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8.2-27 河畔の国27

それから、飛竜があらかたの食事を片付け……。

濃い味付けの料理が多かったので、何か飲み物はないか、と辺りを見回し……。

そして、ギロリと動く、その視線の意味を勘違いしたオリージャ兵たちが、戦々恐々として冷や汗を握っていた――――その様子を見ながら、


「あれは何だ……」


段々と慣れつつあるのか、無愛想な表情のままジョッキを傾けながら、マクニールが隣りにいた勇者に対して問いかけた。


すると、その何度目になるかも分からないほど繰り返し飛んできていた質問に対し、問いかけられた側の勇者は、嫌な顔を見せること無く、同じ返答を短く口にした。


「飛竜様です」


すると、マクニールは……やはりこの状況に慣れつつあったのか、これまでとは異なる新しい質問を投げかける。


「……それは見れば分かる。まさか、馬車を引っ張っていた魔物のように、誰かが使役(テイム)してるのか?」


「いえ。彼女は彼女の意思でここにいます。聞いた話によると、人間になりたいドラゴンとのことで、私たちと行動を共にしながら、人の世界での生きるための方法と……人そのものについて学んでいるようです」


「…………」


勇者のその言葉がすぐには信じられなかったのか、再び言葉を失ってしまった様子のマクニール。

恐らくこの瞬間、彼の中にあるドラゴン像は、音を立てながら崩れ去ろうとしているのではないだろうか。


それからも勇者の言葉は続く。


「こうしてワルツ様方と一緒に行動をしていると、それ以前に見聞きしてきたすべてのことが……まるで誰かが作り上げたおとぎ話のように感じられてならないのです。最初にドラゴンが孤高な存在だ、と言い始めた人物は、いったい誰なのでしょうね?」


「…………さぁな」ぐびぐび


勇者の言葉を聞いても、すぐにその言葉の意味を飲み込むことが出来なかったマクニールは、飛竜に関する様々な疑問や頭痛の種を、麦酒と共に、一気に喉の奥へと流し込んだようだ。


そんなマクニール達のところへと、


「すみません!遅れましたー!」


冒険者姿のユキが、ようやく現れた。

それから彼女は、空になった周囲のテーブルを見渡してから……恐る恐る勇者に対して問いかける。


「もしかして……もう全部、食べられちゃいました?」


「いえ。すべてというわけではありませんが……マトモな食事は、あそこのテーブルで、醜い食事の取り合いをしている彼らのところにしか……もう残っていないと思いますよ?」


と口にして、アトラスたち5人が、飛竜に取られまいと、必死に口の中にへと食事を詰め込んでいるその机に向かって、残念なものを見るような視線を向ける勇者。


すると、それを聞いたユキは、自身がやって来た方向に対し、焦った様子で声を投げかけながら、アトラスたちのところへと走っていった。


「ヌル姉様!ほら、早く!急いで行かないと、もう無くなっちゃいますよ!?」


すると彼女よりさらに遅れて……


「あ、アインス……。あなたちょっと、足が速すぎるのではありませんか?」げっそり


と、いつものマントを装着していないものの、フルメイル姿のヌルもやって来くる。

なお、彼女たちと行動を共にしているはずのテンポは、2人に付いてこなかったようだ。


そんな正装をしていないとはいえ、世間一般的には美女の部類に入る2人が、マクニールたちの前を通過していったところで……


「……なぁ、勇者。ミッドエデンは……あんな美女が多いのか?」


マクニールは、男なら当然とも言える発言を、勇者へと投げかけた。


すると勇者は、少しだけ考え込むような素振り見せてから、彼の言葉にこう返答を始める。


「……美女が多いかどうかという話については、なんとも言い難いところですね……。確かに突出して美しい方もいますが、ごく一部だと思います。あと……いま走っていった彼女たちは、ミッドエデンの者たちではありませんよ?」


