8.2-16 河畔の国16
「…………」
その銀色の残像を見て、固まるクラーク。
もちろん、彼が切られたわけではないが、彼はまるで自身が切られてしまったかのように目を真ん丸にして、呼吸することすら忘れてしまったようである。
一方、アトラスに対して、目にも留まらぬ早さで切りかかったマクニールの方は……しかし、実際には、アトラスを切り裂いたわけではなかったようだ。
アトラスの首元まで数ミリといった距離で、ピタリと剣を静止させていたのである。
流石に、騎士長という立場上、ミッドエデンとオリージャとの間に、自ら新しい火種を作ることはできなかったのだろう。
「……この程度の剣術も避けられぬとは、やはりただの子供か……」
そう口にして、残念そうに、剣を鞘へと戻そうとするマクニール。
……しかし彼は、そこで違和感に気づく。
アトラスが終始、表情を変えなかったことも然ることながら……鞘に収めようとした剣が、
「……?……無い?」
柄の部分だけを残して、無くなっていたのだ。
では、その刃はどこに消えてしまったというのか……。
「ふーん。なるほどなー。クロム系の合金か。まぁ、近くに溶岩もあることだし、原料を集めるのも難しくはないか……」
アトラスはそう口にすると、いつの間にか身に付けていた真っ黒な手袋で……これまた同じく、いつの間にかへし折っていたその刃を……
グシャッ……
と、まるで柔らかい粘土を握るように、いとも簡単に丸めてしまったのである。
「……刃物にしちゃ、焼きも入ってないし、鍛冶のレベルはそれほど高くないみたいだな……。あ、言っておくが、オリージャのことを、馬鹿にしてるわけじゃないからな?この世界の大半の国が、皆、同じだ、って話さ」
それからアトラスは、その手に握っていた鉄塊を……
「姉貴?パス!」
ドゴォォォォン!
ワルツに向かって、手首の動きだけで、音速を超える速度で投げつけた。
すると、
ガシッ!
と、それを素手で捕まえるワルツ。
それから彼女は、その物体をしげしげと眺めてから……
「うん、燃えるゴミね」
シュボッ……
超重力で圧縮して、まるで黒い炎で燃やすかのように、この世界から消してしまったようである。
その一連のやり取りを見て……
「「…………」」
まるで、その場の時間だけが止まってしまったかのように固まるクラークとマクニール。
それから、そんな彼らのありきたりな反応(?)に構っていられなくなったのか、アトラスは2人をそのまま放置すると、周囲にいた部下の騎士たちに向かって、声を上げた。
「さてお前ら!今日もうまいものが食えるらしいぞ?目的地は……そこにある町だ!全軍前進ッ!」
「「「サー!イエッサーッ!」」」
そして、騎士たちは、われ先にと、目の前にあるオリージャの首都へと向けて、走り始めたのである。
それからワルツとルシアの2人も、何事もなかったかのように馬車に乗り込んでから、
「さーて、じゃぁ、私たちも行きましょうか」
「うん。シラヌイちゃんを探さなきゃならないからね」
「どこにいるかもなのかな?シラヌイ様……」
「まずは、ウチの諜報部隊と合流しましょうか」
「じゃぁ、連絡をとっておきますね」
彼女たちの馬車も、騎士たちの後ろを追って、走り始めた。
その後に、今日も走り込みを続けている様子の勇者と賢者、それにエネルギアからようやく開放されたのか、げっそりとした表情の剣士が乗った馬が続き……。
そして、最後に……
「……というわけでだ。これから少しの間、お世話になると思うが、よろしく頼む」
アトラスは唖然としている2人にそんな挨拶を交わして……
シュタッ!
