8.2-28 河畔の国28
よく考えてみたら、妾の宿は王城の外じゃから、この夜はイブ嬢を実験台にできなかったのじゃ……。
訂正前:
隣のベッドで眠る予定のイブになるのではないだろうか。
訂正後:
恐らく、反応が分かりやすいイブになるのではないだろうか。
一方、その頃。
「お、お腹減ったのじゃ……」ぷるぷる
「なら、ルシアたちと一緒に行けばよかったじゃない……」
「背に腹は代えられぬのじゃ……」そっ……
「……残念。それは残像よ?」ブゥン
「んぐっ!?」
ワルツとテレサの2人は、スキンシップ(?)を図りながら、王城の中を歩いていたようだ。
もちろん、言うまでもなく、不可視の姿で。
その際、テレサは、自身の魔法で透明になれるにも関わらず、ワルツのホログラムに頼っていたようである。
何故、彼女がそうしたのかについては、明確な理由があるのだが……まぁ、ここでは、ワルツの好意に甘えた、とでも述べておこう。
そんな彼女たちが歩いていたのは、王城にあった薄暗い地下の廊下であった。
何処かジメッとしていて、それでいて妙に温かい……そんな場所だ。
どうやらこの王城の下にある地下水が、さらにその下にあるだろう『熱源』によって加熱されるせいで、地上よりも湿度と温度が高くなっているらしい。
とはいえ、蒸し風呂というほどではなく……雰囲気としては梅雨と夏の合間にある日本の気候に近い、といったところだろうか。
「しっかし……こんな不快指数が80を優に越えていそうな場所に、ベアトリクスは本当に囚われておるのかのう?」
「多分ね……。っていうかテレサ。貴女、ついこの前まで、ネイティブ異世界人だったのに、不快指数の事を口にするとか……随分と変わっちゃったわよね……」
「む?この世界に不快指数は無いのかの?たしか……イブ嬢も理解しておったはずなのじゃが……」
「あるわけないじゃない。っていうか、イブが異常なのよ……」
と、2人が、取り留めのない会話をしながら地下通路を歩いていると……
「む?ここかの?」
「っぽいわね……。だけど……」
2人は、大量の地下牢が並ぶ部屋の入り口へと辿り着いたようである。
ただ、そんな彼女たちから見えていた地下牢は、少々、異様な雰囲気を放っていたようだ。
「随分と、すぷらったな場所のようじゃのう?まるでカタリナ殿の部屋の中みたいなのじゃ」
「ちょっ……テレサ。思ってもそういうこと言っちゃダメよ。それ、カタリナに聞かれて、貴女が消されることになっても……私は知らないからね?」
「……冗談で言ったつもりなのに、否定しないばかりか、ひどい言い様なのじゃ……」
「さ、さぁ、行くわよ?」
という彼女たちのやり取りの通り、その地下牢は、随分と血なまぐさい場所だったようである。
恐らくは、牢獄でありながら、拷問をする場でもあるのだろう。
「見れば見るほど、ベアトリクスが囚われておるようには見えぬのじゃ……。いや、囚われておってほしくないのじゃ……」
「そうね……。ここにいなければいいのにね……」
そう言いながらも、牢屋のある部屋の中を進んでいくワルツたち。
その際、地下牢の管理をしているだろう衛兵たちを、ワルツがプレッシャーで気絶させ……。
短い時間の内に、そこにいた全員を無力化してしまったようである。
「便利な能力じゃのう?」
「えっ?貴女も使えるわよ?」
「!?」がくぜん
「武器はないけど、一応、火器管制システムは搭載されているんだから、頑張れば使えるんじゃない?きっと」
「ど、どうやって使うのじゃ?」キラキラ
「さぁね。テレサの場合、元人間だし、インタフェースが特殊だから、私が教えるのは……ちょっと難しいわね」
「ふむ……。すぐに使えぬのは、残念じゃが……頑張って使いこなせるようになるのじゃ!」
と言って、さっそく今晩から、自身のシステムについて見直そうと心に決めた様子のテレサ。
そんな彼女の練習台は恐らく……反応が分かりやすい、イブになるのではないだろうか。
それからしばらく部屋の中を進み、周りに誰も投獄されていない、少し大きめの牢屋まで差し掛かったところで……2人は目当ての人物を発見したようである。
ただ、そこに居たのは、ベアトリクスだけではなかったようだ。
「あら、クラーク。こんな気持ちの悪い場所で、うたた寝かしら?」
ベアトリクスをここまで連れてきただろう外交室長のクラークが、檻の前にあった椅子に座り、力なく俯いていたのである。
自分の無力さを感じて嘆いている……そんな様子だ。
そんな彼に対して、ワルツは透明な姿のままで話しかけたわけだが……。
その結果、俯いていたものの寝ているわけではなかったクラークは、ワルツが魔法のような使って離れた場所から話しかけてきていると思ったらしく、立ち上がりながら心底驚いたように声を上げた。
「わ、ワルツ様?!まさか……こ、古代魔法でございますか?!」
「んーまー、大体そんな感じ」
「そ、そうでございますか……。ワルツ様に隠し事は出来ないようですな……」
と、口にしつつ、再び椅子に腰を下ろして、疲れたような表情を浮かべながら返答するクラーク。
