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8.2-22 河畔の国22

そして3人は、途中で道に迷いながらも、件の馬車が停まっていた建物の前までやって来た。

そのせいで、到着までに時間が掛かってしまったせいか、既に馬車の中には人の気配はなく……。

目的の少女は、建物の中へと移動してしまった後のようである。


「さて……どうしようかの?」


「え?普通に入って、探せば良いんじゃないですか?」


「ずいぶんと簡単に言うのう……」


自身と比べて、遥かに行動的なユリアの発言に、思わず戸惑うテレサ。


一方、シルビアの方は、更に行動的だったようで、


ガチャリ


「ごめんくださ〜い」


一切戸惑うこと無く、2人のことを置いて、早速、建物の中へと入っていったようである。

どうやらこれが情報局の行動力らしい……。


「……仕方ない。変な店かもしれぬが……行くとするかのう……」


「もっと軽く考えてもいいと思いますよ?みんなで行けばなんとやら、って話もあるんですからね」


「うむ……。そうじゃの……」


そしてシルビアの後ろを追いかける、浮かない表情のテレサと、苦笑を浮かべるユリア。


そんな彼女たちが入った建物の内部には……


「まるで……コルの部屋の中みたいじゃのう?」


「……テレサ様?それ、問題発言ですよ?」


何処かで見たことのある赤いロープや、何に使うのか分からない器具、それに巨大なロウソクが、棚やショーケースの中に所狭しと飾られていたようだ。

その他、壁には、誰かの名前と共に、なにやら金額表のようなものが書かれているところを見ると……どうやらここは、


「ここは、奴隷を使った……いかがわしい施設のようですね」


ということらしい。


「はぁ……頭痛が痛いのじゃ……」


「まぁまぁ、そう言わずに。多分、これ以上、頭も胃も、痛くなることは無いはずですから」


「……どうしてなのじゃ?」


「そこ、見て下さい」


そう言いながら、この店のカウンターと思しき場所へと指を向けるユリア。


するとそこにはシルビアの姿があって……そんな彼女の前には、意識なく倒れる店主と思しき人物と、小間使いと思しき者たちの姿あったようである。


「あの……すみません……。店に入ったら、何かと勘違いされて、襲われそうになったので、抵抗したら……こうなっちゃいました!」てへっ


「……なるほどのう。助かったのじゃ」


「えっ?あ、はい……」


てっきり怒られるものかと思っていたら、逆に感謝されて、戸惑い気味な反応を見せるシルビア。

とはいえ、反省の色は、まったく無かったようだが。


そんな彼女によって沈黙させられた者たちの頬には、皆、平手打ちされたのか、彼女の手の跡が、くっきりと残っていたようである。

ただし、真っ赤な色をした跡ではなく、青黒い色をしていたようだが……。


「うむ。これなら安心して、探索ができそうじゃのう」


「いえ。まだ完全に気を抜くのは早いと思います。もしかすると、店内にはまだ他の店員が残っt」


「おい!お前ら!何をs……ぎゃぁっ!」メキメキ


「……店員が残ってるかもしれないので、気を抜かないほうがいいと思いますよ?」


「そ、そうじゃのう。ユリアの後ろから大人しく付いていくのじゃ……」


と、現れた店員を、魔法で作り出した巨大な手で握りつぶしたユリアに対して、申し訳なさそうに返答するテレサ。

こうして、彼女たちの店内探索が始まったのである。




一方、その頃。

不気味な色の魔法のランプが薄っすらと照らし出す地下にあった、ずらりと並ぶ牢屋の一つに……


「……どうしてこうなってしまったの……」


ボロボロな服を着つつも、何処か気品を漂わせた少女が、膝を抱えながら部屋の片隅でうずくまっている姿があった。


「やはり……知らない馬車には乗り込むべきではなかったですわね……」


今日一日……特に、この数刻の間の自身の行動を思い出して、後悔したような表情を浮かべる少女。

しかし彼女のその行動には、何も後悔だけではなく、一定の収穫もあったようである。


「テレサ……。一瞬ですけど、再会出来ましたわね……」


