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8.2-20 河畔の国20

それから、王城の厨房へと向かい、そこで作られていた豪勢な夕食に毒が入っていないかを確認すべく、3人で片っ端から料理を口の中へと放り込んで……。

そして……毒が入っていないこと確認して満足した(?)ワルツたちは、次なる場所へと向かうことにしたようだ。


「(げっぷ……。も、もう、夕食いらないかも……)」


「(イブちゃん、食べ過ぎだよ……。夕食にはお寿司が出るかもしれないのに……)」


「(さっきの料理の中には、稲荷寿司は無かったと思うけど……もしかして、持参のお寿s……ううん。なんでもない……)」


『お寿司』と口にしたところ、なんとなくルシアの眼が光りを放ち始めたような気がして、ワルツは言葉を途中で切り上げることにしたようである。


そんな彼女たちが向かっていた先は……自分たちを迎えに来たクラークがいるだろう場所だった。

つまり、王城の中を見学(?)するついでに……スパイ活動をするつもりだったのである。

オリージャが何をたくらんでいるのか知りたかったのは、3人ともが同じだったようだ。


「(イブたちの姿って……本当に見えてないかもなの?)」


「(ついさっきまで、いいだけつまみ食いしてたじゃない……)」


「(うん……。それはそうだけど……心配になるかもじゃない?見られてるかもしれないって……)」


「(そうねぇ……。心配だったら、イブは部屋で留守番しててもいいのよ?これから私たち、忍者みたいに、クラークさんの所に忍び込もうと思ってたけd)」


「(で、出来るもん!出来なくてもがんばるもん!)」


と、尻尾の毛と、頭の癖毛を逆立てて、小さく抗議の声を上げるイブ。

やはり彼女は、忍者に憧れているようだ。


「(仕方ないわね……。じゃぁ、2人とも?私の後ろから付いてきて。あ、あと、何があっても、声を出しちゃダメよ?それだけは絶対だからね?)」


「「(…………)」」こくり


こうしてイブとルシアは、先行するワルツの後ろを、黙って付いて行ったのである。




ガチャ


「「(…………?!)」」


王城3階にあった『会議室』という名札の付いていた扉を、堂々と開いたワルツの行動に、思わず声を出しそうになってしまうイブとルシアの2人。

その際、彼女たちへと、当然のごとく、部屋の中にいたオリージャの重鎮らしき人々から鋭い視線が向けられたのだが……。

透明になっているワルツたちの姿は見えなかったためか、皆、鍵が壊れたものと思い込んだようである。


それから、その視線を受けても特に気にした様子のないワルツに手を引かれる形で、立ちすくんでいたイブとルシアが部屋の中へと無事に侵入を果たした後、


「……修理しておくよう手配しておきます」


執事らしき人物によって、部屋の扉は閉ざされた。

そしてそれを皮切りに、ワルツたちの諜報活動が始まったのである。


そんな部屋の中には、クラークやマクニール、その他、アトラスが倒した扉に潰されて大怪我を負ったはずの国王の姿などがあって……オリージャ政府を代表する者たちが一堂に会していたようだ。

そこでは、今まさに、重要な会議が行われていたようである。

すなわち、招き入れたミッドエデンの者たちにどう対応するのか、という会議だ。


なお、国王の隣には、一際、豪華な飾り付けがされた椅子があったのだが、そこには誰も座っていなかった。

それ以外の椅子がすべて埋まるほどに、重要な会議のはずなので……本来、そこにいるだろう人物は、病気か何か、やむを得ない理由があって、この場へ顔を出せなかったのだろう……。


そして扉が閉じてからしばらく沈黙が続いた後で……クラークから見て、対面の位置に座っていた人物が、おもむろに口を開いた。


「時間が無いのは分かっている。だが、そう簡単に、ミッドエデンの奴らの力を借りるわけにもいかんだろ。国民の感情もあるのだからな……」


どうやら彼らは、ミッドエデンの騎士たちに、力を借りるか借りないかの議論をしているようだ。

すると今度は、別の者たちが口を開く。


「貸し借り以前に、やつらはたかだか3000人程度の雑兵。力を借りたところで、事態が改善するとは到底思えん……」


「それには同感だ。以前の会議でも申した通り、ミッドエデンの奴らは所詮、蛮族の集まり故、もしもの時に、我らのことを守ってくれるとは限らん。むしろ、逆に刃を向けられることすらありえるだろう」