「ほう?では、どこの者たちだというのだ?」


「お隣の国のボレアスです」


「…………まさか、魔族だと?」


「いえいえ、魔族どころの話ではありません。元魔王と現魔王でございます」


その言葉を聞いて、


「……勇者。そういうのがあまり得意ではない俺が言うのも何だが……冗談にはもう少し言い方があるだろ?」


と、にわかには信じられない様子のマクニール。

そんな彼の反応を見た勇者は……しかし、無理に信じてもらおうとは思わなかったようで、


「信じるかどうかは、マクニールにおまかせいたします」ごくごく


ただそれだけを言って、酒の入ったコップを、淑やかに口の中へと傾けた。

しかし、その態度が、逆に説得力を持っていたのか、


「……冗談だろ?」


マクニールは再び唖然としてしまったようである。


と、そんな折。

もう2人の少女たちが、その場へとやってきた。


「ドラゴンちゃーん?マナを持ってきたかもだよー?」


「ダメだよ?飛竜ちゃん。お城を壊したりなんかしたら……」


諸事情(?)により満腹状態だった、イブとルシアの2人である。

どうやら、彼女たちは、飛竜にマナを渡していなかったことを思い出して、ここへとやって来たらしい。


「う、うむ……。部屋に入って、元の姿に戻ってからと言うもの、人の姿に戻れず困っていたのだ」


「はいこれ!」


「助かる……」


飛竜は、自身の何倍も小さなイブが掲げていた大きめの試験管のような容器を受取ると、その中に入っていたマナを、一気に口の中へと流し込んだ。

その瞬間……


ボフンッ!


と周囲を霧のような煙が立ち込めて、飛竜の大きな姿が消え去る。

そしてその代わり……


「ふぅ。やはり、人の町にいる間は、人の姿でいるのが楽かもしれん」


煙の中から、メイド服を着た、身長の小さな少女が姿を見せた。


そんな彼女の腰にあった太い尻尾と、頭から生えた小さな角、それに彼女が来ていたメイド服のデザインを見て……


「馬鹿な……」


と、口にしつつ、手にしたジョッキを、思わず地面に落としてしまうマクニール。

他のオリージャ兵たちも、彼と似たような反応を見せていたところを見ると……恐らく皆、ドラゴンが人の姿に変身する光景を、初めて目の当たりにしたのだろう。

まぁ、食事の取り合いをしている者たちだけは、慣れているのか、それとも必死なのか、まったくの無反応だったが……。


「馬鹿な、ですか……。なるほど。ワルツ様方から見ると、私たちの姿はこう見えていたわけですね……」


「驚くなと言う方が無理だろう……」


「ついこの前までの私たちも、そう考えていましたよ」


「……慣れ、か……」


「でしょうかね……」


質量保存の法則を無視して人の姿に変身した飛竜と、そんな彼女と楽しそうに会話する少女たちの姿に対して、そんなやり取りを交わしながら、細めた視線を向ける勇者とマクニール。

その際、彼らが何を考えていたのかは、彼ら自身にしか分からないが……少なくともそこにいる2人の間では、言葉を使わずとも、ある程度思考が共有できていたに違いない……。

書いておって悩んだ部分があるのじゃ。

例えば、本文の下から2文目の、


『質量保存の法則を無視して人の姿に変身した飛竜と、そんな彼女と楽しそうに会話する少女たちの姿に対して、そんなやり取りを交わしながら、細めた視線を向ける勇者とマクニール』


という文言。

これが第1案じゃと、


『そんなやり取りを交わしながら、質量保存の法則を無視して人の姿に変身した飛竜と、そんな彼女と楽しそうに会話する少女たちの姿に対して、細めた視線を向ける勇者とマクニール』


だったのじゃ。

要するに、勇者殿とマクニール殿のやり取りに関する文が、前に来るか後ろに来るかだけの話なのじゃが……これが中々に、納得できなくてのう……。

前に来ると、飛竜が『そんなやり取りを交わした』ようにも読めるし、後ろに来ると、直前の文と距離が離れてしまう故、勇者たちの『そんなやり取り』とは何じゃったかのう?、ということになりそうじゃと思っての。

まぁ、流れ的には分かってもらえるとは思うのじゃがのう……。


それと同じ理由で、3〜4箇所ほど悩んで……多分、修正の時間の内、40%位を費やしたと思うのじゃ。

お陰で、いつもよりも更新が遅れてしまったのじゃ……。

これと同じ悩みが毎回ある故……この部分をどうにか効率化したい、と思う今日このごろなのじゃ。

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