そんな彼女の言葉通り、彼女こそ、馬車の窓からテレサの名前を叫んだ人物だった。

それと同時に、王城でワルツたちの部屋へと、テレサのことを訪ねに来た姫(?)その人だったのである。


彼女は、テレサや狩人とは違い、変身魔法を使ったり気配を消したりできないらしく、自力で王城から抜け出せなかった。

そこで、彼女が取った行動というのが……王城に出入りする業者の馬車に忍び込む、というものだったのである。

しかも、それが奴隷商の馬車だと知っていた上で……。


どうやら彼女は、奴隷商と話せばどうにかなる、と思っていたようである。

実際、彼女の顔を知っているだろう奴隷商がその場にいたなら、どうにかなったことだろう。


だが……馬車を御していたのは、一介の運送御者。

そんな彼が、雲の上の存在である姫(?)の顔を知っているはずもなく、その上、彼女がボロボロの服を来ていたこともあって……王城から乗り込んだ彼女のことを、城で下ろすのを忘れた奴隷だ、と彼は思いこんでしまったらしい。

結果、彼女は一旦、奴隷商の館へと戻されることになったのだが……そこでも彼女の顔を知っている者はおらず、処遇が決まるまで、この檻の中に放り込まれていたのだ。

このまま、ここにいたなら……恐らく、数日か、早ければ数時間の後に、彼女は女性としての尊厳を捨てなくてはならなくなってしまうことだろう。


「どうしましょ……」


我に返ったところで、自身の置かれた環境が、刻一刻と悪化していくことを感じて、より強く膝を抱える姫(?)。

このままでは、正体を信じてもらえずに、奴隷になってしまう……。

彼女はそれを考えて……思わず泣きそうになってしまったようである。


しかし……そんな彼女のことを、心の中で支える存在がいた。

敵対している隣国の政治の頂点に立つ、自分と同い年の少女、テレサ=ハインリッヒ=アップルフォールの存在である。


彼女がテレサに抱いていた思いは、憧れと対抗心と……かつてテレサと交わした約束を叶えたいという願い……。

要するに彼女は、ほぼ同じ境遇にいたテレサのことを、心の支えであるのと同時に、限りなくライバルに近い存在として見ていたのだ。


「テレサ……」


その名を呟くことで、どうにか心の平静を保とうとする姫(?)。


すると、返答が戻ってくるはずのないその言葉に……どういうわけか、返事が返ってきた。


「ん?呼んだかの?」


「私をここから助けて…………え?」


「仕方ないのう……。ユリア?」


「承知いたしました」


そして、テレサの横にいた、召使いと思しきサキュバスが謎の魔法を使った瞬間、


バキバキバキバキ……


と片っ端に牢屋の格子が折れて……そして牢屋の外と内側を隔てるものは、瞬く間に無くなってしまった。

それを見て、


「…………」


眼を丸くして、そのままの姿勢で固まってしまう姫(?)。


そんな彼女の反応が、はっきりと予想できていたのか、テレサは苦笑を浮かべながら、彼女へと近づいて、こう言葉をかけようとした。


「妾がテレサ=ハインなんたらなのじゃ。お主は妾に、何か用でもあるn」


しかし、テレサがすべてを言う前に……


「…………!」ぶわっ


姫(?)は眼に大粒の涙を蓄えると……


ズサッ…………ギュッ!


そこから跳ねるように立ち上がり、そしてテレサに抱きついて……


「うわぁぁぁん!!」


大きな声で泣き始めてしまった。


そんな彼女の行動に、


「…………?!」


と為す術無く、ただ抱きつかれる他なかった様子のテレサ。

そんな抱きつく彼女のことを突き放すのもどうかと思ったのか、テレサはしばらくの間、涙を流す少女に対して、肩を貸すことにしたようである……。

……ここであとがきを書いておる妾は、昨日の妾じゃ。

実はのう……この話を当日に書いておる時間がないことを、深夜になって思い出して、予約投稿したんじゃ。

じゃから、もしやすると、頭が回っておらぬ可能性が否定できぬ。

そんな妾を許してもらえんじゃろうか……。


……え?

妾の真似をして書くな、じゃと?

いや、ワシが書いても、誰も違いは分からんじゃろ。

細かいことをいちいち気にしてはならぬぞ?

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