そんな者たちの態度から推測すると、部屋の中にいる人物のおよそ半分が、ミッドエデンに対してネガティブな思考を持っているようだ。


そんな発言に対して、今度はクラークが口を開く。


「しかし、皆の者。このまま何もせずに事態を放置しておったなら、結果は火を見るより明らか。この窮地を打開するためにも、我らはここでグッと堪えて、ミッドエデンの者たちを利用しようではないか。それに、彼らに対して直接協力を打診する必要はないのだ。噂通りなら……彼らがここにいるだけで、厄から我らを遠ざけてくれよう」


その言葉を聞いて、根っからの協力反対派の者たちは、反論しようとしていたが……そんな彼らが口を開く前に、眼を瞑ってただ耳を傾けていただけのマクニールが、おもむろにこう言った。


「……俺の眼から見ても、奴らは強かった。それも、段違いに……」


ただその一言だけで、


「「「…………」」」


と、音が無くなる会議室の中。

オリージャの騎士として、長く戦いの場に身を置いてきた彼の一言は、その言葉以上の意味を持っていたようである。


それからしばらくの間、その場を沈黙が支配して……。

そして次に口を開いたのは……国の意思を決定する、最高責任者。

オリージャ国王だった。


「……兄等(けいら)の意見はよく分かった。ミッドエデンの力も、憎悪も……な。しかし、我らは、プライドを守るために、明日を捨てるわけにはいかんのだ。……枢機卿たちよ、理解してはくれぬか?」


そんなどこか苦しそうな国王の言葉に対して……枢機卿と呼ばれた人物は、受けた報告を思い出しながら問いかけた。


「しかし、国王陛下。貴方様は、先程、ミッドエデンの者から、許し難い屈辱を受けたのではありませんか?それでも彼奴(きゃつ)らの力を借りると申されるのですか?」


その言葉を受けた国王は、真っ白な眉と眉との間にあった皺をより深くさせながら、枢機卿に対して逆に問いかけた。


「……主は一体何を言いたい?」


どの国でも、どの時代でも同じはずだが、会議の中で国王が決めたことに対して、いつまでも抗議をするというのは、本来ありえないことのはずだった。

国によっては不敬罪に該当してもおかしくない行為と言えるだろう。


そして、このオリージャもまた、その例外ではないはずだった。

そのため、枢機卿の発言は、ある意味で一線を越えたものだったのだ。


しかし、枢機卿を始めとした周囲の者たちには、それ気にした様子は無かった。

それには……明確な理由があったようである。


「ミッドエデンの蛮族たちを利用しなくとも……この国を守る算段が付いたのでございます」


その言葉を聞いて、


「……ほう?それは一体どのような術なのだ?」


と、半信半疑な様子で問いかけるオリージャ国王。


すると、枢機卿は……その場に話を隠れて聞いていたワルツたちにとって、この上なく面倒くさく聞こえるだろう発言を口にしたのである。


「……我ら国教会が『神々』に上申した所、1万の天使たちをお貸しいただけるという確約をいただのでございます。これで……エクレリアの者どもの侵攻を抑えるばかりか、追い返すことも可能になることでしょう」


その言葉を聞いて、


「「「…………?!」」」


と驚いたような表情を見せ合う、一同。

それはワルツたちも例外ではなかったようである。


「ご報告が遅くなったことについては、謝罪いたします。何やら『神々』も事情があったご様子でした。なお、天使たちが到着するのは、明日の早朝。そうなれば、ミッドエデンの奴らなど、もはや無用も同然。今すぐに町から叩き出してもよろしいのではないでしょうか?」


と言って、文字通り、人の悪そうな笑みを浮かべる枢機卿。

もしも彼の言っていることが本当だとするなら……ワルツたちは、随分と面倒なところへとやって来てしまったようである。

……おなか減ったのじゃ……。

おにぎり……おにぎりが食べたいのじゃ……。

あの、白くて、つぶつぶとして、噛めば噛むほど甘みが増して、表面に少しだけ塩が掛かったあのらいすぼーるが……妾のことを呼んでおるのじゃ。

じゃが、この時間に食べたなら……確実に体重が増えるじゃろうのう……。

塩昆布で我慢するのじゃ……。


というわけで、少しずつエクレリアの話と、『神々』の話を、再開していこうと思うのじゃ?

随分と前の話で書いたゆえ……すべてのフラグが回収できるか心配じゃがのう……。

最悪、抜けた話があったなら……そのときはその時なのじゃ!

そうならぬように、努力するのじゃ?


さて……。




…………昆布食べてくるのじゃ!

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