凄まじい速度でその場から跳躍すると、先に行った皆のことを追い越し、先頭に戻っていったのだ。
……つまりである。
「あ……そういえば、クラークのおっさんたちが来ないと、正門を開けてもらえねぇよな……」
「そりゃそうよね……」
クラークたちをその場に置いてきたがために、数千人の騎士たちと共にオリージャの王都にある正門へと近づいたあとラスやワルツたちは……当然のごとく、王都の者たちに警戒されて、門を閉じられてしまったようだ。
「どうする?姉貴?」
『強行突破あるのみですよ〜?』
「どうしようかしらね?ここで、クラークたちのこと待ってる?」
『では、私が吹き飛ばしましょうか〜?』
「「…………はぁ……」」
その門を前にして、ワルツとアトラスが悩んでいると、タイミングよく(?)コルテックスが話に割り込んできたようだ。
そんなマクロファージの向こう側にいる妹に対して、ワルツが頭を抱えながら問いかけた。
「コルテックス……。貴女、なんでそんなに攻撃的なのよ?」
それに対し、コルテックスは、普段とは少し異なる口調で、重々しくこう口にする。
『……受け取り方にもよりますが〜、今そこにお姉さま方がいる時点で、ミッドエデンはオリージャに侵攻した、と言っても、過言ではない状況なのですよ〜?」
「「…………」」
『ですから〜……ここは、有効な政治的手札を得るためにも、圧倒的な力を持っていることをオリージャに示すために、正門を一撃で葬り去るべき〜……私はそう思うのです。そう……これは、無意味な暴力などではなく、無駄な争いを回避するための、政治の駆け引きの一つなのですから〜』
「…………そ、そうなの?」
「いや、俺に聞かれても……」
と、戸惑いの表情を見せるワルツとアトラス。
そんな2人に対し、コルテックスは、決断を促した。
『さぁ、ひと思いに吹き飛ばすのです!』
その結果……。
悩みに悩んだアトラスは、大きく溜息を吐くいてから、いつも通り愚直に、コルテックスの言葉に従うことにしたようである。
「……分かった。コルテックスのことを信じて、吹き飛ばすことにするよ。これまでだって、ミッドエデンの発展のために、コルテックスは尽してたんだ。それはよく分かってるつもりだからな」
『そうですか〜。さすがはお兄様です。……では、気兼ねなく吹き飛ばして下さい!』
「お、おう……」
妙に気合の入ったコルテックスの言葉に、戸惑い気味に返答してから、大きな扉がそびえ立つ、町の正門の方へと歩いていくアトラス。
そんな弟に対して、ワルツは可哀想なものを見るような視線を送っていたようだが、それ以上、彼女は、何か言葉を口にすることは無かったようである。
そしてアトラスは、手にした黒いグローブが、しっかりと嵌っていることを確認すると……その両手の平で軽く扉を押した。
その瞬間、
バギッ……ギギギギギ……ドゴォォォォン!!
と、支えを失ったかのように、町の内側へと倒れる、分厚い金属で作られた2枚の扉。
どうやらアトラスは、コルテックスの言葉通り、ひと思いに町の中へと扉を吹き飛ばすのは拙いと思ったらしく、可能な限りの手加減をしたようだ。
扉の向こう側には、何の罪のない市民がいるはずなので、当然の配慮と言えるだろう。
……しかしである。
「う、うわぁぁぁぁ!!へ、陛下が!!」
「ミッドエデンの奴らを自ら迎えようとしてた陛下が、扉の下敷きに!!」
「つくづく厄介な奴らだ!!」
アトラスが配慮したにも関わらず、倒れた鉄の扉の下に、誰かが挟まれてしまったようだ。
一体誰が、倒れた扉の下敷きになってしまったのかについては……まぁ、何も言わずとも明らかだろう……。
こう……もう少し……どうにかならないものですかね〜。
妾は、こういうシーンを書くのが、すこしかなり苦手だと思うのですよ〜。
もっと効果的に表現する方法があると思うのですが、今の妾のレベルでは、スキルの開放が行われていないようですね〜。
……はぁ。
コルの真似が微妙に大変なのじゃ……(実話)。
妾としては、もっと、コルを前に出していきたいところなのじゃが、なかなか思い通りにならなくてのう……。
ちなみに、コル自身は、このあとがきには出てこないのじゃ?
妾の近くにはおらんからのう。
それとは別の理由で、ワルツも出てこないのじゃ?
主人公があとがきで駄文を書くとか……ありえんからのう……。
その他、テンポも、ストレラも、アトラスも、以下略なのじゃ!
さて。
今日はこの辺で駄文を切り上げさせてもらうのじゃ。
今やっておるシミュレーションが佳境を迎えておって、ぱらめーたの追い込みが良いところまで来ておってのう。
できれば、今夜中に終わらせたいのじゃ。
というわけで、あでゅー、なのじゃ!
……zzz。




