。

あるいは、この教会の地下にとらわれていると思しき『魔王の卵』の様子を見に行くか……。


だがユリアは、この時点では、そのどの選択も取らなかった。

シラヌイの件や天使たちの件もあったので、とりあえずシルビアと合流して、相談することにしたのである。


結果、彼女は、シルビアとのランデブーポイントである教会の入り口の方へと歩いていこうとするのだが……。

彼女がその場から動ごくと……祭壇前に立っていた男性が、真っ直ぐにユリアの方を向きながら、こんなことを口にした。


「さて……ドブネズミよ。姿を見せるがいい!」


その瞬間だった。


ドドドドドッ!!


その男性の方から、白いビームのようなものがユリア目掛けて無数に飛んできたのである。

恐らくは、光魔法に類する、自動追従系の魔法だろう。


それを見たユリアは急いで回避しようとするものの……音よりも遥かに速い速度で柔軟に形状を変えながら飛翔してくるソレから逃げることは叶わなかったようで、


ドゴシャァァァァ!!


飛んできたビームの直撃を全身に食らい、その反動で、壁際まで吹き飛ばされてしまったようだ。


その様子を見て、


「……ふん。サキュバスか。低級魔族ごときが、神の僕たる私を舐めてもらっては困る……」


と口にしながら、真っ白にひかり輝く姿へと変わる男性。

どうやら彼もまた、天使の一人だったらしい。


そんな彼に吹き飛ばされたユリアの方は……


「…………」ぐったり


腕や足が本来曲がらない方向に曲がった状態で、意識も無く、その場に横たわっていたようである。

その上、血まみれで、瞳孔も開いており、息もしていなかったようだ。

どうやら彼女は、その一撃で、完全に絶命してしまったようである。


「ふん……。侵入のスキルは超一流だが……所詮は一介のサキュバスか。どこの国の者かは知らないが、オリージャに来たのが運の尽きだな」


そう口にすると、天使化した男性は、そこに横たわっていた()()()()サキュバスを、魔法の炎で燃やし尽くしてしまう。

その際の彼の手つきが随分と慣れていたところを見ると……恐らく彼は、少なくない者たちをこれまでに燃やしてきたのだろう。


そして彼は、天使化を解除すると、


「さて……。もう少し警備のレベルを上げて、明日の準備を整えるとするか……」


そうつぶやいて、教会の奥へと消えていったようだ。

まるで、すべての『ネズミたち』を駆逐して、満足したかのように……。

駄文ではない本筋の文を書くと、執筆速度が上がらぬのじゃ……。

フラグを回収しつつ、変な伏線を張らないように書くのが、微妙に大変なのじゃ……。

まぁ、マトモな文なのか、と問われれば、駄文であることに違いはないのじゃがの。


というわけで、ユリアは死んでしまったのじゃ。

残念なのじゃ。

後悔しか残らないのじゃ。

なんか、肌の色が違ったみたいじゃが……あれかのう?

生きてるときと死んだ後で色が変わるイカみたいなやつ……。

まぁ、前にも同じようなことがあった通り……いや、これ以上は言わないでおくのじゃ。

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