一方、ベアトリクスの方は、
「…………」
既に深く眠っているらしく、2人のやり取りに対して、反応を見せるようなことはなかった。
恐らくは、精神的に疲れてしまったのだろう。
「……この度は、お見苦しいところを見せてしまい申し訳ない……」
「別に気にしてないけどさ……。いえ、気にしてるから、ここに来たのかもしれないわね……」
「…………?」
「ううん。なんでもないわ。それより……もし良かったら、あの娘のこと、少し教えてくれないかしら?」
「……妾からも頼むのじゃ」
「なんと……。テレサ様もいらっしゃいましたか」
「うむ。ベアトリクスは、妾に会いに来たがために、あんなことになってしまったのじゃ。出来ることなら、ベアトリクスに協力したいと思っての?一応言っておくが、ミッドエデンとは関係なく、個人的に、なのじゃ?」
「……左様でございますか」
ワルツとテレサの言葉を受けて、眼を細めるクラーク。
しかし、その表情は、迷惑とも困惑ともまったく異なる表情で、むしろ安堵に近い表情だったようである。
それから彼は、簡単に、ベアトリクスとオリージャ妃の話を口にし始めた。
「ベアトリクス様は、現国王の孫娘でございます」
「「えっ……?」」
「実は、ベアトリクス様のお父君とお母君は……2年ほど前に事故で命を落とされ、既にこの世にはおりませぬ」
「「…………」」
「この件に関しては、ミッドエデンは関係ないですぞ?残念な……馬車の事故でございます」
「ふーん……」
「ふむ……」
「そして、先程、お二方がお会いになった奥様は……陛下の3番目の妃。つまり、ベアトリクス様とは、直接的な血のつながりは無いのでございます。そのためか、奥様は、ベアトリクス様に冷たく当たられるようで……時折、あのような行動を取られるのです」
と、先程のことを思い出すかのように眼を閉じながら、ベアトリクスとオリージャ妃について話すクラーク。
その際、彼は、ふと本音を漏らした。
「奥様は、少々、厳しすぎるのでございます……」
彼のその言葉を聞いて、テレサはこう問いかけた。
「ふむ……。なれば……愚問かもしれぬが、クラーク殿としては、ベアトリクスに、これからどうなって欲しいと考えておるのじゃ?」
「それはもちろん、幸せになって欲しいと考えております。しかし……」
「……今の妃の様子を見ておる限り、そうなれるようには思えぬ、と?」
「…………」
テレサの問いかけに対して否定も肯定もせず、ただ、黙り込んでしまうクラーク。
どうやら彼は、その立場上、テレサの言葉に対し、返答しようにもできなかったようである。
そんな彼に向かって……テレサは、こんなことを口にし始めた。
「……クラーク殿よ。今から妾たちがすることについて、見て見ぬふりをしてもらえぬじゃろうか?」
「…………?」
「それと、あの妃には、ここで見たことを、絶対に言わないでもらいたいのじゃ。妾が何を言っておるのか、今の主には分からぬやも知れぬが……決して悪いことにはならぬから、妾のことを信じてほしいのじゃ?」
「はあ……」
「ま、拒否してもやるがの?」にやり
そう言って、ワルツへと目配せするテレサ。
その瞬間、彼女たちの光学迷彩が解除され……
「……?!」
2人はクラークの前へと姿を現した。
「「しーっ!」」
「…………」
2人から同時に忠告され、必死に口を閉ざそうとするクラーク。
それからワルツが、牢屋の鍵を外して……。
そして彼女たちの秘密の計画が始まったのである。
……え?
バレンタインネタは無いのか?
残念だけど、テレサちゃん、一方的に送りつける側だから、そういう話は書いてないみたいです。
チョコレートかぁ……。
毎年、私も自作のチョコレートを作って、お姉ちゃんやテレサちゃんやアトラスくんたちに渡そうとしてるんですけど、14日の夜になると、いつもみんな不自然に用事ができて、いなくなるんですよね……。
やっぱり……お寿司をチョコでコーティングするのは、みんなの口に合わないのかなぁ……。
美味しいのに……。
来年は、前日の内に作って、朝に渡そっと。
というわけで。
今日は久しぶりに私、ルシアが、あとがきを書いています。
いつもテレサちゃんがあとがきを書いてるから、表に出ることはないけど、裏ではちゃんと書いてるんですよ?
って言っても、テレサちゃんの書く量に比べたら1/5くらいですけどね……。
さて。
バレンタインネタで、何か書くことがないかと考えたんですけど……残念ながら、何も思い付かないです。
なんというか……今日は心の中が殺伐としていて、楽しいことや面白いことを書くのがちょっと辛いんですよね……。
みんなチョコレート、受け取ってくれないし……。
仕方がないので、あとがきを書くのはここらへんで切り上げて、テレサちゃんとアメちゃんの部屋に、そっとチョコレートを置いてこようと思います。
そうすれば、流石に食べてくれますよね?
食べ物は粗末にしちゃダメですから。
…………フッフッフ……。




